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August 24, 2010
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カテゴリ: 貝の鳩



「ミシェルちゃん、これを!」

 飲み物と食料が入った袋を渡され、ミシェルは敬礼した。

「皆さんの優しさに感謝します。では、いってきます!」


 夕日が差し込む王室の森を走った。うっそうと茂る木々の間から、時折オレンジ色の光が剣のようにミシェルの目を刺した。油断は許されない。今一度、気を引き締めて森を抜け、ミシェルは無心で突き進んだ。サンタリカは大陸の西の端に位置し、東にマルコス王子のいるザッハード。西は海峡を渡って島国リュードがある。海岸は北にノースポートという大きな港があり、南には漁港がある。王室宮殿がある中央やや東の位置からこのままノースポートまで行けば、今夜の連絡船の最終便に間に合う。それに乗れば翌朝早くにリュードに上陸できる。

 途中の小川で馬に水を飲ませ、草原の草を食む時間を与えた。その間に自分も腹ごしらえを済ませる。できるだろうか。仲間との連絡手段もなく、隊長の安否も分からない中で、自分にこの状況を解決することが、本当にできるだろうか。
草原の草が風になびいて一斉に波打った。

「自分を信じろ! ミシェル、自分を信じて突き進め!」

それは心に響く父の声だったのかもしれない。それともジークの言葉か。ミシェルは立ち上がり、再びノースポートを目指した。


 ミシェルも窓際を陣取って、出発の時刻を待った。特殊部隊のメンバーはどうしているだろう。最後の連絡では、すでにリュードに潜入しているはずだ。しかし、ジークの死亡通知はもしかしたら彼らには伝わっていないかもしれない。彼らからジークの件で連絡がないことには違和感を覚える。

 がたんとふいに床が動き、出航したことがわかった。ゆったりと2,3度左右に揺れた後、船は港を離れた。
 ミシェルの心にはもう曇りはなかった。ジークの死亡通知はでたらめかもしれないという可能性に気がついたからだ。特殊部隊のメンバーからの報告でない限り、なにか裏があると見るべきだと踏んだのだ。

 目覚めると、すでに船はリュードの港ムンバに到着していた。館内放送が流れ、他の乗客も下船の準備を始める。ミシェルはすぐに馬を引き取り、リュードの街を歩いた。言葉は少し方言があるだけで、ほぼ同じだ。車より馬車の方が比率が高いところから考えて、母から聞いた昔のサンタリカのような感じだろう。
 朝早くに到着したのでまだ商店は開いていない。のんびりと街の中を歩いていると広い公園に出くわした。

「仕方ない。ここで時間をつぶそう。」

 ミシェルは公園の噴水で顔を洗うと、馬にも水を与え、林の中に手綱をくくった。サンタリカを出るときもらった袋からリンゴを取り出し、朝食にした。空気がおいしい。緑も清々しかった。こんな美しい国に、本当に恐ろしいテロリストが隠れているのだろうか。
 木陰の芝生にごろりと横になって、ミシェルはぼんやりと考えていた。

 日が高くなってきた。ミシェルは市場やみやげ物屋を冷やかしながら、それとなく探りをいれるが、反応は面白いほど二つに分かれた。
 政府を支持してジャンキーを憎んでいるものと、ジャンキーを応援しているものだ。いずれにしても、ジャンキーは今のところ政府に反旗を翻しているという形になるので、おおっぴらに応援するものはいない。

「お前、どこでジャンキーの名前を知った? 不用意に余計なことを探っていると政府の連中に投獄されるぞ」



「僕は、海の向こうのサンタリカから来たんだ。ある人からジャンキーが叔父さんをさらっていったって言われて、叔父さんを探しにきたんだ」
「叔父さん? どんな人だ?」

 ミシェルは不安そうな表情でぽつりぽつりと話し出す。

「背が高くてね、髪をぼさぼさに伸ばしていて、筋肉質な感じ。えばってばかりで怖いんだけど、だけど本当は優しい人なんだ」

 最後に優しい人だと言っている自分にはっとして、思わず唇をかんだ。



 主人に礼を言うと、ミシェルは素直に表通りを北上した。確かに「I+1」と言う店はあったが、こちらは飲み屋で夕方からの営業だ。

「仕方ない。他の情報を集めておくか」

 そのまま北上を続け、カフェに入った。

 店の中は真っ白な壁に囲まれ、所々に貝殻が埋められている。店先の白いテーブルにつくと目の前に海が広がってすばらしい眺めだ。潮風を胸いっぱいに吸い込む。サンタリカの内陸に暮らしていたミシェルには新鮮な感動だった。

 夕方まで待って、「I+1」の向かいのレストランイに入ると、すぐさま窓際を陣取った。軽い夕食を摂りながら眺めていると、仕事帰りの男達がぞろぞろと店に入って行く。一見しただけではテロリストには見えないがまだまだ気は抜けない。
 食事を終えて、店を出ると、なにやら通りが騒がしくなってきた。あの店の前だ。人だかりができて、どうにも事情がわからない。ミシェルはするすると人の間を掻き分けた。

「この、人殺しめ! ワシの息子を返せ!」
「言いがかりだ! さっさと帰れ!」
「ワシは知っているんだぞ。お前達はこの店の中で悪巧みをしているんだろう。お前達があのジャンキーというテロ集団なんだろ!」

 老人は、有無を言わせず殴りかかって行く。男達は始めこそなだめようとしていたようだが、気がつけば老人を囲んで殴りだしていた。

「ちょっと、通してください!」

 後ろから来た老婆が慌ててその老人の前に走りより、男達からかばおうと身を投じた。

「なんてこと?」

 見渡しても、誰もこの騒動を止める者は居ない。ミシェルはたまらなくなった。

「いい加減にしないか! たった一人の老人相手に、大勢で殴ったり蹴ったりするなんて、どうかしている!」
「なんだとぉ?」

 集団の中の一人が一歩ミシェルににじり寄った。ミシェルの後ろでは、老女が懸命に老人を抱き起こしている。

「お前、見かけない顔だな。旅人か?」
「そうだ。事情はわからないけど、大勢で一人を傷つけるのは間違ってる!」
「ごもっともなご意見だな。旅人なら仕方がない。見逃してやる」

 男はふっと失笑すると、仲間に合図して店の中に退いた。ミシェルはまだフラフラしている老人に肩を貸すと、家まで送り届けてやる事にした。






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最終更新日  August 24, 2010 09:09:13 PM
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