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大掃除のコツ。 それは、「捨てる勇気!」に結局は行き着くような気がします。 よく収納しましょうとか言うけど、収納ってある意味、よけいかさばるんですよね。 収納グッズを買ったりしたら、また出費が必要になるわけだし、手作りでコストなしで済ますにしても、そこでまたかさばるわけだから。 まあ、乱雑にものをつっこむよりは、はるかにきれいに整理整頓できるとは思いますが、やっぱりスペースには限りがあるわけで。 かくいう私は整理整頓が、そしてそれ以上に捨てるのが大嫌いであります。 そして今、私の心は千々に乱れております。 なぜかと申しますと、大掃除が終わったばかりだからであります。 ダンナが「捨てる勇気!」と叫びながら、私が家庭内横領して買った本やら雑誌やらを捨てようとするのを「やめてェェ~!」と足に追いすがりながら止めていたからであります。 そしてダンナに「お前は本当に不況知らずだなあ。いつこんなに本を買ったんだ?」とヤブヘビなつっこみをされて、言葉に詰まっていたりしたからであります。 たしかに捨てると部屋はきれいになるよ……。 でも、でも……。 心が寒くなるんだよ~。 今、これを書いていたらダンナがパソコン画面をのぞきこんで、「まだちっとも片づいてないよ。もっと捨てようよ」と言ってきました。 今からダンナをまた必死に止めようと思います。 2004年最後の日記がこれなんだから、私の整理整頓が苦手、もとい嫌いなのは2005年も変わらないでしょう。 だって、捨てるのきらいなんだも~ん。
2004年12月31日
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瞬時にして、あの赤い壁が教室を遮断したが、小石を水面に投げたように波紋ができた。 凛太郎を横抱きにして、そこから明は教室の中に入った。すぐに赤い壁が皮膜をふたたび作る。「清宮くん!」 悲鳴に近い、喜びの声が聞こえた。ほのかが、明に抱きかかえられたままの凛太郎によろよろと駆け寄ってきた。ほのかは足を引きづっていた。「あれ? 明くんは?」「俺かい? 俺はここだよ」 明に答えられて、ほのかはようやく緑色の髪をした鬼の存在に気づいたようだった。「お、鬼……? い、いったい、どうして……」 明は凛太郎を床におろして、気絶しそうになったほのかの額を、鋭い爪でちょん、とつついた。ほのかが急に冷静な表情になった。「今は説明なんてしてる場合じゃねえ。とりあえず、俺の術にかかっといてくれ。現状に適応する精神安定剤みたいなもんにな」 こんな急場しのぎでいいのだろうか。凛太郎は首をひねってから、ほのかの足に気づいた。「藤崎さん、その足は……」 凛太郎は訊ねた。頬を涙で濡らしながら、ほのかは答えた。懸命に冷静であろうとしている口調だった。「私は大丈夫。それより、乃梨ちゃんが……」 ほのかの訴えに、凛太郎と明は乃梨子の姿を探した。 変わり果てた姿で、乃梨子は里江の背後に控えていた。その後ろにはその他大勢のクラスメイトたちがいる。 みな、一様に胸元から青い血をしたたり落としていた。彼ら、彼女らの金色に輝く瞳が、明と凛太郎に注がれる。「……きたない」 乃梨子がぼう、っとした口調でつぶやいた。いつもの陽気で、ボーイッシュな乃梨子のおもかげはそこにはみじんもなかった。 凛太郎の胸は痛んだ。(僕のせいで、中山さんがこんな目に……)「お前たちは、きたない。男同士で、人間と鬼で、あんなことをするなんて……」 凛太郎はハッと息をのんだ。 乃梨子は昨夜、凛太郎の部屋のそばに何かの事情があっていたのだろうか。そうとしか考えられない。 昨夜、結界を張らずにうっかり明と交わってしまったことがこんな事態を生むとは思わなかった。気まずそうなほのかのまなざしを、凛太郎は感じた。「のぞき見してる乃梨ちゃんも、結構はずかしいと思うんだけどなあ、俺は」 悪びれずに、明が言った。 うつろな表情のまま、乃梨子は黙った。「ああ言えば、こう言う。そのたくましい性格は、鬼の本性を現しても変わらないわね。そういうところが好きだったわ。明くん。いいえ、蒼薙」 口に手をあてて笑いながら、里江が言った。「へえ、鈴薙のヤツ、ずいぶん昔の俺の名前まで里江ちゃんに吹き込んだんだな」 明は腰に手を当てて苦笑した。「俺も里江ちゃんのこと、嫌いじゃなかったぜ。ミニスカートも毎日おがませてもらたしな。けど、鈴薙の手駒にされちゃあ、里江ちゃんの魅力もガタ落ちだな。どうせ心の隙間を突かれて、勾玉を植え付けられたんだろ」 不敵に笑いながら、明は答えた。その間に、明は凛太郎とほのかを自分の背中の後ろに隠した。「下がってろ。そろそろ攻撃が来る」 二人をかばうようにして、明はささやいた。「そう? いい気持ちよ。だって私、もう一人じゃないんだもの。この子を通して、鈴薙さまやみんなとつながっていられるから」 里江は大切そうに、胸元の勾玉に手を触れた。(あれが僕の子供なのか……!) 凛太郎は拳を握りしめた。ぬらり、となまなましく光るそれは、不気味だった。けれどどこかいとおしくもある。(僕が早く呪をかけて、そんなことをさせないであげるからね!) 凛太郎はそう胸に誓った。 里江は凛太郎の強いまなざしに気づいたようだった。「何ジロジロ見てるのよ? みんな、凛太郎を生け捕りにして! この際、明ーーーーいいえ、蒼薙も一緒にやっつけちゃってもかまわないわ」 里江の命令に、クラスメイトたちはわらわらと凛太郎に群がってきた。「きゃあああ!」 ほのかが悲鳴をあげた。「大丈夫だよ、藤崎さん」 凛太郎に肩を抱かれて、ほのかはこの非常事態だというのに頬を染めた。「俺の凛太郎ちゃんを、鈴薙のところになんか連れていかせるかっつうの!」 明はそう叫んで、凛太郎に襲いかかろうとした男子生徒を投げ飛ばした。続々、里江の配下たちは襲いかかってくるが、明は苦もなく彼らを撃退していく。そのうち乃梨子がこちらに襲撃してきた。 乃梨子の動作が急にぎこちなくなった。 乃梨子の目に、不意に正気が宿った。「明くん、凛太郎くん、ほのか! 早く逃げて! 私はもうどうなってもいいから……」 だが、それだけ言った途端、乃梨子は感電したかのように「絶叫した。「きゃあああ!」 青い血がぼとぼとと乃梨子の胸元から落ちる。「今さら逃れようとしても、もう遅いわ!」 乃梨子に向けて、人差し指を差し出した里江が哄笑した。「くっそォ……」 明は里江に飛びかかろうとした。「明、やめろ!」 凛太郎が叫んだ。明の動きが、ピタっと止まる。「なんでだよ、凛太郎!」 乃梨子に腕をかみつかれて、顔をしかめながら明が不平の声をあげた。「だって、杉原さんや中山さんは、鈴薙に操られてるだけなんだろ? だったら、この人たちを傷つけたらいけないよ」 明にかばわれながら、凛太郎は必死に言いつのった。 ほのかは泣きそうになりながら、「乃梨ちゃん……」とつぶやいている。「それもそうだけどよ……だったら、どうしろって言うんだよっ? このままじゃ俺たち、やられちまうぜ!」 凛太郎とほのかを身を挺して守りながら明は叫んだ。 里江が耳障りな笑い声を上げる。(どうすればいいんだ……!) 凛太郎は唇を噛んだ。「明くんっ?」 ほのかが叫んだ。明が、腕を生徒に噛みつかれたのだ。明の血を、その生徒はうまそうに舌でなめとった。 苦痛に顔をゆがめる明に、凛太郎はなすすべもなかった。 慣れ親しんだ学舎は、地獄の密室と化している。 凛太郎が絶望に背筋を凍らした時だった。 一陣の風が、凛太郎の髪を揺らした。 その風の正体は、白い一枚の札だった。 札は、風を切って里江の額にはりついた。「うぎゃあああっ!」 感電したかのように、里江の体はぶるぶると痙攣した。 里江の配下たちが、里江の額からその札をはずそうと一斉に駆け寄った。 一陣の影が舞い降りて、彼らをなぎ倒した。「巫子さま。ご無事ですか?」 敵を倒してから、その人物は凛太郎に歩み寄った。 つづく
2004年12月30日
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乃梨子に言われて、凛太郎と明は担任教師・弓削秀信の元へ行った。 だが、秀信は職員室にいなかった。元より、すでに職員室には誰もいなかった。下校時間を大幅に過ぎているので、教師はみな帰ってしまっていたのだろうと二人は目星をつけた。 乃梨子は何か聞き間違いをして、二人に伝言したのだろうか。 凛太郎はいぶかしみながら、教室に戻って、体操服から制服に着替えて下校しようとした。 教室はがらんとしていて、中には誰もいなかった。「みんなもう帰っちまったんだよ。さっさと俺らも帰ろうぜ。腹減ったしよォ。晩飯の献立は何だい、凛太郎ちゃん?」 伸びをしながら、明はのんきに言った。「……ねえ、明。ここ、変な感じがしない?」 凛太郎は頬をこわばらせながら言った。 さっきから胸の辺りがチリチリする。そこはちょうど、勾玉が宿っていた部分だった。「俺はべつに……」 明は素っ気なく言ったが、凛太郎の表情が険しくなっているのを見て取って、真顔になった。「けど、お前がそう感じるんだったら、なんかあるんだろうな」「それってどういうこと?」「凛姫の生まれ変わりのお前には、巫子の素質があるんだよ。それも大いにな。優れた巫子ってやつは、俺たち鬼よりも勘が鋭い場合がある。凛姫はまさにそうだった」 明は切れ上がった目を細めて、”凛姫”という固有名詞を舌の上に載せた。なつかしさと愛おしさが、その瞳の奥にあふれていた。 なんとなく凛太郎はムッとした。「お前は鈴薙の子を宿したり、俺と交わったりして、前世からの能力がだんだん目覚めてきたんだろう。おい、何怒ってるんだよ、凛太郎?」「べつに……」 凛太郎はそっぽを向いた。閑散とした薄気味悪い教室が、視界に広がっている。 明はニタリ、と笑って、凛太郎の脇腹をつっついた。「おい、お前もしかして凛姫に妬いてんのか? 俺がお前を凛姫の身代わりとして好きになってんじゃないか~なんて心配してたりして? やっだなァ、俺は今のお前が好きなの! だって、体があるからいくらでもヤれるじゃねえか!」 そこで、明はガバっと凛太郎に抱きついた。頬にキスしてくる明の顔を、ぐいぐいと押しやりながら凛太郎は叫んだ。「やめろよ! 結局、明は僕の体が目当てなんだな! このスケベ!」「ちが~う。俺はお前の心も欲しいし、体も欲しいの。だって、心だけ手に入ればいいなんて綺麗事だと思わねェか?」 明は声をひそめて、凛太郎の耳にささやいた。「お前だって、アレの時、いっつも悦んでんじゃねえかよ! 俺とするの好きなんだろ? この際、白状しちまえよ。俺が好きだから、俺と交わるのも好きだって」 不意に、凛太郎は黙りこくった。「……明」「何だい?」 明は気色ばんで答えた。「今、藤崎さんの声が聞こえなかった? 助けて、って……」 一心に凛太郎は誰もいないはずの教室を見ていた。明は一瞬鼻白んだようだったが、すぐに凛太郎を腕の中から解放して、教室を見つめた。「結界が張られてるようだな。こりゃあ、ただの人間の仕業じゃねえな」「それって……」「そう。鈴薙のヤローがからんでやがるぜ、きっと」 凛太郎の胸はひどく痛んだ。ついに恐れていた事態がやってきてしまったのだ。 どうやら明の予想通り、鈴薙は自分の級友たちを勾玉に養分を与えるために選んだようだった。 千年間、刀に封印されていた鈴薙の行動範囲はまだこの辺りだけなのである。 凛太郎は背中に軽い衝撃を感じた。明が凛太郎の背中をはたいたのだった。 明は励ますような笑顔を凛太郎に向けていた。「大丈夫。あんな結界なんて、俺が破ってみせるって」 明はウィンクした。凛太郎は少し安堵すると同時に、胸の高鳴りを感じた。(どうしたんだ、僕。こんな時にドキドキするなんて……よりによって、明なんかに……)「じゃあ、行くぜーーーーっ!」 明は叫んだ。 途端に、鬼の姿に変化する。 緑色の髪をした鬼は、両手の平から青白い光を教室に放った。 すると、教室が一瞬、赤く光って、明の放った光線をはねのけた。(これが結界……!) 凛太郎は息をのんだ。 今まで、鈴薙と明の作る結界の内側にいたことはある。が、結界を外側から見るのは初めてだった。ここまで完璧に人の目をくらまし、なおかつ強力な障壁を築いているものだったとは。 こんなものを易々と作る鬼という存在に、凛太郎は今さらながら驚愕した。「ほら、もいっちょ!」 次々と、明は光の球を教室に打ち込んでいく。そのたびに赤い障壁ができて、それをはねのけた。「チクショウ……ッ!」 明は舌打ちした。しばし考え込む様子を見せてから、凛太郎に言った。「凛太郎。お前、さっきほのかちゃんの声がこの教室から聞こえるって言ったな。ほのかちゃんに呼びかけてみてくれねえか。どこにいるんだ、ってな」「でも結界が……」 結界の内側で、クラスメイトたち、そして乃梨子やほのかたちはどんな目に遭わされているのだろう。それを考えて、凛太郎は泣きたい気持ちになっていた。「お前の力をもってすれば、結界を超えてほのかちゃんに届くかもしれねえ。ほのかちゃんも巫子の能力がちょっとはあるみてぇだからな。普通の人間の中にもたまにいるんだよ、そういう力のあるヤツが。まあ、そんなことは今はどうでもいい。さあ、やってみてくれよ」 明はそう言って、凛太郎の肩をたたいた。「お前なら、できる。さ、やってみろよ、凛太郎」 明に微笑みかけられて、凛太郎は反射的に目を閉じた。なぜかそうすればほのかの声がもっと聞こえると思った。 凛太郎は静かに、だが力強い声で呼びかけた。「藤崎さん。そこにいるなら返事して。僕だよ、凛太郎だよ!」 返答はなかった。やはり今の自分の能力ではこの結界を越えることはできないのか、と凛太郎があきらめかけた時。 ほのかの声が、凛太郎の脳裏に響いた。”清宮くん……そこにいるのねっ? 助けて!” ほのかの声は泣きそうだった。”乃梨ちゃんと杉原さんが……それにクラスのみんながおかしいの! このままじゃ私、あの人たちの仲間にされちゃう……”「落ち着け、ほのかちゃん! 俺もいる」 明が叫んだ。どうやら明にも、ほのかの声は聞こえるようになったようだ。 凛太郎は少し心強くなった。 明は言葉を続けた。「大丈夫、俺たちが助けてやるよ。そのためにまず、俺と凛太郎に向けて、気を発してくれないか?」 突然の明の申し出に、ほのかは戸惑ったようだった。”え? 気って何?”「詳しい説明は後だ。とにかく、教室の外側に向けて、意識を集中してくれ。そこから俺が結界を破る」”結界? な、何? やだ、怖い! みんなが私にどんどん近づいてくるよお……” 凛太郎の体はひとりでに震えだした。ほのかの恐怖と混乱が、凛太郎の意識に流れ込んできたのだ。 倒れそうになる凛太郎の体を支えながら、明はつぶやいた。「大丈夫か? まったく巫子体質ってのはやっかいだな。他人の恐怖まで痛いほど感じちまうんだから」「へ、平気だよ。これくらい……」 凛太郎は無理に笑って、体勢を立て直した。ほのかの力を借りて、明はふたたび結界を攻撃しようとしている。今の凛太郎にできることは、明の邪魔をしないことくらいのようだった。「凛太郎、お前、ほのかちゃんを励ましてやれよ。お前のエールが一番あの娘には効くだろ」「わ、わかった……」 明の言葉の意味を深く考える間もないまま、凛太郎は叫んだ。「藤崎さん! がんばって! 僕たちがついてるよ」 ややあって。 教室の右端が、桜色に輝きだした。「よっしゃあ、そこだ!」 明は叫んで、光の球を教室にたたき込ん 明は叫んで、光の球を教室にたたき込んだ。 つづく
2004年12月29日
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「な、何言ってんのよ、あんた……」 乃梨子は乾いた声で笑った。いや、笑おうとしているのだとほのかは。そうして自分の正気を保とうとしているのだ。 そんな乃梨子は強いのだろう。ほのかは恐怖で足がすくみそうになるのを、乃梨子の肩にしがみつくことでなんとか立っていた。(夢なら醒めて!) ほのかは胸の内で必死に叫んだ。少し前まで自分はあこがれの凛太郎と少しは仲良くなれたというささやかな喜びに舞い上がっていたではないか。自分は平凡な女子中学生で、平和な学校生活を送っていたはずだ。 なのに、今は異形の生物を胸に宿した里江とその仲間たちが、金色の瞳を輝かせながら、じりじりとほのか達に詰め寄ってきている。まるで安物のホラー映画を観ているようだった。 だが、これが現在、ほのかが置かれている状況なのだ。 ついに乃梨子の肩に、青い血をしたたらせたクラスメイトが手をかけた。 永田という男子生徒だった。 プラモデルが好きなおとなしい男子で、ほのかも何度か言葉を交わしたことがある。 けれど、今の永田はもうほのかの知っている永田ではなかった。 だから、乃梨子が永田を思いっきり投げ飛ばした時も、ほのかは永田を気遣いはしなかった。ややあって、ほのかは恐怖にしびれた頭の片隅でそれに気づいた。 自分はなんて身勝手なんだろうとほのかは思った。だが、そんな思いやりなど彼らには無関係のようだった。永田は床からむくっと起きあがった。 べつの生徒が乃梨子にふたたび挑みかかる。「てぃやーーーーっ!」 乃梨子は気合いとともに、それを投げ飛ばした。「きゃああああ!」 ほのかは悲鳴をあげた。乃梨子の肩ごしに、別の生徒が乃梨子の庇護下にあったほのかの腕をつかんだのだ。「ほのかに何するのよ!」 乃梨子は叫んで、その生徒の手首をつかんで放り投げた。次から次へと生徒たちは乃梨子に挑みかかった。砂糖に群がるアリのようだった。 その動きは緩慢だが、確実に乃梨子の体力を奪っていた。乃梨子の呼吸は徐々に荒くなっていた。(乃梨ちゃん……!) ほのかは身をすくめながら、自分を守って戦ってくれている乃梨子に感謝した。何もできない自分がくやしかった。(いつだって私はこう。乃梨ちゃんに守られてばかりいる) 初めて出会った時から、今まで、ずっと。 乃梨子の額に浮かんだ汗を見ながら、ほのかは涙が出そうになった。 何か自分にできることはないか。 ほのかはそう考えて、狂気の一群を見やった。里江は彼らから少し離れたところで、金色の瞳を細めてこちらを見やっている。 腕組みしたその姿には、余裕がにじみ出ていた。ほのかは直感した。 里江は、配下にほのかたちを攻撃させて、それを見て楽しんでいるのだ。つまり、里江はこの攻防戦を勝負だとは受け止めていないのだ。 たしかに乃梨子の体力は徐々に消耗している。あと一時間もすれば、乃梨子は床に突っ伏してしまうだろう。 それから、乃梨子と自分はどうなるのか。 そう考えた時、ほのかの目の前は真っ暗になった。 その時、里江が不意に声を発した。「止まれ」 指揮者が指揮棒を振り上げた瞬間のように、空気が引き締まった。里江の配下たちはピタリと止まって、微動だにしなくなった。ただうつろな金色の目でほのかたちを見ている。 乃梨子はぜいぜいと息を切らしたまま、攻撃の姿勢をやめなかった。ほのかを背中にかばったまま、まなじりをつりあげて里江を注視している。「中山さん、あなた今、とってもつらいでしょう」「はァ?」 里江の唐突な言葉に、乃梨子は怪訝な表情をした。皮肉っぽい笑いを浮かべて、乃梨子は答えた。「そりゃあ、つらいわよ。あんたたちみたいな化け物にいきなり連続で襲いかかられたんだから。私がタフじゃなきゃ、とっくに気が狂ってたでしょうね」 里江は口元に手を当てて、クスクスと笑った。乃梨子が怒鳴った。「何がおかしいのよ!」「気を悪くした? ごめんなさいね。あなたが必死になって、強がってるのがとても可愛くて……」「乃梨ちゃん……」 ほのかは小さな声で乃梨子の名を呼んで、その肩をつかんだ。「大丈夫。安心して。杉原さんのヤツ、私のこと挑発して怒らせようとしてるだけだから。こっちを動揺させて、戦力を弱らせようとするって戦法よ。合気道の試合でも時々こういうセコい手を使うヤツっているのよ」 乃梨子は大声でそう言った。わざと里江に聞こえるようにしているのだろう。乃梨子は精一杯の気丈な笑みをたたえていた。 乃梨子の読みは当たっていると、ほのかは思いたかった。 だが、今の里江は凛太郎をからかっていたただの不良少女ではない。里江の言葉の裏には、確実に何かある気配が漂っていた。 だから男勝りの乃梨子も、今はどこか不安気なのだ。乃梨子の親友であるほのかには、それが分かってしまう。 里江はじっと乃梨子を見つめた。「何よ!」 乃梨子は真正面から里江の視線を受け止める。ほのかは嫌な予感を全身で察知した「ダメ、乃梨ちゃん!」 ほのかが叫んだ時には、もう遅かった。 里江の金色の瞳に、乃梨子は射すくめられていた。「中山さん。あなた、嫌なことがつい最近あったんでしょう? 気が濁ってるもの。あなたはがんばって隠してるみたいだけど、私には見えるわ、あなたの痛みが。正直に話してごらんなさい。私、あなたの悩みを聞いてあげるから……」 里江はどこまでも優しい口調でそう言った。慈母のようなまなざしとは今の里江の視線のことを言うのだろう。だが、その金色の瞳の奥にあるものは、どこかまがまがしかった。「乃梨ちゃん、しっかりして! あの人の言うこと聞いちゃダメ!」 ほのかは涙で視界をぼやけさせながら、乃梨子の肩を一生懸命ゆさぶった。 けれど、乃梨子はほのかには目もくれず、里江を魅せられたように見つめていた。「私……」 乃梨子が声を発した途端、ほのかは乃梨子の肩から手を離した。その声の調子が、ふだんの乃梨子とは打って変わったものだったからだった。いつもの溌剌さは陰をひそめ、暗い夢に酔いしれているような声だった。「乃梨ちゃん……」 ほのかは自分の努力が無駄になったことを悟って、頬に涙がつたうのを感じた。 里江はニヤリ、と笑った。「さあ、何があったの? 話してごらんなさい」「私、見たの。昨日の夜、明くんたちとダンスの練習が終わった後に」 乃梨子はセキを切ったように語り始めた。「凛太郎くんの家に、ダンスの振り付けを書いたノートを忘れちゃって、取りに戻ったの。そうしたら、凛太郎くんの部屋の窓から見えたのよ。明くんと凛太郎くんがキスしてるのが……」「嘘でしょッ?」 ほのかは悲鳴のような声を上げた。「男の子同士でそんなこと……」 里江はほのかの狼狽ぶりを明らかに楽しんでいた。ややあって、「続けて」と乃梨子にうながす。「こんなののぞきだ、とは思ったんだけど、私、目が離せなかった。その間に、明くん、凛太郎くんにもっといやらしいことしたの」「まあ、どんなこと?」 芝居がかかった驚きの口調で、里江が相づちを打った。(嘘よ。乃梨ちゃんは杉原さんに操られて、でっちあげの告白をさせられてるんだわ。清宮くんと木原くんがそんなこと……) だが、ほのかは乃梨子の話に耳をふさぐことができなかった。怖くてたまらないスリラーをどうしても観てしまうように、ほのかは乃梨子の話に聞き入っていた。「明くん、凛太郎のあそこを舐めたの。そのうちに明くん、角の生えた綺麗な男の人になってた。髪なんて緑色だし、人間じゃないみたいだった。鬼みたいだった」 里江は少し悲しそうに、金色の目をすがめた。「そうよ。明くんは鬼なのよ。だからただの女の子のの私がいくら恋を振り向いてもらえなかった……」(鬼? 木原くんが鬼だなんて……) あまりに突飛な話に、ほのかは卒倒しそうになった。いや、気絶した方が楽だとすら思った。 ほのかの当惑をよそに、乃梨子は淡々と打ち明け続ける。「明くんは……ううん、緑色の髪の鬼は、凛太郎くんを抱き上げてーーーーセックスしたの。二人とも、すごく気持ちよさそうだった。凛太郎くんなんて、ふだんのおとなしくてマジメそうなところからは想像がつかないくらい、明くんにあそこを舐められて、エッチな声を出してた。私、凛太郎くんも、明くんも不潔だと思った。だってまだ中学生なのに、男同士なのに、あんなことしてるんだもん。でも、それよりもっと汚いと思ったのは……」 そこで乃梨子は言葉を切った。すっかりうつろになっていたその瞳から、一筋の涙が流れ落ちる。ほのかが初めて見る乃梨子の涙だった。「私、なの」 乃梨子は、静かに言葉を続けた。「二人があんなことしてるのを見て、私、興奮してた。私の大好きな明くんとセックスしてる凛太郎くんに嫉妬しながら、自分も凛太郎くんみたいに明くんに抱かれたいと思ってた。だからあの場を離れられなかった。そのうちになぜか二人の姿は部屋から消えたわ。だけど、もしそうならなかったら、私、いつまでもあの場所で二人をのぞいてたと思う」「乃梨ちゃん……」 ほのかは乃梨子の腕をつかんだ。凛太郎と明の関係よりも、乃梨子がひどく傷ついている方が今のほのかには重要だった。 乃梨子に何かいたわりの言葉をかけてやりたい。乃梨子は汚れてなんかいないと言ってあげたい。 しかし、ほのかはどうにも口下手で、それ以前に今の乃梨子はほのかには見向きもしていなかった。 乃梨子は涙を流しながら、里江を見つめていた。「さぞや悲しかったでしょうね。あなたの大好きな明くんが、よりによって同性の凛太郎くんとそんなことをしているのを見て。でも、大丈夫」 里江は婉然と乃梨子に微笑みかけた。「あなたの苦しみは、すべて鈴薙さまが救ってくださるわ!」 里江の金色の瞳が、妖しい光を放った。 乃梨子はあやつり人形となって、里江の元に歩み寄る。「乃梨ちゃん、行っちゃダメ!」 ほのかは乃梨子に追いすがった。乃梨子は、ほのかを突き飛ばした。ほのかは悲鳴をあげて、床に転倒した。 ほのかがどうにか起きあがって顔を上げた時。 里江は乃梨子の肩を両手で抱きしめていた。里江の胸元にある勾玉から、青い血が生き物のように、乃梨子にふりかかった。「ギャアアアア!」 乃梨子は断末魔と聞きまごうような悲鳴をあげた。「乃梨ちゃん!」 ほのかは乃梨子に駆け寄ろうとした。が、くじいた足がうまく動いてくれない。 その血のほとばしりが止まった時、乃梨子が身にまとっていた体操服が不意にピリピリと破れた。 乃梨子の胸元にも里江と同じような勾玉ができていた。「さあ、これであなたも私たちの仲間よ」 里江が嬉しそうに言った。「の、乃梨ちゃん……」 ほのかの呼びかけに、乃梨子はゆっくりと振り向いた。 乃梨子の瞳は、金色に輝いていた。「い、いや……」 ほのかはじりじりと後じさった。どすん、と背中が壁に当たる。 里江が手をあげた。 一斉に、かつてのクラスメイトたちが、そして乃梨子がほのかににじり寄る。 ほのかは絶叫した。「助けて! 助けて、清宮くんっ!」 つづく
2004年12月28日
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信者たちはうっとりと聞き惚れた。 そして、それを見て見ぬふりをしていた生徒の中から、数名が恍惚とした表情で立ち上がって、奈美たちの集団に歩み寄った。(あいつら、また仲間増やしやがった) 勇介は苦々しくつぶやいた。取り巻きに囲まれて、神がかかったように微笑んでいる奈美はもう勇介の知っている奈美ではなかった。 教室が異様な空気に包まれている中、のんびりとした中年男性の声が響いた。「みなさん、授業が始まりますよォ。席についてくださァい」 担任教師であり、生物学の教師でもある鈴木浩一の声だった。鈴木はバードウォッチング部の顧問でもある。鈴木は「ちょっとごめんなさいよォ」と奈美たちの間をすりぬけて教室へ入った。奈美の取り巻きたちのうちの何人かが鈴木をにらみつけたが、鈴木はまるで気づいていない風情だった。「春日さん。早く席に着いて。教科書、ノートは机の上に出してありますか?」 鈴木は、取り巻き達の女神の頭を、子供をいさめるかのようにポンポン、とたたいた。 変貌後の奈美に態度を変えていないのは、このひげ面の生物学教師だけだった。奈美は鈴木の笑うと糸のように細くなる目を醒めた視線で見上げてから、黙って席に戻った。「おやおや、返事はないのかな? もしかして……」 鈴木はそこで言葉を切ってから、もう一度続けた。「君は人でいるのをやめて、鳥になろうとしているから、人の言葉をしゃべらないのかな?」 一瞬、教室中の空気が凍った。鈴木の言葉は奈美たちの行動を的確にとらえていた。 奈美たちをからかって病院送りになった生徒のように、鈴木も危害を加えられるのではないかと勇介は本気で危ぶんだ。事実、奈美の取り巻きたちは、鳥のように丸く目を見開いて鈴木をにらみつけている。 だが、奈美は無表情に鈴木を一瞥しただけだった。 勇介の隣席である自分の座席に、奈美は着席した。勇介は奈美に何か言いたかったが、かけるべき言葉が浮かばなかった。すでにそこにいる少女は、勇介の知っている奈美でないような気がした。勇介は生物の教科書を開いて、ぼんやりと眺めた。ちょうどそこは鳥の写真が載っているページだった。今の自分よりはこの鳥の方が奈美に近い存在だろう、と勇介は思った。 つづく
2004年12月27日
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いや~、やっぱりいいですね、主題歌。 テレビの前で、しみじみと聞き入ってしまいました。 じ~んって感じです。 生でも聞いてみたいなあ。
2004年12月26日
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パソコンBLゲーム「薔薇ノ木ニ薔薇ノ花咲ク」をプレイしました。 とは言っても、まだ1シナリオしかクリアしていないし、CGの回収率も最多キャラで40パーセントくらいなんですが。 あらすじ。 時は第二次世界大戦間際の日本。 主人公、要は妾腹の子として生まれた。 まだ学生の身分であるはずの年齢だが、生活のために全寮制男子校で用務員として働いている。 ある日、彼は何者かに襲われて、強引に体を奪われた。 尊敬する教授のアドバイスに従って、犯人捜しを始めるのだが……。 このゲームは今まで私がプレイしたボーイズラブゲームと違って、かなりシステムが凝っています。 受けと攻めを自分で組み合わせたりもできるんです。 ストーリーもミステリー仕立てになっていて、かなり興味を持って進めていけることができるのではないかと思います。 純愛ルートと鬼畜ルートがあるのですが、私はあずさという少年があまりにも憎らしいため、「お仕置きしてやる」ことにしたら、あっさり鬼畜ルートに進んでしまいました。 べつに、陵辱やら鬼畜やらが好きなわけではないんです。 ただ、生意気な少年は少しは叱られた方がいいと思っただけです。 本当にそれだけなんです。 信じてください、ええ。 で、鬼畜ルートを選んでの感想。 手込めにされた相手にそんなに人間、なつくことができるものか~? まあ、それを言ったら世の中のBLもの、もといエロものはかなりが無しの方向になるわけですが。 いや~、潔癖性だったはずのあずさくんの豹変ぶりはお姉さん、なかなかショックでした。 まるで中学時代、学級委員をやっていて「そこの男子、うるさいです!」と怒っていたお下げ髪のクラスメイトが大学デビューしてバージン喪失して、すっかりイケイケ(死語)になってしまったくらいのショックです。 まあ、若いからねえ。 いや、そうならないとゲームが進まないからねえ。 と、自分に言い聞かせてみても、「まったく人間ってやつぁ……」と思ってしまうのでした。 でもべつにああいうあずさくんも嫌いじゃないです。 まあ、真弓がああいうふうになるのはだいたい想像がついたんだけどね。 でも、エッチものではこういう展開って、BLでも普通の男女ものでも王道ではありますね。 潔癖な処女(BLでも処女は処女だな、受けなんだから)が男を知って、素直になり、すっかりエッチに……っていう。 そういう様を見て喜ぶってのは、男も女も変わらないんでしょうね。 一種の征服欲ってやつでしょうか。 自分とエッチして、相手がこんなに変わるなんて! っていうね。 ただ違うのは、男性作家の手によるエロが「愛なんていっさいなし」で、極端な場合には殺人行為にまでエスカレートしていくのに対し、女性作家だとやっぱり始まりはレイプまがいでも、やがてそこに愛が生まれてくるってとこですね。 男と女の間の深い河を見るようであります。 このゲームはシナリオによって、かなりキャラクターのふるまいが違うようなので、これはあくまで私がプレイしたシナリオでのことなので、ご了承ください。 私、ダンナに借りて結構男性向けのギャルゲーをたくさんやったのですが、悲しいことにBLゲーってまだまだ……のようですね。 女性ユーザーはパソコンに疎い人がやっぱり多いので、開発費もそんなにかけられないのだとゲームメーカーにつとめる人が以前言っていました。 ギャルゲーはフルボイスでCGもたっぷりなのが多いのに、BLゲーは未だに声なしのやつが多いですしね。 私としてはもうちょっとがんばってほしいところです。 絶対無理だけどプレイしてみたいゲーム。 べつにBLでなくて全然オッケー! ですが。 「テニスの王子様」18禁版。 「RUSH&DREAM」にエッチシーンを付け加えるだけでもいいですから、見てみたい……。 ダメに決まってるけど。 あえて書いてみた腐女子なのでした。
2004年12月25日
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「なあ、春日。映画のチケットが二枚手に入ったんだけど……」 勇介の誘いに奈美は振り向きもしなかった。 昼休みの教室の窓辺から長方形に見える青空をゆくカラスをまっすぐに見つめている。 あのカラスはハシブトガラスだ。本来は森に生息するカラスだが、森林破壊が進んだため都市部でも見られるようになった。野生動物らを相手に肉食をしていただけあって、獰猛でゴミを荒らしたり、飼い猫を襲ったりと都市部のトラブルメーカーとなっている。なぜこんなことを勇介が知っているかと言えば、奈美に接近したくてバードウォッチング部に入部したからだった。 かつて勇介と奈美はこんなやりとりをした。”人間って身勝手よね。自分たちが森を壊したから、ハシブトガラスは街で一生懸命生きようとしているのに、それをカラス公害だ、なんて言うなんて””でもよォ、この世の中なんて開き直って迷惑かけたもん勝ちじゃん。どうせ立場が強いヤツが勝つに決まってんだよ。そんなのいちいち気にしてたら、この世で生きていけねえと思うぜ” 勇介の言葉に奈美は一瞬、ひどく傷ついた目をした。奈美は何か言いたげだったが、結局、黙って悲しそうに微笑んだだけだったのを勇介は覚えている。 勇介の物思いは断ち切られた。いきなり奈美がガタン、と音を立てて座席から立ち上がったのだ。それに驚いて、クラス中が奈美に注目した。少し以前なら、奈美は恥ずかしがってこんな状態に耐えられないはずなのに今は違った。周囲を見回すこともせずに一直線に教室の出入り口に向かっていく。そこには十数人の生徒たちが奈美を待ちかまえていた。 学年もクラスも性別もバラバラだが、確実な共通点はある。それは奈美に熱のこもった崇拝のまなざしを向けていることだ。教室内からも、数名の女子生徒が立ち上がってうやうやしく奈美に付き従った。みな奈美と同じく、地味でおとなしい生徒ばかりだった。いや、地味でおとなしかった、と過去形にするのが正解だろう。 彼女たちは今やクラス内でも際だって自信に満ちあふれ、生き生きとしている。授業中も自ら挙手して、誰も解けない数学の難問の正解を即答したりした。いきなり目立ち出した彼女たちを牽制しようと、中傷やあてこすりをする生徒たちもいた。どちらかというとおどおどしていた彼女たちはいじめられっ子に近い存在だったのだ。 だが、彼女たちは冷笑してそれを受け流し、それからうっとりと奈美を見つめた。それはまさに崇拝者を見る視線だった。「あなたたちも鳥になりたいのね?」 奈美は静かな、だが威厳あふれる口調で生徒たちに呼びかけた。生徒たちは力強くうなずいた。するとどこかから鳥のさえずりが聞こえた。高らかで、清く透き通っていて、地上のわずらわしさとは無縁の鳴き声だった。 だが、その声は空を飛ぶ鳥ではなく、地上に住む人である奈美の唇から漏れていたものだった。 つづく
2004年12月24日
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「杉原さん。その傷どうしたの? 保健室に行かなきゃ……」 おびえながらも里江に駆け寄ろうとするほのかを、乃梨子は手で制した。「ほのか。この人、けが人にしてはずいぶん元気そうよ」 ほのかを背中にかばうようにしながら、乃梨子は里江をにらみつけながら言った。 乃梨子の言葉にほのかはハッとした。里江の両目が爛々と輝いているのに気づいたのだった。その瞳の色はやがて金色に輝きだした。 里江はニィっと笑った。その笑顔の邪悪さにほのかは思わず悲鳴をあげる。「私、もっと元気になりたいの。あなたたちの気をもらってね!」 里江が歌うように言った。静かだが、どこか狂ったような声だった。 ほのかは教室の窓辺に目をやった。そこから出られるかと思ったのだ。だが、窓の外は奇妙な青白い光につつまれていて、本来見えるはずの風景である校庭もなかった。 乃梨子が舌打ちした。ほのかと同じことを考えていたらしい。「ほのか、しっかり私につかまってな!」「乃梨ちゃん、誰か助けを呼ぼうよ。乃梨ちゃん一人だけじゃ……」「無理よ。だってここから出られないんだから。それに今のあいつらは私たちが知ってるクラスメイトじゃない。ううん、むしろ人間じゃない。大丈夫、私、杉原さん一人ならなんとかやっつけられるから!」 乃梨子はそう言って、合気道の形をかまえた。ほのかは乃梨子の背中越しに里江を見つめた。青い液体がしたたり落ちる里江の胸元には、丸っこくてぬらりと光る青い物体が付着していた。そこから液体が垂れているのだ。あの物体の形はどこかで見たことがある。 恐慌状態と戦いながら、ほのかは必死に考えた。 そうだ、日本史の時間に習った勾玉だ。 でも勾玉が、どうして里江の胸元に? しかもあの勾玉はどう見ても生物だ。 里江はゆっくりと片手を挙げた。 すると、それに指揮されたように座っていたその他のクラスメイトたちが立ち上がった。「きゃあああ!」 ほのかは悲鳴をあげた。戦闘態勢を取っていた乃梨子は息をのんだ。 彼らも里江と同じく、胸元から青い血をしたたり落としていたのだった。それまで暗がりの中に座っていて、ほのかたちの目には見えなかったのだ。 各々が流している青い血は生きているかのように、すぅっと幾筋も床を這った。それは水たまりのようにひとつにまとまって、里江の足下を、膝を、そして胸元にはい上がった。 そして里江の胸元にある青い勾玉に吸い込まれていった。「ああ……いい気持ち」 里江はうっとりと目を閉じてつぶやいた。「私の中にみなぎる……大勢の気が……そして私は鈴薙さまにそれをささげることができる………。そして!」 里江はそこでカッと目を見開いた。「今ここであんたたちも仲間にしてやる! それからみんなで清宮凛太郎を生け捕りにして、鈴薙さまにささげるのよ!」 つづく
2004年12月23日
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今回のアニプリを観て、私の心にまずわき上がった疑問。 真田と幸村のあの世界での関係って何なの? ネット上でも、前回の予告で真田と幸村がチビキャラワールドに登場すると判明してから、様々な予測がなされていましたね。 きっと切原の両親役はこの二人だろう、とか、いや両親は柳とブン太あたりで二人は祖父母役だろうとか。 結局わからずじまいでしたね。 でも切原の家族や両親ではなかったような気もするんです。 だって、真田がサンタクロースの格好をして、幸村がトナカイの格好をしていたでしょう? さらにそれ以外の切原をのぞく立海メンバーたちもサンタの格好をして街中にいました。 その間、切原はひとりでデパートで遊んでいたわけで、もしかして切原の家族って立海メンバーじゃないって設定なのでは……。 まあ、佐伯なんか何回も女装したり、葵くんの母親役で登場したりしていました。 おそらくアニプリスタッフに佐伯ファンがいたんでしょうね。 お遊びなお話だから、考察しても意味がないのはわかってますが、やっぱり気になるんですよね。 とっても腐女子な解釈ですが、「てにぷり一家」がファンに注目されるのは、男同士であるはずのキャラクターが夫婦関係で、しかも子供を作っていたりする、そこはかとなくボーイズラブ臭のするところに一因があると思うんです。 だから、このワールドで誰と誰が夫婦役なのかは、スタッフ公認のカップリングみたいなもので、つい気になってしまうのでした(^^; スタッフ的には、手塚×不二は確定みたいですね。 西部劇編でも不二は手塚の恋人役で出演していたし。 まあ、この二人は同人誌でもよくくっつけられているからさもありなん、といった感じなのですが、個人的に意外かつなるほど! と思ったのは乾と大石の夫婦関係でした。 言われてみればこの二人、ぴったりの相性のような気がします。 変人なところのある乾を大石ならうまくサポートするだろうし。 でも、普通のテニプリワールドでこの二人がくっついても(あくまで同人誌内で、ってことですよ)、あんまり面白くないでしょうね。 なぜなら大石は常識的だからあんまり動かないキャラクターだし、乾は沈思黙考タイプだし、これといったドラマはないような気がします。 あくまで「お父さん」と「お母さん」という役所だからあのカップリングは生きてくるわけです。 しかし、乾お父さんと大石お母さんが布団を並べて寝ていたのには生々しい香りを感じました(^^; 大石なんて先週のレオタードにひきつづき、ビキニ姿にされちゃうし、本当に遊ばれてるなあ(^^; お話も面白かったですね。最後はファンタジーオチできれいにまとめていたし。 パブ「華村」のマッチが笑えました。 きっと乾が柳あたりと大石に黙って通っているパブなんでしょうね。「華村さん、今日もきれいだなあ」なんて鼻の下を伸ばしていそうです。 来週からランキング戦のお話なんですよね。 二月いっぱいまでそれを放送するらしいんですが、その次は何を放送するんでしょう。 個人的には六角との合宿話希望です。
2004年12月22日
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「明日の体育祭、楽しみだね。これだけみんな練習したんだから」 そう言う凛太郎の顔が夕日に染まっているのを美しいと思いながら、ほのかは廊下を歩いていた。 ほのかは乃梨子、そして凛太郎や明と連れだって廊下を歩いていた。昨日、一緒にダンスの練習をしたおかげで、ほのかは凛太郎とこんなふうに行動をともにすることができるようになったのである。 ほのかは傍らにいる乃梨子に感謝のまなざしを投げかけた。乃梨子が昨日、凛太郎に一緒に練習をしようと持ちかけてくれなければ、この幸運はなかっただろう。 廊下にはほのか達のクラスの生徒たちがわらわらと体操服姿で歩いていた。誰からともなく、放課後残ってフォークダンスの練習をしようと言い出したのである。担任の弓削秀信は「それは熱心なことだな」とすぐに承諾した。 それでホームルーム終了後、二時間ほど校庭でフォークダンスの練習をしていたのだった。もう時計は五時を回っていた。それなのに空腹を訴えたり、騒いだりする生徒はいなかった。「でも意外よね。どっちかっていうと、私たちのクラスってまとまりがなくて騒がしかったのに、みんなあんなに熱心にダンスの練習するなんて」 乃梨子が本当に感心した口調で言った。「僕も嬉しいよ。クラス全員が一丸となってくれるなんて」 凛太郎は嬉しそうに笑った。凛太郎は笑うと子供のようにあどけない。そこが可愛い、とほのかは思う。(あ、私ったら生意気。私より勉強もできて、こんなにかっこいい凛太郎くんのことを可愛いだなんて……) ほのかは口元に手を当てて、キャッと笑った。「どうしたの、藤崎さん。すごく楽しそうだね」 当の凛太郎に呼びかけられて、ほのかは熱くなる頬を隠すためにうつむいた。廊下のタイル数を数えながら、ほのかは自分を責めていた。(せっかく凛太郎くんが自分から話しかけてくれてるっていうのに、気の利いた返事もできないなんて私のバカバカ……) ほのかの思いをよそに、乃梨子が不意に思い出した様子で言った。「そういえば、凛太郎くん。弓削先生がダンスの練習が終わったら職員室に来るように言ってたわよ。今日は明くんも一緒にだって」「え、どうして俺がっ?」 明がギョっとした様子で、自分の顔に人差し指を当てた。「さあ、知らない。もしかしてこの前の数学の時間、早弁したことが先生の耳に入ったんじゃないの? 明くん、教科書で隠してるつもりだったみたいだけど、私の席からもバッチリ見えてたから」 乃梨子はいたずらっぽく笑った。「げげっ、マジっ?」 太い眉をしかめる明に、凛太郎があきれたように言った。「ほらね、僕も言っただろ。バレるからやめろって」「どうして、もっとしっかり俺を止めてくれなかったんだよ、凛太郎!」「だからさんざん止めただろ。僕のせいにしないでよね!」 凛太郎たちのやりとりに、ほのかはくすくすと笑った。「ほら、藤崎さんも笑ってるよ、明!」「ご、ごめんなさい。私、つい……」 ほのかはハッとなって、口を手で隠した。「いいってことよ、ほのかちゃんの可愛い笑顔が見られたんだからさ!」 明にウィンクされて、ほのかはうつむいた。「明、藤崎さんをいきなり名前に”ちゃん”づけ呼ばわりするなんてなれなれしいぞ。藤崎さんもいやがってるじゃないか」 凛太郎が生真面目に明に注意した。 乃梨子はニヤッと笑った。「あらァ、ほのかは全然いやがってないわよ。凛太郎くんも”ほのかちゃん”って呼んであげたら? この子、すっごく喜ぶから。ねえ、ほのか!」「やだ、乃梨ちゃんったら……」 乃梨子に顔をのぞきこまれて、ほのかの頬はまたもや熱くなる。勇気を出して、チラっと凛太郎に視線を向けると凛太郎は不思議そうな表情をしていた。「どうして藤崎さん、それが嬉しいの? 僕の知らないテレビではやってる冗談か何かなのかな? 僕、そういうの疎くて……」「凛太郎、お前ほんっとに鈍いなあ」 明があきれたように言った。凛太郎は首をかしげ続けている。 ほのかはほっとしたような、残念なような気持ちになった。 階段のところで、凛太郎と明はほのかたちと別れた。「それじゃあ僕たち、先生のところに行ってくるから」 凛太郎は片手をあげて言った。「しっかりしかられてきてね、明くん!」「あいよ。まかしときな!」 乃梨子のからかいに、明はヤケ気味に胸をたたいた。「それじゃあ、ほのか。私たちは教室で着替えようか」「そうね。清宮くんたちと話すのが楽しくて、すっかりみんなから遅れちゃったし」 ほのかは周囲を見渡しながら言った。夕日のさしこむ廊下はがらんとしていて、ほのかたち以外は誰もいなかった。 ほのかと乃梨子は教室の引き戸を開けて中に入った。 ほのかは驚いた。 体操服姿のクラスメイトたちが、着替えることもせずに一様に前を向いて、着席しているのだ。こんな光景は授業中でも見たことがなかった。 しかも彼らが目を向けている黒板の前には誰もいない。 最近、ほのかは里江を中心とするクラスメイトたちが妙に落ち着いていたことには気づいていた。が、こんな事態はどう見ても異様だった。「の、乃梨ちゃん……」 乃梨子はほのかの肩を抱いた。大丈夫、とほのかに目で合図する。乃梨子は前を向いたまま、自分たちが入ってきた引き戸に手をかけた。 だが、それは閉じたままビクともしなかった。「逃げようったって、無駄よ」 薄暗い教室の中、一人の少女が立ち上がった。 里江だった。「きゃあ!」 ほのかは悲鳴をあげた。 里江の胸元から大量の青い液体が、青い血のごとく流れ落ちていたからだった。 つづく web拍手返信を今日から始めることにしました。>神域の花嫁、面白いです ありがとうございます。これからもがんばりますのでよろしく。>「RUSH&DREAM」どうですか? 真田EDを見ました。照れる真田が可愛かったです。
2004年12月21日
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月明かりが冴え冴えと輝いていた。 明は凛太郎の腰を抱きしめた。 そして、凛太郎のズボンのチャックをおろした。「あ、明、何を……」 ズボンから自分自身を引き出されながら、凛太郎は狼狽して尋ねた。「訊かなくても分かるだろ? こうするんだよ」 明は凛太郎の核心をやわらかく握った。そしてゆっくりとそれに口づける。「やだっ、汚いよ。お風呂にも入ってないのに……」「そんなのかまわねェよ。俺にとって、お前の体に汚い部分なんかないんだからさ。それより、俺にお前の気をたっぷり吸わせてくれよ。そのうち戦わなきゃいけないんだから」 凛太郎を見上げて、明はニヤリと笑った。そして目を閉じて、凛太郎のものをふくんだ。 明の熱い舌が、凛太郎のもっとも感じる丸くなっている部分をかきまわす。その刺激に凛太郎は腰を引いた。 明がクスっと笑って、凛太郎の腰を押し戻し、よりいっそう舌の動きを早くする。「あっ……」 凛太郎はうめいた。出る、と思った。 途端に、明が凛太郎から口を離した。 光る唾液の糸を引いて、鬼の赤い唇が自分から離れていくのを凛太郎は息をはずませながら見つめた。射精感がゆっくりと引いていく。「すごく残念、って表情してるな」 いたずらっぽく微笑みながら、明は言った「べ、べつにそんなこと……」「ふうん」 明は笑った。からかいがにじんだその笑い声に、凛太郎は唇をとがらせた。自分のことは何でもお見通しだ、という明の態度が気に入らなかった。 凛太郎は明から離れようとした。 その時、ふたたび明は凛太郎を口と手を使って愛撫していた。 今度は明は目を薄く開けていた。その流麗な切れ上がった双眸は、あだに凛太郎を見つめていた。 この鬼は、自分が快楽におぼれていく様を逐一観察しようとしているのだ。それに気づいた凛太郎は、感じるまいと唇を噛みしめる。 だが、明の舌は容赦なく凛太郎を駆り立ててゆく。あらがい続ける凛太郎はふと、下方を見やった。 すると凛太郎の股間に顔をうずめていた明は、唇を少し開いた。自分自身が明の舌になめまわされ、いらわれているのを凛太郎は目の当たりにした。その淫靡な光景に、凛太郎の口から思わず悲鳴がもれた。「ああ……っ。んっ……」 鬼は淫らなまなざしで凛太郎を犯していた。羞恥に頬を染めながら、凛太郎は目を閉じる。そうすればこの高ぶりから少しでも逃れられると考えたのだ。が、それは逆効果だった。視覚を封じたがために、触感がいっそう鋭敏になってしまった。口淫から生じる水っぽい音がよけい凛太郎を刺激した。逃れようにも、明は両手でしっかりと凛太郎を拘束している。 明は凛太郎の根元を強く握った。そしてさらに舌を早く回す。 吐精したくてもできないもどかしさに、凛太郎の目頭は熱くなっていた。「なあ」 口を離して、明がささやいた。「どうしてほしい?」 凛太郎を籠絡できる歓びで、そのまなざしは輝いていた。凛太郎はくやしさをにじませて言う。「この……好き者ッ!」「そうだよ、俺はスケベなの。なんたって、道祖神として祀られてたくらいなんだから。もしこんな俺が嫌なら、今すぐ俺に命じろよ。”明、こういうことをするのはやめてくれ”ってさ」「……」 凛太郎は言葉に詰まった。プライドに従えばそうしたいのはやまやまだが、躯が言うことを聞いてくれなかった。凛太郎のそこは痛いほど張りつめていた。 それでも明の余裕たっぷりな笑いが気に食わなくて、凛太郎は深く呼吸してうずきをこらえた。 淫靡に明は笑って、手に力を加えた。「や、やめ……っ」「やめていいのかよ? ほら、泣いてるぞ、お前のここ」 明は凛太郎のしずくを舌でなめとった。 ひくっ、と凛太郎が喉を鳴らす。明はそれに誘われたように、口淫を再開した。 ちゅっ、くちゅっ……という音が室内に響いた。 明はもっとも感じる部分には触れずに、その周りだけを攻めていく。「や、やだっ。も、だ……めっ」 言葉とは裏腹に、無意識のうちに凛太郎は明の口内に腰を突き出していた。明はそれを嗤ったが、そんなことに気づく余裕は凛太郎にはもう残されていなかった。「あ、明……」「ん?」 凛太郎に奉仕を続けながら、くぐもった声で明が応える。「あっ、あの……っ」「何だよ? はっきり言ってくれよ」 またもや根元を圧迫しながら、明が問うた。わざとらしく眉を寄せて、困惑した表情を作っている。「意地悪……っ!」 凛太郎は明をなじった。愉悦と屈辱が入り交じった奇妙な快楽が自分の中に生じていることに、凛太郎は気づいていた。「なあ、言ってくれよ。俺にイカせてくれってさ」 微妙に手を動かしながら、少し沈んだ声で明は言った。「いつも俺がお前を求めてばっかりじゃん。たまには、お前からも歩み寄ってほしいんだ。でないと俺、お前にちっとも好かれてないみたいで不安になるんだよ。なあ、そこんとこ分かってくれない? 凛太郎ちゃん?」 凛太郎には明の言葉はほとんど耳に入っていなかった。音としては聞こえるが、意味を取るまでにはいたらない。凛太郎は目をきつく閉じたまま、悦楽と理性のせめぎあいに身を投じていた。 だから、明がいつになく真摯な目で自分を見つめているのに気づかなかった。 明は微笑しながら嘆息した。 凛太郎のそこに深くくちづける。「うっ……」 凛太郎は放った。 明の喉が卑猥に上下した。 ベッドに座ったた姿勢のまま、明は凛太郎の体を膝の上に乗せた。汗まみれになった凛太郎の服を脱がせて、自らも裸になる。 ベッドに横たわった凛太郎は、ぼんやりと明の裸体に視線を落とした。 鬼の巨大なものは、屹立していた。 明は凛太郎の視線に気づいて、少し照れたように笑った。「俺のここに来てくれよ、凛太郎」 そう言って、明は凛太郎の体をひょい、と抱き上げた。凛太郎の膝を割って、自分の腰にまたがらせる。「ほうら、抱っこだ」 おどけたように明は言った。それから凛太郎の腰を押して、自分のものを突き刺していく。身が沈むたびに、凛太郎はうめいた。うめき声は徐々に深いものになっていく。明は満足気な笑みを浮かべて、凛太郎の耳たぶを甘噛みした。 凛太郎は悲鳴をあげた。 明は子供をあやすかのごとく、凛太郎の腰を支えて揺らした。初めての体位に、とまどった凛太郎は床に転げ落ちそうになった。「しっかり俺につかまりな」 明の声によこしまなものを感じながらも凛太郎は言われるとおりにした。明の首に手を回す。明とは大人と子供ほど身長差のある凛太郎は、明にすっぽりつつまれる体勢になった。(なんだか僕、本当に明の子供みたいだ) 明を受け入れながら、凛太郎は胸の内でごちた。「凛太郎ちゃん、かわいいでちゅねえ」 ご満悦な様子で、明は凛太郎にほおずりした。 凛太郎はムッとして視線をそらした。カーテンが開きっぱなしの窓辺に目がいった凛太郎は、ふと気づいた。「明、結界張ってるっ?」「あ、忘れてた!」 ふたたび腰を動かし始めながら、明がのんきな声をあげた。「……って、っていうことはつまり、今までの僕たちの様子が外から丸見えに……。それに明、今、元の姿に戻ってるのを誰かに見られたんじゃ……」「ま、かもしれねえな!」 あっけらかんと明は言いはなって、指を鳴らした。青白い光が一瞬辺りに満ちて、結界が張られたことを証明した。「大丈夫、大丈夫! この辺りにはほとんど家なんかないし、オヤジさんは晩酌やって熟睡してるし。誰も見てやしねえよ」 カラカラと明は笑った。その間にもしっかり腰は律動を刻んでいる。「そ、そんないいかげんな! 離してよ!今夜は僕、もうそんな気分になれない!」 わめく凛太郎の唇を、明はくちづけでふさいだ。 凛太郎の腰を上下から、左右に揺する。 さらに凛太郎の股間に手を伸ばして、そこに刺激をあたえた。 明は唇を離した。 凛太郎の口からは、抗議ではなく、あえぎ声が放たれていた。 明は微苦笑した。 すぐに気を取り直して、切れ上がった双眸を光らせながらささやく。「ほら、そこ……こう動かして。もっとこすりあげて……な、いいだろ?」 凛太郎は明に導かれるまま、腰をうごめかした。いつしか明は自分から動くのをやめていた。凛太郎は甘くすすり泣きながら無心に明を求めていた。「……まったく、体だけは素直なんだから、凛太郎ちゃんは。早く心の方も素直になって欲しいぜ。明くん、好き好きってさ」 明は小さくぼやいた。 だが、すぐに官能の波に飲み込まれて、凛太郎の躯に没頭し始めた。 抱き合う二人には、自分たちをじっと見つめる目があることに気づいている余裕はなかった。 つづく 予定変更して「神域」続き書きました。
2004年12月20日
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ビクター・ナボルコスキーはヨーロッパの小さな国からアメリカにとある目的でやってきた旅行者。 英語はまったく話せないが、その目的と、観光を楽しむために彼の胸は躍っていた。 しかし、彼は空港に足止めされて身動きできない身の上となる。 なぜなら彼の祖国は、突如として革命が起き、内戦状態となり、飛行機が出なくなったのだ。 そしてアメリカ本国に足を踏み入れることもできない”法の裂け目”の状態に陥ってしまったビクターは、とある生活を決意するーーーー。 これ、スピルバーグ監督作品なんですよね。 言われなければ気づきませんでした。 私はスピルバーグと言えば、「ET」や「未知との遭遇」などのSF映画監督という印象が強いのです。 もっとも、映画館で上映していた彼の次回作は「宇宙戦争」のリメイクだそうですから、そちらの方もまだまだ手がけていくつもりなのでしょうね。 映画の印象としては、「フォレスト・ガンプ」に似ています。 とぼけてはいるけれど、純粋無垢で善意に満ちあふれた人物が、周囲に明るさと希望をふりまいていくというお話です。 主演もトム・ハンクスと同じだし、ヒロインが心に傷を持った女性というのも似ています。 もしかして、この企画は「フォレスト・ガンプみたいな映画を作ってみる」というお題でできたお話じゃないかとすら思いました。 あらすじ自体は類似していないのですが、作品の雰囲気が似ているんですよ。 でも、「フォレスト・ガンプ」が感動大作の形を取りながらも、病めるアメリカを皮肉たっぷりに描いていた仕掛けのおもしろさがあったのに対し、こちらはあくまでタイトル通り、ターミナル内で展開していくお話ですから、「フォレスト・ガンプ」と比べると少々スケール観は落ちます。 まあ、比べる私がおかしいのでしょうが(^^;)。 「キャッチ・ミー・イフ・ユーキャン」と同じく、スピルバーグが「僕はこんな映画も撮れるんだよ」とリラックスして撮った小品、といった趣です。 ずばぬけた部分もないけれど、これといった傷もないし、ほっこりして観るにはいい映画じゃないでしょうか。 ここからはネタバレになるのでご注意を。 あのヒロイン、結局最後まで何も変化しませんでしたね。 私はてっきり今までの自分を捨てて、主人公と旅立つという結末だと思っていました。 できすぎかもしれないけれど、なんせハリウッド映画ですから、これくらいハッピーエンドになるんじゃないかと思ったもので。 あの人、ずーっと不倫するんでしょうか。
2004年12月19日
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実は……紅白歌合戦にヨン様は出場していたのです! と書くと、ちょっと嘘になりますが、紅白をごらんになった方はちょっとニヤっとされたのではないかと思います。 まずこれはお遊びですが、氣志團が歌っている間、バックで「冬ソナ」のミニョンのコスプレをした人がなんと8人も踊っていました。 私はこういう氣志團のお遊び感覚が好きです(笑)。 私が個人的に嬉しかったのは、「冬ソナ」の主題歌が歌われる前に、「冬ソナ」の映像が流れて、「こんにちは、チュンサンです」「ユジンです」と萩原聖人さんたちのナレーションが流れたことです。 まるで、ドラマの中の二人が、私たちに向かって呼びかけてくれているようで、なんだか気持ちが暖かくなりました。 NHKも粋なはからいをしてくれますね!
2004年12月18日
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「なあ、優しくするからさ……いいだろ?」 杉村勇介は春日奈美の細い体を、ゆっくりと、だが強引にベッドに押し倒しながら言った。奈美は大きな目をおびえさせて、勇介を見つめている。「勇介くん、やめてよ、怖い。今日は一緒にテスト勉強するだけだって言ったじゃない……」 奈美は消え入りそうな声で言った。勇介は奈美の今時めずらしい真っ黒な長い髪を優しく撫でた。こうすると、処女はリラックスすると雑誌に書いてあったからだ。 勇介は親が旅行で家にいないこの千載一遇を生かして、今日、奈美と初体験するつもりだった。今時、十七歳で童貞なんて恥だと勇介は思っていた。勇介の腕の中にいる制服姿の奈美は泣きそうな表情をしている。十七年の人生で彼氏どころか友達すらロクにいなかったらしい奈美にしてみれば、勇介の家に初めて来て、いきなり処女喪失の危機は恐ろしい事態だろう。それは勇介にもわかっている。 だが、勇介が無口でのろまで、クラスでも浮いた存在の奈美とつきあいだしたのは、早く童貞を捨てたいからだった。 奈美はいつも制服を校則通りに野暮ったく着こなして、髪も三つ編みにしている。だから目立たないけれど、よく見ると綺麗な少女なのだ。白い肌に大きな瞳、長い黒髪と市松人形のような可憐さがあった。 奈美と隣席になってそれに気づいた勇介は、二ヶ月前奈美に告白した 奈美はいつも制服を校則通りに野暮ったく着こなして、髪も三つ編みにしている。だから目立たないけれど、よく見ると美しい少女なのだ。白い肌に大きな瞳、長い黒髪と市松人形のような可憐さがあった。奈美と隣席になってそれに気づいた勇介は、二ヶ月前奈美に告白した。 奈美は真っ赤になりながら、困ったような笑顔を浮かべてこくん、と首を縦に振った。そして二人の交際は始まった。 一緒に映画にも行ったし、遊園地にも行った。それらの費用はすべて勇介持ちだった。奈美は黙って勇介の後をついてきた。勇介の部屋に誘われても拒否はしなかった。ということは、自分に体を許してもいいと奈美は思っているのだと勇介は考えた。もしそうでなくても、のこのこ男の部屋に一人でやってくる奈美が軽率なのだ。今までつぎこんだデート代のもとをそろそろ勇介は取りたいのだった。 何事もはっきりと意思表示しない奈美のことだ。今はこうして嫌がるそぶりを見せていても、内心は奈美も勇介に抱かれたいと思っているのではないか。 そう決め込んで、勇介は奈美におおいかぶさった。「やだ、やだ、怖い……」 奈美は身をよじった。大きな瞳には涙がふくれあがっている。それがなんとも色っぽくて、強引に奈美が身に付けている制服のブラウスのボタンをはずした。「お願い、やめてよ、勇介くん」 奈美は悲鳴をあげた。「優しくするからさ、いいだろっ?」 無我夢中で勇介は奈美のスカートをめくった。 突然、奈美が抵抗をやめた。観念したのかと勇介はにんまりしながら、奈美の様子をうかがった。 大きな目をさらに大きく見開いて、奈美は勇介を見つめていた。いや、奈美のまなざしは勇介以外の何かを凝視していた。 今まで見たことのない、奈美の神がかかったような表情に勇介が息をのんだと同時に、奈美のふっくらとした唇が開いた。 奈美は声を発した。大声ではない。むしろ囁きのようなかぼそい声だ。だが、それは人間の発する声ではなかった。鳥のさざめきのような奇声だった。 勇介は戦慄した。 つづく 「神域の花嫁」はしばらくお休みして、この小説を連載します。 せいぜい五回くらいで終わるので、よろしければおつきあいください。
2004年12月17日
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凛太郎は華奢な体を投げ出すようにして、自室のベッドに横になった。 今夜は暑いといってもいいほどの夜だった。初夏にはときおりこういった夏のような気温の夜が存在する。 六時頃までこの部屋で、ほのかたちとダンスの練習をして体を動かしていたので、凛太郎は部屋の窓を開け放していた。でないと、暑いくらいだったのだ。べつにやましいことをしているわけでもないし、窓から内部が見えたとてどうでもよかった。”女の子二人も家に連れてきて、お前も隅におけないねえ、凛太郎” 伸一郎だけはそう言ってニヤニヤしていたが。 窓辺からは下弦の月が見えた。この前の満月に鈴薙がこの部屋に現れ、自分をさらっていこうとしたのが夢のようだ。 そして、自分の子供である、あの生きた勾玉が鈴薙に連れ去られたことも。 凛太郎は、ため息をついた。 時計を見ると、まだ夜の八時だ。 でもなんだかずいぶん疲れたような気がする。今日は明日の授業の予習復習をするのは無理かもしれない。それほどに凛太郎は疲労していた。 その疲れは肉体的なものというより、むしろ精神的なものだった。「凛太郎ちゃ~ん。元気してる?」 ドアが勢いよく開いて、にやけた笑顔の明が入ってきた。 凛太郎はあわててベッドから起きあがった。「い、いきなり何だよ! ちゃんとノックして入って来いよ!」「ごめんよ~、俺って千年ほど古い人間だからさ、ノックなんて新しい風習はなかなか覚えられねェんだよ」「明は人間じゃなくて鬼だろ」「あ、そうだった、そうだった」 明は頭をかいて笑いながら、凛太郎のベッドの脇に腰を下ろした。「今日は結構楽しかったよな。ほのかちゃんは手作りクッキー持ってきてくれたし、乃梨子ちゃんは合気道の型を見せてくれたし。二人とも性格は違うけど、可愛くていい娘だよなあ。俺、凛太郎がいなかったら、手出してたかもしれねぇな。あ、妬いた?」 明は布団に足を入れた凛太郎の顔をのぞきこんで、あだに笑った。「べつに」 このまま押し倒されてはかなわないので、凛太郎はベッドから出てカーペットに腰をおろした。 カーペットに体育座りした凛太郎は、ベッドの上の明を見上げる姿勢になる。 明は幼子を安心させるように、凛太郎に笑いかけた。 凛太郎はなぜか胸がどきまぎして、それを隠すようにわざとそっけない口調で言った。「なんで僕の部屋に来たんだよ。もう寝ようかって思ってたのに」「だってよォ、お前、晩飯の時、なにげに暗い顔してたじゃん。隠してるつもりでも、この明様はみんなお見通しなんだぜ。だって、お前に呪をかけられた鬼なんだからよ!」 明はウィンクした。凛太郎はそっぽを向いた。「あ、そういう態度取るんだ。ふうん」 明は芝居がかかった声を出した。「そんなに俺がイヤなんだったら、さっさと指令を出せよ。”明、この部屋から出て行け”ってそう言うだけでいいんだぜ? お前もそれはよく知ってるだろ。だから俺はあの晩、鈴薙からお前を守れなかったんだからさ」 凛太郎は息をのんだ。膝を強く抱えて、うつむく。「わ、悪かった! 悪気はないんだ、許してくれよ!」 明がベッドから飛び降りるようにして凛太郎に土下座した。 その姿勢のまま、必死に凛太郎に語りかける。「俺、お前と鈴薙のことなんかちーっとも気にしてないんだからさ! 俺だってお前と出会う前に、いろんなヤツとヤリまくったもん。一発や二発どうってことないさ。だから、なっ?」 自分よりひとまわり以上は大きな体格の明が、たくましい体をペタンと床につけてひれ伏している姿は滑稽であり、いじましくもあった。凛太郎は苦笑をにじませながら言った。「明、顔を上げて」 電流にはじかれたように明が土下座をやめた。 明の双眸が、凛太郎をひたと見つめる。 そのまなざしに説得されたかのように、凛太郎は言葉をつむぎだした。「ーーーー僕ね、心配なんだ」 凛太郎は膝を強くかかえなおしながら言った。「今日の杉原さん、どう見てもおかしかったよね。以前、明教えてくれただろ。鬼の子供は、勾玉の形を取って生まれるって。勾玉はもともと鬼の子供を模して作られたものだって。それで、鬼の子供は母体だけじゃなく、他の人間からも栄養を吸い取れるんだってね。それで親の言うとおり、他の人間を自分の思い通りに操れるんでしょ? きっと杉原さんや最近様子がおかしい人たちは……」「そうだ。勾玉に取り憑かれてるんだよ。鈴薙に命を受けた勾玉にな」 明のやけにあっさりとした物言いに、凛太郎は驚いて顔をあげた。 少しからかうように明は凛太郎に微笑みかけた。「怖いか?」 凛太郎はためらってから、小さくうなずいた。 明は凛太郎の頭をくしゃくしゃと撫でてから、凛太郎を軽々と抱き上げた。「めずらしく素直でよろしい! ここまで俺に素直だなんて、お前、ひょっとして俺の愛の前に心を開きかけたのか?」 そう言いながら、明は凛太郎の体をくるくると振り回した。「そ、そんなわけないだろ! わわっ、離せよ! 目が回る!」「お前、これくらいで目が回るなんてヤワだなあ」 明は笑いながら凛太郎をカーペットの上に立たせて、自分はベッドの上にふたたび座った。 凛太郎の折れそうに細い腰を抱きしめながら、明は語りかけた。「大丈夫だよ。だってお前の子供だもん。たしかに今は鈴薙が選んだ宿り主、杉原里江のもとに寄生させられて養分を吸ってるかもしれない。里江を通して、他のやつらのもな。だけどそうしないと、あいつは孵化できないんだ。孵化するまで、鬼の血をひいたものは呪を受け入れることができない。あいつが孵化した瞬間に、お前は俺にしたみたいに自分の子供に呪をかければいい」「僕に……できるかな」 凛太郎は言った。情けないことに、声が震えていた。顔を上げて、明はおどけた。「できねえかもしれねえな。お前はいくじがないし、要領も悪いから、自分の子供のあいつにだって言うことを聞いてもらえねえかもしれねえ。いいじゃねえか、しょせん鬼との間の子供だ。俺がぶっ殺してやらあ」「やめてよ!」 我知らず、凛太郎は叫んでいた。自分の腰に抱きついている明をにらみつける。「あの子は僕の子だ! たとえ今は悪いことしてても、きっと僕がなんとかしてみせる!」 そこまで言い切った後、自分を見上げている明のニヤニヤ笑いに気づいた。「な、何……?」「ううん、お前がちゃんと母親してるんだな、って思って」「母親っ? 僕が母親っ?」 凛太郎の声はひっくりかえった。頬が熱くなるのを感じる。「僕は男だ! 母親なんかじゃない!」「でも産んだのはお前だろ?」「そ、それはそうだけど……」 凛太郎は唇を噛んでうつむいた。 明がクスッと笑って、あやすように凛太郎の腰をゆさぶった。「ごめん、ごめん。お前があんまり可愛いもんで、ついからかっちまって。でもお前、ちゃんと親としてあの子を愛してるんだな。安心したよ。鬼との間の子なんて自分の子じゃない、なんて言わなくてさ」 明はしみいるように笑ってつぶやいた。「だって、俺も鬼だからな。人間の中にはそういうヤツが結構多いんだよ、鬼をとにかく毛嫌いするやつが……人間だって鬼以下の非道いこといくらでもやらかしてるヤツがいっぱいいるくせに、な」 凛太郎は静かに、そして優しく明の頭を撫でた。 明の頭髪が、短い黒から、長い緑に変わった。
2004年12月16日
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まずは本編とは直接関係のあるような無いようなツッコミから始めます。 あの~、手塚帰ってきちゃっていいんですか? 原作では先週帰ってきたところなんですけど……。 まあ、アニプリと原作はもう別物状態だし、許斐先生も納得しているようです。それにこの手塚の帰還って自然だしドラマ的にも盛り上がりますよね。 でも今回って、なんとなく最終回間際みたいな雰囲気が流れていてそれが不安なんです。 なぜかと申しますと、ジャンプ連載漫画「アイシールド」が来春アニメ化することが決定していまして、その時間帯と曜日が明らかにされていないんですね。 それでネット上でアニプリの後番組だという噂が一部で流れているわけですよ。 まあ、アニプリって半年ごとにやれ打ち切りだ、最終回だという噂が流れているからもう慣れっこといえば慣れっこなんですけど、やっぱりファンとしては不安になるわけです。 それに「アイシールド」と「テニプリ」って同じスポーツマンガだからかぶるところがあるし、テレビ局側や編集部が入れ替わりを考えていてもおかしくはないわけですよ。 さらにサブタイトルだけわかっている新年からの放送分が「すすめ越前(だったと思う)」とかそういう感じのいかにも最終回間際、まとめに入ってます! ってもので、そこが不安を増大させるのです。 一番の原因は、今年の夏コミにアニプリスタッフが作ったテニプリ同人誌を、スタッフ自身が「卒業文集のような同人誌になりました」と語っていることです。 卒業文集……ああ、なんて不吉な。 テニプリCDは売れ続けているし、ゲームの売れ行きも順調だから、スポンサー的にはおいしい番組じゃないかと思うんですが、気になるのは原作のストックがあまりないところですよね。 スミレちゃん、「行け、全国へ!」なんて言っても、原作ではようやく全国のメンバーが出そろいつつあるところだよ……。 原作は現在、引き延ばしてオリジナルストーリーを作ろうとすれば、かなり作れるストーリー展開です。 もしかして許斐先生もそれを考えて作ったのかもしれませんね。 私なりにそのストーリーを考えてみました。1 青学に偵察に来た女性マネージャーのお話を三話くらいで引き延ばす。マネージャーが青学に居着いて、リョーマたちと試合したりして、ちょっとアイドル的な存在になる。女の子に免疫のなさそうな大石が媚びを売られてデレデレしちゃうとか。そこで朋香が彼女と大げんかして、テニス勝負! みたいなお話。 2 六角との合宿話。これは伸ばせます! その気になれば二ヶ月くらいもつんじゃないでしょうか。立海と偶然合宿所が近くて、合同試合するというお話にするとか。3 リョーマのライバル・金太郎くんのお話。原作でも描かれている金太郎くんの旅路を、テニスの試合をからめて展開する。路銀のなくなった金太郎くんがテニスの試合に勝ったらお金をもらうってことで、賭けテニスを氷帝やルドルフのメンバーとするなんてどうでしょう? これも二ヶ月くらいもつと思います。 それと交差させてリョーマを始めとする青学の練習話をやるんです。4 金太郎くんたち大阪側の人間と合同練習をする青学。六角もこういう話がありましたよね? コテコテの関西人相手に調子を狂わせられる青学って話で、二回くらいはもつと思います。 素人の私がこれくらい考えついたんだから、きっとプロのアニプリスタッフだったらもっと面白いお話が浮かぶでしょう。 もう、大丈夫! アニプリはまだまだ続きます! ……って、私が言ってもどうしようもないのでした(涙)。 ようやく本編の感想。 大石、すっかり遊ばれキャラになっていますね。 合宿の手塚歓迎会の時は腹踊りさせられていたと思ったら今回はレオタードですか……。 海堂に続いていじられキャラの座をGETですね。 私が不思議だったのは、男子禁制のはずの新体操部でなぜ大石がレオタードまで借りて練習できたかということです。 アニプリでは大石は女の子に人気があるって設定だから、大石ファンの新体操部員が「大石くんならいいわよっ」なんて言ってOKしてくれたんでしょうか。 それとも大石があまりにも真剣に目をうるうるさせて頼むので、あまりの迫力に部長がOKしてしまったとか……こっちの方だと私は思います(^^; リョーマのアメフト姿も可愛かったですね。 今回、ラストにかつてEDだった「YOU GOT GAME?」がラストにかかっていましたね。 あれ、ものすごく歌詞が最終回してる曲なんですよ。自分で二次創作小説のタイトルにして、個人的にラストシーンにかかるテーマソングにしちゃったくらい。 「たとえ離れても」とか、そんな感じの歌詞がバンバン出てくるんです。 それをねー、こういう不安がある時期にかけられるとねー。 もう鬱になるのでやめます……。 どうか私の不安が杞憂に終わりますように! アニプリはまだまだ続く! 本当に続くって! と、自分に言い聞かせる私なのでした。
2004年12月15日
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セナの歌手への道、なかなかうまくいきそうでいきませんね。 「私の名を呼んで」と泣きじゃくる彼女の気持ち、なんとなくわかります。 都会の中で孤独にがんばってきた孤児の彼女の名前をちゃんと呼んでくれる人ってなかなかいないでしょうからね。 セナにはヨンスという大切な理解者がいるのですが、セナはあいかわらずつっぱっているようだし。 でも「あんたの名前ならいくらでも呼んであげるから」ってあやすナレってすごくいい人かも。 ナレは友達にしたいです。 ミンチョルとソンジェの恋のさやあてもますます激化してきましたね。 ヨンスを先生と呼べ、とソンジェに命令するミンチョルって結構子供っぽいような気もします。 それだけヨンスに夢中なんだけど、自分ではそれを認めたくないんでしょうね。 私はミンチョルのこういうちょっと屈折した愛情表現が楽しみでこのドラマを観ている部分もあります。
2004年12月14日
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秀信の指先は触れるか触れないかの微妙な角度で、凛太郎の首筋をつつぅっと撫でていく。そこから火がついたように、体中にちりちりとした痺れが走った。明に、そして鈴薙によって性を知っている凛太郎の体は、こんな些細な愛撫にも反応してしまうのだ。 くっ、と小さく秀信が笑った。驚いたような、小馬鹿にしているかのような笑いだった。 頬を赤くして、凛太郎は秀信の手をはらいのけた。片手でプリントを持っている秀信は少しあっけにとられたように凛太郎に視線を落としていた。 だがすぐに元の人の悪そうな笑みに戻った。 こんな秀信を見たのは凛太郎は初めてだった。いつも生徒である凛太郎たちの前で、秀信は冷静で勤勉だった。もしかしてそれは偽りの姿だったのではないか。凛太郎にそう考えさせるほど、秀信が今浮かべている笑顔は奇妙な生気に満ちあふれている。”俺から見りゃあ、あいつ、かなりお前にご執心なんだけどなあ” 秀信を評した明の言葉が、凛太郎の脳裏によみがえった。明や鈴薙だけでなく、この見るからに秀才タイプの教師までもが、自分をそんな目で見ているというのか。秀信はそんな下世話な人間だったのか。それとも……他人に不埒な感情をいだかせずにはいられないほど、凛太郎が淫猥な存在だというのか。 そう考えた途端、凛太郎は羞恥でこの世から消え去ってしまいたくなった。鈴薙の体を自分から求めていた時のことや、明の言葉通りに身をくねらせていた自分を思い出してしまったのだ。そして、つい今しがた、秀信の指先に反応してしまった自分も。「ぼ、ぼ、僕、もう帰ります。下校時間だから、帰ってもいいですよね」 秀信の冷たい好奇心に満ちた笑いを前にして、凛太郎はどうにか言葉をしぼりだした。声が震えているのが自分でも情けなかった。「今日、体育の時間に一騒動あったそうだな」 急に秀信にその話題を向けられて、凛太郎は面食らった。「どうしてそれを……」「山下先生に聞いた」 山下とは体育教師だ。凛太郎は少しホッとした。秀信に千里眼でもついているのではないかと本気で疑っていたのだ。里江たちの起こした騒動を、体育教師は遠くから見ていたのだろう。特に山下のおとがめがなかったのは、山下が生徒同士のトラブルに首をつっこみたくなかったからなのだろうと凛太郎はとっさに判断した。 秀信はフッと笑った。それまでの冷笑とは違い、いたわりのこもったまなざしだった。「お前も大変だな、凛太郎。さだめに生まれついたものは、おのれが好まずとも様々な重荷を背負わずにはいられない」「……」 凛太郎は絶句した。 この秀信の言葉は、教師が一生徒にかけるものの範疇を越えていた。凛太郎と二匹の鬼のことを秀信が知っているとしか思えなかった。そう考えれば、秀信が勾玉に気づいていたことも説明がつく。(もしかして、先生は……) 鬼。もののけ。あやかし。とにかく、人ではないものなのではないか。 凛太郎は背筋が凍っていくのを感じた。「先生……」 凛太郎は足下の震えを止めることができないまま、尋ねようとした。先生は人間ではないのですか、と。 だが、凛太郎が言葉を発する前に秀信は声を上げて笑い出した。秀信にしては至極めずらしい、影のない笑いだった。「すまない、つい笑ってしまって……」 秀信はプリントの束を持っていない方の手で、眼鏡の下の目頭をぬぐった。凛太郎は呆然と秀信の様子をうかがっていた。「お前があまりにも真剣に驚いた表情をするのでな」「えっ?」 笑いをふくんだ声で秀信は言葉を続けた。「お前は近ごろクラスメイトにずいぶん人気があるようじゃないか。それをからかってみたくなったのさ。色男は苦労が多い、と」「……先生、ひどいです!」「まあまあ、そう怒るな。教師である私とて、一人の人間だ。たまに悪ふざけをしてみたくなる時もある。特にお前のような可愛い生徒にはな」 眼鏡の奥の目をすぅ、と秀信は細めた。 凛太郎はふたたび頬が熱くなるのを隠すように、あわてて言った。「そ、それじゃ僕、急ぎますから!」 凛太郎はぺこりとお辞儀してから、そそくさと去っていった。 凛太郎の草花の茎のような後ろ姿を見送ってから、秀信は眼鏡をはずして深呼吸した。 疲れたように目を手でぬぐい、少し伸びをする。「祥一」 秀信は空にむかって一声発した。生徒の前とはどこか違う、尊大さと冷徹さにあふれた声だった。眼鏡を取った秀信は、青年らしい精悍さと雄々しさ、そして年に似合わない威厳と冷徹さにあふれていた。「ーーーーおそばに」 秀信の背後に、突如として青い袴姿の青年が現れた。青年はひざまずいていた。年の頃は二十歳前後だろうか。束ねられた黒髪が背中まで伸びている。夜闇に光る刃のような鋭さを秘めた優美な青年だった。 秀信は青年に背を向けたまま語った。「清宮凛太郎の監視を命じる。ここ数日の間、必ず何かあるはずだ。わが弓削家の栄光のために、あやつの存在はなくてはならん。決して目を離さぬように、そして凛太郎に気づかれぬようにな」「御意」 青年の姿はふたたび消えた。 秀信はそろそろ暮れかけた空を見上げた。遭魔ケ時とはよく言ったものだ。本当に妖魔が出現しそうではないか。妖魔と戦う術を幼い日よりたたきこまれてきた秀信でもそう思う。 この空の妖しい美しさは、秀信が弟・晴信の術を通して見た、緑色の髪をした鬼に抱かれている時の少年の美しさに似ていた。雄々しくも巨大な鬼のものにつらぬかれて、あられもない声をあげる凛太郎の様子は、その清楚な外見と相反してよけいになまめかしく、そして淫猥だった。(さすが前世で鬼をしたがえて、天下を制圧しようとしただけのことはあるーーーー) 鬼のものを細い体で深々とくわえこむ凛太郎の姿を思い出して、秀信は嗤った。 あの白い花のようにはかない少年が、伝説の巫女・凛姫の生まれ変わりだとは最初信じられなかった。人の身の上で鬼を使い魔にし、古代国家に動乱を起こした人物の生まれ変わりとはもっと尊大で、強烈な個性を放っていると秀信は想像していたのだ。 だが、ふだんの可憐さとはうってかわった艶やかさで、鬼と交わっている凛太郎の妖しい美しさは秀信の想像通りの”凛姫”だった。 鬼につらぬかれている凛太郎の姿を思い出して、秀信の胸は灼けた。 いや、そうではない。強大な力を持つ巫子を自分の手に入れたいだけだ。巫子を征服したいのだ。秀信はそう思い直した。 そして何百年もの間、陰陽道の傍流におかれていた弓削家を復興させてみせる。そのために自分は今まで手を汚してきたのだ。 その成功の鍵が、”神域の花嫁”清宮凛太郎なのだ。「凛太郎、お前を俺のものにしてみせる……陰陽道、弓削家百三十四代目頭首。弓削秀信のものになーーーー!」 血のような赤い夕日を前に、秀信は低くつぶやいた。 その双眸は野望に熱くたぎっていた。 つづく
2004年12月13日
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(……それは、僕の気のせいだよね) そうに決まってる、と凛太郎は自分に言い聞かせる。あれ以来、凛太郎は秀信と二人きりになるのを避けてきた。 けれど、今日は志望校アンケートのプリントを学級委員として秀信に渡さなければならなかったのだ。明に一緒に付き添ってもらおうとも考えたが、男である自分がそこまで怖じ気づいているのも情けないと思い直したのだった。 凛太郎は深呼吸をして、できるだけ快活な声で言った。「弓削先生。プリント、お渡しに参りました」 たばこを手にした秀信が振り向いた。紫煙がゆっくりと凛太郎に吹き付ける。眼鏡の奥にある秀信のまなざしはおだやかだったが、鋭く凛太郎を射抜いていた。凛太郎は手のひらに汗がにじむのを感じた。「ご苦労」 秀信がうなずいた。凛太郎は重い足をひきずる心地で秀信に歩み寄った。 青空を背にして、秀信は携帯灰皿にたばこの火を押しつけて消した。神経質かつきっちりとした手つきが実に秀信らしかった。「さっそく受け取ろうか」 秀信の言葉に従って、凛太郎は両手を添えてプリントを差し出した。秀信がそれを受け取った時、二人の両手は触れあった。「あ!」 秀信のひんやりとした手の感触に凛太郎はかすかなうずきを覚え、思わず一枚のプリントを屋上の床に落とした。凛太郎はあわててかがんでプリントを拾った。 凛太郎が腰を上げた時、何者かの手が凛太郎の髪に触った。凛太郎が驚いて顔を上げると、秀信が微笑みかけているのが視界に入った。いらうような、めでるような奇妙なまなざしだった。秀信は凛太郎の髪を撫でていた手を、その頬にすべらせた。頬からおとがいへ、そして首筋へ。 凛太郎は身を震わせた。「あん……っ」 我知らず甘い声が出た。 つづく
2004年12月12日
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屋上の扉を開けると、向かい風が凛太郎の髪に強く吹き付けた。 風の強さに目をすがめながら、凛太郎は歩みを進めた。 青空の下、秀信の後ろ姿が見える。秀信は背広の裾をなびかせて、たばこをくゆらせていた。 凛太郎は声をかけるのをためらって、しばし秀信の後ろ姿を見つめていた。背広がこれだけ似合う男性もめずらしいと思うくらい、決まっている。 少し前まで、凛太郎は秀信のそんな洗練された知的な雰囲気に素直にあこがれることができた。 そう、胸にできた寄生生物を秀信に強引に見られたあの日までは。”見せてみろと言っているんだ!” あの日、秀信はそう叫びながら凛太郎の体をこの屋上のコンクリートに押し倒した。 あの時、凛太郎は初めて見た秀信の激しいまなざしが忘れられない。それまで冷たい氷の瞳に閉ざされていた炎が凛太郎に向かって一気に吹き出してくるようだった。 そして、凛太郎のシャツを強引にはぎ取った熱い手の感触。 それまで凛太郎は秀信のことを知的でクールな性格だと思っていたが、本当はその奥底にマグマのような激しいものを持っている男だと思い始めていた。 凛太郎は躊躇しつつも、鈴薙が子供を連れて消えたすぐ後、秀信が自分に宿った勾玉に並々ならぬ関心を抱いていたことと、屋上での一件を話した。”まあ、あの先公の記憶なら俺が消しとくから大丈夫だよ” 明は凛太郎が拍子抜けするほど軽い口調で言った。”ただの人間なんだから、お前にこれ以上の手出しも詮索もできないだろうし” ふむふむと一人うなずく明に凛太郎は気色ばんで問いかけた。”僕の体から妙な光が出て先生を吹き飛ばしたのはいったい……””それはお前の子供が、母親のお前を護ったの。鬼の血を引く子供ってのは、生まれる前からそういうこともできるんですねえ。鈴薙の呪いが消えたら、俺がもっと優秀な子を生ませてやるからな、凛太郎ちゃんよ!” 明の説明によると、鈴薙は凛太郎の体に呪いをかけて、自分以外の男との間に子供ができないようにしているという。そのためには鈴薙を倒さない限り、凛太郎は子を宿せないそうだ。凛太郎からしてみれば、男の自分が妊娠すること自体とんでもないし、明の子をはらむつもりもないのだから一生呪いがかかっている方が平和だと思うのだが。 明は凛太郎に飛びつくように抱きついた。凛太郎は明の体を必死に押しのけながら質問を続けた。”ちょっと待ってよ、そうじゃなくて……””ああ、鈴薙のヤローとの子供なら、俺が責任を持って父親になってやるぜ。俺が父親だって言って育ててたら、子供も疑わないだろうし。いや~、俺の愛情って海より深いと思わない、凛太郎?” 自分にキスしようとする明の唇を凛太郎は押し戻した。”どうして弓削先生、僕の胸にあの勾玉がついてるって知ってたんだろう?””それはだな……” 明は凛太郎を解放して、おごそかにうなずきながら言った。凛太郎は固唾をのんで、明の言葉の続きを待つ。”あの先公、お前に惚れてたからじゃねえの?” 大まじめに指摘する明の頬を凛太郎はひっぱたいた。”い、痛ェ! 何すんだよ、凛太郎!” 頬をさする明を凛太郎は真っ赤になってにらみつけた。”どうして男の僕に弓削先生が惚れるんだよっ?””そりゃあまあ、なんてったって凛太郎くんは魔性の美少年ですから。この明様が千年間待ち続けた人間なんだからよ! 鈴薙のヤローまで待ってたのは本当に余計だったけど” 明は憤慨する凛太郎を無視して、一人ぼやいた。 凛太郎は口を真一文字に結んで、明をもう一度平手打ちした。”痛ェっつうんだよ、もう!””弓削先生はそんな不埒な人じゃない!” 凛太郎は拳を握って叫んだ。明があきれたように口を曲げる。”そうかァ? 俺から見りゃあいつ、お前にかなりご執心なんだけどなあ。なんつーか、俺みたいな包み込むような純粋な愛情ってんじゃなくて、鈴薙のヤツみたいなドローッとしたスケベ心みたいなのをお前に向けてると俺は見抜いたわけよ””それはお前のことだろ、明!” 凛太郎はそう言って、明に三度手を上げたのだった。 明の記憶消しの術が効を奏したのだろう。 あれから秀信は生徒である凛太郎に、厳しいが指導力のある一教師としてごく普通に接した。一見、あの日以前の秀信に完全に戻ったように凛太郎には思えた。 だが、時折授業中などに鋭い視線を凛太郎に投げかけている気もするのである。それは、蛇が獲物を得ようとじっと機をうかがっている姿をほうふつとさせた。 つづく
2004年12月11日
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「どうしたの? 乃梨ちゃん」 ほのかの笑顔が曇った。乃梨子の顔色が変わったのに気づいたらしい。辺りを見回したほのかのふっくらとした頬がこわばった。「じゃあ、練習はいつにすればいい? 僕、今日の放課後なら空いてるけど。どうしたの、二人とも?」 自分から視線をはずしている乃梨子とほのかに凛太郎は不思議そうな表情をした。凛太郎は自分をめぐって恋のさやあてが行われていることにまるで気づいていないらしい。(凛太郎くんって、自分が綺麗だってことにも、人気者だってことにも気づいてないんだろうな。ある意味、天然かも) 乃梨子はきょとんとしている凛太郎を横目で見ながら思った。ほのかはそっと乃梨子の腕にしがみついてくる。乃梨子は苦笑しながらもほのかの手に自分の手を重ねた。「心配すんなって」 そんな二人の様子に気づいた明が、ウィンクしてささやいた。そのつつみこむような笑顔に乃梨子の頬は熱くなる。「じゃ、練習は今日の放課後、俺たちの家でってことにしようぜ。いいな、凛太郎」「べつにかまわないよ」 凛太郎はうなずいた。 ほのかの顔が輝いた。あこがれの凛太郎とダンスの練習ができるどころか、凛太郎の自宅にまで行けるのだ。乃梨子にしてもそれは同じだった。明は凛太郎と同居しているのだから。 周囲のとげとげしい視線は相変わらずだが、勇気を出して良かったと乃梨子は思った。さらにもうひとこえ。乃梨子は我知らずはずんだ声で申し出る。「じゃあ、今日は私たちと一緒に帰ろうよ」「もちろんオッケー。君たちみたいなカワイコちゃんとなら」 明がうやうやしく手を胸の前に当てて一礼した。「カ、カワイコちゃんなんてヤダ、明くんったら!」 ほのかが真っ赤になって、顔の前で手を振って否定する。「照れるなって!」 明がほのかの目線までかがんで、ニヤつきながら言った。 凛太郎と乃梨子は明とほのかのやりとりを微苦笑しながら見守っていた。 四人の平和なひとときは、とげのあるクスクス笑いで破られた。「やだあ、明くんったら美的感覚おかしいわよ!」「そうよねえ、あの二人がカワイコちゃんなんて……ありえないって感じィ!」 二人の女子生徒の言葉に、凛太郎派の生徒たちがドッと笑った。「やめろよ、君たち!」 凛太郎はうろたえて皆を止めようとしたが、明が肩をつかんで首を横に振った。ここで凛太郎が出てはよけいケンカがひどくなると考えているようだった。 ほのかは真っ青になってうつむいた。 乃梨子はキッと言葉の主の女生徒たちをにらみつける。乃梨子の眼力に彼女たちは一瞬ひるんだが、すぐに気勢を取り戻した。「何よ、なんか言いたいことでもあるの?」「べつに。ただ嫉妬ってみにくいなあと思って」 胸をそらせるようにして、出せるかぎりの余裕たっぷりな声で乃梨子は答えた。「の、乃梨ちゃん」「売られたケンカは買ってやらないと、あいつらも張り合いないでしょう?」 おびえて自分の腕を取るほのかに乃梨子はささやいた。口笛の音が聞こえた。振り返ると、明が「やるじゃん」と笑いかけていた。千人力のスマイルね、と乃梨子は思った。 明と乃梨子が微笑みを交わすのを見て、ほのかと口論している女生徒たちはますますいきりたった。「何、生意気な口たたいてるのよ!」 女生徒の一人がつかつかと歩み寄って、乃梨子の頭上に手を振り上げた。「やめろよ!」 凛太郎が叫んだ。 反射的に乃梨子はかまえを取り、反撃しようとしたその時。 女生徒のその手をつかんで制止する者があった。 里江だった。 青い空の下、長い茶髪をそよ風に揺らしながら里江は女生徒の手首をつかんですっくと立っていた。その姿は、以前の不良少女ぶりからは想像もつかない威厳があった。凛太郎が息をのんだほどだ。明は腕組みをして、興味深げに里江を見つめていた。 女生徒は里江に見据えられ、その眼力に気圧されていたが、やがて我に返った。「は、離してよ!」 女生徒は里江の手を振り払おうとした。だが里江はビクともしなかった。「あなたが暴力をふるおうとするのをやめるまで、離さない」 女生徒の手首を里江はねじり上げた。「い……痛いッ!」 女生徒は悲鳴をあげた。「大丈夫、マキッ? あんた、離しなさいよ!」「マキが痛がってるでしょ!」 その他の女生徒数人が駆け寄って、里江に組み付こうとした。だが里江に一瞥されると、彼女たちはそれ以上、里江に近づこうとしなかった。「痛いでしょ? でも、あなたはついさっきまで他人にこんな痛みを与えようとしていたのよ」 里江が静かに女生徒にささやいた。「い、痛い……お願い、離して」 女生徒は里江に手首をねじられたまま顔をゆがめて懇願した。「離してあげなよ、大杉さん」 里江を制止しようとする凛太郎を、明は肩をつかんで制した。「明、どうして……?」「もう少し見てようぜ、凛太郎。そのうち面白いことが始まるかもしンねえから」 明は不敵な笑顔を浮かべて、凛太郎に耳打ちした。「面白いことって……まさか僕と鈴薙の?」「かもな」 明とともに凛太郎は固唾を飲んで、事態を見守った。「痛いでしょう。でもあなたの心は嫉妬でもっと痛いはずよね。私もそうだったから」 女生徒の手首を持ち上げたまま、神託を告げるがごとく里江は言った。どこかうつろな目だった。その目に女生徒はいつしか吸い込まれるように見入っていた。「おい、先生が来たぞ!」 クラスメイトの一人が言った。途端に、里江は女生徒の手首を離した。女生徒の体は地面にたたきつけられた。 だが、女生徒はうめき声ひとつ立てずに陶然とした表情を浮かべていた。「……そろそろひと騒ぎありそうだな」 明がつぶやいた。不安そうに自分を見上げる凛太郎の頭を明はくしゃくしゃと撫でた。 つづく
2004年12月10日
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買おうかどうか迷いましたが、結局攻略本まで買いました。 テニスの王子様「RUSH&DREAM」です。 まだプレイしていないんですが、攻略本を見た感じだと、もうこれは完全に女性ファンを狙っていますね。 以前はプレイヤーが男性キャラクターか女性キャラクターを選べたけれど、今回は女性キャラクター限定だし。 私が今一番見たいのは、主人公がウェディング姿で真田と結婚式を挙げるスチルです。 どうやら夢らしいんですが、ここまでやってくれたスタッフにありがとうと言いたいです。 他にも河村さんとの新婚生活の夢もあるそうです。 どうせだったら、もう「ときめきメモリアル」状態にしてどんどんキャラクターとのイベントを増やしてくれたらいいのになあ。テニスは関係なくていいから(^^; そう考えてしまうのは私が腐女子だからでしょうか?(^^;
2004年12月09日
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すっかりアニプリでは、いじられキャラになっている海堂くんですが、今回はきっとスタッフは「薫の災難」以来の爆笑巨編になればいいと思って製作したんでしょう。 その結果は。 それなりに笑えました。 何より作画がものすごくきれいで、セル画それぞれをキャラクターグッズとして売り出してもおかしくないほどのレベルでした。 今回の演出ってあんまりアニプリらしくないと思うんですよね。 観月を始め、大石や菊丸もチビキャラになってたし、ハイテンションなギャグゼリフの言い方とか。 こういう手法って、マニア向けの同人誌出身作家原作のアニメなどによく使われている演出なので、ジャンプ連載の「テニプリ」にこれを持ってくるとは思いませんでした。 それまでのアニプリもさんざん同人誌みたいだの何だの言われてきましたが、こういうキャピキャピした演出ってあんまりなかったような気がするんです。 リョーマもふだんよりカワイイ度がアップしてたでしょ。 海堂に無視されてふくれっつらしたりとか、いきなり猫状態になった海堂に驚いて、乾にすがりついたりとか。 アニプリのリョーマは、原作よりカワイイのは周知の事実だけど、ここまでやったのはほとんど初めてと言ってもいいのではないでしょうか。 菊丸と大石のセリフの応酬なんて、なんだか「こどものおもちゃ」や「おじゃる丸」で有名な大地丙太郎監督作品を観ているようでした。 案外、ご本人が名前を変えて絵コンテ切ってたりして(^^; 観月なんか、ちびキャラでスカートはかされてホウキまで持ってましたからねえ。 記憶喪失状態の海堂の声はずいぶん線の細い感じでしたね。 海堂役の声優さんはあれが地声なんですよね。 ラジオ「テニスの王子様」を聴いて、初めて私も知ったんですが。 今回、乾が自分のことを「私」と言っていたのが新鮮でした。乾の一人称って「俺」ですよね? フザケて「私」って言ったのかな、とも思うんだけど、ここまでくるとシナリオライターがふだんと違うから、という線も考えました。 でもメインライターの一人である志茂さんが今回の脚本担当なんですよね。 絵コンテで相当なおしたんでしょうか。 乾が真っ白な灰になって飛び去ってしまうあたりの演出などはほとんど「ケロロ軍曹」か「げんしけん」状態でしたからねえ。 乾が海堂にバンダナで記憶を戻そうとするシーンもふだんより同人誌ゲージアップ! って感じだったし。 でも海堂に「先生」と呼ばれて真剣に落ち込む乾が笑えました。 乾って、ジャージ着てると本当に先生みたいですからね。 このお話はどうせだったら、三話くらい引っ張って、聖ルドルフに転入させられて、観月の言うとおり自分はおちゃめで明るい人気者テニスプレイヤーなんだと思いこんで青学の敵になる海堂の話が観たかったです。 テニスのお話もちゃんとからむことになるんだからいいじゃありませんか。 観月が本気で乾に友情を感じて、「海堂くんを青学に渡すもんか!」ってエキサイトしちゃったりしてね。 それで海堂が青学に記憶を戻して帰る時、盛大に大泣きするんです(^^; 「さすらいの海堂」ってタイトルで、記憶喪失のまま、各学校を渡り歩く海堂のシリーズなんてのもいいかもしれませんね。 そこでちょっとネタを考えてみました。 氷帝編 氷帝に迷い込んだ海堂は体よく、跡部に利用されて、氷帝のマネージャー兼選手になる。もともと外見に似合わず、几帳面で家事もうまかった海堂は、氷帝のいいマネージャーになり、部員にとってなくてはならない存在、そして樺地の言葉を理解する数少ない存在になるのであった。 山吹編 海堂がボロボロになってさすらっていたところを壇くんに助けられる。壇くんはめんどくさがる千石たちを「海堂さんの面倒は僕が見ますから!」とけなげに説得して、山吹の選手にする。壇くんは海堂の世話をするつもりが、ドジの続出で海堂に世話される立場になるのであった。 壇くんは海堂を兄のように慕い、海堂が山吹にいることを青学に必死に隠すのであった。 立海 海堂のマジメで冗談の通じない性格が真田のハートを射止め、一躍立海の主要メンバーに。 しかし切原の嫉妬を買い、陰でいじめられる結果に(泣)。 不動峰 海堂の男っぽい風貌が橘さんの元ヤンキー心をくすぐり、レギュラーメンバーに。 意外と神経細やかな海堂は伊武のグチ聞き役、さらには神尾の恋愛相談相手になり、不動峰のおっかさん状態になるのであった。 いや~、これで二次創作小説でも書こうかしら(^^; 最後は海堂が各学校を去っていき、そこのメンバーたちが「海堂、行くな!」と止めるのを海堂が「俺は本当の記憶を探すために旅を続けるんだ」とお別れを言うのです。 だったらさっさと青学に戻れよって?(^^; おまけ 明日はゲーム「RUSH&DREAMS」の発売日ですね。 買おうかどうかちょっと迷ってます。 なぜかというと、攻略キャラクターが多すぎて、スチルが少ないんじゃないかと心配してるんです。 それにブン太や忍足が効略対象じゃないのもちょっと……って感じです。 どうしようかなあ。
2004年12月08日
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ハンカチがすっかり涙で濡れてしまい、フリルのついたティッシュケースからティッシュを取り出してほのかは鼻をかんでいた。そんなほのかを見ながら乃梨子は思った。(この子って、ものすごく純粋で真面目なんだ) 今まで乃梨子はほのかに対して、「鈍くさくておとなしいクラスメイト」程度の印象しか持っていなかった。給食を食べるのもクラス一遅いし、運動音痴で三段の跳び箱すら跳べない。授業中、先生に指されるとぽっちゃりとした体をよじりながら真っ赤になってどもる少女。 ほのかのことを小馬鹿にしている生徒もいた。すぐ泣いたり、狼狽したりしてしまうほのかが愚かに見えるというのだ。乃梨子もほのかが授業中に指名されて、なかなか答えられずにいる時、「どうしてすぐに先生の質問がわからなかったら、分かりませんと答えてしまわないんだろう」と思ってイライラしていたこともあった。ほのかは愚図でのろまだと思っていたのだ。 だが、それは自分の思い違いだったのだと乃梨子は考えた。ほのかは何事も真面目に取り組んでしまう性格なのだ。他人の無責任なからかいや中傷も真正面から受け止めて、思い悩んでしまう。だからすぐにうろたえたり泣いてしまう。ほのかが授業中になかなか発言できないのは、クラスメイトの前で間違えた回答をしたり、わからないと投げ出してしまうのを恥だと考えてしまうのではないか。 そういえば、ほのかは花の世話係だが、ほのかは毎日欠かさず花瓶の水を取り替えるため、花は教室の片隅でいつも綺麗に咲いている。前学期の花の世話係はろくに水やりをしなかったため、花はすぐに枯れていた。学校が休みの日は家に持って帰って水をやっているそうだ。ほのかは枯れかけた花を捨ててしまうことはせず、花びらを自宅から持ってきた飾り皿に浮かべて芸術品ばりに飾ったこともあった。花より団子のクラスメイトたちはろくに注目しなかったが、水に浮かぶ花びらに自分が見とれていたことを乃梨子は覚えている。 乃梨子はフッと笑った。あの地味だが可憐な花びらは、ほのかに似ている。「これ、使って」 ティッシュがなくなって鼻をすすりながらあたふたとしているほのかに乃梨子は、自分のズボンのポケットからティッシュを差し出した。『あ、ありがとう、中山さん……』 ほのかはお辞儀をしながらティッシュを受け取って鼻をかんだ。『乃梨子でいいよ。これから私のこと、名前で呼んでよ』『え、でも……』 ほのかは困ったような表情をして、小首をかしげて乃梨子の顔をのぞきこんだ。ほのかのその仕草はあどけない幼稚園児みたいだと乃梨子は思った。『だって私たち、友達じゃない。これから私も藤本さんのこと、ほのかって呼ぶからさ。ほのかも私のこと、乃梨子って呼んでよ』『……』 ほのかは鼻をかんで丸めたティッシュを握りしめながらうつむいた。黙り込むほのかを怪訝に思って、乃梨子は問うた。『どうしたの? 私、なれなれしかったかな?』『そうじゃなくて……』 消え入りそうな声でほのかは言った。『中山さんにそんなこと言ってもらえるなんて、私嬉しくて……』『もうっ、さっき私のこと乃梨子って呼んでって頼んだばっかりでしょ! 中山さんなんて他人行儀だよ』 乃梨子はほのかの丸い背中をバシっと叩いた。ほのかが咳き込む。『あ、ごめん! 私ったら、ついいつも兄貴や弟と話してる時のクセが出ちゃって。大丈夫、痛かった?』 乃梨子はあわててほのかの顔をのぞきこんだ。ほのかは苦笑しながら顔を上げて言った。『中山さんって、たしかに力は男の子並だね』 乃梨子は少し驚いた。ほのかがこんなくだけた話し方をするのを見たのは初めてだった。(ってことは、私、この子に友達として認めてもらえだしたってことだよね。相変わらず呼び方は”中山さん”だけど) 乃梨子はにんまりと笑った。『こいつぅ、言ったなあ!』 乃梨子は大げさに拳を振り回した。ほのかがきゃらきゃらと笑い始め、やがて二人は顔を見合わせて笑い合ったのだった。 あれから四年たったけれど、ほのかの性格はちっとも変わっていない。 変わったことと言えば、二人が中学三年生に進級したことと、ほのかが初恋真っ最中だということだ。 ほのかはふっくらとした頬をピンク色に染めながら、凛太郎を目で追っていた。凛太郎はほのかの視線になど気づかず、明にいつものようにじゃれつかれて、抗議していた。(よし!) 乃梨子は拳を握りしめた。 意を決して、ほのかのふっくらとした手を取って、凛太郎の元に引っ張っていく。「の、乃梨ちゃん、何を……」「あんたの恋のキューピッドになってあげるの! ほのか、凛太郎くんと踊りたいんでしょ?」「そ、そんな……」「いつまでも引っ込み思案なままじゃ進展しないよ。清宮くんを狙ってるコはいっぱいいるんだから」 ほのかは乃梨子の言葉に真っ赤になった。だが、いやがっている様子ではない。その証拠にほのかは乃梨子にリードされるまま、自分から歩みを止めようとしなかった。「り・ん・た・ろ・う・くん!」 凛太郎と明の前に到着した乃梨子は、おどけた口調で凛太郎に呼びかけた。これくらい軽いノリで話しかけた方が、凛太郎もこれから比較的気軽な気持ちで乃梨子の頼みを聞いてくれるだろう。「何? 中山さん」 明に後ろから抱きつかれていた凛太郎は、明の手をふりほどいてから乃梨子に生真面目に答えた。(たしかに人気あるの分かるわよね。女の子顔負けに綺麗なんだもん。性格も真面目で人を分け隔てしないし。でも、以前はここまで綺麗じゃなかったような気がするんだけどなあ。もっと普通の男の子っぽかったっていうか。顔立ち自体は変わってないんだけど、なんか雰囲気がガラっと変わったのよね。男にこんな表現使うのって妙だと思うけど、色っぽくなったっていうか。それからだよね、大人気になったのは。以前は明くんの方が目立ってたくらいだもん) 乃梨子は凛太郎の春霞のような姿に見とれながら、クラスメイトがまことしやかにしていた噂話を思い出していた。凛太郎が一気に艶めいたのは、年上の恋人ができて初体験したからだというのだ。乃梨子はセックスどころかファーストキスもまだだったが、凛太郎の変化が色恋沙汰がらみというのはそれなりに納得のいく推測だった。 乃梨子は横目で隣にいるほのかを見た。ほのかは上目遣いで凛太郎を見ては、赤くなってうつむいている。(ってことは、凛太郎くんには彼女がいるかもしれないってことね。ま、いいか。ほのかにいい思い出が作れれば!) 乃梨子にしてみれば、凛太郎の隣でのんきに自分たちを見やっている明の方が気になる存在なのだが。明は乃梨子の視線に気づいて、ふざけて手を振った。運動神経のいい乃梨子は、明と一緒に体育委員をまかされて行動をともにしたことがあった。 乃梨子に冗談を言ってからかいながら、さりげなく重い体育用具を持ってくれる明にときめいたこともあった。乃梨子がこうして凛太郎と接近を計っているのも、ほのかのためももちろんあるが、凛太郎といつも一緒にいる明ともっと仲良くなりたいという思いもあるからだ。乙女心は案外、計算高いのだった。 乃梨子は少し離れた場所にいる杉原里江を一瞥した。里江は明にあからさまなモーションをかけている女子だった。里江がうるさいので、乃梨子はなかなか明にアプローチできなかったのである。里江は明と仲のいい凛太郎がなぜか気にくわないらしく、凛太郎を困らせて喜んでいる節があった。 だが、最近は実におとなしかった。授業中も担任の弓削先生に態度の悪さを注意されていることもしょっちゅうだったのに、ここのところは真面目に授業を受けていた。制服をマイクロミニに改造したりと、不良っぽさは相変わらずなのだが口数がぐんと減り、落ち着いていると言って良いほどの物腰になったのである。 もう一つの大きな変化は、里江の周りに以前より格段に人が集まっていることだった。以前の里江は自分と同じ不良グループの生徒とは仲が良かったが、その他の生徒には親が実業家であることを鼻にかけている態度などで嫌われていた。今やクラスは凛太郎派と里江派に別れていると言っても過言ではない。 この二つの派閥には違いがある。凛太郎派の生徒たちは、凛太郎の可憐な美しさや、生真面目で優しい性格を慕っていて、常ににぎやかだ。だが、里江派の生徒たちはなんとなく無表情で静かなのだ。落ち着いているとも言えないことはないが、里江を中心にしてどことなく生気のない目で周囲を見渡している姿は不気味だと乃梨子は思っている。しかも、里江派の生徒は徐々に増えていっている。クラスにゾンビのような人間が日に日に増加していく様は、あまり気持ちのいいものではなかった。 乃梨子と親しく言葉を交わしていた隣席の女生徒も、ある日突然、里江の取り巻きとなり、乃梨子が話しかけても生返事しかしないようになった。(みんな受験にでも悩んでるのかしら。それとも、里江の父親が経営するリゾートホテルの儲けのおこぼれにでもあずかろうとしているとか?) 乃梨子は思いをめぐらせた。どちらにしても、里江がおとなしくなってくれたのは明と親しくしたい乃梨子にはありがたかったが。 乃梨子は気を取り直して、凛太郎に申し出た。「ねえ、凛太郎くん。ほのかのフォークダンスの練習パートナーになってやってくれない? この子、私がいくら教えても理解できないのよ。凛太郎くんが男子パートやって、一緒に踊ってくれたら、ほのかも上達するんじゃないかと思って」「べ、べつにいいけど……」 凛太郎は少しとまどいつつも了承した。「やったね、ほのか!」 乃梨子はほのかに飛びついた。ほのかが林檎色の顔でこくん、とうなずく。 そして乃梨子は自分たちが周囲の女子に嫉妬に煮えたぎる目でにらみつけられているのに気づいた。 つづく
2004年12月07日
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表紙が真田とリョーマですね。 ジャンプ本誌の表紙ですでに発表されたイラストですが、この二人のライバル関係は大好きなので喜んでgetしました。 さて、読んでから第一の感想ですが。 アニプリと全然違いますね。 私は先日、ビデオでアニプリの立海戦を観て、その後でこの原作での立海戦を読んだのです。 このころはまだテニプリにハマってなかったんですよね。 原作版真田の方がアニメ版よりも部員により厳しい部長のような……。 アニメ版では部員たちに「俺は一人でやっていけるから、幸村の手術に立ち会ってやれ」と言ったりとか、不二に敗北した切原を激励したりとかしていたんですよね。 私がアニプリの真田をいじらしいなあと思ったのは、リョーマに敗北した後のことです。 みんなに祝福されているリョーマに対し、たった一人で準優勝メダルを受け取る真田。 青学メンバーたちに「いい試合をありがとう」と握手を求める真田。 真田は鬼副部長と言われているけれど、部員のためを思って厳しくしているんだろうなあと思わせるシーンでした。 他にも切原と不二の戦い方がまったく違っていたり、仁王と柳生の戦法が異なったりとアニプリと原作はこれはもう別物と言っていいかもしれませんね。 聞くところによると、原作にアニプリがすでに追いついてしまい、立海戦はほとんど放映当時はアニメオリジナル状態だったとか。 私としては原作とアニメ、一粒で二度おいしいテニプリという感じでべつに不満はありません。 ところでアニプリの切原は不二にボールを相手にぶつけるプレイをいさめられていたけれど、原作ではそうでもないんですね。 ということは、切原はこれからも相手にボールをぶつける戦法をとり続けるわけですね。 アニプリでは「俺はもう卑怯なマネはしない!」と夏合宿で言っていたので、これから原作とアニプリの切原は別々の道を歩むのかもしれませんね。 それとも原作版は、切原が入院にまで追い込んだ橘さんに復讐されるのでしょうか。 一応アニメ化はされてはいるものの、アニメではカットされていたセリフで私が好きなのはこれです。真田「たわけが」幸村「楽しみな新入部員だな」 そうです、切原が真田たちに負かされてくやし泣きしている間の真田と幸村のセリフです。 怒っている様子の真田に対し、余裕で微笑んでいる幸村がいかにも! って感じで性格が出ていて好きです。 きっと幸村って怒ると不二並みに怖いんだろうなあ……。 余談ですが、この間出たゲーム「最強チームを結成せよ!」で幸村をプレイヤーは監督としてだけ使用できるんだそうです。 そこで幸村のゲージが体力が最高レベルらしいんです。 なんでも他キャラクターをかなり上回るとか。 幸村って華奢なイメージが強くて、体力ありそうに見えなかったので意外でした。 この人ってまだまだいろいろな裏設定がありそうですね。 アニプリの声はものすごーく線が細そうなんですが。女性声優さんだし。 今回気に入ったのは88ページの「リョーマがゆく」の扉絵見開きです。 真正面から向き合う真田とリョーマ。 頭一つ分身長が違う真田を不敵な笑みで見つめるリョーマ。 いや~、やっぱり少年漫画の主人公はこうでないと! 自分よりより強い敵に向かっていく主人公ってワクワクしてきますね。 私はアニプリのラケットで使用するコートのサイドを決める真田とリョーマも緊張感があって大好きでした。 この二人って、緊張感がいつもあるところが好きです。 ところで「驚愕の事実」の扉絵の幸村、まるで女性みたいなんですが……。 このイラストを初めて観た時、私はリョーマのお母さんかなにかだと思ってしまいました(^^; 幸村って「すてきな奥さん」みたいな雰囲気ありますよね。 ところでジャンプ本誌のテニプリ。 手塚の復帰は本格的みたいですね。 私はてっきり「単に一時帰還しただけ」みたいなオチも予想していたんですが(^^; 真田と手塚って同レベルの強さだったんですね。 マスク? をしながら特訓する菊丸がいつもと違ってシリアスな感じがしました。 アニプリ劇場版ですが、リョーガってリョーマと同居してるって設定だったんですね。ということは、やっぱりリョーマの親戚?
2004年12月06日
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乃梨子はパンパン、と手をはたきながら言った。『私、男どもとケンカするのは慣れてるから。上に兄貴が一人、下に弟が一人いるからね。それに私、母親が早くに亡くなったから家に女っ気がないのよ。だから女らしさなんてものとは無縁なのかもしれない。オトコオンナ、なんて言われるのは慣れてるから』 乃梨子の言葉に、ほのかはふたたびしくしくと泣き出した。乃梨子はあわててほのかを取りなした。『ど、どうしたの? 私、藤崎さんに何か悪いこと言った?』 ほのかは顔をハンカチで覆いながら、首を横にふった。『じゃあ、どうして……』『私、私……』 ほのかはしゃくりあげた。ハンカチでごしごしとこすった目元が腫れたように赤くなっている。『中山さんがかわいそうで……』「かわいそう? 私がかわいそうだって?」 乃梨子は思わず声を荒げた。勝ち気な乃梨子にとって、他人から”かわいそう”呼ばわりされるのは決して気分のいいものではなかった。乃梨子の剣幕にほのかは引いて、またもや新たな涙がふっくらとした頬に流れ落ちそうになった。「ご、ごめん、ついキツい言い方しちゃって……でもどうして私が”かわいそう”なの?」「それは……」 ほのかはハンカチで鼻をかんで、人心地ついてから言葉を続けた。「中山さん、きっとそこまで吹っ切れるまでにいろいろつらいことがあったんだろうなあって……。お母さんもいないのに、きっと一人でそれを乗り越えてきたんだろうなあって。そう思ったら私、なんだか悲しくなって……」 ほのかの垂れ気味の人の良さそうな目に涙がふくれあがった。「な、泣かないでよ」「だって、だって……」 ほのかはすでにベトベトになっているハンカチで涙をぬぐってから、上目遣いで自分より十センチほど背の高い乃梨子を上目遣いで見た。母親にお説教をされている子供のような目だった。「他人にいやなことを言われて、心の底から平気でいられる人間なんて私はいないと思うの。だからバカにされても笑っていられる人って、みんないろんなものを乗り越えてきたんだろうなあって……中山さんはそのうえ、私のことまでかばってくれてすごいと思う。私なんか、中山さんをかばうつもりで逆に男の子から泣かされてるのに」 そう言うほのかの目はあくまで澄み切っていた。ほのかは一生懸命言葉をつむぎながら、ひたと乃梨子を見据えていた。乃梨子は赤くなった。 他人からこんなふうに賞賛されたのは、母親が亡くなる直前に病院にお見舞いに行った時以来だった。伏せっている母親のために九歳の乃梨子は指先を傷つけながら、がんばって林檎を剥いた。その時、母親は乃梨子に優しく笑って言ったのだ。”乃梨ちゃんは、本当に優しくって女らしいいい子ねえ。こんな娘を持って、母さん幸せだわ” その時、すでにオトコオンナと呼ばれていた乃梨子は照れながらも反論した。”私、ちっとも女らしくなんかないよ””いいえ。乃梨ちゃんは見た目は男の子みたいだけど、心は人一倍女らしくて細やかなのよ。ただ照れ屋だからそれを表現するのが下手なだけ。いつかきっと、乃梨ちゃんのそんなところを好きだって言ってくれるすてきな人が現れるわ” 母親は病気のせいですっかり細くなってしまった手を乃梨子の頭の上に置いて、白い花のように笑った。 それから三日後、乃梨子の母親は亡くなった。 あの時の母親と同じ目をほのかはしていた。 つづく
2004年12月05日
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とうとう終わってしまいましたね。 私にしてはめずらしく一年間通して観た大河ドラマだったので、なんだかとっても寂しい気分です。 史実なので、最後は変えられないということは分かっているのですが、後半になるに従って、愛すべき登場人物たちがどんどん死んでいくのを観るのはつらかったです。 今日の放送で泣けたシーンは左ノ助が新選組の隊士たちが残した自分たちの名前を彫った柵を見つけるシーンでした。 最初の頃は新選組って、田舎の青年達のほのぼの団体だったんですよね。 それを丹念に描いたこのドラマの最初の部分はとてものんびり、ほんわかしたムードで「本当にこれが大河ドラマなんだろうか、この人たちが新選組になるんだろうか」と疑問に思ったくらいでした。 でもあの部分って、今考えるとものすごく周到に伏線が張ってあったんですよね。 勝海舟と竜馬の世界談義についていけない近藤と土方。 つまりこの二人は残念なことにやはり竜馬たちよりは頭が柔軟ではなかったということが示唆されていたシーンでした。 そして近藤の「井の中の蛙、大海を知らず。されど空の青さを知る」とつぶやくシーン。 今日の最終回で、近藤が処刑される直前に蛙を遠い目をして観るシーンには、三谷さんはこのシーンを最初から書こうと思って書いたんだなあ、としみじみしてしまいました。 最初ののんびりした展開のために、おそらく視聴率は伸び悩んだのでしょうが、私はこんなふうに丁寧にじっくり描かれた新選組も好きです。 三谷さんの作品の中では一番今のところ気に入っています。 ひさびさに連続ドラマを観る楽しみをおぼえた作品でした。 終わってしまったのが寂しいです。
2004年12月04日
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「ファフナー」を観て、ちょっとSSが書きたくなったので書いてみました。小学生時代の一騎が総士にケガをさせるシーンのSSです。 なお、このSSはボーイズラブ要素を含みますので、嫌悪感のある方は読むのをおやめください。 Abgrund 計り知れない領域、克服しがたい相違 島にひとつしかない神社の境内で、十一歳の一騎と総士は総士が父親に買ってもらったモーターカーで遊んでいた。「わあ! やっぱりこのエンジン、すっげー速度で動くよ! いいなあ、総司は。お父さんにこんなすごいおもちゃ買ってもらえて」 一騎は目を輝かせながら、リモコンでモーターカーを操っていた。 総士は微笑みながら、一騎の喜ぶ様を見る。一騎は総士の視線に気づいて、スイカの種のように黒光りする瞳を総士に向けた 。「悪いな、総士。俺だけで遊んじまって。お前もこれで遊びたいんじゃないか?」 総士はあわてて首を振った。こんなおもちゃなら、家にいくらでも転がっている。総士の父親がよく買ってくるのだ。まるで自分が息子をかまわないのを高価なプレゼントで埋め合わせしているかのようだった。 総士が真に父親に望んでいたのは、母が病死してからたった一人の肉親なのだからもっと自分とふれあってほしいということだけだった。 だが、父親はいつも総士をひとり家に置いて夜更けまで帰ってこない。そして深夜帰宅した父親の背広からは決まって香水の匂いがするのだ。 総士は唇を噛んだ。 一騎は総士が怒っているのではないかと気をもんだらしく、あわてて一騎にリモコンを返そうとした。「ごめん。これ、お前に返すよ。俺だけで盛り上がっちゃってごめんな」「い、いいよ」 総士はあわてて首を振った。 一騎はこんなふうに他人の顔色に敏感な部分がある。一騎に男女問わず友人が多いのはこうした気遣いができるからだろう。それは一騎が父子家庭で家事を受け持って、陶芸家の父親の世話をしているせいかもしれない。 父子家庭なのは総士も同じだった。 だが決定的に違うのは、一騎の父親ががらっぱちながらも彼なりに精一杯一騎を愛そうとしているのに対し、総士の父親はほとんど総士を放ったからしにしているところだった。(僕に比べて、一騎はみんなになんて大切にされてるんだろう) 困り顔の一騎を見つめながら総士は思った。 丸い輪郭に、どんぐり眼の大きな目。総士より頭一つ分小さい体には、今着ている半ズボンとTシャツが実に子供らしい溌剌としたかわいらしさを与えている。 総士はよく、周りの大人に「綺麗な子だ」とか「将来はさぞかし美男子になるだろう」と評されている。白い肌に、亜麻色の髪と栗色の切れ上がった大きな双眸はいやがおうでも人目を引いた。 この前、ついに自宅までやってきた父親の愛人は「あなた、お人形さんみたいな子ね」と総士の頭を妙に粘着的な手つきで撫でた。あんな女がもしかして自分の義母になるかもしれないと考えると、総士は吐き気がしそうだった。 運動神経抜群、成績優秀、容姿端麗と三拍子そろった総士を賞賛する人物はたくさんいるが、彼らは総士と親しい交流を持とうとはしなかった。いつも一定の距離を置いて、総士に羨望のまなざしを向けているだけだった。 寡黙な総士を「気取っている」「他人を見下しているような目をしている」と一方的に嫌うクラスメイトもいた。 だが、一騎だけは彼らと違った。 一クラスしかない小学校に入学し、総士と座席が隣り合わせになった時から一騎は人なつっこく総士に話しかけてきては交流を持とうとした。 他人に親しく接せられた経験のとぼしい総士は、最初それにとまどってぎこちない態度を取り続けたが、一騎はそれにもメゲずに総士とつきあい続けた。いつしか総士は一騎の前でだけ、うちとけた笑顔を見せるようになった。 ずっと一騎と一緒にいたい。 それが総士の願いだった。 一騎だけが、総士を受け入れてくれるこの世でただひとつの存在なのだ。 今日、総士が一騎の家にリモコンカーを持って遊びに行ったのも一騎に会いたいだけだった。新しいリモコンカーの性能を客観的に見極めて欲しいなんてただの口実だった。 そんな総士の思いも知らずに、一騎は操縦機を総士に返そうとする。「なあ、俺もういいから総士がこれで遊んでくれよ。このリモコンカーの性能がすごいってことはとってもよくわかったからさ」「で、でも……。一騎もまだまだ遊び足りないだろうし」 苦し紛れに総士はそう言って一騎を引き留めようとした。 総士の望みはささやかなものだった。このまま一騎にここにいて、自分と遊んでほしい。 リモコンカーを使ってべつに遊ばなくてもいいから、ただ言葉をかわすだけでもいいから、自分といっしょにいてほしい。 だが総士は自分の思いを相手に伝える術を知らなかった。親にそういった基本的なコミュニケーションを学んでいない子供だったのだ。「いいよ、俺は」 一騎はにっこりと笑った。空からさしこむ陽光は、一騎の笑顔によく映えた。総士にはその笑顔がまぶしくてたまらない。「俺、今日はこれから剣司たちに野球に誘われてるんだ」 総士は胸がずきりと痛んだ。周りの緑の木々もすべてくすんだ色に見える。一騎は自分を置いて行ってしまうのだ。 総士が青ざめたのに気づいた一騎は、怪訝そうに言った。「総士、気分が悪いのか?」「い、いや……」「そうか? 総士がいいんなら、俺と一緒に剣司たちと野球しないか? お前がいたらきっと俺らのチームは優勝できるからみんなも喜ぶと思うよ」 嘘だ。総士は思った。剣司は、クラスでも総司を嫌っている人間だった。授業中、総士が先生に指されて答えるとものすごい目でにらんでくるし、何かというと「俺は皆城が気にくわねえ」とつっかかってくる。剣司は一騎を慕っているから、剣司と総士の仲はなおさら悪かった。 正確に言うと、総士は剣司を嫌ってなどいない。というより無関心で、自分になにかと張り合ってくる剣司をわずらわしいと思っているだけだった。総士を一方的にライバル視している剣司には、総士のそういった態度が腹立たしくて仕方がないのだ。 総士にそうした人間心理の機微などわかろうはずもない。 総士の沈黙を、一騎は拒絶と受け取ったようだった。 少し気まずい表情をして、総士の手に押しつけるようにしてリモコンを渡した。「じゃあ俺、今日はもう行くから。またな、総士」 一騎は総士に背を向けた。 総士は一騎の背中をつかんだ。勝手に体がそう動いていた。「な、何だよ、総士」 一騎が驚いた目をして振り返る。「行くな、一騎」 総士は言った。 いつも冷静沈着で大人びている総士が、すがるように自分を見ているのに一騎は面食らった。 一騎は頭が良くてカッコいいこの同級生が好きなのに、これでは総士ではないような気がした。 総士の切れ上がった双眸は涙ぐんでいるのか潤んでいた。 赤い唇が散りかけの桜花のごとくわなないている。 普段から綺麗な顔をしていると、一騎は総士のことを思っていたが、ここまで美しいと思ったことはなかった。クラスの女子よりも、島中の女性よりも、テレビや雑誌で見た女優やタレントよりも今の総士はなまめかしく、あでやかだった。 一騎は自分の鼓動が早くなるのを感じた。友人の男相手にこんな気分になっている自分はおかしい、と一騎は思った。「離せよ!」 一騎は総士の手を振り払った。 次の瞬間、一騎の唇は総士に奪われていた。総士はひとおもいに一騎を抱きしめて、覚悟を決めたように一騎にくちづけていた。 一騎は総士の唇のやわらかさとあたたかさに目を見開いたまま、まぶたを閉じた総士のまつげの長さに驚嘆していた。 やがて総士は一騎からゆっくり唇を離した。一騎は魅入られたように直立不動していた。「ねえ、一騎。僕たちひとつにならないか?」 総士がゆっくりとささやいた。一騎は総士のひたむきなまなざしに捕らえられながらその言葉を聞いている。頭の芯がぼうっとして、何も考えられない。 総士は一騎に両手を差し出した。一騎は夢遊病患者のようにその手を握った。 総士の手は唇と同じくあたたかかった。 だが、一騎は固くて冷たいものが自分の手に突き刺さってこようとしているのを感じた。 その痛みに一騎は悲鳴をあげて、総士の手を振り払った。一騎はとっさにあとじさった。 総士の手からは、一騎が今まで見たことのない青白い水晶のような物体が突き出ていた。「一騎……僕とひとつになるのはいやなの?」 総士は悲しげな目をして、一騎に歩み寄る。「うわあああ!」 一騎はおびえて叫んだ。じりじりと後じさる。が、総士も一騎と距離を詰めていく。一騎は背中に衝撃を感じた。ふりかえると、背後は木によって封じられていた。「僕とひとつになろうよ、一騎。ひとつになれば寂しいことも嫌なこともみんな忘れられるよ」 一騎をいざなう総士は優しく、はかなげで、清らかさに満ちていた。誰しもが今の総士を愛さずにはいられないだろう。 一騎はふっと父親が以前たわむれに言っていた言葉を思い出した。”なあ、一騎。悪魔ってきっと本当はものすごく綺麗だと思わないか? でないとたくさんの人間が誘惑されたりしないだろうよ” 今の総士はまちがいなく悪魔だった。 総士の手のひらの青い物体が光を強く放ち、一騎に向かって伸びてくる。 一騎はとっさにかがんで身をかわして、地面に落ちていたとがった石を総士に投げつけた。 総士は倒れた。青白い光は消えた。 一騎は荒い呼吸で、おそるおそる総士に近づいた。 総士は石が命中した右目から大量に出血しながら、死んだように横たわっていた。「うわあああああっ!」 友人を殺してしまったかもしれない罪の意識と恐怖にさいなまれて一騎は絶叫した。 一騎は視界の端に、青空にきらりと光る真昼の流れ星を見た。 それは、総士の手のひらに生じていたあの忌まわしい結晶に似ていた。”あなたはそこにいますか?” その日、竜宮島のラジオからそのメッセージは流れた。 こうして竜宮島の住人たちと地球外生命体の戦いの火ぶたは切って落とされた。 つづく? ここのところ、どんどん面白くなってきてあと一ヶ月ちょっとで終わるのが残念なアニメです。 自分なりに総士と一騎の本編に出てきたワンシーンを書いてみました。煩悩モードがキツくなったのは趣味と言うことで(^^; タイトルは「ファフナー好きさんにドイツ語でA→Zのお題(http://www5.ocn.ne.jp/~snowcap/prince-Princess/a-z/index.html)」からいただきました。
2004年12月03日
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校舎の白い壁に陽光が白く反射していた。 体操服姿の凛太郎は大きく伸びをした。「こんな晴れた日にみんなで外に出られるなんて気持ちいいね、明!」「おうよ! 俺としちゃあ、このまま学校を抜け出してお前とピクニックにでも出かけたいところだけどな」 不埒なことを言う明を凛太郎はにらんだ。「冗談だって」 明は凛太郎の頭をくしゃくしゃと撫でながら笑った。 凛太郎のクラスは今、男女合同の体育の授業を行っていた。 一週間後に控えた体育祭におけるフォークダンスの練習をこれからするのである。 ふだん男女は体育の時間はべつべつなので、男子たちはブルマ姿の女子に色めき立っているーーーーはずだった。 だが結果は、ほとんど凛太郎一人に視線が集中する結果となった。「体操服の白いポロシャツがたまんないよなあ。凛太郎のいわゆる清純な魅力を際だたせてるってやつ?」「俺、今度から欠かさずカメラつき携帯持ってこようと思うんだ。そしたら、いつでも凛太郎の写真撮れるもんね。それでその写真を家で……ムフフフ」 男子たちがそう色めきたつなら、女子は女子で盛り上がっていた。「私、ぜーったい凛太郎くんと踊る!」「えーっ、凛太郎くんのお相手は私だもん!」「あんたより私の方が凛太郎くんには釣り合ってるも~んだ!」「何よ、うぬぼれないでよっ」 こうしてとっくみあいを始める女生徒たちまで出る始末だった。 フォークダンスは男女ペアで踊ることになっているので、幸運な女子の一人が凛太郎と踊ることができるのである。もっともフォークダンスは次々にパートナーが変わっていくダンスなので、その幸運は長続きするわけではないが、ほんの少しでも長時間凛太郎と踊りたいと彼女たちは思っているのだ。 そんな騒動の片隅で、凛太郎をじっと見守っている少女がいた。「どうしたの、ほのか?」 仲のいいクラスメイトの中山乃梨子に呼びかけられて、藤崎ほのかはようやく我に返った。「え、あのっ、べつに……」 ほのかは体操服の裾をつかんで、もじもじとうつむいた。小柄でぽっちゃりした体のほのかが照れている様はどことなくぬいぐるみのクマをほうふつとさせてかわいらしいと乃梨子は思った。乃梨子は少しほのかをからかってやりたくなって、ぱっちりとした二重まぶたの目を細めておどけた口調で言った。「わかった! 凛太郎くんのこと見てたんでしょ? ほのかはずっと前から凛太郎くんにお熱だもんね」「やめてよ、乃梨ちゃん。みんなが聞いてるじゃない」 ほのかはおかっぱ頭を振り乱して、自分よりひとまわり大きな乃梨子の肩をゆさぶった。「痛いなあ、もう!」 乃梨子は大げさに顔をしかめる。「……ごめん」 ほのかはあわてて乃梨子から手を離した。(ほのかったら、本当に純情なのよねえ) 乃梨子のおふざけの抗議に、本気で反省しているほのかを見やりながら乃梨子は思った。 乃梨子とほのかは小学生のころからの友人だ。大柄で背が高く、てきぱきとした性格の乃梨子はそのころからショートカットを愛好していたこともあって、クラスの男子に「オトコオンナ」と時々からかわれていた。乃梨子にしてみれば、悪ガキが勝手に言ってるよくらいのものだったのだが、ほのかの目にはいじめと映ったらしい。『中山さんにそんなひどいこと言っちゃだめ!』 ほのかは体から声をふりしぼって、果敢にも悪ガキどもに抗議した。 恥ずかしがり屋でおとなしいほのかが自分たちに刃向かってくるのが、彼らには面白かったらしい。『偉そうな口たたくなよ、この泣き虫が!』『そうだよな、チビの太っちょに文句付けられたくないよなっ』 ほのかの目に涙がみるみるうちにたまった。してやったりと悪ガキどもは泣いているほのかを取り囲んではやしたてた。『や~い、泣き虫泣き虫!』『泣いてる暇があるならやせろ!』 乃梨子は腕組みして一部始終を見ていたが、やがてリーダー格の一人の肩をむんずとつかんだ。『ねえ、あんた』『何だよ』 乃梨子の存在をすっかり忘れていた風情のその男子はきょとんとしていた。 乃梨子はそいつを思いっきり投げ飛ばした。幼いころから合気道をたしなんでいた乃梨子の技は見事に決まった。 床の上でへたりこみながら、その男子はしくしくと泣き出した。『つ、強ェ……』『やべえ、逃げろーっ』 他の男子たちは一目散に乃梨子から走り去っていった。『待ってよ、俺をおいていかないでよォ』 乃梨子に投げ飛ばされた男子は泣きじゃくりながら、彼らの後を追いかけていった。 乃梨子は腰に手を当ててつぶやいた。『ガキが調子に乗るんじゃないってのよ、まったく』 人心地ついた乃梨子は、ほのかがガーゼのハンカチで目をぬぐいながら自分を見つめているのに気づいた。乃梨子と視線が合って、ほのかは恥ずかしそうにうつむいてから消え入りそうな声で言った。『な、中山さん。かばってくれてありがとう……』『いいのよ、これくらい』 つづく
2004年12月02日
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私的タイトルをつけさせていただくと、今回は「昔から気苦労の絶えない大石」です。 いや~、十二歳の菊丸って生意気ですね。 今回は原作で二ページほどの菊丸の回想シーンをアニメ化したものなんですが、こまっしゃくれたところがパワーアップしていたような気がします。 末っ子でお兄さんやお姉さんにかわいがられて育ったから目立ちたがり屋でお調子者なんでしょうね。 きっと小学生の頃は好きな女の子をからかって泣かせていたりしたんだろうなあ。 原作でのキャラクター設定に菊丸は「気まぐれで気分屋」というのがあるんですが、今回ではその設定がとっても生きていたと思いますです、ハイ。 ふだんはリョーマのマイペースぶりとワガママぶりが際だっているから菊丸が目立たないんでしょうね。 おそらく菊丸は二年の間に青学レギュラーメンバーの座を守り続けるために努力したり、大石や手塚にたしなめられて少しは大人になったんだと思います。 でもこのまま成長していたら、私としてはどちらかというと嫌いなキャラクターだったかも。 初対面から菊丸にぶつかられる大石。 道ばたでダブルスの本を必死に読んでいたのは、意地悪な先輩に「お前はダブルスプレイが下手だ」とかさんざん言われていたんだろうねえ。 そして夜更けまでダブルスの本を読んで読み終わらないから登校途中にも読んでいたんだろうねえ。 きっと予習復習もしっかりやっているだろうから、睡眠不足なんだろうねえ。 だから菊丸をよけられなかったんだろうねえ。 ああ、かわいそうに(泣)。 菊丸が時間を確認する時に大石の手首をつかんで大石の腕時計を見るところはいかにも! でしたね。きっと自分は腕時計忘れてきたんだろうなあ。 アニプリのこういう細かいキャラクターの演出はとっても好きです。 先輩に嫌みを言われ、肩を落として下校する大石。 それを偉そうに待ち伏せしている菊丸。 私はこのシーンで菊丸に「大石をいじめるな!」と説教したくなりました(^^; 大石は他人を疑う事を知らないからきっと先輩が自分の悪口を陰で言っていたなんて思いもよらなかったんでしょうね。 それを一方的に「お前がそんなことだから……」なんて菊丸に言われても大石はびっくりするだけですよね。 菊丸もこういうところがああ、12歳なんだなあという気がします。 子供の理論ってあんなものですからね。 見事、菊丸に勝つことができた大石ですが、その後の菊丸のモノローグがひどい(^^;「あんな地味なヤツに負けるなんて……」 何か? 地味じゃ悪いのかっ? 地味だとテニスが弱いってことになるのかっ、菊丸くんよ。 こういう理論展開がまさに中学1年生ですね。 大人になってもこんな思考回路の人いますけど(^^; 大石ってきっとこんな感じでテニス部でもナメられてたんだろうなあ。 大石の実力を見抜いた大和部長はさすが! です。 ここで菊丸が「次はあんな地味な大石に負けないようにしよう!」と努力したら、もう脱力ものですが、さすがそこはアニプリ。 大石の陰なる努力を見た菊丸は「勝手に大石を見くびって悪かった」と反省し、二人は親友になるのでした。 スポーツものの王道の展開のひとつですよね、これ。 最近のアニメや漫画はこういう「反目していた人間と親友になる」という展開がありそうでそんなにないので観ていると心が洗われます。 こういったお話がなくなってきたのは、若い制作者側が人間同士のぶつかりあいを描けなくなってきたせいだと思うんです。 30代から40代のライターっていじめが社会問題化した世代の人間でしょ? いじめっていうのはつまり「嫌いな相手を受け入れようとするどころか徹底的に排除する」ってことだと思うんです。 今回の菊丸みたいに「お前のこういうところが俺は嫌だ」と口に出して言うならまだしも、一方的に大勢で罵倒したり、イヤガラセしたりしているだけではこれはディスコミュニケーションですからね。 最近また増えているのは相手に自分の気持ちだけ押しつけて、相手の言い分をまったく聞こうとしない人が増えているところですね。「私はあんたにハッキリ嫌いだって言ってやってるのよ! だから文句言うな!」みたいな。 ドラマっていうのはコミュニケーションでしょ。わかりあえない者同士がわかりあおうと努力するのを描くのがドラマの醍醐味じゃないかって思うんだけど、今の世の中って「自分と合わない人間は悪者」って決めつけてる人がどうにも多いような気がするんです。 それに比例するように小説やコミックやアニメの人間ドラマが薄っぺらくなっていっているような気がします。 以上、アニプリとはほとんど関係のない批評もどきでした(^^; 自分に足りなかったのは自信とテニスを愛する心だと気づいて夕日の下、駆け出す大石くん。 あなたは素敵です。 そういう地道に努力して、素直に反省していくところが私は大好きです。 今の世の中ではあなたのような人は損することも多いでしょうが、きっとあなたを見ていてくれる人もたくさんいるでしょう。 私はあなたを応援しています。 来週は海堂のギャグ話ですね。 今まで海堂はサブタイトルでは「薫」って呼ばれることが多かったんだけど、次回は海堂だったので意外でした。 カレンダープレゼントの告知をしていたのが、カツオの声の人でしたね。 カツオが一生懸命張り切っているのが目に浮かぶようで可愛かったです。 しかしあのカレンダー、すでにうちにあるのでした(^^; 原作で手塚も復活したことだし、これからのアニプリが楽しみです。
2004年12月01日
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