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2022.11.06
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『パスタぎらい』という本を、手にゲットしたのです。
ヤマザキマリが説くイタリア料理ってか・・・これはいけるかも♪




ヤマザキマリ著、新潮社、2019年刊

<「BOOK」データベース>より
イタリアに暮らし始めて三十五年。断言しよう。パスタよりもっと美味しいものが世界にはある!フィレンツェの絶品「貧乏料理」、シチリア島で頬張った餃子、死ぬ間際に食べたいポルチーニ茸、狂うほど愛しい日本食、忘れ難いおにぎりの温もり、北海道やリスボンの名物料理…。いわゆるグルメじゃないけれど、食への渇望と味覚の記憶こそが、私の創造の原点ー。胃袋で世界とつながった経験を美味しく綴る食文化エッセイ。

<読む前の大使寸評>
ヤマザキマリが説くイタリア料理ってか・・・これはいけるかも♪

rakuten パスタぎらい


アーリオ・オリオ・エ・ペペロンティーノ

第1章の冒頭から、見てみましょう。
p9~14
<第一章 イタリア暮らしですが、なにか?>
■貧乏パスタ
 17歳でイタリアに暮らし始めてから今年(2019年)で35年。他の国に滞在していた期間も短くはないが、何よりイタリア人の家族を持っているというバックグラウンドのため、私はイタリア料理を詳しい人、イタリア料理に対する嗜好性が高い人と日本では思われている。

「毎日イタリア料理を食べられるなんていいですね。羨ましい」などと言われると、どうもそのままやり過ごせなくなり、「じゃあ、あなたもやってみて下さいよ。長く待って二週間くらいだから」と毒気交じりの返答を口にせずにはいられなくなってしまう。
 中には、私との会食は「イタリアン必須」とかんがえてしまう人もいるらしく、そんな時は「せっかくイタリア料理以外のものが食べられる国にいるので、イタリア料理ではないものにしてください」とリクエストする場合もある。

 もちろんイタリア料理を徹底的に拒絶しているというわけではない。東京には、イタリアよりもよほどお客を思いやった素晴らしい料理を出す店はたくさんあるし、新宿5丁目にある日本人シェフのイタリア料理店はとても気に入っていて、その味も知ってもらいたくて大切な友人を連れていくことも度々ある。

 正直、私はグルメではないし、美味しさ感覚の沸点もとんでもないくらい低い。コンビニエンスストアのお弁当も、お腹が空いている時であればしみじみ美味しいと感じるし、気取らない大衆食も大好きだ。逆に、もの凄く評価の高い高級料亭で振る舞われる、最高の素材を使った最上の料理となると、どうもそれに見合うだけの感動を覚えられる自信がない。ハードルの高さを感じてしまう時点で、おそらく味覚の天真爛漫な積極性が萎えてしまうのだろう。

                *
 今から二十数年前の1995年、未婚で産んだ二歳の子供を連れて日本へ一時帰国した私は、生計を立てるため札幌のローカルテレビ局の料理番組でイタリア料理をお披露目していたことがある。料理研究家でもなければグルメでもない、しかもイタリアでは貧乏生活が長過ぎて大して美味しいものを食べた経験すらない私が、なぜそんな畏れ多き大胆なことをやっていたのかというと、それこそ高級感を醸し出している日本でのイタリア料理の扱われ方に疑問を抱いたのがきっかけだ。

 たまたまテrビ局のプロデューサーとイタリア料理店で食事をする機会があり、私がニンニク、塩コショウ、鷹の爪をオリーブ・オイルで和えただけのシンプルな一品「アーリオ・オリオ・エ・ペペロンティーノ」スパゲッティを頼んだ。

 これは、日本における「素うどん」と言ってもいいポジションのスパゲッティで、私がフィレンツェでいつ野垂れ死にしてもおかしくないほど貧乏な暮らしをしていた時代に、おそらく最も高い頻度で食べていた料理である。

 当時イタリアでは、安いスパゲッティだと五百グラム入りが50円くらいで買えたから「一人前=百グラム」と換算すれば、一人分の食材費は他の食材を足しても20円か、多くても30円くらいだろう。まさに私の飢えを救ってくれた食べ物だったと言っていい。

 同じ頃世話になっていたフィレンツェの文壇サロンでも、このスパゲッティをよく食べた。同じように経済的に困窮した作家や画家が集まって夜中まで話し込んだ時、誰ともなく茹で始め、皆で食べていたのもこのスパゲッティで、私に中ではもはや「好き/嫌い」の枠では収まらない、自分と言う細胞の一部分になっている。

 ところが、札幌のレストランで出されたこのスパゲッティの値段は、当時で千円を超えていて、私は思わず「うわあ、ほとんどレストランの儲けじゃないですか・・・」と漏らしてしまった。しかもその店には日本人しか働いていないのに、スタッフたちが「ベルファボーレ!」「グラッツィエ!」などとイタリア語で喋っているのも違和感だし、子連れの客なんかはとてもじゃないけど入れそうにない雰囲気。

 客はやたらとワイングラスをぐるぐる回していて、「なんだかイタリアのイメージが日本には間違って伝わってませんかねえ」などと矢継ぎ早にだだ洩れてくる私の言葉にプロデューサーが、「だったら一回テレビに出て、その安上がりイタリア料理とやらを作ってみてよ」と思いつきの提案をしたことが、全ての始まりである。

 最初にお披露目したのは、「アマトリチャーナ」というおそらく日本のナポリタンの原型となったと思しきトマト系のスパゲッティだった。これだって、食材費はたいして掛からない。生放送だったので、料理中の私の呟きもそのまま視聴者に届く。「人数で割っても食材費は一人百円そこそこじゃないでしょうかね」とか、「レストランだと千円以上で出してたりしますからね」とか、およそ料理番組にふさわしくない言葉が主婦層には大いにうけたようだが、レストランの経営者やシェフたちは腹を立てたらしい。当然である。

 とにかく、安上がりで腹持ちもするパスタはイタリアにおいては庶民のための食であり、イタリア映画でも貧窮した様子を表現する時は、大人数で大量のトマトソースのスパゲッティを食べるシーンをよく用いている。私もニンニク塩コショウパスタが続いて、さすがに飽きてきた時は、奮発してひと缶50円くらいのトマトの水煮を調達し、トマトソース仕様にしたりするのだが、自分の人生でいったいどれだけこの類いの「貧乏パスタ」を食べてきたのか数え切れない。 

 夫は幸運なことに貧乏体験は一度もしていない人だが、イタリア人にとって「おふくろの味」とも言えるトマトソースのパスタは大好きで、自分でもしょっちゅう作っている。しかしそんな時私は、日本から持って来た素麺や蕎麦を食べることにしている。正直、若い時に過剰に摂取し過ぎたためか、もはやスパゲッティを含むパスタ全般に食欲をそそられることは、ほとんどなくなってしまったのである。
 フィレンツェに留学をしていた11年の間に、おそらく私は一生分のパスタを食べてしまったのかもしれない・・・。





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Last updated  2022.11.11 20:32:56
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