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2015.07.06
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『賢者は幸福ではなく信頼を選ぶ』という本を手にしたが・・・
17編のエッセイが、ええでぇ♪

とにかく、経済的切り口で語るエッセイということでは、村上さんはピカイチなんだろうね。



村上

村上龍著、ベストセラーズ 、2013年刊

<「BOOK」データベース>より
敗者であふれ、思考放棄の国の脱・幸福論。
【目次】
寂しい人ほど笑いたがる/フィデル・カストロと会ったころのこと/幸福かどうかなど、どうでもいい/「何でも見てやろう」と「別に、見たいものはない」/反体制派なのにエリート、かつお金持ち/一生これでOKというプライドと充実/情熱はなかったし、今もない/いくつになっても元気です、という嘘/いまだに続く心の中の戦後/フェラーリに火をつけろ〔ほか〕

<読む前の大使寸評>
17編のエッセイが、ええでぇ♪
とにかく、経済的切り口で語るエッセイということでは、村上さんはピカイチなんだろうね。

rakuten 賢者は幸福ではなく信頼を選ぶ


村上さんが世代間の意識の違いを、雇用状況の違いを語っています。

<反体制派なのにエリート、かつお金持ち>
 ニコニコ動画で有名なドワンゴという会社を経営する川上さんから、「カンブリア宮殿」に出演してもらったときに、「昔は反体制だった村上さんが、どうしてこんな体制的というか、経営者視点の番組をやっているんですか」というような意味のことを聞かれた。成功している企業のほうが少ない時代だからです、とわたしは答えた。

 たとえて言えば、権威に充ちた強大な父親(日本社会)に対し露な現実を突きつけた冷酷な抵抗の意を示していた息子(わたし)がいたのだが、あるときから父親は健康を害し、症状はしだいに重くなり、今や棺桶に片足を突っ込んでいるような状態となった、そんな感じの世の中になってしまった。

 高度成長期のように日本全体が豊かになっていく時代では、それによって生じる歪みを露にするという姿勢は必要だし有効だが、このエッセイでも何度か指摘したとおり、歪みはすでに埋もれたり隠れたりしていなくて、露になるどころでなく、あふれかえっている。

 たとえば、近代化の歪みの犠牲となり、犯罪によって社会への復讐をはかる人間は文学の主要なモチーフの一つだったが、いまやそういった人々は新聞の三面記事やワイドショーでほぼ毎日扱われるようになった。発作的に凶悪犯罪に走る孤独な人間は、小説の中ではなく、たとえば白昼の秋葉原などに現実に存在する。

 「カンブリア宮殿」という経済番組をやっていると、他にもいろいろなことに気づく。中小企業どうしの統合・合併を仲介する「日本M&Aセンター」という会社がある。年間の売り上げは60億円とそれほど大きいわけではないが、経常利益が30億で、50%という驚異的な利益率を誇る。

 中小企業どうしのM&Aを成功させるためには、相互の信頼の維持が不可欠で、法務・財務・営業などの資料を徹底的に精査する必要がある。だから、日本M&Aセンターでは、弁護士、会計士などのスペシャリストを社員として擁している。逆に言えば、原材料費や設備投資などは不要で、だから支出のほとんでおは人件費だ。利益率が高いのもうなずけるし、30代で年収数千万の社員もめずらしくないらしい。

 すごい会社だと感心したが、わたしが驚いたのは、その会社の社長以下、複数の幹部社員がわたしの作品の熱心な読者だったことで。彼らは金融や会計や法律のプロフェッショナルで、高収入を誇る正真正銘のエリートである。勝ち組とか負け組みとか、そんなレベルではなく、おそらくどんな会社にでも転職できる「専門家集団」なのだ。

 どうしてこんな人たちがわたしの小説の熱心な読者なのだろうと、不思議な気分になった。わたしは、もともと「ロックとドラッグとファック」を描いた処女作でデビューし、一貫して「反社会的な」作品を書いてきた。『13歳のハローワーク』という子どものための職業紹介絵本なども作ったが、そのメインテーマは「世の中には自分に向いた仕事をする人と、向いていない仕事をする人がいるだけだ」というもので、自分に向いていない仕事を我慢して続けている人たちから大いにひんしゅくを買った。子どものための絵本だったが、毒を含んでいたのだ。

 なぜエリートたちが、と不思議に思ったが、熱心な読者は、その人たちだけではなかった。他の、かなりのパワーを持つ経営者、プロフェッショナルたちにもファンがいて、何度も驚いたことがあった。

 年齢というか、世代のせいもあるかも知れない。日本M&Aセンターの社長とわたしはほとんど同年配で、60歳前後だが、考えてみると、ビートルズやローリング・ストーンズをリアルタイムで聞いていた世代だ。高度成長期に少年時代を過ごし、国内では全共闘、世界ではヒッピームーブメントやパリの5月革命に代表される反乱の嵐が吹き荒れたころ、高校生だった。30代でバブルを経験し、その後の長い経済と政治の停滞時には、すでにかなりの社会的ポジションを得ていた。

 反抗もしたし、権威を疑うという精神は今も失っていない。世界を旅し、おいしいものを食べ、うまい酒を飲んで、刺激的な音楽を聞き、ハリウッドの黄金期、アメリカンニューシネマ、フランスのヌーベルバーグなど数々のすばらしい映画を封切り時に見ることができた。ただ、決して「自分たちは恵まれた世代だ」などと思ったことはない。当たり前だと思ってきた。

 もちろんいやなことや、挫折や、絶望感も味わったが、それなりに楽しんできた。だから今の社会的閉塞感がより鮮明に実感できる。

 今と何が違うのだろうか。今の若者は、海外旅行や自動車や社会的成功などにあまり興味がないのだという話をよく聞く。そして、今の若者は、わたしたちの若いころに比べてより洗練されていると思う。世代として、マスとして、人をとらえることには注意しなければならないが、最大の違いは、経済の成長と停滞だと思う。
(中略)

 だが、現代が過去に間違いなく劣っていることがある。一般的な労働者の給料が上がらないことだ。さらに雇用も安定しない。給料が上がらないと、将来的な生活設計ができない。恋愛して結婚相手を探すにも、結婚して子どもを作り家庭を築くにも、ベースとなるのは給料で、それが低く固定されると、希望が失われる。だから、若者の中に、社会貢献やボランティア活動にモチベーションを見出す人が増える。

 それはそれでいいことだと思う。海外旅行や、高いワインや、高級車に対して魅力を感じないのも、別に悪いことではない。洗練は、根源的な人間のエネルギーを奪うが、欲望を肯定しながら生きていくことが必ずしも必須だとも思わない。

 繰り返すが、貧しくてもそれなりの生活ができるのは、いいことである。だが、わたしは今の時代に若者として生まれなくてよかったと思う。とても生きづらい印象があるからだ。


我々、団塊の世代は恵まれた世代だったこと、逆に言えば、今の若者が辛い立場にあることががわかりますね。








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Last updated  2015.07.06 00:09:33
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