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2021.09.28
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『そのうちなんとかなるだろう』という本を、手にしたのです。
内田先生にしてはふざけたタイトルの本であるが、中をめくってみると、なんと自叙伝になっているがな・・・
この明晰な先生(思想家)がいかにして形成されたか、興味深いのでおます。





内田樹著、マガジンハウス、2019年刊

<「BOOK」データベース>より
やりたいことは諦めない。やりたくないことは我慢しない。たどり着く場所は、結局同じだから。直感に従って生きてきた思想家の悔いなき半生記。

<読む前の大使寸評>
内田先生にしてはふざけたタイトルの本であるが、中をめくってみると、なんと自叙伝になっているがな・・・
この明晰な先生(思想家)がいかにして形成されたか、興味深いのでおます。

rakuten そのうちなんとかなるだろう



『第2章 場当たり人生、いよいよ始まる』で研究者生活のエピソードを、見てみましょう。
p112~117
<研究者生活の実情>
■助手になったが仕事がない
 しばらく翻訳会社と大学院生の二足のわらじを履いていましたが、1982年の4月に東京都立大学の助手に採用されることになって、アーバンを辞めることになりました。

 そのとき僕は博士課程の2年目が終わるところでしたが、助手のポストに欠員ができたので、まだ在学中でしたが「助手にならないか」と声をかけてもらったのです。
 しかし、助手になれたかといって、ずっとその大学にいられるわけではありません。専任教員ポストがみつかるまでの腰掛けです。

「いつとは期限は切らないけれど、できるだけ早くどこかの大学に専任のポストを見つけて出てゆくこと。それまでは研究に専念して、その間に業績を積みなさい」という条件でした。
 都立大の場合、助手は授業を担当しないので、仕事らしい仕事はなく、在職中に業績を上げることが本務でした。

 とにかく研究してさえいればいいというありがたい身分です。東京都の公務員に採用されたわけです。年齢も30を越していたし、既に結婚して扶養家族もいたので、結構なお給料を頂きました。でも、出勤するのは週2日だけ。週休5日です。出勤しても、仕事内容は電話番とコピー取りとお茶くみぐらい。
(中略)

 僕は働き者ですから、仕事がしたい。だから、研究室の大掃除をしたり、書架の整理をしたり、あれこれと学部生の相談に乗ったりして、なんとか給料分の働きをしようとしたのですが、悲しいかな、給料分の仕事がない。
 だから、たしかに「腰掛け」ポストであって、長居をしてはいけないところだったのです。でも、なかなか外に出られない。

 採用されるときには「2、3年で出て行ってくれ」と言われて、僕もそのつもりでいたのですが、結局8年も助手をすることになりました。

■32校の教員公募に落ちる
 助手になった初年度から大学に来る教員公募には全部応募しました。北は帯広畜産大から南は琉球大学まで。あらゆるフランス語教員公募に応募したのですが、すべてに落ちました。8年間で32校の公募に落ちました。

 なぜそんなに落ちたかというと、こればかりは運が悪かったとしか言いようがありません。向こうの「採用したい人」のイメージと僕の履歴や研究内容がミスマッチだったのです。

 採用する側はそれなりの採用したい人の条件があって、それは必ずしも「学歴業績ともに優れていること」ではないからです。
 その大学にすでにいるフランス語の専任教員(その人が選考に強い影響力を及ぼします)とのマッチングがかなり重要になります。

「その人と専門領域がかぶらないこと」 「その人より年齢が下であること」、場合によると 「その人より業績が劣ること」などが選考において重要な条件になることがある。

 僕の場合は専門領域がかぶる心配はなかったのですが、僕が扱っていたのが政治史、思想史、哲学、宗教などふつうのフランス文学者がやらないテーマだったので、その研究業績がどれほどのレベルのものか査定ができない。

 同じような研究を日本国内でやている研究者がいないので、「格付け」ができない。そのころ、僕は19世紀の終りから20世紀にかけてのフランスの反ユダヤ主義と極右の政治思想を研究していました。
 学術的な分類から言えば「政治思想史」に入ります。

 けれども、僕が扱っていた反ユダヤ主義とか狂信的ナショナリズムというのは、「時代に取りついた精神的な病」のようなものであって、史料として読むのが「プロパガンダ」とか「偽文書」とか、端的に「嘘」あるいは「妄想」の所産なので、学術的厳密性を重んじる研究者たちはあまり論じたがらない。もちろんフランス政治思想の専門家は内外にいます。でも、歴史家たちは客観的な歴史的「事実」について研究しようとします。三流のイデオローグの妄想や虚言の類なんか相手にしたがらない。

 でも、この妄想・虚言・デマ・プロパガンダの類いが実際には世界各地で巨大な政治勢力の形成に深く関与し、しばしば現実を破滅的なしかたで改変してしまうわけですから、「こいつらは気が変なのだ」で済ませるわけにはゆきません。

 妄想を語る人たちにだって主観的には合理性や正当性があるはずで、彼らなりに整合的な世界像を持ち、歴史についてのヴィジョンを持っていたはずです。

 それはどういうもんか、どのような経緯でそのようなものが形成されてしまったのか、それはどうすれば制御できるのか、といった問いは理論的にも実践的にもたいへん重要な問いだと僕は思っていました。

 特に反ユダヤ主義思想のホロコーストの後の研究は「殺されたユダヤ人被害者の立場」からの真相究明と告発に主導されたもので、「反ユダヤ主義者たちにも、主観的には何らかの合理性があるはずだ」という仮説はまず絶対に取り上げられることがない。

 でも、どうしてユダヤ人が世界の支配者、諸悪の根源であるというような説が出現し、それをかなり知性の高いはずの人たちまでが信じ込むに至るのかというのは僕にとっては実に興味深い研究テーマでした。


『そのうちなんとかなるだろう』2 :翻訳アルバイトのエピソード
『そのうちなんとかなるだろう』1 :大検のために猛勉強





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Last updated  2021.09.28 00:07:59
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