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April 12, 2022
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カテゴリ: REALIZE
王宮を出て4日が経っていた。ペンダントを握り締め、キャロルの気配を感じるものを探すシルベスタだったが、3日目からは雨になった。アイスフォレストから持ち出した魔石も残りわずか。しとしとと降りやまない雨は、大魔術師と誉れ高いシルベスタでも、じわじわと心をえぐられる。

―どうしてあの時、素直に「そうだね。」って言わなかったんだろうー
―どうしてあの時、「待っててね」って言わなかったんだろうー
 その一つ一つが人生の岐路だったような錯覚に打ちのめされ、シルベスタは大きく枝を茂らせた木の下に座り込んでしまった。

「キャロル…今頃自分の気持ちに気づくなんて愚かだね。」

 青く光るペンダントを見つめながら、深いため息をついた。雨は降りやむ様子もなく、枝のあちこちからタンタンと水滴がリズムを刻む。

「ああ、これはまるでダンスのレッスンのようだな。ヒカルはハワードとうまく踊れるようになっただろうか」

 そんなことがぼんやり頭をかすめた。その時ふいに先日のヒカルの言葉がよみがえった。



 うん、ヒカルを連れてくれば良かった。あの子なら本当に雨を吹き飛ばしてしまいそうだ。ヒカルのことを思い出すと、なぜだか心の中がカラリと晴れ渡っていく気がする。

「よし、もう少し、がんばってみるか」

 シルベスタが立ち上がると、見下ろす谷の途中になにやら白いものが見えた。すぐさま近づくと、雨に溶け始めた紙きれのようだ。シルベスタは慎重に周りの土をかき分け、その本体を何とか引き出した。

「これは、何かの本だな」

ページがバラバラにめくれ半分ほどは泥と水分でにじんでいるが、あの日、キャロルの握りしめていた古文書の表紙と同じ色をしている。シルベスタは大急ぎで荷物をまとめると、再び王宮へ向かった。


 王の執務室に先の会議のメンバーが集まった。ここにアランがいないことをみな心のどこかに想いながらも、今は目の前の古文書に集中していた。

「やはり大部分が解読できないようですね。」

 洗浄と乾燥をすませた古文書を用心深くめくりながらクランツがつぶやく。ガウェインはそれをじっと見つめていたが、ふと思い立って古文書を受け取ると、クランツが見ていたところよりずいぶん先のページをめくりだした。

「確か最後の方だっただろ。あ、ここだ。遺伝の種の文字が読み取れる」
「ああ、確かに!」

 頭を寄せ合い、中を確かめていると、この術を施されたものは通常の魔術には影響されないと記されているのが分かった。


「ジーク、気持ちは分かりますが、少し落ち着きましょう。わざわざ古文書に記しているのですから、なにか伝えるべきものがあったのでしょう。シルベスタ、あなたもこれを読んだことがあるのでしょう?なにか思い出せないかしら」

 鋭い視線がシルベスタに突き刺さる。その後ろで何か言いたげなガウェインは、ふいに振り向いてふんわりとほほ笑む銀髪の妃に何も言えない。

「う~ん、確かに何かあったような…」

 シルベスタはガウェインから古文書を受け取ると、どんどんページをめくり、最後のページでぴたりと手を止めた。

「あった。けど、半分消えているな」



「亜種を…、探せ? 亜種?」
「それじゃまるっきり、ハワードが話していた物語と同じじゃないか」
「どういうことですの?」
「進化の途中でまったく違ったものに変異することを生態的異変というのですが、前回の会議でヒカル王女が遺伝の種の術の条件に一致しているのにおかしな行動をしていないと言う話がありましたが、それがこの亜種に相当するかもしれないということです。」
「とりあえず、アランの帰還を待とう。この話はそれからだ」

 ガウェインの一言で、会議は皆の心に不安を残したまま、お開きとなった。


 その頃、王太子の間では、春の宴に向けてヒカルがドレス選びをしていた。菜の花色のサテンのドレスや、淡い紫の上品なドレス、レースをふんだんに使った豪華なドレスなどクローゼットには多くのドレスが並べられている。それを一つ一つ眺めては、ため息をつくヒカルだった。

「王女様、こちらの水色のドレスはいかがですか?色白な王女様のお肌によく映えますよ」
「ん、そうかな」

 返事はするものの、心ここにあらずである。父親のアランからは何の連絡もないまま、宴の準備はどんどん進んでいる。か細い肩を落として沈む姿をベスはどうしたものかと考えていた。その時、窓の外でリッキーを呼ぶ声がして、ベスはそっと窓辺に寄ってみた。

「あ、リッキーの友達の人…」

 こちらに向かっているところを見ると、リッキーは今からが出勤なのだろう。そのリッキーに親し気に話しかけているのは、同じ第一騎士団の仲間のようだ。ベスも見たことがあるので、リッキーが親しくしている仲間だろう。少し話し込んで別れていたのを見て、今のヒカルの状態を自分もリッキーに相談してみようと思い立った。

 仕事帰り、いつものようにリッキーがベスを迎えに来ると肩を並べて歩き出す。
こんな風に素直になれたのも、ジーク様のおかげだわ。あのお茶会の後、呼び出された時はてっきり罰を受けると思っていたのに。

「こんなことで仕事に支障をきたすとはどういうことだ。お前たち、いい加減早くくっついてくれ。独り者の俺には目に毒だ!」

ふふふ。いい人だなぁ、ジーク様。ベスは胸のあたりがぽかぽかするのを覚えていた。

「ねえ、リッキー。最近ヒカル王女様、元気がないのよ。宴のドレス選びも以前ならそれは楽しそうにしていたのに、もう見ていられないぐらい。」
「そうだなぁ。王太子殿下からなんの音沙汰もないなんて、ちょっと考えられないんだが。いや、待てよ。殿下が水晶玉をなくしていたら…」
「リッキーじゃあるまいし、それはないと思うけど」

 う~ん、と二人は押し黙ってしまった。

「そうだ、元気がないと言えば、さっき騎士団仲間のルドルフに会ってさ。あいつからも相談されたよ。ジーク騎士団長が元気ないんだとか。」
「ああ、王太子殿下が転移するとき、一緒に行こうと思ってたらしいもんね。でも、殿下がいないとなると、クランツ首相はジーク団長に残ってほしいだろうしねぇ」
「なぁ、もし、もしもだけど、もう一度異世界に転移することになったら、待っててくれるか?」

 ベスは足を止めてきっぱりと言い放った。

「いやよ!その時は私も一緒に行くわ」
「駄目だ!向こうではきっと王太子殿下をさがすことになる。俺の仕事中にベスが危険な目にあったら、また前みたいなことがあったら絶対に嫌なんだ!!」

 仕事中はベスを優先できない。そのことがリッキーを焦らせていた。ベスの両腕を掴んで懸命に説得しても、きっとベスはウィリアムに頼んで異世界に来てしまうだろう。だけど、向こうにだって危険な連中はいるはずだ。自分が仕事をしている間に、何かあったら、とても耐えられない。気が付くと、リッキーはベスを抱きしめて懇願していた。

「いやなんだ。ベスに何かあったら…」
「リッキー…、分かったわ。」

 ベスはそっとリッキーの背中に手を回して宥めるようにトントンと優しくリズムを刻んだ。そうして、そっと体を離すと、まだ不安げなその頬を両手で挟んで祈るようにつぶやく。

「だから、お願い。ちゃんと無事で元気に帰って来てね」
「うん、分かった」

 頬を包むベスの手を握りしめてキスを落とすと、もう一度頬に寄せてベスの瞳を覗き込んだ。

「ベス、好きだよ」

 頷いた瞳は潤み、頬はバラ色に染まっていた。


つづく





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最終更新日  April 12, 2022 08:11:03 AM
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