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「青年は小津安二郎は知っとるか?」 とまあ、こういう感じなのですが、小説の登場人物は、ここにいる 「男」 と 「ぼく」 、舞台は栃木県にある 皆川城 という、室町時代の山城の城跡の公園です。二人は、ある日、偶然、その公園で出会います。 「男」 の名前は不明ですが、やたら、歴史に詳しい、単身赴任のサラリーマンで、 「ぼく」 は地元の高校2年生で、歴史研究会のメンバーです。
「映画監督だろ。」
男が黙って指さしたところには小津久足という名前があった。
「小津久足は、伊勢の松坂の豪商、干鰯問屋湯浅屋の六代目当主や。家業の傍ら、歌に国学、紀行文と文事を重ね、歌は約七万首、蔵書は西荘文庫として残っとる。あの滝沢馬琴にも、その博識と文才を認められた友人として知られる江戸の文人や。『南総里見八犬伝』ぐらい読んだことあるやろ。」
「ない」
「そうかいな」男はそんなことは織り込み済みだとばかりに言った。「しかし、自分を偽らんのが青年の見込みあるところやがな。下に偽るならまだしも、上に偽って背伸びされたら話が一向通じんから困ったもんやで」
「あんたはいつ読んだんだよ」
「いつやったかな。青年が今、高二やろ。高一ぐらいで読んだんとちゃうか」
学年を教えた覚えはなかったけれど、後輩にも会ったし、どこかで察したのだろう。
「ほんとかよ」とぼくは言った。「下に偽ってるんだろ」
「そう思わせたらこっちのもんやけど、まあええわ。話を戻そうやないか。その小津久足の、母違いの弟の孫が小津安二郎なんや」
「その人がどうしたんだ」
「その小津久足の著作として」と指をすべらせ「ここに「陸奥日記」と「皆のあらばしり」が一点ずつあると書いとるわな。このほんまにしょーもない蔵書目録、何を大層に目録やっちゅう漢字やけど、唯一おもろい、掃き溜めに鶴はこいつや」
「書く」行為から「書き手」を消す にはどうしたらいいかということが、 乗代雄介 の実験のようですが、さて、うまくいっているのでしょうか。まあ、それにしても、あれこれ頑張っていますね(笑)。
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