なせばなる、かも。

なせばなる、かも。

PR

カレンダー

お気に入りブログ

帰国と帰宅 New! Mommy-usagiさん

中森明菜 :『Spicy H… まっちゃんne.jpさん

スコシフシギな世界… まつもとネオさん
りらっくママの日々 りらっくままハッシー!^o^さん
no あこひさん

コメント新着

カフェしんた @ Re[1]:あっれ?(11/11) 千菊丸2151さんへ 確かにそうですよね。…
千菊丸2151 @ Re:あっれ?(11/11) もう11月ですね。 大人になったら、みんな…
千菊丸2151 @ Re[2]:あれ?もう10月だった!(10/07) カフェしんたさんへ 私が働いているのは畜…
カフェしんた @ Re[1]:あれ?もう10月だった!(10/07) 千菊丸2151さんへ ええ、私も同じくです…
千菊丸2151 @ Re:あれ?もう10月だった!(10/07) 最近職場(スーパー)でお節やクリスマス…
June 19, 2010
XML


「信用できない」

 サムの言葉が終わるより早く、リサはするどく答えた。どうやら、いろいろ学習してきたようだ。サムはどうしたものかと考えをめぐらせていたが、ふっと何かを思いついて自分のノートパソコンを引っ張り出してきた。

「いいかい。これから僕の相棒のとっておきの芸を見せてやろう。それと引き換えでどうだ?その代わり、これは他の連中には絶対に言わないでほしいんだ」

 サムはそういうと、俺を内ポケットから引っ張り出してパソコンの前に座らせた。

「何それ? くだらない。ネコがパソコンでもやるっていうの?
 もしそのネコが、言葉を打ち込んだりできるっていうんだったら、信用してあげるけど?」

 バカバカしいといわんばかりだ。サムが俺に目配せしている。しょうがない。ここはひと肌脱いでやるか。

『はじめまして。ボクはグレンといいます。』



「だ、だけど。こんなことぐらい躾けたらできるかもしれないじゃない。ねえ、私を見て、どう思うか書いてみなさいよ!」

 リサはそれでも信用できない様子で、違う要求を突きつけてきた。

『君は、なんだか寂しそうだね。友達はいないの?』

 リサはぐっと言葉を飲み込んだ。そして、ぷいと窓の方を向いたまま、しばらく考え込んでいる様子だった。
 サムは俺にどうしたものかと合図を送ってきたが、ここはそっと待つしかないだろう。

 開けたままの窓から、涼しい風が流れ込んでくる。それが心地よいと感じるのだから、夏は近いのだろう。

 サラサラとカーテンを揺らしていた風がゆるりと止まったとき、リサは居心地悪そうに体をこちらに向けなおして、観念したように話し出した。

「分かったわ。あんたたちが約束守ってくれるんなら、話してあげる。」
「そう来なくちゃ!」

 サムが俺にウインクをしてよこした。

「もうだいぶ前のことだけど、私、学校のホームワークで親の仕事について調べてレポートを書くように言われてたの。それで、パパの部屋に行こうとしたんだけど鍵が掛かってて入れなかったのよね。提出期限は5日後だったから急がなくてもよかったんだけど、パパったら仕事の事はなにも教えてくれないし、留守の間に少しでも調べておきたかったのよね。」



「今でも不思議なんだけど、ある日、私の部屋の前に鍵が落ちていて、家のカギって、どの部屋も同じデザインで作られてるから、家の中の何処かだろうとは思っていたんだけど、面白半分でパパの部屋の鍵穴に差し込んだら、開いちゃったのよ。」

 サムはチラッとこちらに視線を送ってきた。確かに出来すぎているが、ここは聞き流すしかないだろう。

「パパの部屋は前よりちらかっていて、あちらこちらに書類がいっぱいあったわ。いろいろ見たけど、やっぱりパパに説明してもらわないとだめだってわかったの。それで、諦めてちょっと休憩しようとパパの書斎のイスに座って机に向かってみたら、真正面に小さな写真立てがあって、そこに…。」

 幼い瞳は明らかに動揺し、その日のショックを思い出していた。俺は、キーボードに向かって言葉を打ち込んだ。



 文章をちらっと見ると、深いため息とともに悲しげにうなずいた。

「そうよ。そこに、パパと知らない女の人の写真があったの。ショックだったわ。まだママが亡くなってからそんなに何年も経っていないのに。
それで、ちょっと引き出しも開けてみたの。そうしたら、写真立てにあった女の人のヌード写真まで出てきて、私、ショックでパパの部屋を飛び出してきちゃったわ。」
「ひどい話だなぁ。おふくろさんが亡くなって、頼りにしている父親だっていうのに」

サムは自分の娘キャシーとリサをダブらせているのかもしれない。アイスマン氏に対する怒りは相当なものだ。

「それからは、何もかもがウソに見えて、誰のことも信用できなかった。それで学校をサボって、街をうろうろしているとき、ショーンっていう男の人に声をかけられたの。
 今から思えば、ショーンは札付きの悪だったわ。初めから私を仲間に引き入れるつもりだったのよ。初めは私の身の上話を真剣に聞いてくれて、帰りたくないと言えば食事や宿泊の手配もしてくれて、なんていい人なんだろうって思ってた。」
「ところが、そうじゃなかったってわけか。」

 サムが割って入った。

「そう。今度はお前が俺を助ける番だとか言われて、窃盗や恐喝もやらされたわ。このままじゃ危ないと思って家に帰ってた時期もあったんだけど。」
「メアリーには相談しなかったの?」

 俺がキーボードに打ち込むと、リサは悲しげにうなずいて続けた。

「メアリーに相談しようと彼女の部屋まで行ったとき、私、見てしまったのよ。ジョンソンさんとメアリーが抱き合っているところを。
 私がこんなに困っているのに、自分たちはまるで関係ないみたいだった。私のことを心配してくれていると思っていたのに、とんだ勘違いだったわ。もう、誰も信用できなくて、部屋に駆け戻ったの。
 メアリーは私の足音に気づいたらしくて、すぐに声をかけに来てくれたけど、もう、顔も見たくなかった。」
「だから、いきなり解雇したってワケか」

 サムが呆れたように口を挟んだが、リサは続けた。

「それまでから、ブラウンさんにはいろいろ言われてたの。メアリーとジョンソンさんがこの家を乗っ取ろうとしているんじゃないだろうかとか。お嬢さんもあまり出歩かないで、気をつけてくださいとか言われていたわ。
 それが解雇の一因でもあるけど、お母さんが亡くなって、お父さんが我が家のことを振り向いてくれなくなった今となっては、怪しい人を解雇するしか私には方法がわからなかったんだもの」

 リサは孤独なまま、それでもアイスマン家を守ろうとしていたのか。しかしそれをするにはあまりにもリサは無知だ。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  June 20, 2010 12:48:44 AM
コメント(4) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

プロフィール

カフェしんた

カフェしんた


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: