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トマソン大統領は、緊急安全保障会議中に予測しない出来事が次々と起こるのを最初は多少いらだっていましたが、今はむしろ楽しんでいます。「ありがとう、クリサーラ、ザビエス、途中で話をさえぎる結果になり申し訳ない。エリーゼさんがボントスを抑えられる確率はどのくらいですか」「大統領、その答えは私も知りたいです。彼女と話した時間は短く、彼女が海底王国で持っている力や政治力は未知数です。しかしその賢明さと誠意を私は評価しますよ。カメぱっぱは、どう感じたか教えてくれないか」 いつの間にかクリサーラの膝の上に移動し、トロトロ、うつらうつら、こっくり状態のカメぱっぱ、急な指名に首を上げました。「あ、あの人は、海底王国だけの平和だけでなく、地球全体の平和を求めているように感じたパツパ。彼女に味方する人は少ないかもしれないが、ザビエス、忘れてならないのは、あの方の相棒と称するものに強力なのがいるよ」「人類が考えるAIよりも数百倍進化したマザーだね。海底王国の情報、管理を一括して運営するスーパーコンピュータに内蔵されていて、感情を持ち、言葉も話すからエリーゼさんにとっては、貴重な戦力です」 トマソンがやや言いずらそうに言葉を紡ぎます。「そのマザーがボントス側と通じると、エリーゼさんは間違いなく失脚しますね。その心配はありませんか」 広間右隅にあった60インチのモニター画面が突然明るくなり点滅します。青色のバッグに50代と見られる黒人男性が映し出されました。革張りの豪華なソファにゆったりと座り、カメラを見つめています。威厳のある態度と落ち着いた雰囲気、教養がほとばしるムードは、観ている人々に安心感を与えました。「諸君、勝手に押しかけて申し訳ない。トマソン大統領が私を侮辱する気がなくても今の発言をスル―する訳にはいかないので、私の真意を伝えます。先ほどから話の中に出ていた海底王国の<マザー>が私です。常に王国の幸せと平和を願っているのでエリーゼと、同じ考えですよ。だから地上侵略を企むボントスとは、意見を異にするのです。まずエリーゼの味方である証拠にボントスが仕掛けた盗聴器の場所を教えます。ホワイトハウス内と、ニューヨークの国連本部、主要な建物にある詳細な位置とその形態をCAD図面のデータとしてペンタゴンのホストPCに送付しました。大統領、私があなたサイドである証拠にプレゼントをもう一つしましょう。スタッフのご子息が誘拐され、脅迫されていた件は、その首謀者と仲間の住所、どこにご子息がいる場所、地図をFBIの本部にあるPCに送付しました。すぐに手配してください。さて、一方的に話す私の無礼をお許しください。海底王国から海上にあるブイまで電波を飛ばし、そのブイからあなた方の人工衛星をお借りして流しているので、長時間の出力は難しいのです。大統領、これからもエリーゼと私、マザーは、地球平和を追求します。もし、人類がそれに反する行為をすれば、その時、私たちは敵味方になるので覚悟して下さいね。それでは、失礼する」 モニターは点いたとき同様、突然、暗くなります。 つづく
2021/03/31
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クリサーラに先を急がせるトマソンの顔に緊張の色が浮かびます。「なんでしょうか、どうか遠慮なくおっしゃってください」「ブッチャーは地底から地上へ侵略するにあたり、長期間、ニューヨークだけでなく、パリ、ロンドン、モスクワ、北京、東京の何ヶ所もの高層ビルに電波盗聴器や集積装置を取り付け、人間社会の情報を収集し地底で分析、解析した上で進出をはたしたのです。その内容は人類の心理学や行動学、倫理観など広範囲にわたりました。当然、海底人の情報収集能力は、そのはるか上をいくはずです。このホワイトハウス内にも人間が発見できない微小な盗聴器や、電波集積器などが数多く仕掛けられていると思うのが自然です。過去も未来においても競争や戦争状態になったとき、一番重要なのは、情報ですからね。トマソン、これからは重要な事柄を決めるときには、地下深くにある核シェルターでの会議を勧めます」「わが軍の専門スタッフが定期的に調べていても、それでも不十分と言われますか」「失礼ながら人類よりも進んだ科学を持つ海底人が、盗聴器などを仕掛けたらそれは絶対に見つかりません。それよりも、トマソン、あなたの腹心の閣僚にも・・・・残念です」「クリサーラ、なんでしょうか、何を言われても驚きませんから」「国家安全保障会議、首席補佐官、ヨハン・ビューレン、あなたには心から同情しますが、机の上にある万年筆から室内の音を吸収する微量な電波が聴こえます。先ほどあなたの脳に侵入したら・・・17歳になる海軍予備校生のビルが誘拐されて6日経っていますね。海底人ボントス派に洗脳された人間に拉致され、彼らの命令に従わないとご子息を殺すぞと脅迫されています。ですから、最近開催した安全保障会議の内容は、向こうに筒抜け状態です」 クリサーラの発言の途中で入口近くにいた衛兵たちに、ヨハンを取り押さえるよう指示を出そうと立ち上がった大統領、その前にクリサーラが声を発しました。「トマソン、やめなさい。彼を拘束すればこの場で自決する覚悟です。左内ポケットにプラスチックの小型拳銃が入っているから注意してください。ヨハン・ビューレン、あなたの息子さんを救出する作戦を優先しましょう。これまで来たメールから相手の居所を割り出し、その者を泳がしながらどこがアジトなのか探るのです。息子さんを海底までは連れて行けないからそのアジトか周辺に必ず居ます。それから別れた奥さんに、このことを知らせる必要はありません。あなたの負担が重くなるだけですからね。さあ、あなたが心から尊敬するトマソンと協力して、この窮地を切り抜けるのですよ」 閣僚が並ぶ席で大統領から6番目に座っていたヨハンは拳を握り、椅子から立ち上がりました。「大統領、申し訳ありません。すべてクリサーラさんがおしゃった通りです。30秒前は自決するつもりでしたが、今の言葉で目が覚めました。もしお許し願えるなら貴方の命令で海底人の手先になった者を探り出し、息子を取り戻してよろしいでしょうか」 トマソンも立ち上がり笑顔を浮かべます。「ヨハン、誰にも弱みはある、私にもね。まずメールの送信先を調べ出すのはFBIにやってもらい、その後はCIAと合同でアジトを探る。君もそのチームに加わりなさい。クリサーラ、ここにいる閣僚たちの頭の中はもうよろしいでしょうか?」 ほほ笑みを浮かべながらクリサーラは20㎝ほど宙に浮かびます。「みなさんが急にそわそわしていますよ。大丈夫、他の方は、あなたに忠誠を誓った時と変わりません」 大統領がヨハンに尋ねました。「ヨハン、そういえば机の上にあった万年筆はどうした」 慌ててて机の下を探すヨハンにクリサーラが声をかけます。「みなさんの視線がトマソンに集中したとき、万年筆は私の手元に飛ばしました。いつまでもここの会話を盗聴されたくないので、出力をゼロにしたのです。だからといってこの部屋が完全に安全だとは断言できないので重要な発言は控えてくださいね」 つづく
2021/03/27
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巨大なソファに座りながらザビエスは、応えます。「大統領、エリーゼさんとの会見はまだ1回だけです。しかし彼女の利発な言動から推測すると、ボントスとの交渉は、かなり難しいようです。なぜならすでに結論ありきの会談と予測され、人類の意見など聞き入れないように感じます。それは海底人の持つ高度な科学力と文明を盾に、上から目線の態度だからです。先日送られて来た手紙の文面からも、それが読み取れますね。お前たち人類は海洋汚染の責任があるから、海底人の支配下になるのは、当然のことだと思っているのです。はっきり申し上げてボントスとの交渉は、すぐに決裂すると確信します」 トマソン大統領は、ザビエスの隣にいたデルフミュームに顔を向けます。「デルフミューム、ザビエスの話を聞いて、何を感じますか」「大統領、わが赤膚族の異端児、弟のブッチャーは知能、科学力が優れ、人間社会を瞬く間に制圧しました。その彼を私たちは第三地下層の岩牢に閉じ込めましたが、海底人は、そこから難なく脱出させた上、ザビエスの見聞では、我々よりもはるかに高度な文明と科学を持っているようです。私が衝撃を受けたのは、敵を倒すときに傷つけるか、殺すかを考えるのに彼らは相手を無力化する単純な手段、目と耳を一時的にダウンさせるということです。知的生命体の最大な情報網、目と耳が役に立たなければギブ・アップするしかありません。これは被害者や制圧される者たちの憎しみと、復讐の連鎖を最低限に抑える効果的な方法でもあるのです。その上、重力を自由にコントロールする兵器があるとすれば、核兵器、電子パルス砲などは使い物になりませんよ。もし使用したならば、その場で自爆し破壊されるか、発射したミサイルはブーメランのように自軍に戻ってくるでしょうから。大統領、人類と赤膚族が協力して海底人に闘いを挑んでも、勝てる確率は・・・・10%もないと思います」「率直な意見をありがとう、デルフミューム。それでは白肌族女王、クリサーラさんのご意見をお訊きかせください」「デルフミュームやザビエスの考えを尊重します。海底王国の場所を特定でき、先制攻撃を仕掛けようとしても、それすらも不可能でしょうね。トマソン、結論を先に言いましょうか」「お願いします。クリサーラ」「ボントスが要求する事項に誠意を見せ、回答を拒否してはいけません。回答期限を守り、海洋汚染防止策と浄化する具体案を示し、先方が要求する期限が守れない時には、その理由と実行可能な期日を記します。相手に難癖をつけらるような内容は避けてください。ザビエスが最後に交渉は、すぐに決裂するとの予想ですが、それでも卑屈なくらいに先方の要求をのみ慈悲を乞う態度をとるのです。そうすればエリーゼさんという私たちの味方が、側面での支援がやり易くなると思うのですが。もちろんこの手口は時間稼ぎで、その間にボントスのウイークポイントを探り、そこを突く方法を考えるのです。交渉する場所が海底王国なら人類にとっては最適ですが、あちらは海上か地上を選ぶでしょう。なぜなら自分たちの基地へ招待すれば、内部の空気成分や人口構成、先端技術、管理方法など多くの情報が知られてしまうからです。地上に来た彼らを捕まえようとするならば、向こうの思う壺です。それを口実に短期間で人類は制圧され、海底人の支配下に組み入れられるのは間違いありません。ウイークポイントを見つけたとしても短絡的に考えず、じっくり熟成させ効果的な材料を見つけるのです」「それは彼らが乾燥した空気に弱いからといって、単純に温度を上げた部屋におびき寄せるなど稚拙な作戦はするなということですね」「そうです。海底人の知能を過小評価してはいけません。私たちの考えは全てお見通しだと思うのです。それに・・・言いずらいのですが」 つづく
2021/03/23
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トマソン大統領が口を開きます。「もしボントスがエリーゼさんの説得に逆らって、彼の思う通りに人類を支配しようとするならば、我々がそれを止めるチャンスはないということですね」「ブッチャーたちが使用した電子パルス砲や光線銃よりも進化した兵器を使用されれば、残念ながら食い止められないでしょう。エリーゼさんが教えてくれた兵器は、我々赤膚族も考えつかない窮極のものでした。そのひとつが重力制御装置で、これは固体だけでなく水などの液体、先日、太平洋での海面上昇もそうでしたが、重さのある全ての物の重力を自由にコントロールするのです。大きな建物さえも宙に浮かべます。人間族のミサイルや核兵器も役に立たなくするでしょう。彼らの海底王国が地中海のどこにあるのか、それが分かってそこへ魚雷を発射しても、進行方向を変えて自爆させるなど簡単にできるのです。さらに彼らの兵器の中で人間族が致命的な打撃をこうむるのは、視覚、聴覚を一瞬にして奪い、その時間すら一方的に決められるのです」「ザビエス、それを電子パルスと同じで都市の上空で爆発させれば、その下にいる数百万人の目が見えなくなり耳が聴こえなくなるということですか」「そうです、大統領、その状態が3日とか1週間続くとパニックを通り越しお互いを殺し合うか、自殺する人が続出します。通常の爆弾は、破裂し、その周囲の人々を殺傷しますが、その瞬間でけりが付きます。この兵器は持続し仮に目や耳が正常に戻っても長い間、後遺症に悩まされるでしょう。通常の兵器よりも、残酷な兵器と言えるかもしれませんね」「ボントス派が我々との講和を無視して、人類支配を決めているとすれば、私たちはエリーゼさんの協力を仰いで断固戦うか、ボントスへの慈悲に頼る2つの選択肢しかないのですね。サビエスのお話だと人間の軍事兵器などは、彼らにとっては、子供のおもちゃ以下でしょうから。頭を下げながら交渉して人類のプライドを守るのも手ですが、それよりも対等にテーブルにつきたいものです。彼らのウイークポイントがあれば教えてください」「これもエリーゼさんが教えてくれましたが、海底人は乾燥に弱く、常に湿度は60%以上に保つそうです。そうしないと皮膚がパサパサになって長時間その状態でいれば、命の危険にも繋がるそうです。だから室内だけでなくドーム基地内も湿度と温度を管理しています」「最適温度は訊いていますか」「いいえ、それでも暑い温度は必然的に弱そうです」「すると、ボントス派が我々に対する要求は筋が通っている気がします。海洋汚染は地球汚染と連動し、結局は地球温暖化と関係があるので、彼らが居る海底王国にもその影響が出ているのでしょう。そればらば尚更、協力し合って汚染を止め、海を浄化しなければなりません。ザビエス、ボントスは、少しでも人類と妥協する気はあると思いますか」 つづく
2021/03/19
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アメリカの49代目大統領ジェームス・トマソンは、彼らの帰還を最優先事項として手配します。地中海から深海潜水艇を回収してから4時間24分後には、ホワイトハウスに近い海軍基地へ直行する大型輸送機を飛ばしました。 ザビエスとカメぱっぱは、タラップを降りると同時に左右を武装した海兵隊に守られトラックでホワイトハウス正面に連れて来られます。前に来たときと違うのは、歩く道筋に真っ赤な絨毯が敷き詰められ一人と一匹が歓迎されていたことです。1階の大広間に入ると、ザビエスにデルフミュームが近づき優しく肩を抱き耳元でささやきました。「お帰り、ザビエス。大好きな摩天楼の一室をリザーブしていますよ。ここでの会議を早く終わらせて、休んでね」 軽くうなずくザビエスの隣では、カメぱっぱが生田緑地の動物から荒っぽく歓迎されています。頭を叩くヨシコとギンコ、甲羅の上を飛び跳ねるドールちゃんを尻目に桐山清十郎が堅苦しい挨拶をします。「ご苦労でござる、カメぱっぱどのが海底に潜り無事にご帰還できたのは祝着至極ですぞ、あちらにいる大統領閣下にご挨拶を」 トマソン大統領がスタスタ歩いてくると、声をかけました。「あちらの広間で会議を開くので、諸君も移動してください。ザビエスとカメぱっぱは、長旅で疲れているのにご苦労だが、君たちのもたらす海底王国の情報は、私たちの未来を左右する貴重なものになるのです」 広間には大統領の閣僚たちが椅子に座らず立って一同を迎えます。クリサーラとデルフミューム、それに生田緑地の動物たちが合流し指定された椅子や床に勝手気ままに座りました。 大統領の隣に巨大なソファが用意されザビエスが腰を降ろします。カメぱっぱは、ザビエスの左肩口に座って足をブラブラさせていました。 トマソンの手には、エリーゼから送られてきたメールコピーが握られています。「この中に海洋汚染を早急、かつ効果的に浄化する方法が書いている。どちらも斬新で人類が過去において考えられなかったやり方です。それでも実現するには準備期間で約1年、実行するまでは2年は必要でボントスが要求する1年なんかは到底無理です。ザビエスとカメぱっぱとは、先ほどここと輸送機の無線を使い短時間の会話をしました。海底王国の様子とエリーゼさんという方との対談を詳細に訊きましたので、これは改めて報告書としてお知らせします。それでは、これからの対応を早急に練らないと手遅れになるので、会議を始めます。私が進行役になって進め、指名した人や動物は発言して下さい。まず海底王国は、2つの連合国家で成り立ち、今はボントスという国王が主流派で我々に対する要求を作成、期限内に彼らが納得する回答を示さないと、なんらかの実力行使を行うという脅迫は、残念ながらブラフではないようです。実際に海底王国へ潜入し実質ナンバーの地位にいるエリーゼさんと直接会った印象をザビエスに尋ねます。彼らが一枚岩ではないならばそれに越したことはありません。それに人類を支配下に置くとすればどのような作戦と武器を使うのか、判る範囲で説明してください」 大きなソファは赤膚族用に急ごしらえしたのでしょうが、クッションが硬いのでザビエスは背もたれに背中を押し付けています。人間族13名とデルフミュームに生田緑地動物連合の面々をゆっくり見回しました。「私の肩にいるカメぱっぱと一緒に海底王国に行って、先ほど戻りました。これから話す内容が事実と違っていたら、彼に指摘してもらい正したいと思います。まず最初に言うのは、あなたがた人類が海底人と闘ってもまず勝ち目はないということです。ただし海底人にも弱みはあるのでその点は最後に話しましょう。ボントスの腹は人間族に実現不可能な難題を突き付け、それを口実に地上に進出し、自分たちの支配下に置くのが目的です。しかしエリーゼさんのように現在の平和を保ち、侵略に反対する人もいるのです。彼女からペンタゴンのコンピュータに海洋汚染の防止策と浄化方法などが送信されていますが、大統領、確認していますね」「私の手元にコピーはあるが、国防総省のスタッフが内容を分析し、それを要約したレポートが後できます。この会議中に間に合えば皆さんの手元にも渡されるでしょう」「エリーゼさんの話を要約すると、ボントスの要求する期限までに海洋浄化は無理だが精一杯の努力をし防止策のスケジュールを出せば、自分たちはそれを口実に進出を企てるボントス派を抑え込む自信があるそうです」 つづく
2021/03/15
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右側にややカーブしている廊下で、カメぱっぱを肩にかつぎ前へ進むザビエス、あとわずかで円形のエレベーターにたどり着くとき、前方から話し声が聞こえました。エリーゼから貰った遮断シートを広げ、体に包み歩いてくる人の通り道を避け、うつ伏せになります。海底人の男女が声高に話しながら近づきます。シートの中に隠れている一人と一匹、互いの顔を見つめ、彼らが通り過ぎるのを待ちました。 横になっているザビエスの脇を声が響き、すぐに遠ざかります。「プッウ~~~」 大きな音がしてカメぱっぱが謝ります。「ごめんパッパ」 ザビエスが体を震わせ鼻を抑えました。「臭い、なんでこんな時に」 小さな声で怒ります。まだ海底人の足音がしているのでシートを外す訳にはいかないのです。「臭い、カメぱっぱの屁は臭い」「そんなことないよ、おまけにもう一発、ブッウウウウ~」 我慢できずにザビエスはシートをはがして立ち上がりました。「もう、これを被っているときは、だめパッパ」「あ、ザビエスがふざけている」 その時、床の矢印が激しく点滅しました。マザーは今の様子を監視していて先をせかせたのです。もう一度カメぱっぱを担いだザビエス、エレベーターに向かって走り出します。 円形のエレベータが扉を開けて待っていました。飛び込んだザビエスは30階のボタンを押します。今度は来た時と違い30階のフロアに停まり扉が開きました。前に乗った20階の景色と異なるのは、内壁までの距離が長くなったからです。足元の動くベルトは壁の方に向かって動いていました。 階段の踊り場に着くと、細い階段の手すり部分が点滅しているので、その矢印がある方向にザビエスは、歩き出します。 カメぱっぱも首筋にかじりつき落とされないようにしています。マザーが指示する帰路は正確でスピードの調整までやっていました。周囲に気を使ってゆっくり前進した潜入時と違い、かなり早いスピードで階段を駆け下り、迷路のような筒状の通路も矢印のおかげで無事に進みます。 深海潜水艇を係留している水中ドッグまで着くと、カメぱっぱを降ろしたザビエスは水圧扉のバルブを回し中に入りました。浮上する準備を始めてしばらく経つと、備え付けで使用したことのない小さなモニター画面が明るくなりました。エリーゼの顔が映っています。「ザビエス、カメぱっぱ、次に会うときには冗談を言い合って、笑顔で様々なことを語り合いましょう。あなた方とお友達が健やかで、毎日食べられるのを祈ります」 ザビエスがお礼の言葉を言う前にモニターは、暗くなりました。「海底王国では、毎日の食事が大事なようだ。それが生き物の基本だからな」「そういえばお腹がすいたパッパ、早く帰ろう」「分かった、潜水タンクの水を吐き出したらスクリューを回そう」「ザビエス、エリーゼさんって素敵な人だね、海底人にもあんな人が大勢いれば争いなんか起こらないパッパ」「白肌族の女王、クリサーラさまと同じで、どこの種族にも平和を熱望する人は必ずいるということ。破壊者がいて生産者もいるが、そのバランスが難しい。さあ、浮上しようぜ」 深海潜水艇はゆっくりと浮上を開始します。大西洋の海上で待機していたアメリカの原子力潜水艦や駆逐艦などが一斉に潜水艇の周囲に集まって来ました。 つづく
2021/03/11
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「重力を制御する装置を兵器として使われたら、人間族はひとたまりもないでしょう。それを防御する方法はありますか、エリーゼさま」「残念ながら、ありません。人類が開発した原爆や水爆と同じで起爆したら周辺の酸素を吸収し大爆発を起こすのと同じで、開始したら途中で止めることはできないのです」「今度、時間があるときに重力制御のシステムを詳しくご教授願います。私たちがここに潜入してから自由に泳がしたのは、どうしてですか」「あなた方には無事に海上へ戻り、私からのメッセージを人類の指導者に伝えて欲しかったからです。人間は私たち海底人と闘っても勝ち目はありません。彼らのミサイルや核兵器、通常兵器は赤膚族が使用した電子パルス砲よりも、私たちが開発したものは、その上をいくからです。先ほど説明した視覚と聴覚を一時的に奪う兵器を人間が住む上空で使えば、3日から7日は目が見えなくなり耳は聴こえなくなるのです。予告なしにこれを行えば、人類はパニックを起こし大恐慌に陥ります。しかし私たちにも短所はありますよ。肌を乾燥させると約1日でパサパサ状態になって皮膚がポロポロ剥がれ命に係わる重大なことになるのです。だからこのドーム内では常に湿度を60%以上に保っています。地上に出る海底人は、常に温度と湿度をチェックしないと外気には触れられません」「そんな大事なことを私に教える目的は、なんでしょうか」「人類が起こした海洋汚染を食い止める方法と、汚染の浄化を教えますから早急に具体案を練って掲示してください。そうすればボントス派を抑え私が、地上侵略を食い止めるよう努力します」「その情報は、どうやって誰に教えてくれるのですか」「アメリカのペンタゴンにあるホストコンピュータに直接アクセスして送信します」「いつごろになりますか」「あなた方がここを脱出して海上に出て、回収されるのを見届けてから1時間後には送信しますよ」「このモニタールームから私たちが潜入した場所まで、海底人やロボットに見つからずに行くのは、かなり難しいようですが」「これまでの映像は、私の良き相棒<マザー>によって消されています。戻るときは、これから渡す透明フィールドカバーを被ると、近くに来る者には透けて見えカメラにも映りません。ロボットやアンドロイド、私の仲間が来たら音を立てずにじっとしていてください。あなた方は見えずに周りの風景に同化します。このカバーは、私とごく一部の者しか持っていないのです」 突然、モニターが点滅して室内全体に金属音が響きました。「エリーゼ、このモニタールームに4分21秒後、2人の警備員がやって来ます。海上生物も帰還する準備に入ってください」 慌てるそぶりも見せずにエリーゼが声を上げます。「マザー、挨拶してね、地上から来た初めてのお客さまですよ」「客ではないが、ブッチャーについで2番目です。カメぱっぱにザビエス、私は、この海底王国に君臨する大魔王、マザーだ。と、いうのはブラック・ジョークで、このドーム内外の情報網を統括するホスト・コンピュータです。まずあなた方の冒険心に敬意を表します。エリーゼの相棒兼用心棒をやっているマザーですが、これまでの映像はカットしています。そろそろ潜水艇に戻った方がよいでしょう。帰る近道を教えますが、この部屋から出るとどこにいても天井か床、あるいは手すりを見ていてください。黄色のシグナルが点滅するから、その方向に進み、もし赤のシグナルがでれば進行方向にロボットか海底人がいるので、透明カバーをつけて小さくなるのです。ザビエスは大きいので床へ横になるときは、くれぐれも踏まれないように注意して。それでは出発しましょうか」 カメぱっぱがエリーゼに顔を向けます。「エリーゼさん、あなたとは話したいことが山のようにあるパッパ。次はくつろぎながら楽しい雰囲気のもと、会いたいものですね、それではサヨナラ」「私も同感です。気を付けてお帰りください。ザビエス、遮断シールはこれです、受け取って、私はこのモニタールームで見張っていますから」 左右に開いた扉から外に出たカメぱっぱとザビエスの足元には、黄色の矢印が点滅していました。 つづく
2021/03/07
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「デルフミュームの弟、ブッチャーは、豪華なゲストハウスで連日、立体ゲームを夢中でやっています。勝負にこだわる執着心とあきれるほどの持続性はあの男の性格を表していますね。ザビエス、あなたは人類と一緒に地球平和を守ろうとしていますが、ボントスたちが本気で人間を支配しようとするなら、短期間で決着するのは間違いありません。あなた達がここに潜入した目的、私たち海底人の武器を探る手間暇を省いて差し上げましょう。人間が使用する拳銃よりも一回り小さくて軽い光線銃は弾を発射するのではなく、2種類の光を放つのです。ズームにして光を絞ると楽に1キロ先まで届き、通常の拡散型は100mぐらいですが、・・ザビエス、その光を受けた者がどうなるか想像出来ますか」「我々が開発した光線銃ですと、束ねた光の力で一瞬で燃えますが、こちらのものはかなり違うようですね、エリーゼさま、予測できません」「相手を一時的に戦闘不能にするのです。発射するパワーの調整で約10分から約2時間、目が見えなくなるのと、聴力、一切の音が聞こえなくなります。時間が経過すれば目や耳は元に戻り、その後遺症はありません」「敵を殺さず無力化にする最適な武器ですね。人間族や我々赤膚族は相手を殺すか傷つけるのを目的として銃を使いますが、海底人は敵の戦闘能力だけを奪い、闘いを早く終わらせるためのものと解釈します。質問してよろしいですか」「どうぞ」「その銃から光を飛ばすエネルギーは、なんですか。それと発射できる時間を教えてください」「やはり、あなたの頭脳はすばらしい。4mもの巨体と岩石に包まれた体からは考えられないほどシャープな頭脳の持ち主です。お答えしましょう。人類の銃は不思議なほど火縄銃からそれほど進歩していないのです。火薬を爆発させ弾丸を飛ばしますが、私たちは海底マントルを加工、凝縮したエネルギーを使います。赤膚族はコントロール可能な小さな原子力発電を開発しましたが、それと同じ発想で基本エネルギーはマントルだと考えてください。このドーム内の空調、真水、食料生産、電気全てにマントルをエネルギーとした発電を元にしています。光線銃の発射エネルギーは、手のひらサイズのカートリッジで銃の下側に差し込み充電すれば、1回で約1000発、発射できます。残りエネルギーが少なくなるとベルの音で知らせます。あなたの顔には他の武器も教えて欲しいと書いてあるので、ついでに教えましょうか。光線銃の構造をもっと大型化して運び、建物内部にいる者を無力化する武器と、それらの威力を倍増し爆発物にして飛ばす小型ミサイルもあります。ただし私たちの最大の武器は、今回、太平洋で指定した場所で海面上昇させた重力制御装置、パワーコントローラでしょう。その原理を簡素化したものは自動車などに取り付け空を飛んでいます。大型化したものは、先ほど言った太平洋のデモで使われましたが、クジラ型潜水艦で運べる大きさなので、どこへでも気軽に運べますよ」「それがあなたがたの最強兵器ですか、重力を自由にコントロールするなんて私たち赤膚族の科学でも考えられません。地上にある建造物や人工物を持ち上げ手玉にとるなんて朝飯前ですね」「ザビエス、人工物とは限りません。海や川、山など、自然の風景すら照射エネルギーを最大にすれば変化させることも可能です。すでにこの近くにある海底峡谷で実験済みです」「地殻変動が起こる前にそれを使用すれば、地震の発生を防ぐことができますね」「そのとおりです。実験したのは地殻断層、亀裂の境目に当たる部分で、そのまま放置すれば数年後、大地震に繋がる確率が高かったからです」 つづく
2021/03/03
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