?T.反応要点
2017年12月5日09:30に豪州実態指標「小売売上高」が発表されます。今回発表は2017年10月分の集計結果です。
今回の市場予想と前回結果は次の通りです。市場予想は本記事作成時点の値です。市場予想は発表直前に確認しておきましょう。
過去の反応推移と相関分布も下図に示しておきます。
最も指標結果に素直に反応しがちな直後1分足跳幅は18pipsと、平均的な反応程度しかありません。
但し、ここ3回は大きく反応しています。その原因は、直近の指標発表結果が市場予想を大きく下回っていたため、と思われます。直近の発表結果が市場予想を大きく下回ったことも、納得しやすい理由があるように思われます。それは後記詳述します。
直後1分足値幅(x)に対する直後11分足値幅(y)は、回帰式(赤線)の傾きが1を超えており、平均的には反応が伸びやすい指標だと言えます。
第一象限と第三象限を結ぶ傾き1の対角線(青線)を見る限りでは、直後1分足が陽線のときより陰線のときの方が反応を伸ばしているように見受けられます。
?U.指標要点
公開情報や既出情報に基づく調査を行い、過去の指標と反応の関係を比較分析しています。方向に関する的中率に比べ、程度に関する的中率は残念ながら低いというのが実情です。利確・損切の目安は、過去平均値を最近の反応の大小と見比べて感覚的に微修正しています。
【1. 指標概要】
豪州小売売上高は、小売・サービス業の月間売上高をサンプル調査に基づき算出しています。発表は豪連邦統計局(ABS:Australian Bureau of Statistics)が行い、翌々月上旬に月次発表されています。
豪州と言えば資源関連企業に注目が集まります。ところが、資源関連企業の収益は、資源価格が頭打ちとなるにつれて伸び悩んでいます。もともと豪州GDPに占める鉱工業生産高は1割程度しかないのです。その一方、非資源関連企業の収益は、小売を中心に長期的に拡大傾向と見なされています。
その背景として、豪州は毎年約20万人の移民を受け入れており、2050年までに自然増も含めて約40%の人口増加が見込まれています。豪州は先進国で人口増加率の最も高い国のひとつです。最近の小売売上高は、この人口増加と低金利と豪ドル安が個人消費を押し上げており、今後も堅調に拡大していくと見込まれています。
過去の本指標の推移は下図の通りです。下図は発表結果と市場予想をプロットしています。市場予想は発表直前の値をプロットし、発表結果は後に修正値が発表されても定時発表値のままをプロットしています。
上図期間において、前月比がプラスだったことは22回、マイナスだったことは5回、同値(0%)が6回です(プラス率が81%、本ブログでは同値を計算に入れていない)。マイナスとなったときもマイナス幅は小さいので、この間の小売売上高(消費)は好調だったと言えるでしょう。
ところが、2017年4月分(+1.0%)と前々回発表の2017年8月分(△0.6%)は、突出して大きなブレとなっています。今年2017年のグラフ推移は、過去と比較して少し様子が異なります。これは重大な兆候かも知れません。
4月分が突出したピークとなったことには納得しやすい理由があります。
3月末にクィーンズランド州のサイクロンによる浸水被害の影響と解釈されています。2月分・3月分が珍しく2か月連続で前月比マイナスだったことも、4月分のピークを突出させた原因と考えられます。
納得しやすい理由があることは良いことです。サイクロン被害は、一時的に買い替え需要を喚起しても、家計にとってダメージが大きいので、その後の消費が減少していったことにも納得がいきます。
その一方、突出したボトムとなった8月分は、原因がはっきりしません。
最近のRBA金融政策発表時の声明通りならば、家計債務が増大している一方で賃金が伸びていないため、ということになります。がしかし、気になる点として、あまり報道されていないものの、豪統計局は試験的にネット販売額の公開を始めており、これが8月分は前月比で+6.3%と、大きく伸びています。何と、このネット販売額は小売売上高に含まれていないそうです(出典は、確かロイターの同月小売売上高結果の報道記事です)。
ということは、2017年の豪経済は小売(消費)の推移とその理由を踏まえると、見かけほど店舗小売が好調ではないのかも知れません。そして、豪政府が5月頃に発表した交通インフラを中心とした投資計画は、天災復興と次の時代の通販拡大を睨んでのことと捉えれば辻褄が合います。
店舗小売売上高が減少しても、通販で売上がカバーできれば、実質的な消費量は変わりません。利便性が高まれば(生産性向上)、それは一時的に失業率悪化に繋がっても、いずれ成長率を押し上げがることに繋がるはずです。だからRBAは、当面、緩和政策維持を続ける必要があるのでしょう。
(2-2. 過去反応)
過去の直前10-1分足・直前1分足・直後1分足・直後11分足の始値基準ローソク足を示します。
直前10-1分足は過去平均跳幅が7pipsです。この跳幅が10pips以上となったことは過去5回あります(頻度15%)。
この5回の直後1分足跳幅の平均は22pipsで、これは直後1分足跳幅の全平均18pipsよりもやや大きい程度です。また、この5回の直前10-1分足と直後1分足の方向が一致したことは2回です。
よって、直前10-1分足が大きく跳ねても、発表直後の反応程度が大きいとも、同じ方向に反応するとも言えません。直前10-1分足の動きは、指標発表後の反応の予兆とは見なせません。
直前1分足は過去平均跳幅が5pipsです。この跳幅が10pips以上となったことは過去3回あります(頻度9%)。
この3回の直後1分足跳幅の平均は13pipsで、これは直後1分足跳幅の全平均18pipsよりも小さくなっています。また、この3回の直前10-1分足と直後1分足の方向が一致したことは1回です。
よって、直前1分足が大きく跳ねても、発表直後の反応程度が大きいとも、同じ方向に反応するとも言えません。直前1分足の動きは、指標発表後の反応の予兆とは見なせません。
直後1分足の過去平均跳幅・値幅は各18pips・12pipsです。ヒゲの長さは平均して33%です。
直後1分足跳幅が30pipsを超えたことは過去5回あります(頻度15%)。このときの指標発表から1分を過ぎてから10分間に直後1分足跳幅を超えて反応を伸ばしたことは2回しかありません。
直後11分足の過去平均跳幅・値幅は各22pips・15pipsです。ヒゲの長さは平均して32%です。
直後11分足跳幅が30pipsを超えたことは過去8回あります(頻度24%)。このときの直後11分足のヒゲの長さは平均して7pipsです。
【3. 定型分析】
以下、本指標への反応の特徴を定型分析で調べておきます。
定型分析は、指標一致性分析・反応一致性分析・反応性分析を行います。
指標一致性分析は、指標の前回結果と市場予想の差(事前差異)と、発表結果と市場予想の差(事後差異)と、発表結果と前回結果の差(実態差異)を求め、そのプラス・マイナスと反応方向に偏りがないかを調べています。詳細は 「指標一致性分析」 をご参照願います。
本指標の市場予想は「やる気あるのか」というぐらい+0.4%付近を保っています。
その結果、2015年1月分以降、前回2017年9月分までの33回の発表で、発表結果が市場予想を上回ったことは9回、下回ったことは19回、同値が5回です。事前差異のプラス率が63%、事後差異のマイナス率が68%、実態差異のマイナス率が60%と、少し偏りがあります。
市場予想は高めで、発表結果は低めで、発表結果が良いときはぐぃと上がり悪いときはゆっくり下がっていく傾向があるようです。
事後差異と直後1分足・直後11分足の方向一致率は各86%・82%となっており、市場予想に対する発表結果の良し悪しにはかなり素直に反応しています。
次に、反応一致性分析は、指標発表前後の反応方向に特徴的な偏りがないかを調べています。詳細は 「反応一致性分析」 をご参照願います。
直前1分足は陰線率が87%と、異常な偏りがあります。
直後1分足と直後11分足の方向一致率が84%と高い点を除けば、先に形成されたローソク足が後で形成されるローソク足の方向を示唆している兆候はありません。
そして、反応性分析では、過去発表直後の1分足と11分足の跳幅と値幅を使います。この分析では、指標発表後の追撃の容易さを判断します。詳細は 「反応性分析」 をご参照願います。
直後1分足と直後11分足との方向一致率は84%です。指標発表直後は、そのまま反応を伸ばすと反射的に取引するしかありません。だから、その84%の方向一致時だけを取り上げて直後1分足跳幅よりも直後11分足跳幅が伸びた確率を調べてみると、それは67%でした。
初期反応の方向を確認次第追撃を開始しても、直後1分足と直後11分足が方向一致さえすれば、3回に2回は反応を伸ばしています。全ての場合においても、0.84?0.67=56%と、2回に1回以上は反応を伸ばしています。
初期反応を確認したら、早期追撃開始です。
次に指標発表から1分経過時点では、直後11分足終値が直後1分足終値よりも反応を伸ばしていたことが50%です。
50%では、安心して追撃を行えません。先に早期追撃開始で得たポジションは、利確の機会があればさっさと利確すべきだと言えます。もしその後も反応を伸ばす勢いがあれば、再追撃は短期取引の繰り返しで行った方が良いでしょう。
【4. シナリオ作成】
以上の調査・分析結果に基づく本指標の特徴は以下の通りです。
- 反応程度は平均的(直後1分足跳幅の平均18pips)で、反応方向は指標結果の良し悪しに素直(事後差異と直後1分足の方向一致率は86%)です。
但し、直近3回は大きく反応しています。もともと2017年に入ってからは、4月分以降のサイクロン被害の復興需要と見られる動きを除けば、小売売上高が減少していると見なせます。 - 本指標の市場予想は「やる気あるのか」というぐらい+0.4%付近を保っています。
その結果、2015年1月分以降、前回2017年9月分までの33回の発表で、発表結果が市場予想を上回ったことは9回、下回ったことは19回、同値が5回です。事前差異のプラス率が63%、事後差異のマイナス率が68%、実態差異のマイナス率が60%と、少し偏りがあります。
市場予想は高めで、発表結果は低めで、発表結果が良いときはぐぃと上がり悪いときはゆっくり下がっていく傾向があるようです。 - 直前10-1分足や直前1分足が大きく跳ねることがあります。けれども、こうした動きは、指標発表後の反応程度や方向を示唆しているとは言えません。釣られて痛い目に遭わないように気を付けましょう。
あと、直後1分足と直後11分足は平均的に30%強のヒゲを形成することを目安として覚えておきましょう。
こうした特徴も踏まえた上で、本指標取引のシナリオは以下の通りです。
- 直前1分足は陰線と見込みます。
論拠は、過去の陰線率の高さです。但し、たまに陽線側に振れると大きな陽線となりがちです。過去の上ヒゲの長さも参考にして、2-3pipsも陽線側に振れたら安全のため損切します。 - 指標発表直前に売ポジションを取り、発表直後の跳ねで利確・損切です。
過去の事後差異のマイナス率が68%となっており、事後差異と直後1分足の方向一致率が86%です。但し、外したときのダメージが大きいため、あまりお勧めしません。 - 追撃は、初期反応方向を確認次第行い、短期利確を狙います。複数回の追撃を行う場合も、短期取引の繰り返しで行います。
論拠は、直後1分足と直後11分足の方向一致率が84%と高いものの、直後1分足値幅を超えて直後11分足値幅が反応を伸ばしていたことが50%だからです。また、直後1分足と直後11分足は平均的に30%強のヒゲを形成することを目安として覚えておきましょう。高値(安値)掴みをするぐらいなら、取引せずに見ていた方がマシです。
以上
2017年12月5日09:30発表
以下は2017年12月8日に追記しています。
?V.結果検証
【5. 発表結果】
(5-1. 指標結果)
本指標発表結果及び反応は次の通りでした。
結果は前回・予想を上回り、陽線で反応しました。
予想を上回ったのは、2017年6月分以来です。
分析記事に記したように、店舗売上が前月比+0.5%に対し、これには含まれていないネット通販は10月分が前月比+11.3%だったそうです。
(5-2. 取引結果)
取引できませんでした。
この発表時刻では、やっぱり難しいですね。
【6. 分析検証】
(6-1. 分析検証)
事前調査分析内容を、以下に検証します
- 直後1分足跳幅は18pipsで、この値は過去平均と同じです。指標結果が市場予想よりも良かったため、直後1分足は陽線でした。
- 本指標の市場予想は「やる気あるのか」というぐらい+0.4%付近を保っています。今回は+0.3%の予想でした。
- 今回は、直前10-1分足も直前1分足も大きく動きませんでした。
直後1分足と直後11分足は、過去には平均的に30%強のヒゲを形成しています。今回はあまりヒゲを形成しませんでした。
(6-2. シナリオ検証)
取引はできなかったものの、事前準備していたシナリオを検証しておきます。
- 直前1分足は陰線と見込んでいました。結果は陰線でした。
- 指標発表直前に売ポジションを取り、発表直後の跳ねで利確・損切を行うつもりでした。
結果は陽線で、もし取引していたら15〜18pipsの損切となっていたでしょう。 - 追撃は、初期反応方向を確認次第行い、短期利確を狙うつもりでした。複数回の追撃を行う場合も、短期取引の繰り返しで行うつもりでした。
結果は、直後1分足跳幅を直後11分足跳幅が1pips上回りました。終値同士では2pips下回りました。これでは、追撃によって利確するのは難しかったと思われます。
本ブログを始めてからの成績を下表に纏めておきます。
2017年は本指標で6回の取引を行いました。
結果は、指標単位で5勝1敗(勝率83%)、シナリオ単位で14勝3敗(勝率82%)です。1回当たりの平均取引時間は3分39秒で、年間収益が66.6pipsで踏まえると、ほぼ理想的取引が行えました。1回当たりの平均利確pipsは11.1pipsで、これは本指標の平均的な反応程度(直後1分足値幅が12pips、直後11分足値幅が15pips)を考慮すると、妥当な数字です。
ただ、発表時刻の関係で、他の豪州指標と同様になかなか取引できない点が残念です。
以上
ーーー注記ーーー
本記事は、同じ指標の発表がある度に更新を繰り返して精度向上を図り、過去の教訓を次の発表時の取引で活かせるように努めています。がしかし、それでも的中率は75%程度に留まり、100%ではありません。詳細は 「1. FXは上達するのか」 をご参照ください。
そして、本記事は筆者個人の見解に基づいています。本記事に含まれる価格・データ・その他情報等は、本記事に添付されたリンク先とは関係ありません。また、取引や売買における意思決定を、本記事の記載通りに行うことは適切ではありません。そして、本記事の内容が資格を持った投資専門家の助言ではないことを明記しておきます。記載内容のオリジナリティや信頼性確保には努めているものの、それでも万全のチェックは行えていない可能性があります。
ポジションを持つ最終的なご判断は読者ご自身の責任となります。その点を予めご了承の上、本記事がFXを楽しむ一助となれば幸いです。
ーーー注記ーーー
本記事における分析シート、一部乃至は一連の体系化された手順を、個人の取引以外の目的で使用・公開・二次利用を行う場合には、著作権者及びFX手法研究会に対し、連絡を取り何らかの合意を行う必要があります。
以上
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