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2023.12.04
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『あなたが、いなかった、あなた』という本を、手にしたのです。
ぱらぱらと覗いてみると、フランス語が原文で散見されるのでチョイスしたのです。




平野啓一郎著、新潮社、2007年刊

<「BOOK」データベース>より
【目次】
やがて光源のない澄んだ乱反射の表で…『TSUNAMI』のための32点の絵のない挿絵/鏡/『フェカンにて』/女の部屋/一枚上手/クロニクル/義足/母と子/異邦人・7-9/モノクロウムの街と四人の女/慈善

<読む前の大使寸評>
ぱらぱらと覗いてみると、フランス語が原文で散見されるのでチョイスしたのです。
rakuten あなたが、いなかった、あなた


フランスでの旅行を、見てみましょう。
p47~50
『フェカンにて』
 2004年8月9日月曜日、小説家の大野は、1週間分の荷物が詰まった黒いバッグを携えて、サン=ラザール駅の23番ホームで12時40分発ル・アーブル行の特急列車を待っていた。
 大野は今、フランスのパリで生活している。これは昨年、文化庁に新しく出来た文化交流事業の第1回目の派遣によるもので、今年の2月末に渡仏し、1年間滞在して、来年2月末に帰国するのである。
 彼が今住んでいるのは、オデオンと云う街の真ん中である。そこに、六十平米の二部屋のアパルトマンを借りて、独りで住んでいるのである。

 フランスでの活動は、日本文学科のあるパリ第7大学での不定期の講義と、大使館、領事館の手配するストラスブールやエクサン・プロヴァンスと云った地方都市での、これもまた不定期の講義とが中心で、残りの時間は人に会ったり、芝居を観たりと自由である。

 毎月の報告の義務はあるが、そう云う事には、元々変に几帳面なので、定められた書式に従って、月の初めにきちんとメイルで提出している。一体、期限の気になる質で、原稿を依頼されても、締切りを守らなかった事は一度もない。引き受けると、その後は一切連絡を取らないので、不安になった編集者がメイルで様子を尋ねると、返事の代わりに原稿が送られてくる。

 時には慎重な編集者が、本来の締切りよりも2週間も早く締切期限を打診してくる事がある。そう云う時にも、やはり莫迦正直に、その2週間前の締切の1日2日前に原稿を送るのである。もっとも彼は、大学在学中からこの仕事を始めているので、今でも何処か、締切と云うものを学生のレポートの提出期限のように、融通の利かないものだと思い込んでいる。それで、何かの折に、外のもっとずっと締切にルーズな作家の話を耳にしたりすると、目を丸くするのである。
(中略)

 8月に這入るとすぐに、スウェーデンのストックホルム市が主催するTokyo Styleと云う大規模な日本文化の紹介イヴェントに参加し、俳句をテーマトスルシンポジウムの特別枠で、現代日本文学についての1時間弱の香煙を行った。これは、シンポジウムの企画者である、彼の最初の二作の小説の翻訳者による招待である。

 ストックホルムには三泊し、1日半ほどは市内観光をする時間も得て、パリに戻って来たのが一昨日の事である。昨日は、不在の間に溜まっていた仕事を片づけるのに丸1日を費やした。それから晩に、ポンピドゥー・センターの三階にあるカンディンスキー図書館での撮影の打ち合わせの為に、ルーヴル近くの寿司屋で知人のカメラマンと食事をしたが、二軒目が思いの外深酒となって、今朝は這々の体でベッドを抜け出して来たのであった。

 ココア・ブラウンの半袖のカットソーにジーンズと云うラフな格好である。それも手伝ってか、発券窓口では、今日も26歳未満かどうかと割引の確認をされた。フランスでは、大野は何時も、学生のように見られている。その切符をまだ左手に持ったまま、今、漸く到着した電車の二等車両を探して、彼はバッグを肩に掛け直し、歩いているところである。

 夏の旅らしく、さほど大きな荷物でもなかったので、何時ものように地下鉄の4番線でオデオン駅からシャトレ駅まで出て、そこから14番線に乗り換えてサン=ラザール駅まで来たのであった。8月のパリは静かで意外と好いものだと、こちらに来てから何人かに聞いていたが、実際に、街を歩いても地下鉄に乗っても閑散としていて、その分普段以上に英語が耳についた。
(中略)

 電車の車両は、中ほどの仕切で二つに分けられており、自由席はその前方である。客は思いの外多かったが、待ち構えて乗っただけに、座席はまだ十分に空いている。バッグを荷棚に上げて、二人掛けのシートの窓際に腰を卸した。傍らに襷掛けにしていたショルダー・バッグを置くと、やれやれと云う気分で息を吐いた。
 彼の目指すのは、フェカンと云うノルマンディ地方西北部の大西洋に面した港町である。


ウーム、著者は私より30近くも若いのだが漢字の使い方が、なんか古風である。
短編ごとに漢字の扱いや文体を変えて書き分けているようですね。知らんけど。





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Last updated  2023.12.04 00:32:18
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