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August 28, 2023
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おだやかな風が、カーテンを揺らせてキャシーの枕元まで流れてくる。髪が頬にかかってくすぐったい。そんな風に思いながらふと目を開けると、見たこともない真っ白な壁の部屋に横たわっている自分に気が付いた。

「あれ?ここはどこ?」

 声を出そうとすると、信じられないほど掠れていた。身体を起こそうにも鉛の様に重くて動かない。ほのかに優雅なバラのような香りがしていて、キャシーは深呼吸した。そっと視線だけで周りを確かめる。本当にバラの花束が枕元の花瓶に生けられていた。そして、なぜか白い尻尾のようなものが自在に足の傍を動き回っている。

 静かにドアが開いて、入ってきたのは母親だった。

「おかあさん。」

 かすれた声で呼びかけると、目を見開いて駆け寄る母の姿があった。

「キャサリン! 気が付いたのね!ああ、良かった!体の具合はどう?どこも痛くない?ちゃんと見えている?母さんの声も聞こえているの?」

 質問攻めに眉尻を下げて小さく笑った。

「大丈夫。体がとても重くて動かないけど、痛みはないよ」


 目に一杯涙をためて喜ぶ母の手に、なんとか自分の手のひらを乗せて言う。

「お母さん、心配かけてごめんなさい。」
「いいのよ。こうやって、また話せるようになったんだもの。」


 その頃、病院の少し手前の花屋の前で、青年が足を止めていた。

「やぁ、今日もお見舞い? 今朝は、ピースって種類が良いのが入ってるよ。ほら、やさしい黄色にふちがピンクなんだ。」
「じゃあ、それを花束にしてくれ。」
「まいどあり。」

 店員は、慣れた手つきできれいな花束を作りながら、ぽつりと言う。

「お客さん、長い付き合いになっちゃったね。うちは有り難いけど、早く元気になってほしいよね。」
「ああ。まだ、目が覚めなくてな。」
「そっかぁ。彼女さん、治癒魔法ができるって話しだったよね。倒れるまで人のために働くなんて、ホントに立派な人だよ。そういえば、そろそろ結界の修復が終わるそうだよ。彼女さんが元気になってくれたら、ゆっくりできるね。」


 青年は花束を受け取ると、その明るい花色に彼女の笑顔を重ねて悲し気に微笑み、病院へと向かう。その後ろ姿に、店員は声を掛けた。

「彼女さんが元気になったら、うちに寄ってよ!お祝いのお花をプレゼントさせてほしいんだ。」

 青年は振り向いてそっと手をあげると、再び歩き出した。


「キャシー、あなた、自分の姿に気が付いている?」
「え?どういうこと?」



「ええ!なにこれ?猫耳カチューシャ?」
「何を言っているの。ハッキリ言うわね。あなたには猫の獣人の血が混じっているの。私の母が猫の獣人だったのよ。」

 ぽかんとした顔で母の姿を見ていたキャシーに、先ほどから目の端に見えていた白いしっぽがそうだそうだと頷くように振れている。

「貴方は、先の魔獣乱入の戦いで怪我した人をたくさん治癒してあげたんだけど、最後にとても容体の悪かった男の子を治癒している最中に魔力を使い果たして倒れてしまったのよ。連絡をもらった時は、生きた心地がしなかったわ。魔力が無くなるってことは、命が亡くなるってことなのよ。だけど、あなたの中の獣人の力が、なんとか命をつなぎとめてくれていたの。」

 そこでようやくジェフの事を思い出したキャシーは、すかさず母に尋ねた。

「それで、その男の子は無事だったの?」

 そんな娘の様子を見て、ふっと笑顔になった。自分の命の事よりも、彼を心配する娘は、恋をしているに違いない。

「貴方の周りにあるお花、お見舞いの度に持って来てくれているわ。さぁ、お医者様にちゃんとみてもらいましょう。」

 すぐにやってきた医者に確認してもらうと、念のため翌日に検査を行って、大丈夫なら退院できると告げられた。

「本当に良かったわ。じゃあ、明日、退院の用意をしてくるわね。」

そっと頭をなでると、母は安心して帰っていった。

 一人病室に残ったキャシーは、再びうたた寝を始めた。小さなノックが聞こえて目を覚ますと、静かにジェフが入ってきた。まだ意識が戻っていないと思っているのか、そのまま手に持っていたバラの花束を空いている花瓶に生けると、ベッドサイドにそっと置いてベッドの横にスツールを引き寄せて座り込んだ。

「うわっ!」
「ふふふ。お花をありがとう。ジェフが元気そうで安心した。」
「え…?う、うそ。」

 みるみる目を見開いて、立ち上がると、壊れ物に触るようにそうとキャシーの手を握り締めた。

「キャシー…?俺が分かるのか?」
「うん、分かるよ。」
「具合は悪くないか?」
「うん、身体は重いけど、大丈夫。それよりジェフの体調はどうなの?」
「見ての通りだ。」

 こんなに弱ってしまってもまだ自分の体調を気にしてくれるキャシーに、眉を下げて泣き笑いの顔でその手に頬擦りした。
 しばらくすると、静かなノックが聞こえ、パットが入ってきた。

「ああ、もう再会できたんだな。キャサリンさんのお母さんから意識が戻ったと聞いたんで、伝えようと思ったんだが…。なんだ、お邪魔だったかな。ほっほっほ」
「あの、あなたは?」

 戸惑うキャシーに、ジェフが紹介した。

「州長のパトリック・スミスさんだ。俺の父親の親友で、父親代わりでもあるんだ。」
「ああ、だからジェフはあんなに一生懸命討伐に力を入れていたのね。」

 パットは自分もスツールを引っ張り出して、座り込むと、今回の事態について頭を下げた。

つづく





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最終更新日  August 28, 2023 08:25:17 AM
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