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November 19, 2022
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エピソード 19

「いつも気取っているのに、不細工で笑っちゃうでしょ?」

自棄っぱちの美月が言うと、きゅっと眉を寄せ、それでも美月の状態を確かめようと、志保はすっと席を立ち、美月の傍に駆け寄った。

「失礼します。 あ、やっぱりお熱がありますね。少し休まれた方がいいですよ。それと、アルコールが早く体の外に出てしまう様に、お水も飲まれた方がいいかと。」
「ああ、大丈夫です。それより今は、君の面接を…」

 迫ってくる志保を遮ろうとする美月の手を、志保ががっしりと握りしめて、真剣な顔で言う。

「私の面接なんかより、社長さんの体調の方がずっと大切です!お顔の色もよろしくないですよ。榊さん、こちらには社長がお休みになれる場所はありますか? 絞ったタオルと経口補水液などあればいいのですが」


 結局、美月はあっという間に医務室に寝かされた。榊が経口補水液を買いに行く間、志保に社長を見ていてほしいと頼まれ、退室する機会を失ってしまった志保は、自分のタオルのハンカチで美月の額を冷やした。

「ごめんね。こんな失態、初めてだよ」


 熱が上がってぼうっとした頭のままでも、その言葉は美月の心にしみ込んだ。新たなタオルを乗せる手をそっと捕まえて、夢うつつでつぶやく。

「ありがとう。今日、君がいてくれて、良かった…」
「あ…。」

 不意に手を握られ、志保は驚いたが、美月はそのまますやすやと眠ってしまった。

 しばらくして、静かなノックの音と共に、榊が入ってきて、絶句する。

「!!」

 その表情を見て、握られたままの手に思い至った志保が真っ赤になった。

「あ、あの。相当お辛かったようで、ありがとうとおっしゃったときに手を掴まれて、そ、そのままお休みになってしまわれました」
「ふふ。うちのわがまま社長が申し訳ないです。きっと入社決定ですね。もし、今日これからお時間があるようでしたら、もう少し社長の傍にいてあげてもらえませんか?」

 美月は夢を見ていた。幼いころから、その容姿のせいで目立ってしまい、誉めそやす者もいれば、妬んであらぬ噂をたてる者もいた。人を蹴落として見栄を張りたい者のなんと多いことか。
 外見だけがいいと言われるのが悔しくて、必死で勉強した。そうしているうちに、気の合う先輩たちにも巡り合えた。そんな先輩たちが、それぞれ人生のパートナーを見つけて自分から離れて行ってしまう。自分はまた、子どもの頃のように一人ぼっちになってしまうのか。



 不意に昨夜の藤森の言葉を思い出す。涼さん、僕は今、隙だらけだよ。こんな姿、周りの人間が見たら、あざ笑うのが落ちさ。

 冷たいタオルが額に乗って、ふいに意識を取り戻した。目の前には心配そうな瞳があった。

「あの、大丈夫ですか?タオルが落ちそうだったので、直してみたのですが。」
「あれ? ごめんね。看病までしてもらってたの? 榊はどうした?」

 足元から榊の声がした。


「ん?! あ、ごめん!」

 美月が自分の手元を見ると、しっかりと小さな手を握り締めていた。慌ててその華奢な手を離して、謝った。

「では、私はこれで失礼します。社長、どうぞご自愛ください。」
「ああ、すまなかったよ。君の入社は決定だから、明日、9時までに出社してね。みんなに紹介するよ」

 志保は丁寧にお礼を言って、部屋を出た。美月はまだ熱の残る頭でぼんやりと部屋の天井を見ていた。

「いい子ですね。真面目だし、変な色目を使ったりしないし」
「ん、そうだね」

 予想外のそっけない返事に、榊は思わず美月の表情を確かめた。いつも自分が最強だと強気な生き方をしてきた社長が、ぼんやりと考え事をしている。それは風邪熱のせいだけではなさそうだと、榊は思いを巡らせていた。

 翌日、美月の事務所に新しい秘書として志保が出社してきた。榊が皆に紹介して、一通りの朝礼が終わった。ただ、社長の席に美月は顔を出していない。

「おかしいな。社長は間違いなく出社すると思ったのに。」
「あの、もしかして、まだ体調が優れないのでしょうか?」

 志保は空室になっている社長室の扉を見つめている。先ほどから自宅には電話を入れているが、コールだけが響いている。いったいどこに行ったんだろう。どんなに自由にしていても、こういう場面は外さない人なのに。榊の心に、じわりと嫌な予感が広がる。

つづく





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最終更新日  November 19, 2022 10:05:08 AM
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