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November 30, 2022
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エピソード 26

 地下のショットバーに男が入ってきた。静かに流れるジャズに満足げに頷くと、慣れた様子でカウンターに座る。

「やぁ、久しぶりだね。藤森君。」
「ミスターK、今日はご足労頂いて申し訳ないです。ちょっと調べてもらいたいことがあって…」

 藤森がバーテンダーに目配せすると、すぐに別室が用意された。二人は席を移動して、向かい合う。

「アメリカ国籍の企業のことなんです。スリーピングベアという寝具専門店をご存知でしょうか?」
「ああ、よく知っているよ。各国に支店を広げているね。いや、待てよ。そういえば、何か最近聞いたような気がするな。」

 瞼を閉じて少し考えた後、見開いた瞳はエメラルドのように輝いていた。

「思い出したよ。そう、スリーピングベアは今、要注意企業だ。先月ちょっとした事件があってね。経営陣が総辞職して顔が挿げ変わったんだ。ところがどうも今度の経営陣の方がキナ臭い。寝ているくまを起こしてみたら、くまのプーじゃなくてグリズリーだったって訳さ」


 藤森は、いきなり身振り手振り説明するこの金髪のイケオジにやや引いてしまった。

「うむ。それなんだが、実は今、捜査中なんだ。日本支社でもなにか動きがあったのかな」
「いや、はっきりと掴んだわけではないのですが、ちょっといろいろありましてね。また、動きがありましたら報告します。そちらの情報もいただけると助かります。」
「了解だ。時に、本田君はどうしている?」

 ちらっとイケオジの様子を伺いながら、ふっと思い出し笑いをして、脳科学者は水割りに口をつけた。

「随分とお気に入りの様ですね。そういえば、しばらくお目にかかっていないですね」
「いやぁ、いつ飲みに行っても言いがかりをつけてくるんだよ。負けん気が強いというか、なんというか。だけど、あのやり取りがまた楽しくてね。そうだ。今回の事を調べさせようか。少なくとも彼ならスリーピングベア・ジャパンの事なら嗅ぎつけそうだと思わないか?」
「その辺りはミスターKにお任せします。先輩なら、警察関係にも友人がいるらしいので、うまく調べてもらえそうですしね。」

 二人はそのまま杯を重ね、それぞれに帰っていった。

 自宅まで戻った藤森は、美月に連絡を入れた。突然の体調不良案件で、うまくこなせているのか気になったのだ。

「美月、仕事は大丈夫だったか?」

「そういえば、食事はどうしてる?デリバリーもできなかっただろ?」
「ああ、それなら大丈夫。新人の三田村さんにお願いして、届けてもらってるんだ。」

 藤森は、美月のビルの前で心配そうに立ち尽くしていた志保を思い出していた。

「そうか、あの人にまで迷惑かけてしまっているんだな。」
「まあね。それがなかなか素朴でうまいんだよ。白和えとか、サバの味噌煮なんて、食べたことなかったしね。」

「はぁ?どうして? 作ったものを持って来てもらってるだけだよ。材料費もこちら持ちだし、時間外労働として賃金も払ってる。それがどうかした?」
「そうか…。」

 心配そうに、寝そべっている美月を見守る姿が思い出されて、どうにもやるせない。

「しかし、急に頼まれて、食事の支度をしてくれる女性なんて、なかなかいないぞ。秘書の仕事内容に社長の食事の支度は含まれないんだろ?報酬を支払えばいいという問題ではないんじゃないか」
「ん、まぁ、感謝してるよ…。」
「そうか。まあ、あと2日だ。がんばれよ」

 電話を切ると、美月はしばらく考え込んでいた。あと2日。そうか、あと2日分しか、あの食事が届けられないのか。どこかに家庭料理の店はあっただろうか。そんなことを考えながら眠りについた。


 2日後、秘書室にやってきた志保を待ち構えていた榊が、声を掛けてきた。

「ねえ、三田村さん。もしよかったらなんですけど、今日の晩御飯は私の分も一緒に作ってもらえないでしょうか?この1週間、私たち良く頑張ったと思うんですよね。だから、打ち上げをしたいと思ったんです。1週間も毎日おいしそうな匂いばかりかがされて、よく耐えたと思うんですよね。あ、もちろん社長が嫌だっていうなら、私たちだけで打ち上げしましょうよ。私もワインか何かを買ってきますから。」
「あの、榊さんって、奥さんがいらっしゃるのかと思っていたのですが…」
「いえ、独身です。毎日コンビニ弁当ですよ。そう、家庭料理に飢えていますとも!」
「そうだったんですね」

 その時、秘書室に美月が現れた。

「おはよう。なんの話?」
「おはようございます。あの、榊さんが、この1週間の私たちの頑張りを労って、打ち上げをしようと提案してくださったのです。社長は、こちらでご一緒に晩御飯を召し上がるのはいかがですか?」
「え?ここで?3人で?」

 眉間にしわが入り、腰が引けている。志保はまずかったと後悔した。

「あの、すみません。余計な事でした。社長の分は、ちゃんと一人分作ってお渡しします。」
「そうですね。じゃあ、私たちはここでお疲れ様会をしましょうか」

 榊の嬉しそうな顔に、胸がチクりと痛んだ。確かに二人には負担を掛けたが、社長の自分を抜きで二人だけで打ち上げとはどういう了見だ。美月は、自分でも何が嫌なのか分からないまま反対を唱えた。

「社長!いくら社長でも、私たちが一緒に食事することに反対する権利はありませんよ。この1週間、おいしそうな匂いばかりかがされてきたんですから、最後ぐらい、私にも食べさせてほしいのです。三田村さんの了承はいただいています。」

 いつになく真剣な顔で訴える榊に驚いた美月は、仕方なく秘書室でお疲れ様会をすることを許可した。

「しかたがないなぁ。じゃあ、僕も参加するしかないだろう」

 拗ねたように言う美月を見て、志保は恥ずかしそうに俯き、榊はにやりと口角をあげた。

つづく





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最終更新日  November 30, 2022 08:12:11 AM
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