まいかのあーだこーだ

まいかのあーだこーだ

2023.02.12
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先月11日に高橋幸宏が亡くなりましたが、
今月8日にはバート・バカラックが亡くなったとのことで、
この機会に由貴ちゃんの「エイプリルフール」のことを書いておきます。

ほんとうは音楽惑星さんのサイトで話すつもりでしたが、
あちらの対談は『moi』まで辿り着ける自信がなくなってきたので(笑)。



アルバム『moi』 (モア) は、
結婚直後の1994年12月に発表されていますが、

ハル・デヴィッドが作詞したバカラックの「The April Fools」を、
まるでアルバムのテーマ曲のように扱い、日本語詞までつけている。

おりしも昨年末のライヴで、
由貴ちゃんは《嘘》をテーマに選曲しましたが、
この「The April Fools」も、やはり《嘘》についての曲です。
その内容は「今だけの真実」にも通底しています。

もともとは、
1969年の映画『幸せはパリで』の主題曲で、
一般にはディオンヌ・ワーウィックの歌唱で知られています。
映画の原題が『The April Fools』なのですが、
カトリーヌ・ドヌーヴとジャック・レモンによる不倫のお話。


それに先行する高橋幸宏のバージョンに触発されてのこと。
幸宏のカバーによる「The April Fools」は、
彼の83年のアルバム『薔薇色の明日』に収録されています。




高橋幸宏が86年に主演した大林宣彦の映画『四月の魚』も、
やはりエイプリルフールについての映画です。



由貴ちゃんが91年に書いた、
(『透明な水』所収) にも、
この曲について語られるシーンがあるのだけど、

もとをただせば、

1987年1月に、
由貴ちゃんが高橋幸宏のラジオ番組にゲスト出演したとき、
その冒頭で幸宏バージョンの「The April Fools」が流れました。

当時の由貴ちゃんは、
矢野顕子や高橋幸宏の曲をよく聴いてたらしいのですが、
そのことをFM東京の番組で発言したら、
幸宏のラジオ番組『Stand Up Please!』に招かれたのです。

とくに由貴ちゃんは、
幸宏の85年の『Once A Fool,...』が好きだったようです。



87年1月といえば、
由貴ちゃんがNHK「紅白」で大役を務めた直後。
その年の6月には「レミゼ」でコゼット役を務めることになる。
デビューからわずか2年ですが、すでに絶頂期を迎えていました。

ただし、高橋幸宏のほうは、
あまり斉藤由貴のことを知らなかったみたい。

かたや由貴ちゃんは、

幸宏に対して「非人間的」なイメージをもっていた、とのこと(笑)。

由貴ちゃんは、
中学生のころにデヴィッド・シルヴィアンが好きだったし、
けっこうニューウェイヴ系の音楽にも接していたので、
幸宏の「非人間的」なイメージにむしろ惹かれたのでしょう。



そのラジオ番組のなかでは、
「The April Fools」についての言及はなかったのですが、
のちにBOXセットの鼎談で市村や長岡に話したところによると、
由貴ちゃんは85年の『The Brand New Day』というベスト盤で、
幸宏バージョンの「The April Fools」を聴いたようです。

ラジオ番組のなかで話題になったのは、
バカラックの「The April Fools」のことではなく、
由貴ちゃんが作詞した「予感」と、
ピーター・バラカンが作詞した幸宏の同名曲、
すなわち「Something In The Air ~予感~」のことでした。

もしかしたら、
その後の87年9月に、
由貴ちゃんが発表した『ripple』というアルバムも、
幸宏の同名曲「ripple」に関係があるかもしれません。

さらに由貴ちゃんと幸宏は
編集者の秋山道男のことも話題にしていました。

秋山道男は、
YMOの写真集やツアーパンフを手掛け、
YMOの散開後に「二代目YMO」を名乗った人物で、
じつは市川準が演出した由貴ちゃんの「漂流姫」も、
秋山のコンセプトによるものでした。



YMOやムーンライダース人脈との繋がりは、
斉藤由貴よりも、圧倒的に原田知世のほうが強いわけだけど、

じつは由貴ちゃんにも、
わずかながら高橋幸宏との接点があり、
大森一樹の映画では、かしぶち哲郎との接点もありました。
生前のかしぶち哲郎は、
由貴ちゃんに「自分の曲を歌ってほしい」と本気で話していた。

さらに、鈴木慶一も、
由貴ちゃんの「かなしいことり」を聴いて、
たこ八郎の追悼曲「悲しいしらせ」を書いたらしいし、
松本隆と一緒に制作したクミコの『AURA』では、
由貴ちゃんの「情熱」をリアレンジしています。

近年の由貴ちゃんは、
坂本美雨のラジオ番組に呼ばれることもあるし、
自分のライブでは矢野顕子の「中央線」を歌ったりもしている。

なので、松本隆との関わりもさることながら、
意外にYMOやムーンライダースの人脈とも接点はあります。



バカラックの曲に話を戻すと、

アルバム『moi』が発表されたのと同じ1994年に、
フジテレビで放送された『私の葬送行進曲』という番組でも、
由貴ちゃんの登場回に幸宏の「The April Fools」が使用されました。

これは、当時のフジテレビの深夜番組で、
週替わりの有名人が「死」について思いを巡らせるドキュメンタリー。

そこで由貴ちゃんは、
キャノンのフィルムカメラを片手に、
横浜のホテルニューグランドを出発し、
野毛山動物園や、大岡川に浮かぶ船の上で写真を撮り、
「象の犬死に」の話とか「川に沈んだ船」の話とか、
井伏鱒二の《さよならだけが人生だ》の話などを、
思いのままに、とりとめもなく喋っています。



そして、
由貴ちゃんがラジカセのボタンを押すと、
幸宏の「The April Fools」が流れてくる場面もあって、
由貴ちゃんは、それを聴きながら、
何やら「プラハリアン」の内容に似た即興詩を書いています。

古いバイオリンケース / 欠片ほどの子供心
寂しそうにうずくまる / 埃たちと一緒に
それはそれは寂しそうに

少年 / 冒険 / 広い野原に / タタ、タタ、タタと
「宝物、幽霊船、そら爆発だ!」なんて風に
狂おしいくらい駆け回っていたのに

町にあるものって
黒い帽子の大人達と煉瓦道とガス灯ぐらい
はあ退屈だ、すぐボクを殺しに来るさ


これを読むと、
「ガス灯の煉瓦道をやってくる黒い帽子の大人達」が、
死神のイメージになっていることがわかります。

これって、
もちろんチェコのプラハや、
横浜の馬車道のイメージもさることながら、
映画『アマデウス』からインスピレーションを得ているようにも思える。
モーツァルトのもとへ死神が来るのは、
プラハではなく、ウィーンですけれど。



ちなみに、
フジで『私の葬送行進曲』を演出したのは、長嶋甲兵です。

長嶋甲兵は、その後、
97年の詩のボクシングや、
14年に是枝裕和とともに作った震災ドキュメンタリーなど、
硬派な仕事で有名になっていきますが、

由貴ちゃんとは、
『わたしが子どもだったころ』の演出、
『名曲探偵アマデウス』のプロデュースなど、
NHKの番組でも関わりがあったし、
井上陽水や柳美里など、
由貴ちゃんに縁のある人物を取材した番組も作っています。

結婚する直前の斉藤由貴が、
はたして「The April Fools」にどんな思い入れを持っていたのか、
長岡和弘や長嶋甲兵は知っているかもしれません。

なお、この『私の葬送行進曲』のなかでは、
サイモン&ガーファンクルの「夢の動物園」や、
エンニオ・モリコーネの「A Neighborhood Song」や、
「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」「ぼくの伯父さん」
などの映画音楽も使われていましたが、
それらが由貴ちゃんの選曲だったかどうかは分かりません。



バート・バカラックが亡くなったのと同じ今月8日には、
舞台美術家の小竹信節も亡くなったそうです。
寺山修司の天井桟敷で美術を担当した人ですが、
相米慎二の『雪の断章』に出てくる自動人形は彼が制作したものです。


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最終更新日  2023.07.23 21:15:21


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