まいかのあーだこーだ

まいかのあーだこーだ

2023.03.08
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GYAOの無料動画で、

原題の《Journey Into Infinity》を直訳すると、
さしずめ「無限への旅」あるいは「無限への探究」でしょうか。

実際、エッシャー自身が探究したのは、
けっして「だまし絵」とか「視覚的トリック」とかではなく、
あくまで「無限」だったわけなので、やはり原題のほうが正しい。



例のダグラス・ホフスタッターの、


その書名の印象だけは無駄に強いので、
エッシャーというと、
つい反射的にゲーデルとバッハのことを連想しますw

この映画にも、
バッハの話はちゃんと出てきました。
エッシャー自身も、バッハを好んでいたようです。

一方、
ゲーデルの話は出てきませんでしたが、
エッシャーは、電話をかけてきたグラハム・ナッシュに、
自身のことを「芸術家ではなく数学者だ」と言ったそうです。




子供のころは数学が嫌いだったらしく、
親の意向に反して、建築の道にも進まなかったのですね。

エッシャーの父親は、
明治日本にお雇い外国人として招かれたほどの、
かなり高名な土木工学者だったらしいから、


結果としては、
きわめて数学的・建築的な発想で、
独自の美術表現に取り組むことになったのだけど、

逆にいうと、本人の言葉どおり、
「科学者と名乗るには愚かすぎるが、芸術家でもない」
みたいな中途半端な天賦であったがゆえに、
「数学と芸術の間を漂う」以外になかったのかもしれません…。

美術大国のオランダに生まれたことも、
彼の立場をどっちつかずにしてしまった気がする。
フランドル美術を生んだ風土と文化が身近にあったのは大きい。



彼は、
内向的なオランダ人であると同時に、
いかにも理系的な気質だったと思いますが、

他人との面会や手紙などを嫌い、
貨物船の上での孤独な海上生活を好んだり、
版画の反復的な印刷に没頭するような偏執的な性向も見られます。

しかし、その反面、
イタリアやスペインのような南欧の風土を愛したり、
船上から見る地中海や空の青を眺めては、
その自然から美的なインスピレーションを得たり、

さらにはムーア人の幾何学…
すなわちアルハンブラのアラベスク模様に惹かれたりした。



彼の「無限の反復」というコンセプトは、
数学や建築などの理論から得られたのではなく、
自然からのインスピレーションで得られた感じです。

実際、
そこにもフラクタルのような数学的な構造があるし、
自然のなかの時間や空間は反復的になっているといえます。

強いて数学でいえば、
彼の関心にいちばん近かったのは「結晶学」だったようで、
それがいわゆる「平面の正則分割」の手法に繋がっていく。

さらに、
コクセターの「反転変換」の話なども出てきましたが、
エッシャーは、それを理論的に把握したのではありません。

むしろ感覚的に「無限」の表現方法を模索し、
やがて有限な平面のなかに「無限」をもちこむことに成功。
そこに実現したのは、
いわば「全世界」や「終わりなき循環」を内包させる表現でした。



エッシャーは、
自身の作品がサイケデリックアートとして消費されることに、
かなり嫌悪感を抱いていたらしい。

でも、わたしが思うに、
有限のなかに無限をもちこむ発想は、
やっぱりサイケデリックの価値観にも通じ合う部分があって、
ロックの時代のヒッピーにとっては、
おそらく彼のアートも、瞑想やドラッグと同様に、
内的な小宇宙を実感するための一つの手段だったのでしょう。



ちなみにエッシャーの表現は、
従来の西欧美術の遠近法をあきらかに否定しています。

すなわち、
〈前景〉と〈後景〉の主従関係を否定し、
鳥の背景を鳥にしたり、虫の背景を虫にしたりして、
すべての細部に同等の価値を与える表現になっている。
まさに「平面の正則分割」などが、その典型です。

これって、
けっこうキュビズムに近いと思うのですが、
なぜか彼自身は、
キュビズムにもシュルレアリズムにも接近しなかった。
それどころか、
あらゆる美術界の"潮流"とは無縁だったようです。

その立ち位置もまた、
冒頭の「芸術家ではなく数学者だ」という発言に結びつくのでしょう。



もともと、彼の表現の原点は、
西洋絵画というよりもグラフィックアートだったし、
彼が実際に選択したのは、
反復的な複写の可能な「版画」という手法だったし、

もっといえば、
エッシャーのような表現は、
むしろアニメーションやCGにこそ親和的だったのですね。





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最終更新日  2023.03.10 13:04:21


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