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August 12, 2010
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カテゴリ: 貝の鳩


「ああ、そうだ!」

 横から声をかけたのはゴードンの女房だ。ゴードンの話では、彼らがここに仕事に来た頃にラングレイ直々に調理場にやってきて手渡したものだという。

「これは東洋の秘薬で、貧血気味の王妃に飲ませると体調がよくなるというものだが、王妃がお飲みにならないので、粉砕して料理に入れてくれと」

 ミシェルはすぐさまその薬を確かめた。

「これは、鉄剤…?」
「まあ、そんなものだろうなぁ。しかし、東洋の秘薬ってやつはたいした事ないのかねぇ。この国にだってもっと少しでもちゃんと効く薬があるだろうに。随分沢山いれなきゃならん」

 それはおかしい。いくらよその国のことといっても違和感がある。ミシェルはゴードンから1回分の量を確認すると、すぐさま部屋に戻り鳩を飛ばした。ジークの出発は3日後。他のメンバーもまだ待機しているはずだ。

 そのままじっとしていることができないミシェルは、自らも王室図書館へと足を運んだ。もしかしたら、何か見つかるかもしれない。



「これは、これは!レイチェル王女。この度の王妃さまのこと、心よりお悔やみ申し上げます。それにしても、こんなところにおいでくださるとはめずらしいですな」
「なにか気持ちを紛らわせるものが欲しかったのです」

 視線を下げ、悲しみに暮れる姫君を装うが、どうもこの男全てを分かっているような顔つきだ。

「それならば、これなどいかがですか? さきほどハドソン王子も読んでいらっしゃいました。難しい本の方が気が紛れるとかで」
「そう、ではそれをお借りするわ」

 何気なく受け取ったその分厚い本は薬学に関する資料だった。はやりハドソンもなにか気付いたのか。それにしても、とミシェルは男の後姿を眺めた。敵なのか見方なのかさっぱりわからない。ただ、挑むようなその目に、見覚えがあるような気がしてならない。

 窓辺に座り分厚い本をめくると、インクの独特の匂いが鼻を突いた。この匂いは父の部屋の匂いと同じだ。ミシェルは遠い日に父に見せてもらった百科事典を思い出していた。
 ぱらりとページをめくると思わぬ文字が目に飛び込んだ。

『鉄過剰症』 鉄剤の過剰摂取により内臓に支障をきたすというものだ。もしもラングレイがこれを使ったとしたら。リュードへの潜入にもなにか裏があるかもしれない。そうなればジークも無事ではすまないだろう。ミシェルは唇をかみ締めた。

「レイチェル王女、そろそろお部屋にお戻りになったほうがよろしいのでは?先ほど近衛兵がレイチェル王女を探しているようでしたよ」
「え?」



「ご親切にどうも。」

 ミシェルは満面の笑みを浮かべて答えた。スキャットマンは控えめな微笑みを浮かべ。何食わぬ顔で机にあった分厚い本を手に取った。

「レイチェル!そんなところにいたのか! もうすぐ王妃を偲ぶ会が開かれる。早く支度をしなさい!」
「わかりました」

 ミシェルは席を立ち、司書に一礼して部屋を出た。



 ラングレイは口の中でもごもごと文句を言いながらミシェルを追いかけた。ミシェルが部屋に戻るとすでにロザーナがドレスや宝石を準備して待っていた。

「今日は隣国の王子さまもご出席くださるので、正装していただきますよ。さあ、これを身につけてくださいな。準備が出来たらカツラをセットしますので」

 ドレスを身につけるのはすっかり板についた。さっさと着替えを済ませると、ロザーナを呼んでカツラをセットしてもらう。

「はぁ、何度見てもレイチェル様に瓜二つだわ。どうしてあなたは女性に生まれなかったの。もったいないわぁ」
「ロザーナ様。それは内密にとラングレイ殿下が」

 メイドたちが楽しそうにロザーナを嗜める。ここの女性達は本当のことを知らないのだろうか。ミシェルは一層気持ちを引き締めた。


 王妃を偲ぶ会は、静かな音楽と共に始まった。王妃が好きだった花がいたるところに飾られ、王妃の好みの紅茶とケーキが振舞われた。正面に飾られた美しい肖像画は見るものの涙を誘っていた。ウイリアム王はそれでも隣国の王子と穏かに言葉を交わし、懸命に堪えている様子だった。ミシェルはただ寂しげに下を向いたまま時が過ぎるのを待つしかなかった。ちらりと隣を見ると、ハドソンが何か考え込んでいるのが見える。睨みつけるその視線は会場のあちらこちらに飾られた花だ。

「王子、お花がどうかしましたか?」

 ミシェルが小声で尋ねた。

「お前には関係ない。お前はラングレイの手下なんだろ? 今度は誰を殺す気だ!」

 声を潜めていても、その激情は伝わってくる。ミシェルはどうにもやりきれない気持ちでいた。

「王子、私ども特殊部隊は王室を守る為に派遣されております。どうか、ご理解ください。」

 王子は何も答えない代わりに、父親に似た大きな瞳でじっとその真偽を確かめるように睨み付けた。その視線に耐えられなくなったミシェルは飾られた花を眺めた。
 王妃が好んで飾らせた真っ白な胡蝶蘭と一緒に飾られているのは赤い西洋ツツジだ。王子は何かに気付いているというのか。

 周りの拍手で演奏家が変るのが分かった。次に出てきたのはタキシード姿の男性だった。髪を後ろに撫でつけ、うやうやしく頭を下げると、そっと舞台脇からチェロを持ち出してきた。 
 居住まいを正し、奏でるメロディは低く厳かに王室の人々を癒していった。

「なんて慈愛に満ちた響き」
「お前なんかに私や父の気持ちなど分かってたまるか!」

 ハドソンは吐き捨てるように小さく言った。しかしその視線は滑らかに動く弓をただひたすら見つめていた。
 ミシェルはもうへそ曲がりな王子に構わず、じっとその音色に身を投じた。そっと目を閉じると、実家の庭に縁台を並べて木漏れ日を浴びながら座っている自分がいた。両親とその仲間たちが集まり、料理をつまみ、酒を酌み交わす。その風景の中にこの音楽が流れていたような気がした。
 穏かな笑い声の中、自分はなぜかドキドキして何かを握り締めている。まだ幼くてふっくらとしたその手を広げると乳白色の鳩が翼を広げている。そう、それを誰かにプレゼントしたのだ。

 不意に思い出した記憶に懐かしさがこみ上げる。ミシェルが目を開けると、拍手の中、演者が深々と頭を下げているところだった。顔を上げたその瞳は、ちらりとミシェルを見やりチェロを抱えて舞台から下がってしまった。
 たったそれだけのことだったが、ミシェルは心臓をつかまれたような衝撃をうけた。これはどういうこと? どうしてこんなに動悸がするの? ミシェルは何事もなかったように座っているのがやっとだった。






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最終更新日  August 12, 2010 10:52:05 AM
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