詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

2015年11月22日
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 そうして薄くて丸い枠の中に入れてあった、

 箱の中の紙を透視する。

 そうなのだ、僕はそれが鐘だと気づくまでに、

 毎夜必ず幾つも夢を見続けねばならなかった、

 黒板塀に囲まれた、平均的庶民感覚からすると割と大きな家の夢。

 松林に覆われた山を歩いている夢。バスに乗っている夢。

 田んぼと街灯を通りすぎるだけの短調な風景が、いつまでもつづく。

 ゆらゆらと血のような不気味な色で沈みかけている夕陽を見ている夢。

 しかし夢は不可思議。街から下流につづく長い土堤のかげのように、

 噪音の中に、寂びを含んだ鐘の音を意味深にひびかせていた。

 杜絶えてゆく行方――。

 でもそれは驚異的な跳躍を繰り返して風のように駆けた。

 「自我」の発見とは、また同時に、

 他人のなかの「人間」の発見――。

 夢の中でのさまざまな破片にも、

 ひとつのイメージがある。答えのない問いであるが、

 想いを巡らせるのは大切なこと。

 折りたたまれた人間の世界がもうすぐ配達される。

 宇宙のどこかの遊星群の星の一つで起ったようなそらぞらしさはありつつも、

 低温の中でまだ体温が残っている死体みたいに、硬直が始まり掛け、



 やがて夢の中、僕は天井が低く暗いアパートに座っていた。

 これもやっぱり、何かの仕掛けなのか?

 窓には、瞬く星々と競うように、赤みがかった光が見える。

 「みんな眠ったな。」

 (僕は本当に眠っているのだろうか・・・?)



 玄関のドアの真鍮の把手が、おもむろに、ひとりでに開いた。

 いつも美しく磨きあげられているのに目をひかれる、扉から、

 波がやってきた。港に面した突堤の上でもあるまいと思いながら――。

 あ、と声は出たが、恐怖は不思議となかった。神経擾乱装置、

 微かに高まってゆく音程。

 橋のたもとに、細い水路が口を開いているのを今さらながら思い出す。

 見えるか見えぬくらいの微かな戦慄を覚える。

 花や葉でうずまってしまった位牌のような後ろめたさ。

 だが、僕がするべきこと、言うべきことは一つだった。

 僕は口を開き、記憶にある通りの言葉を投げかける。

 「鐘よ!」

 息をついているあいだに一言もなく消えうえせた。

 すれ違いに鐘が鳴った。時鐘の第一打とともに、静寂が町に降りた。

 深い部分での共鳴は決してなかったが、それが鐘の正体だとわかった。

 そしてその波は、ペンキの剥げ落ちた鳥居を、

 水車のような大きな外輪のついた図面を、

 遠くに見える社務所を想像させた。祠を。口が耳まで裂けた大きな顔。

 狐。テレパシー。意思疎通な感情の塊。心は溺れながら、

 またうとうとと眠りかける。

 街はずれへと届けられた、その波は、

 言葉をのぼりつめてゆくと、斜面のむこう古風な八角形の柱時計を見させた。

 時が止まっていた。白い平盤の表面に、矩形をなして突き出ている。

 アラビア数字。拒否の瞳を向けて答えた。

 夜の涯てがガラス・ドアのようにかがやいてみえた。

 つめたい風が花びらのかおりをともなって四方の涯から吹きよせていた。

 這ってゆっくりつたわっていった深夜一時二十七分、

 僕の頭の中で、ある計画がだんだんと形になりつつあった。

 僕はこれから、その神社跡の、その古くには寺があったらしいアパートを、

 探さなくてはいけない。そう思った瞬間に、ハッと目が覚めた。

 時刻はまだ、夜の八時だった。

 ずっと遠くの方で、世界の涯に打ち寄せる大波の音を聞いたような気がした。

 無残な拷問を受けたうえに首を切り落とされた死体のような気分だった。

 交通規制を行なう警察官が鳴らす警笛や、

 拡声器を通じて人々に注意を促す声がひっきりなしに響きわたり、

 群衆のざわめきも大変な時刻。

 耳鳴りが始まった。

 でもそれはすぐ見つけられるという予感があった。

 ぜんまいばねがほどけかかった夢を経て、歯車を経て回転比を上げ、

 手は何の抵抗もなく宙を流れて、見たことのない、

 買いしたためた覚えのない、魔除けの札のようなものを握っている。













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最終更新日  2015年11月28日 07時52分16秒
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