まいかのあーだこーだ

まいかのあーだこーだ

2023.03.30
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カテゴリ: 東宝シンデレラ
いまエゴン・シーレに注目が集まってるのは、
2018年の「没後100年」と前後して、
いくつかの映画などが作られたりしたからですね。

しかも、
その「没後100年」ってのは、シーレだけじゃなく、
クリムトやオットー・ワーグナーらの「没後100年」でもあったし、
ハプスブルグ帝国そのものの「没後100年」でもあったわけです。

同時に、クリムトやシーレの死は、
第一次大戦ではなく、スペイン風邪のパンデミックの結果だったので、


その余波が5年経ったいまも続いていて、
なぜかクリムトよりもシーレのほうに関心が向いているわけです。




ただ、逆にいうと、
そうした「周年」的な意味合いのほかに、
現在の日本人がシーレに関心を寄せる理由はさほど見当たらない。
何らかの理由を語る人もいるだろうけど、ほぼ後づけでしょう。

わたしは去年たまたまGYAOの無料動画で、
映画「クリムト&シーレ:エロス&プシュケー」を見たけれど、
それも世紀末ウィーンの文化一般に関心があったからで、
べつにシーレに関心があったからじゃない。

▶ Klimt & Schiele: Eros and Psyche


「銀色夏生の詩集と一緒にクリムトの絵葉書を貰った」
と話してたことが頭の隅に引っかかってて、
ちょっとクリムトのことを知りたかったのもある。



今回の「新美の巨人たち」を見てはじめて、

クリムトならともかく、
由貴ちゃんがシーレに結びつくとは思ってなかったので、
これはちょっと意外でした。

ただし、
由貴ちゃんが寝室に飾っているシーレのリトグラフは、
そこまで過激なものではなく、
見ようによっては、
コクトーやマティスにも近いポップなものだったので、
そこはちょっとほホッとしました(笑)。


エゴン・シーレ「抱擁する2人」


芹澤優 ヘブバン主題歌「Before I Rise」



シーレの画風は、
整然とした全体のなかには埋没できない、
不穏な存在の歪みを強烈に押し出す感じで、
それは、あきらかにゴッホの糸杉に通じている。

ゴッホの糸杉とシーレの街



たとえば、
クリムトが描いたファムファタールは、
マゾッホの「マゾヒズム」にも近いところがあると思うけど、

シーレの場合は、
むしろサドの「サディズム」のほうが近いと思えるし、
いちばん近いのは、
たぶんバタイユの「蕩尽 (消尽) 」の概念だろうと思う。

芸術を成就させるのがファムファタールの宿命だとしても、
モデルの肉体を使い捨てるように蕩尽させるシーレの芸術は、
やはりサディスティックな感じがします。




この絵のモチーフ「死と乙女」は、
シューベルトの歌曲にもなったマティアス・クラウディウスの詩。



ところで、
わたしがGYAOで観た「KLIMT & SCHIELE EROS AND PSYCHE」は、
邦題では「クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代 」と、
おかしなタイトルになっているのですが、

これは、ポスターを見れば分かるように、
知名度の高かったクリムトを前面に押し出して、
「シーレその他のウィーン芸術」を副題にするという、
配給会社の苦肉の配慮というか妥協の産物なのですね。


しかし、原題を直訳すれば、
「クリムト&シーレ:エロス&プシュケー」となるはずだし、
副題の「EROS AND PSYCHE」は、
もしかしたら「愛と魂」と訳すのも可能かもしれません。

ただ、正直なところ、
この副題の意味するところは、あまりよく分からない。

一般に、
「EROS AND PSYCHE」は、
「野獣と美女」の意味合いも含んでるので、
クリムトの絵が《マゾヒスティックな美女》だとすれば
シーレの絵は《サディスティックな野獣》といえるのかも。

しかし、そうだとすれば、
「KLIMT & SCHIELE: EROS & PSYCHE 」ではなく、
「KLIMT & SCHIELE: PSYCHE & EROS 」としなければ、
対応関係がおかしいとも思う。

そう考えると、
この副題は、クリムトとシーレよりも、
むしろフロイトを意識して付けられてるように思えてきます。
実際、世紀末ウィーンの文化的背景をもっとも体現したのは、
フロイトの思想なのだと言っていい。

つまり、
副題の「EROS AND PSYCHE」というのは、
おそらく「性と自我」の隠喩であり、
あるいは「無意識と意識」の隠喩なのでしょう。

クリムトも、シーレも、
そうした人間の本質が暴露される時代状況のなかで、
タブーとされた表現に立ち向かったということです。







余談ですが、
ギリシャ神話の「エロスとプシュケー」の物語って、
とても興味深いのよね。

西欧の「白雪姫」や「眠り姫」や「美女と野獣」にも似てるし、
日本の「箸墓古墳伝承」や「イザナミ神話」や「浦島太郎」にも似てる。

…だいたい、こんな話です。

愛の神エロスは、
人間の美少女プシュケーに恋をしますが、
エロスの母である美の女神ヴィーナスは、
あまりのプシュケーの美しさに嫉妬します。

⇒ ここは「白雪姫」にそっくり。

エロスは、
母に隠れてプシュケーと結婚すべく、
噓の神託によって彼女を野獣の家に嫁がせ、
自分がその野獣を装って彼女と結婚します。

⇒ ここは 「美女と野獣」 にそっくり。

意地悪な姉たちに騙されたプシュケーは、
夫の正体が蛇だと疑って殺そうとするのですが、
約束を破って眠っている夫の姿を見ると、
その正体は蛇ではなく、美しい愛の神でした。

⇒ ここは 「箸墓古墳」の伝承 に似てる。百襲姫の夫はほんとうに大蛇でしたが…。
⇒ 姿を見てしまうというのは 「イザナギ神話」 や「鶴女房」などにも似てます。夫と妻が逆ですが。
⇒ 意地悪な姉たちは「シンデレラ」にも似てますね。


エロスは、約束を破ったプシュケーのもとを去ります。
美の女神ヴィーナスは、行き場のないプシュケーに、
つぎつぎとたくさんの難題を与えますが、
不思議な生き物たちがプシュケーを手助けします。

⇒ ここも「白雪姫」にそっくり。

プシュケーは最後の難題に立ち向かい、
黄泉の国に分け入って永遠の美の薬を手に入れます。

⇒ ここは 「オルペウス神話」や「イザナギ神話」 に似てる。これも夫と妻が逆ですが。

しかし、黄泉の国からの帰り道、
プシュケーは禁じられた薬箱を開けてしまいます。
プシュケーは箱のなかの眠りの魔法を吸い込み、
永遠の眠りについてしまいます。

⇒ ここは 「浦島太郎」 にそっくり。

横たわったプシュケーを見つけたエロスは、
その体内から眠りの魔法を吸い取って目覚めさせます。
プシュケーは、ヴィーナスの許しを得て女神となり、
エロスと結婚して悦びという名の子を産みます。

⇒ ここは「眠り姫」にそっくり。


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最終更新日  2024.06.18 11:45:23


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