Laub🍃

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2017.12.01
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カテゴリ: 🌾7種2次表
→1
→2  『わけがわからない』
→3  『話せない』
→4  『置いておけない』
→5  『収拾がつかない』
→6  『違えない』
→7  『手段を選ばない』
→8  『知らない』
→9  『受け止めきれない』
→10
→11  『訊けない』
→12  『救われない』
→13  『そつがない』
→14  『聞き捨てならない』
→15  『要らない』

・タイムスリップIF二次創作小説

あらすじ:
・外伝後安居・涼・まつりが海で暴風雨に巻き込まれたと思ったらタイムスリップしていた
・混合村で暮らす未来安居・未来まつり
・夏B村で過去要と遭遇する未来涼・過去安居



****************



****************



「……ねえ、なんか変だと思わない?」

 小瑠璃さんの所から戻ってきたハルが言う。

「…安居の事?」
「やっぱり花も変だと思ってた?」


 安居と涼が不自然だ。
 特に安居。

 数日前まであたし達に憎悪と侮蔑を剥き出しでぶつけてきた癖に、今はただリーダーらしい指図が残るだけ。

「気持ちが悪いほど落ち着いてるよね」
「気持ちが悪いって」

 同感だけど。

「劇的じゃん。滝にでも打たれてきたのか、出家したのかってくらい凪いだ表情と態度と声。
 俺が小瑠璃と一緒に居ても、一瞬冷たい目で見て『遅くなるな』って小瑠璃に言うぐらいだよ。絶対おかしいって」
「ハルが認められたんじゃないの」

 親父だか兄貴だかに。
 そう言うとハルは複雑そうに顔を歪める。

「茶化さないでよ花。……うまく言えないけど、そういうのでもない気がするんだよね」
「……」

 リーダーの立場を自覚したから情動を押さえつけているだけかもしれない。そしたら反動で爆発してもおかしくない。
 もしかしたら今更十六夜さんを殺した後悔が襲ってきたのかも。……それにしては、十六夜さんの事を言及しない。

「俺達の知らない所で彼女でも出来た?最近ちょくちょくあいつら姿消してるし」
「……それ、かも」
「は?」
「いや、彼女の方じゃなくて。あいつら最近よく姿消してるじゃん。
 その時に、もしかしたら別のチームの誰かと会ってるんじゃない?」
「……誰と?どこで?」
「例えば、夏Bとか。……ほら、最近この村に流れ着いたまつりさん、居るじゃない。
 あの人が来た方向を辿って、あいつら夏のBチームの誰かと接触してるんじゃないかな」
「……花の彼氏が居る所?」
「…あり得ると思うんだ。あとは、夏Bのナツさんとか。
 彼女の手紙を読んだけど、しっかりした、落ち着いた人なんだと思う。
 あの人と会って、話して、もしそれで変わったのなら……」

 そしたらあたし達にとっては僥倖なんだけど。

 人は人を変える。

 考え方も、生き方も、幸せと不幸せの基準でさえも。

「……夏Bねえ。どんな奴らなんだろ」
「会ってみたいね」

 どんな人達なんだろう。
 どんな生き方をしてきて、どんなものを大事にして、なにを目指しているんだろう。










「どうでもいい」

 そう言う安居に、虹子さんが目を瞬かせる。

「……意外と落ち着いてるんだね、安居くん」
「薄々気付いてたからな」

 ……なら、どうして言ってくれなかったんだろう。

「安居。どうすんだこいつ」
「別に、どうもしない。まだここで働きたいなら働けばいい。出て行きたいなら勝手にしろ」
「逃がすのか?それとも『追放』か」
「別にどっちのつもりでもない。ただ、厄介事を避けたいだけだ。……ああ、行く方向だけは制限させてもらう」

 あの山の向こうにはいくな、とか、洞窟の川には流されるな、とか、ひどく冷静に告げるその口が、ぶれて見える。
 皆がざわめく中で、安居も、涼も、まつりさんも、妙に落ち着いている。
 知っていたのか。

 なんで言わなかったんだろう。

 あたしのお父さんは、人を殺していたってことを。

 安居なら、激昂して殴りかかってきそうなのに。

 あたしと、多分嵐も、お父さんが沢山子供を騙して殺したから、船に乗ることが出来たってことを。

 お父さんに殺されかけたように、殺してやるとか、言いそうなのに。

 言われてもあたしにはどうにもできないけど。
 でも言われてたら、呑気に、被害者側で怒ることなんて、出来なかった。

 あたしの父は、育ての親のめーちゃんは、勝手にここに人を連れてきて、冬のチームの悲劇や、秋のチームの決裂を、招いた主催者側だったってことを、知ってたら。

 違ったかもしれないのに、どうして、父も、めーちゃんも、……母も、何も教えてくれなかったんだろう。

 どうして。

 無知は罪と、どうしてうろついているのかと、言われて殺された人が居た。

 感染病で滅んだ龍宮、そこの一番最奥に入ったお蘭さん……を庇った十六夜さん。

 あたしも罪を問われるのか。

 気が付いたら殺されているのか。

 ……そういえば、最近、安居、銃を使って、ない。


 どうでもいい。今考えなきゃいけないのはそういうことじゃないのに。
 頭にぽっかりと隙間が出来て、目の前の事も、言われた事さえも頭をすり抜ける。

「ハルも、新巻も、秋のチームも、花についていきたいなら勝手にしろ。俺は止めない。……くるみは鷭と一緒の方がいいと思うがな」

 そう言って離れていく安居。

 そうだ。お互いに怪我人が居て、白蝙蝠に対抗しきれないからこうして共同生活を始めたんだ。

 もう、その必要はない。

 数日前に洞窟で水も見付かった。

 乾季だけど、水が足りなくなる心配もない。……人手もそこまで必要なわけじゃない。

「……分かりました」

 気まぐれでも何でもいい。
 安居や涼の気が変わって、やっぱり親の罪を償え、とか言い出す前に、離れないと。

 その方が夏Aの人たちにとってもいいだろう。

「ごめんなさい。……申し訳ないし、巻き込みたくないので、ここを離れます。さようなら。……無理はしないでくださいね、くるみさん」
「……花ちゃん、別に出て行くのは、強制じゃないよ。……それに、あたしは一緒に居たいよ。ここにもっと居てもいいんだよ、花ちゃん」
「ありがとうございます。……でも、……みんなに悪いので」

 お蘭さん達は特に、苦々し気な顔をしていた。
 あたし自身が罪を犯したわけじゃないから、謝るのも、償うのも、なんだか違う気がして、だけど離れることだけはただ一つ正解な気がした。

「……これ、もっていったら」
「…お蘭さん!」

 丁度あたしの考えを読んだかのように、お蘭さんが現れた。

「……言う暇もない内に出て行くんだから……全くあんたは。……まあ、仕方ないけど。あたし達もどうしたらいいか分かんなかったし、……あんたなりに気を使った結果なんでしょうし。……言っとくけど、……あたし達が嫌いなのはあんたの親であって、あんたじゃないから」
「……はい」
「あんたが、あたし達にしてくれたこと、忘れないから。……ほとぼりが冷めたら、顔出しなさいよ」
「…………はい!」

 あたしは皆に別れを言って、村を出る事にした。

 今度は、どこに行こう。


 朝焼けに包まれて歩き出す。
 すると、丁度見回りをしていたらしい安居が遠くに見える。

 ……逆の方向に居た筈だったのに、いつの間に。
 何か歩きやすい抜け道でもあったのか。

 安居は、何かを探すかのようにうろついている。

 ……何を探してるんだろう。

 ……もしかして、夏Bの、誰か、なの?

 来てる?

 ……安居があたしに制限した所から?
 山の向こう?洞窟の先?

 相手はナツさん?

 いや、もっと、もしかしたら、あたしの願望だけど。

 ……安居の行く先に、嵐が居るかもしれない。


 安居は幸いこっちに気付いてない。

 あたしは静かに近くの樹によじ登った。

 確かうんと昔、めーちゃんに習った事を思い出す。

『獲物の後をつけるときは』

『無理して近付かなくてもいいから』

『常に相手が視界に入るようにして』

『自分は意識が向きづらい所に居て、息と殺気を殺す』

 あたしは木々と一体化するように、静かに呼吸した。




【続】





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最終更新日  2018.12.01 09:35:22
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