まいかのあーだこーだ

まいかのあーだこーだ

2022.01.09
XML
カテゴリ: 漫画・アニメ
日本の漫画やアニメには、
一貫して「悪=文明」を描く系譜があります。

手塚治虫や石ノ森章太郎が基礎にしていたのは、
ゲーテの「ファウスト」に登場するメフィストフェレスですが、
天馬博士やギルモア博士の科学技術も、
そのような悪魔に魂を売ることで手にしたものだといえます。
そこから生まれる文明は破滅につながってしまう。

かたや永井豪や庵野秀明が基礎にしたのは、
ヘブライ神話の堕天使、とりわけ旧約聖書に登場するルシファーです。
その元ネタは石ノ森の「009~天使編」かもしれません。


押井守版ルパン三世「ルシファーの化石」

旧約聖書の失楽園の悲劇は、
アダムとイブが「知恵の林檎」を食べた結果ですが、
そうやって天界を追放された人間は、
地に落とされた堕天使と同じような立場にあります。

デビルマンやエヴァンゲリオンは、
いわば人間と同じ「悪の系譜」にある堕天使であり、
同じ悪でありながら、人間以上に強大な力をもっています。



西洋では、神と文明がたえず対立してきました。

中世までは、文明こそが「悪」でしたが、
ルネサンス以降は、文明のほうが「善」と見なされ、


もともと古代ギリシャには科学文明があったのですが、
中世ローマ教会は、その成果をすべて打ち消しました。
なぜなら、科学文明はたえず神の存在を否定するからです。

それゆえ、ローマ教会は、
焚書をしたり、ガリレオを裁判にかけたり、

徹底的に科学文明を破壊し、神の世界を守り抜こうとしました。

ようやくルネサンスになって人間本来の「文明」が回復し、
さらにルターの宗教改革がそれを推し進めて、
西欧社会は、中世までの宗教的蒙昧から脱することが出来ました。

しかし、
いまなお北米などには、
ダーウィンの進化論を否定して、
旧約聖書の創世神話を守り抜こうとする人々がいます。



ちなみに、
ユダヤ人も、プロテスタントも、
旧来のカトリックにくらべれば、はるかに「文明的」でした。
なぜなら、彼らは 自分で聖書を読む からです。

中世までのキリスト教徒たちは、
一部の聖職者を除いて、自分で聖書を読みませんでした。
そもそも字が読めませんでした。

これに対して、
ユダヤ教徒は早くから自分で聖書を読んでいたし、
ルター以降のプロテスタントも自分で聖書を読みました。
これこそが西洋における近代文明の基礎になりました。

自分で聖書を読むことによって、
そこから文献学的な分析と批判が生まれ、
従来のような盲目的な信仰が乗り越えられていったのです。

ちなみに、日本人が近代化を成し遂げたのも、
やはり江戸末期に「四書五経」を読んだ人たちがいたからです。
それを読ませる寺子屋や私塾があったお陰ですね。


自分自身で読まなければ、自分で考えることは出来ない。
たんに権威者の話を盲目的に信じるだけの人間は、
既存のヒエラルキーにしたがって判断することしか出来ません。



手塚治虫以来、
日本の漫画やアニメは「神と文明の対立」を描きましたが、
そこでは、もっぱら文明のほうが批判されてきました。

そこには、
ゲーテの「ファウスト」や、
メアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」など、
おもにプロテスタント系文学の影響があります。

けっして神を肯定するわけではないけれど、
かといって文明をすっかり容認するわけでもない。
いわば神と文明との両義的な関係が描かれています。

手塚治虫や石ノ森章太郎の物語でも、
宮崎駿や押井守や庵野秀明の物語でも、
人間の陰謀と神の陰謀とが対立しているように見えます。

かりに文明の側に立つのならば、
「神の陰謀」が描かれるはずはありません。
そもそも科学文明は、
神の存在それ自体を否定するはずだからです。

たとえば、
ダン・ブラウンの「ダヴィンチコード」で描かれているのは、
あくまでも「ローマ教会の陰謀」であって「神の陰謀」ではありません。
すべては人間界の話なので、そこに神の存在する余地はありません。


しかし、
日本の漫画やアニメには、何がしかの神が存在しています。
神の存在は認めながら、その欲望や野心を疑っている。
これは、日本人独特の、かなり多神教的な発想だといえます。
いわば、人間のことを疑うように、神のことを疑っているのですね。





ブログランキング・にほんブログ村へ ジャンル関係無しなんでもレビュー 映画ブログ・テーマ





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2024.06.17 17:25:14


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: