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November 22, 2022
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エピソード 21

 ここは、どこだろう。気が付いたときには、目隠しされて腕を縛られていた。しんとしているのは、誰もいないからか。

 美月は出来るだけ耳に意識を集中させて、情報を得ようとしていた。微かに香る皮製品の匂いと、悪趣味な葉巻の匂い。急に音が聞こえたと思えば、救急車のサイレンだった。微かにぼやけて聞こえくる音は、普段の仕事場に似ているな。
 肌がひりひりと痛むのは、暖房のない場所にいるからか。しばらくすると、微かな人の気配が、階下から聞こえたが、すぐに出かけたのか再び静かになった。

 昨日、事務所を出る前に、風邪薬を飲んでおいたのがよかったのか、今朝の体調は空腹以外、万全だ。それにしても、いったい誰がこんなことを…。

 遠くから足音が近づいて、美月はとっさに眠ったふりをした。

「こちらでございます。とりあえず拉致しただけですが、これからしっかり調べ上げる予定です」
「変な薬など使っていないだろうな。普通の状態ではないのだから、うかつなことはするなよ」
「はい。承知しております。もうすぐ検査官が来る頃ですので、しばらくお待ちを。」



「いやぁ、それにしても、まさか本当に脳神経とデータをつなぐことができたなんて、私には想像もできませんよ」
「余計なことをいうな!」
「いや、こいつ、まだ寝てますよ。呑気なもんですね。」
「手荒なことはするなよ。問題はどうやってそのデータを抜き出すかだ」

 美月の眉が思わずピクリと動いて、二人は口を閉ざした。その時、ドアをノックする音が聞こえ、もう一人部屋に入ってきた。

「お待たせしました。」
「どうやら起きてしまったようなので、気を付けて確認してください」

 従者と思しき男が後からやってきた検査員らしい男に言うと、検査員は、つかつかと近くまで来ると、いきなり美月の髪をねじ上げた。

「うっ!」
「ああ、失礼。あなたの脳にデータを入れられると聞いたのでね。どこかに差込口があるはずですよね」

 検査員は含み笑いをもらして、美月の髪をバサバサとひねり上げて調べた。


「すまないね。君はいろんな会社のコンサルをやっているじゃないか。その小さな頭の中に、いろんなデータが詰まっているんだろ?独り占めしないでちょっと見せてもらいたいんだよ。」

 やっぱりか。美月にはうすうす分かっていた。あの手術を受けてから、どうも周りに視線を感じるようになった。貴絵が生きていたら、他の人間を手術室に入れることはなかったのだが、どんなに調べて選んだ人間も、後から金を積まれたり、誰かを人質に取られたら、口を割ってしまう。

「おかしいなぁ。脳にデータを送るなら、頭部にインプットする先があるはずなんだが…」
「残念ですが、あなたたちには見つけられないですよ。もし、見つけたとしても、今の一般的な技術では対応できない。諦めて解放してください」
「なんだとぉ!」



「やめないか! いや、失礼した。君が素直に私の希望するデータを掲示してくれると言うなら今すぐにでもやめさせるんだが」
「こんな手荒な真似をするぐらいです。当然、真っ当な仕事に使うわけではないでしょう?」
「まったく、憎らしいほど頭がいいね、君は。」
「申し訳ないですね。バカなふりをするのは僕のプライドが許さなくて。はっきり言いますが、絶対に見つけられないようにしているので、この行いは徒労に終わります。僕が作った特殊な装置がないと、アウトプットできない仕組みです。
 それから、この手術に関わった脳科学者や外科医以外にも、弁護士や警察とも連携されていますので、あまり長く僕を拘束すると、彼らはあっという間にここを嗅ぎつけてしまうでしょう。」

 目隠しされていても、その場にいた人間の緊張が伝わった。

「どうです。ここで取引しませんか? このまま僕をどこかの公園にでも座らせてくださったら、今回の事はなかったことにしましょう。僕だって、簡単に拉致されたとなると、管理能力を問われかねない。そして、あなた方の顔も分からないし、今僕がどこにいるのかもさっぱり分からないので、あなた方を特定するのは不可能です。」

 きっぱりとした発言に、辺りは静まり返った。奥歯をかみしめて、悔しそうにこぶしを握っている姿が、目に浮かぶ。あと一押し。

「ああ、そろそろ皆さんが出社される時間じゃないですか? 今、目の前にいらっしゃる方、それなりの肩書をお持ちですよね? 早く連れ出さないと、一般社員の目に触れてしまいませんか?」

 しばしの沈黙の後、男は観念した。

「分かった。だがせっかくなので、少しだけ悪あがきさせてくれ。おい、あと10分だけ調べてくれ。それでも見つからなければ、公園まで連れて行ってやれ」
「え、会長!?いいんですか?」
「彼の言うことももっともだ。私が浅はかだった。」

 そのまましばらく体中を調べていたが、時間が来たのかその作業はすっと終わった。

「会長、私は、会長の判断が正しかったと思います。誓って、今日の事は口外いたしません。では、私はこれで失礼します。」

 検査官が退室していった。

「では、公園まで連れて行ってやれ。君にも嫌な仕事をさせたな。」
「いえ、ではお連れします。」

 従者は美月の体を支えて立たせてやると、そのまま部屋を出てエレベータへと進んだ。美月の頭の中で、エレベータの速度と時間が計算される。32階、辺りか。。

 ひんやりとした人気のない空間にでて、しばらく歩くと、車のドアを開く音がした。従者は意外にも丁寧に美月を座らせ、車を走らせた。

「会長さんに、お伝えください。もし、お困りでしたら、次はコンサルタントとしてお会いしたいと。この手術を受けるときに開発した仲間で話し合ったのです。絶対に悪用されないように、十分に気を付けること。もし、技術が進んで暴かれそうになったら、命を絶つ覚悟でいること、と。」
「そうでしたか。うちの会長は従来そんな悪いことをする人ではないのです。こんな仕打ちをされて、すんなり信じられないでしょうけどね。あなたの聡明さに我々は救われました。」

 車を止めて、美月をベンチまで誘導すると、従者は後ろ手に縛っていたロープを緩めた。

「すみません。痛い思いをさせて。ですが、どうか私が去るまでは目隠しのままでお願いします。では、失礼します。」

 そう言い残して従者は車に戻っていった。ほどなく車が去る音がして、美月はそっと目隠しを外した。

「まさか、あの会社がこんなことするなんて…」

 美月には、すでに会社が特定されていた。ビルの階数、車の移動方向、そして、現在地。それだけで十分だった。

つづく





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最終更新日  November 22, 2022 04:39:29 PM
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