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April 10, 2022
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カテゴリ: REALIZE
第5章 記憶をさかのぼる旅

 アランは再び母子手帳を手に取り、何か手掛かりはないかと調べなおした。そして、個人の電話番号を見つけた。

「そうだ。翌月の予定や予定変更の連絡は直接自分に電話してほしいと言われていた」

 アランは早速その薄れかけた番号に電話をしてみた。数回のコールの後、誰かが電話に出たが、アランが名乗ると、すぐさま切られてしまった。なんだか様子がおかしい。考えた末、アランは公衆電話を探し当て、偽名を使い、荷物を頼まれたと偽って約束を取り付けた。
駅前のファーストフード店は平日の昼間ということもあり、混雑していると言うほどでもなかった。飲食コーナーの隅に陣取って帽子を目深にかぶり、アランは平田がやってくるのを待っていた。約束の時間を少し過ぎたころ、角のとがった眼鏡をかけ、すべてを見下すような表情の平田がやってきた。しばらく様子を見ていると、コーヒーを一杯飲み干して、少しきょろきょろと周りを見渡した後、「まったく」とでもいう様に、いらだった様子で席を立って店を出た。
 アランはその後ろ姿を見送ってから、なんでもないように自分も席を立ち、距離を取りながら後を追うことにした。あの頃も独特な雰囲気をまとっていたが、それは今でも変わらないようだ。当時はそれどころではなくて気づけなかったが、あれはベビーシッターに向いているとは思えないな。
 しばらく歩いた先に大きな邸宅の門が見えてきた。平田はちらっと左右を確かめると、その横にある小さな通用門からするりと中に滑り込んだ。アランがその家を確かめようと近づいた時、突然、後ろから何者かに目隠しされ拉致されてしまった。


 同じころ、シルベスタは元の王国の中心部があったサルビィの丘にやってきた。30年の月日でずいぶんと震災の跡は風化しているが、誰も住まなくなった街は荒れ果てたままだ。じっと目を閉じ、蔵書のありかを探っていくが、なかなか目当ての物は見つからない。避難所のあった丘から少しずつ谷を下りながら、シルベスタはその度神経をとがらせて調べ上げた。
 気が付けば、陽が傾きひんやりとした空気が辺りに満ちてきた。片手を上げて、ハンモックを設置し、焚火と小さなテーブル、そしてそれらを囲む結界を張ってささやかな夕食を摂る。カバンには魔石をふんだんに入れているので、旅慣れたシルベスタには、造作ないことだった。食事を終えるとハンモックに横になる。木々の間から覗く星空は、昔と何も変わらない。ガウェインと二人で旅をしていた時もこんな風だったな。シルベスタは過去に思いを馳せていた。


懐かしい風景を思い浮かべながら眠りにおちそうなシルベスタは、寝返りを打った拍子に目の前の草むらに何かが月の光を浴びて光っているのに気が付いた。
 そろりとハンモックを降りて近づいてみると、小さなペンダントが泥に半分埋もれていた。風雨に晒されたのか、少し泥が流されてそこに月の光が差し込んで青く輝いていたのだ。その青はシルベスタの青空のような瞳の青ではなく、海原のような深い青。

「これは、あの子の…」

 シルベスタの心は一気に過去へと引き戻される。幼いころからもてはやされていたのは、何もアランだけではなかった。美しい銀髪、透き通るような白い肌に青空のようなブルーの瞳。本人は嫌がったが、多くの者がその容姿に憧れていた。そんな自分に見向きもしない女の子がいたのだ。剣術ではガウェインに勝てないし、勉強も優秀程度だ。王位継承権に至っては王の息子3人と叔父に続いて5番目だった。シルベスタは中途半端な自分に嫌気がさしていた。そんな時、あの子に言われたのだ。

「生まれ持った容姿や立場に胡坐をかいているなんて、かっこ悪いことだと思うわ。自分の中の特別って言えるものを持つべきよ」

 それからというもの、シルベスタは狂ったように魔術の特訓に明け暮れたのだ。そして、今がある。


 翌朝、シルベスタは荷物をまとめて王宮へと戻ると、すぐさまガウェインの元にペンダントを届けた。

「これは…。キャロルの自慢のペンダントか」
「そうだ。海のような深い青がキャロルの瞳とそっくりだと母親からもらったんだと自慢してた」

 王族の遺品はいくつか見つかっていたが、災害時、別の場所にいたらしいキャロルの遺品は見つかっていなかった。ガウェインは、すぐさま専門家を呼んでペンダントの洗浄を依頼した。シルベスタは再びサルビィの丘に向かうため、魔石や鉱石を準備すると言って部屋を出た。
 ガウェインはその後ろ姿を見送って、小さなため息をついた。キャロルはシルベスタにとってもガウェインにとってもいとこにあたる。普段はおとなしくて冷静な少女だった。ガウェインがキャロルの想い人に気が付いたのは、シルベスタと旅にでることが決まった時だ。王からの指示があったとなにげなく伝えた時、珍しく動揺するキャロルを見たのだ。


 思いを巡らせているうちに、ペンダントはきれいに汚れを落とされ、元のように美しい姿になって戻ってきた。ガウェインがそっと手に取ってみると、裏側に刻まれた文字があることに気が付いた。
 再びサルビィの丘に向かおうとするシルベスタは、伝令により王宮に立ち寄ることになった。

「シルベスタ。これは、お前が持っていてくれ」
「え?でも、これは王族の…」

 怪訝な顔でそれを受け取ったシルベスタは、海のような青い宝石の裏側に刻まれた文字に愕然とする。



 いつも飄々としているシルベスタが、急いで口元を抑えた。それでも美しいその顔が悲しみにゆがんでいく。その背中にそっと手を添えて、ガウェインは言う。

「シルベスタ・サーガ。もう一度これのあった場所を探してくれ。思い出したんだ。俺たちが旅立つ時、あいつは古文書を抱えてただろう?俺たちが帰るまでに読み切って専門家になるんだと」

 普段はおとなしい少女が珍しく明るい笑顔を見せて、それが少しやせ我慢のようにも見えたのだが、古ぼけた本を胸に抱えて目標を語って手を振っていた。シルベスタは手のひらに収まる小さなペンダントを握り締めると、「行ってくる」とつぶやいて、足早に王宮を飛び出して行った。





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最終更新日  April 10, 2022 09:06:20 AM
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