圏における極限のメモ.
図式の定義 → 米田の補題 → 極限の定義 → 余極限の定義 の順番で書く.
まず図式の定義から.
定義: グラフ (graph).$\, $ $O$ と $A$ を集合, $d^0,
d^1 : A \rightarrow O$ を写像とするとき, 4 つ組
\begin{equation*}
\newcommand{\Ar}[1]{\mathrm{Ar}(#1)} \newcommand{\ar}{\mathrm{ar}}
\newcommand{\arop}{\Opp{\mathrm{ar}}}
\newcommand{\Colim}{\mathrm{colim}} \newcommand{\CommaCat}[2]{(#1
\downarrow #2)} \newcommand{\Func}[2]{\mathrm{Func}(#1, #2)}
\newcommand{\Hom}{\mathrm{Hom}} \newcommand{\Id}[1]{\mathrm{id}_{#1}}
\newcommand{\Mb}[1]{\mathbf{#1}} \newcommand{\Mr}[1]{\mathrm{#1}}
\newcommand{\Ms}[1]{\mathscr{#1}} \newcommand{\Nat}{\mathrm{Nat}}
\newcommand{\Ob}[1]{\mathrm{Ob}(#1)}
\newcommand{\Opp}[1]{{#1}^{\mathrm{op}}}
\newcommand{\Pos}{\mathbf{Pos}} \newcommand{\q}{\hspace{1em}}
\newcommand{\qq}{\hspace{0.5em}} \newcommand{\Rest}[2]{{#1}|{#2}}
\newcommand{\Sub}{\mathrm{Sub}} \newcommand{\Src}{d^{0, \mathrm{op}}}
\newcommand{\Tgt}{d^{1, \mathrm{op}}} \Ms{G} = (A, O, d^0, d^1)
\end{equation*} を グラフ (graph)と呼ぶ. $O$ の元を $\Ms{G}$ の 対象 (objects), $A$ の元を $\Ms{G}$ の 射 (arrows)と言う.
また, 任意の $\Ms{G}$ の射 $f \in A$ に対して, $d^0 (f) \in O$ を $f$ の ソース (source), $d^1 (f) \in O$ を $f$ の ターゲット (target)と言う.
$A \in O$ をソース, $B \in O$ をターゲットとする $\Ms{G}$ の射 $f$ を $f : A \rightarrow B$ のように記す.
グラフ $\Ms{G}$ はイメージとしては "射の合成が定義されていない圏" とも言える.
グラフに関するいくつかの用語を導入する.
$\Ms{G} = (O_1, A_1, {d_1}^0, {d_1}^1)$, $\Ms{H} = (O_2, A_2, {d_2}^0, {d_2}^1)$ をグラフとする. 写像 $F : \Ms{G} \rightarrow \Ms{H}$ が条件:
(i) $\Ms{G}$ の任意の対象 $A \in O_1$ に対して $F (A) \in O_2$ は $\Ms{H}$ の対象である;
(ii) $\Ms{G}$ の任意の射 $(f : A \rightarrow B) \in A_1$ に対して $(F (f) : F (A) \rightarrow F (B)) \in A_2$ は $\Ms{H}$ の射である.
を満たすとき, $F$ は $\Ms{G}$ から $\Ms{H}$ への 準同型 (homomorphism)であると呼ぶ.
任意の小さい圏 $\Ms{C}$ は, 射の合成を捨象することによってグラフと考えることができる. これを圏 $\Ms{C}$ の 台グラフ (underlying graph)と呼び $|\Ms{C}|$ と記す.
$F : \Ms{C} \rightarrow \Ms{D}$ を関手としたとき, グラフの準同型 $|F| : |\Ms{C}| \rightarrow |\Ms{D}|$ が導かれる.
定義: 図式 (diagram).$\,$ $\Ms{C}$ を圏, $\Ms{I}$ をグラフとするとき, グラフ準同型 $D : \Ms{I} \rightarrow |\Ms{C}|$ を $\Ms{C}$ における 図式 (diagram)と呼ぶ. $\Ms{I}$ を 添字グラフ (index graph)と呼ぶ. 添字グラフ $\Ms{I}$ が有限個の対象と射からなるとき, 図式 $D : \Ms{I} \rightarrow |\Ms{C}|$
を 有限グラフ (finite graph)と呼ぶ.
混乱の恐れが無いならば, 圏 $\Ms{C}$ における図式 $D : \Ms{I} \rightarrow |\Ms{C}|$ を, 単に $D : \Ms{I} \rightarrow \Ms{C}$ のように書く.
図式の例をいくつか挙げておく.
グラフ:
\begin{equation*}
\begin{xy}
\xymatrix@=12pt { \Ms{I}_1: & 1 } \end{xy} \\
\begin{xy}
\xymatrix@=12pt { \Ms{I}_2: & 1 & 2 } \end{xy} \\
\begin{xy}
\xymatrix@=12pt { \Ms{I}_3: & 1 \ar[r]^{e} & 2 } \end{xy} \\
\begin{xy}
\xymatrix@=12pt { \Ms{I}_4: & 1 \ar[r]^{e_1} & 2 & 3 \ar[l]_{e_2} }
\end{xy}
\end{equation*} を考える. これらに対して, 図式 $D_k :
\Ms{I}_k \rightarrow \Mb{Set} \qq (k = 1, 2, 3, 4)$ を次のように定義する. 極限の定義はまだ行っていないが, それぞれの図式の極限を示しておく (†).
†: $\Mb{Set}$ においては, 任意の図式に対してその極限が存在する.
(1) $D_1 : \Ms{I}_1 \rightarrow \Mb{Set}$
\begin{equation*}
\begin{xy}
\xymatrix@=12pt { D_1(1) }
\end{xy}
\end{equation*} このとき, $\lim\, D_1$ は
\begin{equation*}
\begin{xy}
\xymatrix@=24pt { D_1(1) }
\end{xy}
\end{equation*} つまり, 集合 $D_1(1)$ 自身である.
(2) $D_2 : \Ms{I}_2 \rightarrow \Mb{Set}$
\begin{equation*}
\begin{xy}
\xymatrix@=12pt {
D_2(1) & D_2(2)
}
\end{xy}
\end{equation*} このとき, $\lim\, D_2$ は
\begin{equation*}
\begin{xy}
\xymatrix@=48pt {
D_2(1) & D_2(1) \times D_2(2) \ar[l]_-{p_1} \ar[r]^-{p_2} & D_2(2)
}
\end{xy}
\end{equation*} つまり 2 つの集合 $D_2(1)$ と $D_2(2)$ の直積である.
(3) $D_3 : \Ms{I}_3 \rightarrow \Mb{Set}$
\begin{equation*}
\begin{xy}
\xymatrix@=48pt {
D_3(1) \ar[r]^{D_3(e)} & D_3(2)
}
\end{xy}
\end{equation*} このとき, $\lim\, D_3 = D_3(1)$ であり図式
\begin{equation*}
\begin{xy}
\xymatrix@=48pt {
D_3(1) \ar[d]_{\Id{D_3(1)}} \ar[dr]^{D_3(e)} & \\
D_3(1) \ar[r]_{D_3(e)} & D_3(2)
}
\end{xy}
\end{equation*} は可換になる.
(4) $D_4 : \Ms{I}_4 \rightarrow \Mb{Set}$
\begin{equation*}
\begin{xy}
\xymatrix@=48pt {
& D_4(3) \ar[d]^{D_4(e_2)} \\
D_4(1) \ar[r]_{D_4(e_1)} & D_4(2)
}
\end{xy}
\end{equation*} このとき $P_4 = \lim\, D_4$ は図式
\begin{equation*}
\begin{xy}
\xymatrix@=48pt {
P_4 \ar[d]_{p_1} \ar[r]^{p_2} & D_4(3) \ar[d]^{D_4(e_2)} \\
D_4(1) \ar[r]_{D_4(e_1)} & D_4(2)
}
\end{xy}
\end{equation*} を可換にする. つまり $P_4$ は $D_4(1)$ と $D_4(3)$ の $D_4(2)$ 上の引き戻しである.
これで図式が定義できた.
この続きの文章では, 図式の極限を定義するための準備として米田の補題について書く.
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