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2003年01月18日

　弁天町市民セミナーで講演。全部で五回。人は自分で意味づけにした世界にいて、本当はこの世界はシンプルなのに複雑な意味づけをすることでシンプルではないようにしている。ではどうすればシンプルな世界を取り戻すことができるか…という話から始める。一回目は「人の間で生きる」というテーマで、対人関係の文脈の中で人の言動、症状を見ていくこと、原因ではなく目的を見ていくことについてエピソードを多用して説明した。二時間の講演枠の中の最初の一時間半僕が話、最後の三十分を質疑応答にあてたが、質疑応答の時間をもっと取った方がいいと思った。定員の二倍の申し込みがあり抽籤に当たった人が聴きにこられただけあって終始熱心に聴いてもらえ話しがいがあった。
　村上春樹の『ダンス・ダンス・ダンス』読了。人がたくさん殺されるのでちょっと驚いたが村上の小説の中でももっとも気にいった小説の一つである（これは英語の直訳だがあいまいな表現だ）。次はさかのぼって『1973年のピンボール』と『羊をめぐる冒険』を読んでみよう。
　ユキは13歳の女の子。ユキの親の代わりに食事をしたり、ハワイにまで行ったりする。
「（ユキは）車を下り、ばたんとドアを閉めて、後ろも振り向かずに歩いて行ってしまった。僕はユキのほっそりした後ろ姿が人込みの中に消えていくのをじっと見送った。彼女の姿が見えなくなると、僕はとても哀しい気持ちになった。まるで失恋したみたいな気分だった」（下巻、p.317）
「こういうのには名前がつけられるぜ」と僕は思った。喪失感、と僕は口に出して言ってみた。あまり感じの良い言葉がでなかった」（p.318）
　失恋ではなくても失恋したみたいな気分というのはわかるような気がする。最後のカウンセリングの人か最後の授業の時に感じる。弁天町のセミナーもきっと五回も話をするので最終日はこんな感じがするのだろう。日本語には「情が移る」という表現がある。
　帰り、『ノーム・チョムスキー』（鶴見俊輔、監修、リトル・モア）を買う。息子が詩チョムスキーの本を何冊か図書館で借りてきていたから僕も読んでみようと思った。チョムスキーのインタビューや講演が訳されている。帰って息子に見せたらこれのＤＶＤ版を持っていた。でも買ってきたのを知って「見せろよな」と。本そのものがだぶってなくてよかった。アメリカの外交政策のことを一生懸命調べているようなので、僕も少しは知ってみたいと思ったのである。

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最終更新日 2003年01月18日 22時35分36秒
コメント(9) | コメントを書く

■コメント

Re:情が移る(1/18)

deka01 さん

原因ではなく目的を見ていくことについて・・
なるほどです。

聴き上手な人は話し上手なんですよね。 (2003年01月19日 01時01分00秒)

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Re:情が移る(1/18)

風鈴2525 さん

情が移らないようにする方法を探すのではなく情が移ってもなお、仲間としてよい関係を保ち続けるにはどうすればよいのかをよく考えます。 (2003年01月19日 02時08分37秒)

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Re:Re:情が移る(1/18)

Ichiro_Kishimi さん

風鈴2525さん
　いわれることよくわかります。 (2003年01月19日 09時30分17秒)

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Re:情が移る(1/18)

ジョンリーフッカーさん

村上春樹はまってらっしゃいますね。
僕もほとんど読んだのですが
独特の間がたまらなくいいのです。
そして何か他人のような感じがしない。
感情移入が出来、それでいて決して
おぼれない。
繰り返し読むのですが発見があります。 (2003年01月19日 11時43分47秒)

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Re:Re:情が移る(1/18)

Ichiro_Kishimi さん

ジョンリーフッカーさん
　小説は一度しか読まないのですが今回は特別です。初期の作品はいまひとつなどと思っていたのですが読み返してみたらとんでもない、おもしろいです。初めて読んだときの僕と今の僕がいろいろな意味で変わって、「感情移入」できるようになったのかもしれません。 (2003年01月19日 11時51分35秒)

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Re:情が移る(1/18)

ジョンリーフッカーさん

そうなのです。
この人の文には何か感情移入出来る部分がたくさんあります。僕は春樹氏のジャズを書いた本が好きで結構読み返します。村上龍とはまた違う感覚なのです。
小説家らしくないと言うのか、誰でも書けそう。
でもとんでもなく書けない。
二律背反的な文章を深く感じます。 (2003年01月19日 22時32分32秒)

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Re:Re:情が移る(1/18)

Ichiro_Kishimi さん

ジョンリーフッカーさん
　誰でも書けそうというところたしかにありますね。僕もかなりその気になってますもの（笑）。村上春樹は芥川賞の候補にはなったことはあっても賞を取ってませんね。芥川賞に限りませんが。あるいは僕の記憶間違いかもしれませんが。 (2003年01月20日 02時05分56秒)

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Re:情が移る(1/18)

kay さん

Ichiro_Kishimiさん
　村上春樹は芥川賞の候補にはなったことはあっても賞を取ってませんね。

たぶん（群像新人賞）を『風の歌を聞け』で取っていたと思います。
日経の夕刊にノーベル文学賞に一番近い位置にいる小説家は、村上春樹氏だと書かれていて、大変驚きました。
もちろん、村上春樹は大好きな作家の一人だし、世界に向かって、発信できる作家だとは思います。でも、
春樹さんは、そういう世俗の賞賛からは超越していたいのでは、、と思ってしまいました。

(2003年01月21日 15時19分29秒)

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Re:Re:情が移る(1/18)

Ichiro_Kishimi さん

kayさん
　その新人賞を取った時村上春樹が「群像」の出版元の講談社の「偉い人」に挨拶に行ったところ「君の小説はまだいろいろと問題が多いが、まあ頑張ってくれたまえ」といわれたという話を読んだことがあります。
　文学の評価というのはむずかしいですが、誰もが賞賛することも必要だとは思いません。好きな人もいれば嫌いな人もいても当たり前でしょう。そんなこととは関わりのないところで自分のペースで小説を書き続られるというのはしあわせなことでしょうね。 (2003年01月21日 21時22分50秒)

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