THE BOOMに「釣りに行こう」という曲がある。この曲は矢野顕子ヴァージョンがあるが、宮沢和史が学生時代から矢野との共演を願っていて、「祈るような気持ちで」共演を申し込んだところ快諾されたというもの。宮沢は矢野との共演を想定してこの曲を書いたという。
宮沢の最新のアルバム『SPIRITEK』所収の「何もいらない」で宮沢は矢野と共演している。矢野はピアノを弾いている。ピアノの音色が僕を誘った。二人の個性がうまく歩み寄った時に、ぱっと花開くようなテイクが取れる。その後はいくらやっても同じものは録れない、そんなふうに宮沢は語っている。プロデューサーの吉野金次氏は、力一杯歌う宮沢に矢野が素早い反応を見せたというが、矢野は宮沢が私のピアノをよく聞きながら歌っていたという。共演というのはこういうのをいうのか、と思った。矢野はいう。「宮沢さんが、わたしのピアノをよーく聞きながら歌っている時、それは特別な空間を二人でつくっている時なのです。そこには誰も入れてあげません。意地が悪いのです、わたしは。だって、誰にもこれを邪魔されたり、壊されたくないんですもの」このような一回きりの特別な経験は何にも代え難い。このような時、人はミンコフスキーのいう「生きられる時間」(Le Temps vecu)の中にあり、加藤周一のいう「美しい時間」の中にいる。そのような時間を奪う戦争に反対する。