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October 24, 2022
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エピソード5

「どうし、て…。」

 そんな言葉を残して、木戸は崩れるように通路に倒れた。腹部に刺さったナイフをえぐるように抜き取ると、さぁっと血だまりが広がる。それを無表情なままみていた人物は、足音を消してその場を離れた。


 ぼんやりとカウンターの隅に座って、実里は生きた屍のようになっていた。時折店員の殿村が様子を伺っている。実里は、この店の常連だ。いつも仕事帰りに立ち寄っては、友人と楽し気にお茶をして帰るのだ。うら若き女性とは思えない今の姿は、誰の目にも異常だった。

 しばらくして、店長が実里に声を掛けた。

「実里ちゃん、どうしたの? 大丈夫?」
「え?ああ、はい」
「話して楽になるようなことなら、話してごらん。ほら、実里ちゃんのお気に入りのプリン、ごちそうするからさ」

 目の前に愛らしいプリンアラモードが置かれ、空洞のようになっていた瞳に、ほんの少し光が戻る。そして、はたと思い出したように胸元のペンダントを握り締めた。


「え?もしかして、浮気ですか!?」

 寄ってきたのはウエイターの殿村だった。

「その方が良かった…。今、ニュースになってるわ。おとといの夜から連絡がつかないから、風邪でも引いたのかと思って様子を見に行ったら、警察がいて…」
「それって、もしかして、道向かいのマンションの事件のこと?」

 実里の瞳にわっと涙があふれた。その時、一人の客が飛び込んできた。

「実里!やっぱりここにいた!大丈夫?!」
「静流ぅ…。どうして? どうして彼があんな目に遭うの?」
「実里、辛かったね。私、ずっと実里の傍にいるからね。」

 静流がぎゅうっと実里の肩を抱き寄せると、実里も耐え切れなくなって、静流の胸で号泣した。

「ああ、その役、僕がやりたかったのになぁ。」

 他の客のオーダーを運びながら、殿村が残念そうにぼやく。その後ろ姿をぎっと睨む静流のことなど、気づきもしない。



「少しは落ち着いたかな?ホットココア、どう?気持ちが落ち着くよ。お友達も一緒にどうぞ」
「ありがとうございます。実里、いただこうか」

 頷いてカップに手を掛けたところで、スマホが鳴りだした。警察からだった。

「静流、心配かけてごめんね。警察から、もう一度事情を聞きたいから来てくれって。店長さんも、ありがとうございました。」
「とりあえず、ココアだけは飲んでいきな。外は冷えてきてるし。」



「じゃあ、失礼します。」

 静流が付きそうと言ったが、それは辞退した。今は、甘えてしまってはいけない。そう思って、そっとペンダントを握り締めて一人店を出たのだ。

「実里ちゃん、大丈夫だろうか。芯の強い子だと思うけど、だから余計心配だよ」

 殿村が閉じられたドアを見つめてつぶやく。


 それから数日。実里は帰ってこなかった。警察の尋問は続いている。まるで彼女が犯人であるかのようだ。

 あの日、再び取り調べ室に向かった実里は、木戸の両親と対峙した。息子の突然の死に取り乱していた母親は、いきなり実里を捕まえて、「人殺し!」と叫んだのだ。

「あの子が他の女性と付き合うはずはないわ。だって、ちゃんと許嫁がいたのよ。主人の会社の取引先の社長のお嬢さんよ。それなのに…。あなた、息子に振られて、腹いせにこんなことをしたんでしょう?!息子は私たちにはとてもやさしい子だったのよ。返して!あの子を返して!」
「やめないか!」

 取り乱す母親を宥めていた父親が、実里の胸元に光るペンダントに目を止めた。

「君、そのペンダントは息子から?」

 急に問いかけられて、戸惑いながらも実里は答えた。

「はい、なんでも、自分の気持ちを特別な方法で閉じ込めてもらったから、ずっとつけていてほしいって言って…」
「嘘よ!そんなもの、渡すはずがないわ!」

 再び取り乱し始めた母親を父親が叱る。

「いい加減にしないか!この人だって、あいつのことを想ってくれていたんだ。あいつは、それだけ多くの人に愛されていたってことなんだ。若い娘さんが、あんなに目の下に隈を作ってやつれているんだ。それ以上責めるもんじゃない」

ようやく修羅場が落ち着くも、そのまま警察の尋問は続くのだ。

 やっとアリバイがはっきりして、開放された時には、もう、何もかもがどうでもいいとさえ思っていた。

 自分のアパートに帰りつくと、ちょうど配達の若者がうろうろしているところだった。

「あの、嘉村実里さんですか?」
「はい」

 若者は、ほっとした表情で、大きな箱を手渡した。

「何度か伺ったのですが、お留守で…。これ、中身が花束なので、焦りました。じゃあ」

 若者はあっさりと帰っていた。そのまま鍵を開けて、久しぶりの我が家に戻ると、ぼんやりと大きな箱を見つめながら、ここ数日の事を考えていた。
 壁にかかっているカレンダーには赤いハートマークがついていた。あれは、何のマークだっけ。そう思った時、不意に思い出した。あれは彼が遊びに来た時に付けたマークだ。そう、自分の誕生日だった。出張で当日は会えないけど、帰ったらお祝いしようって、笑っていた。

 テーブルに置かれた大きな箱には木戸の名前が記されていた。

「そんな遠くに出張なんて、行かないでよ…」

実里は重い腰を上げて、箱を開いた。中から出てきたのは、大きな花束と手紙だった。木戸らしい角ばった文字が便箋いっぱいに記されていた。

「帰ったらプロポーズするつもりだから、覚悟しておけだなんて…。お母さまのお見合い話は断ってる。そっか。」

 実里は手紙をそっと封筒に戻すと、胸に抱きしめた。

つづく





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最終更新日  October 24, 2022 09:44:46 AM
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