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2016年11月05日

師の疑問に答えてみる(十一月二日)



 久しぶりに、例外的な辞書の話を除けば、久しぶりにチェコ語の話である。黒田龍之助師の著書『その他の外国語——役に立たない語学の話——』を一年ぶりぐらいに再読していたら、チェコ語に関して気になる記述を見つけた。
 チェコの本屋で、スウェーデンの作家リンドグレーンの『屋根の上のカールソン』という子供向けの本のチェコ語版を探す話である。その話自体も面白いのだけど、チェコ語を学ぶ人にとって気になるのはチェコ語訳である。問題になるのは「屋根の上の」の部分で、師は「ナ・ストシェシェ(na st?eše)」だろうと、推測するのだが、発見された本の題名では、「ゼ・ストシェヒ(ze st?echy)」となっていた。そのニュアンスの違いがよくわからないと書かれている。
 おそらく師はチェコ語の専門家ではないという謙遜から、そう書いているだけであって、実際にはわかっているのだと思う。ただ、チェコ語を勉強していてよくわからないという人もいるだろうから、おこがましいのは百も承知で、この件に関して説明を加えておく。

 ナ・ストシェシェ(na st?eše)のほうは、前置詞naに六格がついた形なので、場所をあらわす表現になる。場所をあらわす表現のチェコ語における混乱ぶりについては、過去の、かなり昔の記事を読まれたい。それはともかく、この表現を使った場合に本の題名を違いが出るように日本語に訳すと、「屋根の上にいるカールソン」、もしくは「屋根の上におけるカールソン」ということになり、本の中の物語が、屋根の上だけで展開するような印象を与えてしまう。

 それに対して、ゼ・ストシェヒ(ze st?echy)は、起点をあらわす表現になるので、「屋根のから下りてきたカールソン」、または「屋根の上出身のカールソン」ということになり、カールソンが屋根の上だけではなく、他のいろいろな場所にも出没していろいろなことをするような印象を与える。本の内容は知らないけれども、舞台が屋根の上だけってことはないだろうから、チェコ語訳はこちらの表現が選ばれたのだろう。
 共産主義の時代の子供向けの番組に「わたしら小さな町の女の子」と訳せる番組がある。チェコ語では「ミ・ホルキ・ズ・ムニェステチカ(My holky z M?ste?ka)」で、ここでも前置詞zに二格がついた形が使われている。この番組は、南モラビアのスロバーツコと呼ばれる民俗色豊かな地方の中心の一つであるキヨフとその周辺を舞台に小学校高学年ぐらいの女の子たちの姿を描いており、キヨフの町から外に出て、時にオーストリアとの国境近くにまで足を伸ばすことになる。だからz+二格なのである。

 ところで、このz+二格は、出身地、もしくはどこから来たのかを表す表現としてよく使われるのだが、チェコ語を勉強していて不思議に思った人はいないだろうか。疑問の表現としては、zではなくodを使うのである。もちろん一語化して「オトクット(odkud)」となっているのだが、「オトクット・イステ(Odkud jste?)」とod を使って聞かれて、「イセム・ズ・ヤポンスカ(Jsem z Japonska)」とzを使って答えるのに違和感を感じた人もいるのではなかろうか。特に方言の「ス・カマ(z kama)」の存在を知ったときなんかにさ。
 実はこの手の出身を表すための文で、odを使うこともないわけではないのである。もう十年近く前になるだろうか、新聞でサッカーの監督のインタビュー記事を読んでいたら、「イセム・オト・キヨバ(Jsem od Kyjova)」というのを見つけて、びっくりしたことがある。間違いじゃないのかと聞いたら、正しいと言う。
 「イセム・ス・キヨバ」と言った場合には、キヨフ市内の出身であることを示し、「オト・キヨバ」の場合には、キヨフ周辺のの出身であることを示すらしい。つまり、チェコ人でも知らないような小さな村の名前を挙げて、その出身と言うよりは、近くの大きく有名な町の名前を上げてあの辺の出身なんだよと言ったほうがわかりやすいということである。さすがに出身の国を言うのに、odを使うわけにはいかないけど。

 東京近郊の出身の人や、東京近郊に住んでいる人は、チェコに来たら、「イセム・オト・トキア」と言えばいいのだ。以前チェコに着たばかりのころ、来る前に住んでいた川崎を使って「イセム・ス・カワサキホ」と言っていたのだが、チェコ人は川崎というと、バイクメーカーだと思ってしまう。それで、川崎というのは東京と横浜の間にある町だとか説明しなければならなかった。あの頃「オト・トキア」という表現を知っていれば使えたのに。まあ使わなくても何とかなる表現だから、授業で教えたりはしないのだろうけど。

11月2日23時。



 役に立たないなんてことはないと思うのだけど。師の著書は読み返すたびに発見がある。我が文章は読み返すたびに誤植が発見される。11月4日追記。


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