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本著タイトルの「コメ」は「comedy」はではなく「米」。 著者であるマハさんが、日本農業新聞の連載小説を執筆することになった際、 長野県の一畝の田んぼで、「自然農」の農法によるコメ作りに挑戦した記録。 そして出来上がったのが、約50kgのコメと『生きるぼくら』なのです。 自然農の原則「自然界の営みに任せる」とは、 自然界の食物連鎖をそのままにして、土壌を豊かにするということなのだ。 耕さなければ、動植物が生息し、食物連鎖が起こる。 農薬を撒かなくても、害虫は鳥や別の虫が食べてくれる。 肥料を施さなくても、虫や微生物の死骸や枯れた草が堆積して土を肥やす。 そして、驚くほど豊かな田畑ができあがる。(p.66)本著は、共にコメ作りに励んだ漫画家のみづき水脈さんとの共著になっていて、後半部には、みづきさんの漫画が掲載されています。マハさんが文章によって描き出した「コメ作り」の風景を、みづきさんが具体的に目に見える形で描き出してくれているのがイイですね。
2021.08.12
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姫野さんの作品には『ツ、イ、ラ、ク』で初めて接したのですが、 『ハルカ・エイティ』では、その作品の多様性に驚かされました。 そして、本作は、東大生5人による強制わいせつ事件をテーマに描かれ、 第32回柴田錬三郎賞を受賞した作品です。 私は、今年1月、『炎上CMでよみとくジェンダー論』を読んだ際、 著者である瀬地山角教授について調べていて、その存在を知りました。 *** 退学以外に示談する方法を、才媛は同姓同名の教授に訊いた。 教授は答えた。 「息子さんを含む、事件に関わった5人の男子学生の前で、あなたが全裸になって、 肛門に割りばしを刺して、ドライヤーで性器に熱風を当てて見せるから示談にして、 とお申し出になってみてはいかがですか」 とても静かな声であったが、聞いた才媛は、金切り声をあげて、憤慨した。 「こんなに罵倒されて侮辱されたことはないわ。 学生も学生なら大学も大学ね。どうしようもないバカ大学だわ」(p.534)読者が、それまで溜まりに溜まり続けたストレスを、一気に晴らすことができるシーン。しかし、我が身を振り返ったときには…… 読み進めるうちに、これが自分に無関係なエリートたちの引き起こした事件でなく、 東大生でもなければ男でもない私自身が、 場合によっては加害者と同じ心境に陥る可能性があると感じ始める。 そんな普遍性と迫真性は優れた小説のみが備えるものだ。(p.555)これは、巻末に掲載されている「第32回柴田錬三郎賞選評」のうち、篠田節子さんによる「フィクションでしか書けない真実がある」の一部です。加害者となった5人学生やその保護者たちに存在していた意識や感情は、個々に形は異なるものの、誰のうちにも存在するのではないかと改めて気付かされます。そして、同じく選評「無知と罪科」で、伊集院静さんは次のように記しています。 ただ報道というものは、事件の真実を、実は見出せないという宿命を常に持っている。 真実の定義は別として、その事件に興味を抱き、克明に見つめていくと、 そこに不可解なものや、闇の中にうごめく何かを感じることがある。(p.550)真実を知ることは難しい。断片的な情報、しかもそれが正しいのか間違っているのか自分では判断できない情報だけで、それについて全て知ったような、分かったような気になってしまってはいけません。このことについて、姫野さんは、本作の中で次のように記しています。 インターネットが危険なのは、すべての文字が、均一の電子活字であることだ。 対象となる事物事件等についての専門家からの意見も、 多角的視野から熟考できる社会人の意見も、 若年というより幼年といってよい子供からの、幼さゆえのヒステリックな意見も、 すべてが同じ電子活字で、あたかも公的見解であるかのように表示される。 不特定多数が目にする画面に。(p.466)現在行われている東京オリンピックにおけるアスリートへの誹謗中傷なども、この最たる例だと思います。
2021.08.07
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『マスカレード・ホテル』『マスカレード・イブ』に続くシリーズ第3弾。 9月には映画公開も予定されています。 *** 練馬区にあるマンションで一人暮らしをしていた28歳の女性トリマーが、 何者かによって睡眠薬で眠らされた後、感電死させられた。 その死体発見の契機となったのは、警察庁の匿名通報ダイヤルへの情報。 さらに、その犯人がホテル・コルテシア東京に現れるとの密告状も届いたのだった。その日は大晦日で、夜にはホテル恒例の仮面舞踏会が開かれることになっていた。刑事・新田浩介は、今回も同僚たちと共に早速潜入捜査を開始。また、コンシュルジュとなった山岸尚美も来客の要望に答えつつ、『年越しカウントダウン・マスカレード・パーティー・ナイト』に備えるのだった。 ***オープニングの、尚美が宿泊客の難しい要望に応えるエピソードは、「これで本当に良いのかな?」と思いました。また、度々登場する「ホテルマンに『無理です』は禁句」という言葉にも、「お客様は神様です」という言葉同様、ちょっと疑問を感じてしまいました。いつも通り、読み始めたら止まらない東野さんらしい作品で、五百数十ページを二日で読破。十分に楽しむことが出来ましたが、その結末は、少々期待外れだったかな。
2021.07.04
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『病院というヘンテコな場所が教えてくれたコト2』に続き、 かなり重たい内容のお話で、ページを捲るのが辛い部分も。 医療の現場というのは、常に生と死の問題に向き合っているということを、 今更ながら強く思い知らされます。 ***城北医科大学病院救命救急センターで副センター長を務めていた62歳の白石咲花子は、ある夜、都電と大型バスの衝突事故が発生した際、7人の重症者を受け入れる。しかし、その際、アルバイト事務員・野呂聖二が点滴をしたことで患者からクレームが。咲花子は、その責任を取って救命救急センターでの職を辞し、故郷金沢へと向かう。金沢では、元加賀大学医学部附属病院神経科内科医で87歳の父が、一人で暮らしていた。そして、まほろば診療所を営む仙川徹医師が、大腿骨頸部骨折のため手術を受け、退院後もまだ歩けない状態だったため、咲花子がその代わりを務めることになる。そのまほろば診療所は、在宅医療を専門で行う医療機関だった。29歳の看護師・星野麻世や、運転手役となった野呂と共に患者宅を訪問診察するも、パーキンソン病を患う86歳の女性の介護をする夫への対応に疲労困憊し、脊髄損傷で四肢麻痺の40歳IT企業社長の最先端医療要望を受け東奔西走、隠れゴミ屋敷に住む78歳の女性とその娘夫婦との関係修復にも心を砕く日々。さらに、膵臓がんを患った57歳の厚労省統括審議官の在宅緩和ケア治療希望に答え、腎腫瘍を患った6歳の少女の最後の願いを叶えるべく旅行プランを作成する。そして、そんな困難な状況を粘り強く一つ一つ乗り越えていくなか、神経因性疼痛に苦しむ父の積極的安楽死の問題に直面することになるが…… *** 映画は今年5月21日から公開され、現在も上映中です。 でも、この作品を映画館で見るためには、かなりの覚悟が必要かも。
2021.07.04
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5年前、37歳の山之内明は東京大学理学部助教授として バイオテクノロジーの分野で世界の注目を集める斬新な研究を続けていた。 しかしある夜、実験室で作動中の反応タンクが爆発して学生3人が死亡、 自身も全身を負傷するという事故を起こし、3か月後に大学を去ったのだった。 その後、林野史郎に請われ林野微生物研究所で研究を継続し、 石油精製能力を持つバクテリアの開発に成功する。 この情報を得た石油メジャーとOPECは、石油精製菌・ペトロバグの争奪戦を開始。 そして、山之内は殺し屋に命を狙われる身となってしまう。ところが、このペトロバグは空気感染はしないものの、血液を主に体液に混じって広がり、その伝染力はエイズよりはるかに高いことが判明。何かの拍子に体内に入ると宿主は死に至り、死体は分解されて石油になってしまう。そして、殺し屋の一人がこのペドロバグに感染してしまい…… ***巻末「解説」には、近年、ある油田の中から見つかった細菌に石油を合成する能力があることが分かった、もしくは土壌中の古細菌や藻類の中にも同様の働きを持つ種のあることが発見され、研究が続けられているとの記述がありました。もし、実際にそれらのものが石油合成に結び付いていくようなことになれば、地球のエネルギー事情は大きく変化し、このお話のような攻防が、各種関係機関で形を変えて繰り広げられることになるのでしょう。その時、世界はどう対応していくのでしょうか。
2021.06.26
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アニメ映画が公開され、話題になっているので読んでみました。 西加奈子さんの作品については、読んだ記憶があまり残っていなかったのですが、 6年ほど前に、『さくら』『きいろいゾウ』『通天閣』の3冊を読んでいました。 それ以来の読書ということになります。 お話は、肉子ちゃんの娘・喜久子の視点で進んでいきます。 肉子ちゃんのこれまでの波乱万丈の人生や、現在の様子を語る喜久子の口調は、 たいへん冷静かつ客観的なものであり、二人の関係性がどのようなものであるかを、 読者は、序盤の段階ですでに気付くことになるでしょう。また、喜久子のクラスで発生した女子同士の諍いは、このお話の中でも肝になる部分だと私は思いましたが、その終着点に至る経緯は、ちょっと拍子抜けでした。ここがもう少しうまく描けていれば、きっと印象に残る良い作品になったと思います。やっぱり、『サラバ!』ぐらいは読んでからでないと、西さんの作品と今後どう付き合っていくかは決められないな、と改めて思いました。
2021.06.13
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あの『ツナグ』の続編で、5つのエピソードから構成されています。 前作を読んだのは、もう8年以上も前のことですが、 まぁ、読み始めれば何とかなるだろうと、振り返りを一切しないまま読書開始。 けれど、結局は前著の内容をネットで調べ、映画も見直すことになったのです。 ***最初のお話は「プロポーズの心得」若手俳優・紙谷ゆずるが、心を寄せる女優・美砂のため、亡くなった彼女の親友に会わせてやろうと使者(ツナグ)に接触する。しかし、使者から「依頼は本人からじゃないと受け付けられないよ」と断られてしまう。そこで、死者に会うに当たってのルールを色々と説明されたゆずるは、母親と離婚し、物心ついた時にはもういなかった父親に会うことに。父親が語る言葉の中には、自分が記憶していなかった家族の姿があった。その後、ゆずるは美砂に、使者に会ったことや父親について話をするのだった。 ***このお話の最後になって、今回、歩美ではなく秋山家当主の少女・杏奈が使者代行を務めた理由が明らかに。それは、女優・美砂が、あの歩美の高校時代の友人・嵐美沙だったから。ここに至って、前作のことを思い出しておく必要を強く感じ、振り返りをしたのでした。 ***二つ目のお話「歴史研究の心得」は、元高校校長・鮫川幸平が、戦国時代を生きた郷土の英雄・上川岳満に会うお話。三つ目のお話「母の心得」は、5年前に水難事故で6歳の娘を亡くした重田実里と、20年以上前に乳がんで26歳の娘を亡くした小笠原時子のお話。四つ目のお話「一人娘の心得」は、鶏野工房の大将の死と苦悩する娘・奈緒のお話。工房と取引のある玩具企業に勤め、一家と親交の深かった歩美も大いに葛藤する。最後のお話「想い人の心得」は、神楽坂の料亭のオーナー・蜂谷茂が、かつて務めていた京都の料亭の一人娘・袖岡絢子に会うお話。 ***最後は、父の跡を継ぐべくドイツの工房に修業に出かけてしまう奈緒に、歩美が鶏野工房で会う約束を取り付けたところで終了。また、さらなる続編も期待できそうですね。
2021.05.29
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前巻刊行から、わずか3カ月での新刊刊行! ここしばらくは、ほぼ年に1度のペースだったのに何故? まぁ、読み手としては嬉しい限りなのですが、 何か色々諸事情があるのではないかと、勘繰ってもしまいます…… ***玉鶯の孫に当たる8歳の幼女が、腸に異物が溜まって苦しんでいた。猫猫と天祐が外科手術で救うが、それにより、玉鶯が異国人を嫌っていることが判明。その件について猫猫が壬氏に報告していると、羅漢が突然やって来て、将棋の棋聖・林大人が本物かどうかを確認するため、対局の場を設けることを壬氏に要望。林大人は元々西都の歴史に詳しく、名のある役人だった人物で、戌の一族の族滅の際にも巻き込まれた経験を持ち、有益な情報が得られそう。しかし、対局は長時間に及び、その間に林大人を介護していた林小人が行方をくらます。そして、林大人が残した書類が収められていた書庫が、火事で焼失してしまったのだった。蝗害第二波後、玉鶯は砂欧に戦を仕掛けることを壬氏と羅漢に進言するが断られる。一方、都にいる羅半からの壬氏への手紙到達が滞る中、羅半、姚(ヤオ)、燕燕(エンエン)から、猫猫に不可解な手紙が届く。猫猫は羅半兄と共にその解読に成功、そこには「石炭さがせ」と記されていた。石炭は、茘(リー)ではあまり使われないが、木材の少ない地方では貴重な燃料。また、中央に提出された書類上では、石炭採掘はなかったことになっているが、本当は採掘していたとなれば、不作の農民に施しを与えるだけの余裕も頷ける。砂欧側からそれが採掘可能で、それを海路で輸出することも可能となれば……そして、蝗害発生から75日目、苦しい生活が続き不満を高めた民衆が、壬氏の住まう館に押し寄せるが、玉鶯がそれを宥め、説き伏せる。しかし、玉鶯は民衆の怒りの矛先を西の異民族、砂欧へと誘導し、壬氏は、祖霊を祀る儀式である祭祀を行うことに。後日、壬氏は、玉鶯の弟・大海に、玉鶯の宣戦布告を止めるよう依頼。そして祭祀を前に、玉袁の子どもたち8人と陸孫が円卓を囲み会議が行われる三男・大海が、砂欧宣戦反対の意を表明したその場で、長男・玉鶯は、今上が壬氏を溺愛する理由について、自説を展開するのだった。兄弟会議後、玉鶯の乳母の息子・拓跋が玉鶯の前に現れ、真実を語り始める。西母は玉袁の許嫁だったが、他の部族に襲われ、乳母共々奴隷として売り払われたこと、異国人の主人は奴隷の女に次々に手を出し、乳母が拓跋を、西母が玉鶯を身籠ったこと、その後、玉袁が奴隷を買い取って西母を妻とし、玉鶯を実子として育てたこと等々。拓跋は、玉鶯の本当の出自が書かれた戸籍表を林大人から奪い、手に入れていた。玉鶯は小刀で拓跋を亡き者とするが、そこに現れた陸孫によって命を奪われてしまう。陸孫は、玉鶯により母と姉の命を奪われ、滅ぼされてしまった戌の一族の生き残りで、玉袁から西都を守るよう託されていたのだった。 ***様々な出来事の根底にあったのは、戌の一族と風読みの部族との複雑な関係性で、陸孫の従兄妹の三姉妹の一番上が、あの白羽だったんですね。そして、戌の一族や三姉妹を匿った玉葉后の本当の父親は?さらに、雀さんはかなり有能な間人(スパイ)だったと判明しましたが、その上司は?まだまだ西都でのお話は続きそうです。
2021.05.23
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カバー画は、東山魁夷の「緑響く」。 この絵は、お話の中でも登場し、重要な意味合いを持つ作品なのですが、 このお話自体は、マハさん得意の「美術」を核とするものではありません。 『まぐだら屋のマリア』にごく近い作品だなと、私は思いました。 ***麻生人生は、引きこもり歴4年の24歳。きっかけは、高2の時に受けたいじめ。その後、高校を中退し、慣れない就活、日雇い派遣、突然解雇、引きこもり……ところが、そんな人生を一人残して、母が家を出て行ってしまった。残されていたのは、母からの手紙と5万円、そして、今年の正月に母に届いた10枚ほどの年賀状。その中に、父方の祖母・マーサばあちゃんからのものが。それを見た人生は、祖母が暮らす長野県茅野市へと向かうことにした。茅野駅前商店街で久米食堂を営む志乃さんの助けで、祖母宅に辿り着いたものの、祖母は昨年秋から認知症になっていて、人生のことをまるで覚えていない。そして、その家には、祖母と共に一人の少女・つぼみが住んでいた。彼女は、人生の父・新多が再婚した女性の連れ子、つまり人生の妹だった。以後、祖母の家で三人の生活が始まり、人生は清掃の仕事に就くことに。そして、祖母が続けていた独特の米作り- 田んぼを耕さない、肥料を施さない、農薬を撒かない - を、つぼみと共に引き継ぐ決心をしたのだった。 ***様々な人の助けを得ながら米作りが進んでいく様子は、圧巻です。その作業は、『リーチ先生』で描かれた「陶芸」に通じるものも感じられ、「これもひとつの芸術なんだな」と思いました。今回も、とても素晴らしい作品でした。
2021.05.15
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『七月に流れる花』は、大木ミチルの視点でお話が進んでいく。 6月初めに夏流(かなし)に転校してきたミチルは、 1学期の終業式の日の帰り道で「みどりおとこ」に追いかけられる。 捕まると思った時、そこにいたのは学級委員の佐藤蘇芳(すおう)だった。 ミチルは、蘇芳と二人でしばらく歩き、「冬のお城」に辿り着く。 気付くと、カバンの中に「夏のお城」への招待状が入っていた。 ミチルは指定された列車に乗って、夏流城での林間学校に出かける。 そこには、ミチルと蘇芳を含め、全部で5人の少女が集まっていた。鐘が3回鳴ったら、夜中だろうが、早朝だろうが、お城の隅っこにあるお地蔵様にお参りしなければならない。水路に花が流れてきたら、その色と数を報告する。ミチルは、このルールが持つ意味合いを、やがて知ることになる。一方、『八月は冷たい城』は、嘉納光彦(てるひこ)の視点でお話が進んでいく。「みどりおとこ」からの招待状を受け取った光彦は、列車に乗って「夏のお城」へ。それは、緑色感冒に感染した母が「みまかる」のを待つ時間の始まりだった。そして、そこで過ごす4人の少年たちに、不可解な事件が起こる。 ***「みどりおとこ」とは何者なのか?そして、合宿中に起こった不可解な事件の真相は?私が、恩田さんのミステリー作品を読むのは、『ユージニア』以来ですが、やっぱり、ミステリー以外の作品(『チョコレートコスモス』)の方が好みです。
2021.05.09
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『蜜蜂と遠雷』の前日&後日譚。 CD「蜜蜂と遠雷 ピアノ全集」「蜜蜂と遠雷 その音楽と世界」と 「小説幻冬」に掲載された6つのお話をひとまとめにしたもので、 『蜜蜂と遠雷』を読んだ人にとってはとても嬉しい一冊。 「祝祭と掃苔」は、栄伝亜夜が、マサル・カルロス・レヴィ・アナトール、 風間塵と共に、幼少時の師・綿貫の墓参りに行くお話。 「獅子と芍薬」は、ナサニエル・シルヴァーバーグと嵯峨三枝子の出会いと 再会、結婚、別れ、そして現在を描いたお話。「袈裟と鞦韆」は、「春と修羅」を作曲した菱沼忠明が、若くして亡くなった教え子・小山内健次との思い出を振り返るお話。「竪琴と葦笛」は、マサル・カルロス・レヴィ・アナトールが、ナサニエル・シルヴァーバーグの弟子になるまでを描いたお話。「鈴蘭と階段」は、浜崎奏が、栄伝亜夜と風間塵を介して自身の探し求めていたヴィオラに出会うまでを描いたお話。「伝説と予感」は、パリ大学研究者である父のリンゴ開花調査に同行していた風間塵が、ユウジ・フォン=ホフマンと出会った経緯を描いたお話。いずれも短くて、軽いタッチのお話。本筋に大きな影響を与えるようなものではありませんが、それぞれのキャラクターを「らしく」描いています。こういう作品も楽しいですね。
2021.05.03
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首都壱岐壊滅後、タオ迫水は素早く臨時政府を樹立。 惑星敷島では調査計画が前倒しされ、ゴートの生態が次第に解明されていく。 さらに、SSX4の調査も進み、人類にとって衝撃の事実が明らかに。 それは、播種船が敷島文明の担い手・ゴートを3度に渡り攻撃したというもの。 一方、第24電子戦戦隊は、ガイナス第2拠点の集合知性とのコンタクトに成功。 それを受け、烏丸は司令長官代行として総計52隻の艦隊を率い、第2拠点に向かう。 6隻の軍艦による第2拠点2か所への急襲、そして烏丸が発したメッセージを契機にして ガイナス2派間で内紛が勃発、それは双方が全滅するまで続いた。 ガイナス自滅後、37番小惑星が、まっすぐ準惑星天涯に向かっていることが判明。そして「烏丸司令官とシャロン司令官をお招きしたい」との文字メッセージが届く。烏丸とシャロン、さらに警護に当たる降下猟兵31名が、37番小惑星に降り立つが、ロムルス・レムスと名乗る知性体との対面を許されたのは、烏丸一人だけだった。烏丸は、ロムルスの正体をフリッツ霧島のクローンであると看破。すると、ロムルスは、敷島を襲った災厄、その後の生態系復活失敗、壱岐への移住、ロムルス誕生、警備艦ヤーチャイカとの遭遇、獣知性、生きているゴート細胞の入手、さらに、復讐と絶望について烏丸に語り始める。降下猟兵によって烏丸が救出された後、37番小惑星は準惑星天涯に激突した。そして、「エピローグ」。ロボットが空気と温度と食糧を生産する地下大空洞に、50体程のゴートが上陸した。 ***やっと読み終えることが出来ました。今巻は、これまでに比べると割とスムーズにページを捲ることが出来ました。読み始めた契機や、作品のタイトルが「兵站」であることからすると、お話の流れやエンディングは、期待したものとは少々違っていたかな。
2021.05.03
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帯には「岬美由紀の帰還」「12年ぶり完全新作」の文字が躍る。 『千里眼 キネシクス・アイ』以来、 コロナ禍の中、永遠の28歳、スーパーヒロインが降臨。 これほどの時を経ても、岬美由紀は岬美由紀でした。 ***百里基地に1機のみテスト配備されたF-70が、何者かの操縦により離陸、行方不明に。そして、在日米軍の普天間基地でも、1機のみ配備されたF-70が奪取されてしまう。そのF-70のデータを持ち出した疑いで、神原千秋二尉が取り調べを受けるなか、元自衛官である臨床心理士・岬美由紀が百里基地に招かれることに。美由紀は、基地に勤務していた臨床心理士・湯川が犯人であることを突き止める。しかし、東京はF-70に空爆されてしまい、多大な被害を受けてしまう。美由紀は、F-70と共に消えた女性パイロット・幹本二尉の足跡を追って、彼女の恋人だった伊島一尉、そして柴藤三尉と共に禰占島へと向かう。そこには、元メフィスト・蟹垣摂男が築いた軍事施設が存在し、2機のF-70を用いて極東の米中空軍基地を破壊、大戦争の勃発を画策していた。味方と思っていた人物の裏切り等もあって、美由紀は窮地に追い込まれるが、最後にはF-70同士のドッグファイトを繰り広げ、事件の幕を下ろすことに成功する。 ***巻末には、『千里眼 ノン=クオリアの終焉』が、2021年7月25日発売予定との告知が。と言うことは、『高校事変』は、いよいよ終焉かな?そして、『特等添乗員』は、どうなる?
2021.05.02
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シリーズ第6弾。今回も素晴らしい! 山猫、勝村、里佳子のお馴染みメインキャストに加え、 警察官である霧島さくら、犬井や、あの言わ猿らが大活躍。 細田、真生、みのり、関本らも登場します。 ***システム開発会社・ビルドは、自社開発したアプリに特殊ログラムを組み込み、本人が知らぬ間に個人情報を抜き取っているという噂があった。自社が山猫に狙われていると知ったビルド社長の前に、深紅の虎と名乗る男が現れる。男は、山猫と古い因縁があり、山猫を捕らえてやってもいとい言う。この深紅の虎と山猫の因縁の対決に、勝村やさくら、犬井らは巻き込まれていく。そこに、勝村の山猫に対する想い、さくらの勝村に対する想い、犬井の言わ猿に対する想いなどが交錯しつつ、事件は緊迫の度合いを次第に高め、遂に、因縁の対決が皆の前で展開されることに…… ***「あとがき」には、作者によるシリーズ完結宣言が。しかし、こんな記述も。 私は、いつか時代が - いや、皆さんが山猫を必要とする日が、 再び訪れると信じています。 果たして、そんな日は来るのか? 待て! しかし期待せよ!もちろん、期待して、いいんですよね?
2021.04.25
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立体駐車場を爆破し、さらに美術館の爆破を予告する動画が再生数第1位に。 その動画の投稿主は、自らを學藝員9010と名乗ります。 被疑者となったのは隠館厄介。 そして「探偵を呼ばせてください!」 今日子さんが、厄介や優良警部、原木巡査、 さらには、爆弾処理班の若きエース・扉井警部補らと真犯人を捜索。 そして、事件の裏に秘められていたのは、悲しい過去の出来事。 今回もタイトルである「設計図」がキーワードとなっています。今回は、本格的なミステリー作品に仕上がっており、シリーズの中でも、特に完成度が高い一冊になっていると思います。そして、「あとがき」には、『掟上今日子の五線譜』に関する記述が。 次こそ『五線譜』で、その次が『伝言板』です。(p.259)しかしながら、『五線譜』『伝言板』は、まだ発刊されておらず、『鑑札票』が先日発売されました。このあたりの経緯は、『鑑札票』の「あとがき」に記されている?
2021.04.25
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ジャック真田らの科学者チームは、SSX3の内部調査を進めると共に、 惑星敷島へ2種類のドローンを投入し、植物サンプルの入手に成功。 これにより、敷島の陸生生物とその生態系だと思われていたものが、 実は生物ロボットによる環境制御系ではないかと考えられることになった。 その後、ジャック真田は潜水艦を用いて衛星美和の海中調査が進め、 ゴートの都市と思われる巨大な物体を発見する。一方、輸送任務に当たっていた嚮導警備艦キーロフが、ガイナスの巡洋艦が襲撃される。その経緯を聞いた烏丸は、ゴートの生きた細胞組織を狙ったものだろうと推測。また、五賢帝が、ガイナス戦闘機による第390警備隊軍艦4隻全滅を知らないことから、第2拠点は既に完成し、五賢帝はガイナスの意思決定者ではなくなったと考える。これを受け、ガイナス拠点の封鎖が解除されると、ガイナスの輸送艦が小惑星37番に到着。続く10隻の巡洋艦と80機の戦闘機の奇襲により拠点は破壊され、五賢帝は消滅してしまう。その後、第2拠点を特定すべく、シャロン旅団長が25隻の軍艦を率いて出動。すると、大型宇宙船を追う108隻のガイナス巡洋艦を発見、さらに救援要請の通信が。 「マルクスはゴートの脅威に晒されている」ガイナスは、人間を改良してガイナス兵を作る代わりに、第2拠点で、キーロフから奪ったゴートの細胞から、クローン作製に成功した模様。80隻程に数を減らした巡洋艦部隊が、大型宇宙船を殲滅すると、シャロンは、探査衛星を放出後、壱岐へと帰還した。その後、第2拠点総攻撃のため、重巡洋艦クラマに出撃命令が下る。「壱岐を丸裸にするつもりか!」と憤る烏丸。そして、1隻のガイナス巡洋艦が、密かに内惑星系に飛来、首都壱岐の統領府を直撃すると、地殻をも貫通して、首都は壊滅したのだった。 ***最後は、予想外の展開に。それにしても、相変わらず、読み進めるにはかなりの労力が必要でした。
2021.04.25
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「薬剤師・毒島花織の名推理」シリーズの第3弾。 第1話「ノッポちゃんとアルコール依存症」は、 神楽坂のホテル・ミネルヴァ入社2年目の原木くるみの弟が、 かつて魔法を使って、酒乱だった父親を断酒させた経緯について、 薬剤師・毒島花織が、その真相を解き明かすお話。第2話「毒親と呼ばないで」では、新型コロナウイルス感染症が拡大する中、神楽坂のホテル・ミネルヴァでフロント業務を担当する馬場が発熱、さらに、水尾爽太にも感染の疑いが浮上し、二人は客室で自主隔離することに。一方、どうめき薬局では、ミュンヒハウゼン症候群が疑われる事案が発生して……第3話「見えない毒を制する」は、第2話からの続編で、フロント以外のホテル従業員にも発熱者や体調不良者が出てしまい、自主隔離解除を目前にした爽太までもが発熱してしまうお話。爽太から得た情報をもとに、花織は別の感染症の可能性を導きだします。このタイミングで、正面から新型コロナウイルスをテーマにした一冊。1年前の状況を思い出しながら、今後のことがより気になる昨今です。
2021.04.25
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今巻は、序文から始まって、第1枚から第5枚、 そして、掟上今日子の五線譜(序曲)いう構成。 営業活動の旅に出た今日子さんが、旅先で次々に起こる事件を解決していきます。 語り手は、今日子さんのボディーガードとして同行する親切守。 第1枚 今日子さんin寝台特急『ひらめき』では、 普通客室寝台で乗客が殺された事件について真犯人を暴き出し、 第2枚 山麓オーベルジュ『ゆきどけ』では、 宿泊先で相席した老裁判官がかつて担当した殺人事件の真相を解き明かします。そして、第3枚 高速艇『スピードウェーヴ』では、運行中に殺された船長と副船長について、その真相を究明すると、第4枚 水上飛行機『ウォータージェット』では、墜落した水上飛行機を操縦していた社長が、服毒死した理由を解き明かし、第5枚 観光バス『ハイスピードロード』では、親切守の臨席の乗客が殺された事件について、真犯人を暴き出します。本巻最後の、掟上今日子の五線譜(序曲)は、地下留置場に囚われた隠館厄介が、旅を終えたばかりの親切守を呼び出し、守が今日子さんの代理人として、手紙を託すに相応しい存在かを試すというお話。その手紙には、五線譜の暗号が記されていました…… ***そして、巻末には、 忘却探偵シリーズ第12弾、 2019年刊行予定! 掟上今日子の五線譜 忘れられないメロディが ……ありましたっけ? 電子版も同時配信!という広告が。これは、ほぼ同じ内容のものが、『掟上今日子の色見本』の巻末にも掲載されていますが、異なるのは、そちらでは「2018年夏発売予定!」となっていること。そして、2021年春である現在に至っても、『掟上今日子の五線譜』は、まだ発売されておらず、2020年3月には『掟上今日子の設計図』が刊行され、あと数日で『掟上今日子の鑑札票』が刊行される予定です。このあたりの経緯については、『掟上今日子の設計図』のあとがきに記されているのでしょうか?
2021.04.18
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前回、このシリーズを読んだのはもう3年半以上も前のこと。 それでも、何の違和感もなくスラスラと読み進めることが出来ました。 今巻は、序章から始まって、第1話から第7話、そして終章という構成ですが、 前巻同様、一連のひとまとまりのお話です。 また、これも前巻同様、二人のキャラ視点で、交互にお話が紡がれています。 語り手は、今日子さんを誘拐した犯人と今日子さん救出に奔走する親切守。そして、あの隠館厄介が登場したり、須永昼兵衛の作品も登場したりしています。さらに、肘折警部、遠浅警部、鈍磨警部、佐和沢警部、鬼庭警部、山野辺警部、波止場警部、御簾野警部、二々村警部、百道浜警部、遊佐下警部の名前も出てきますが、実際にお話に登場するのは「冤罪製造器」の異名をもつ日怠井警部です。誘拐・監禁されてしまった今日子さんを、彼女が発した言葉を手掛かりに、親切守が救出する様を描いた作品ですが、守の行動力や推理力も捨てたものではないと気付かされます。まさにタイトルになっている「色見本」が、今巻のキーワードでした。
2021.04.11
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前巻発行から7年を経ての新刊。 韓国芸能事務所による日本人練習生への人権侵害問題や 両国間に山積する様々な問題により韓流が目の敵にされる状況の中、 絢奈は、同僚の妃華莉、美波と共に韓国ツアーに添乗します。 ところが、ツアー中に景福宮で女性客が一人行方不明となり、 その後、母娘一組も行方をくらましてしまいます。 さらに、芸能事務所練習生の寮で台本が一冊なくなったことから、 ツアー客を乗せたバスが、何者かにジャックされてしまって…… ***K-POPをテーマにしたお話でしたが、複雑・難解な箇所も特になく、サクサク読み進めることが出来ました。今回は、絢奈や那沖よりも能登先生が大活躍でしたね。今後、続編が出るかどうかは不明です。
2021.04.04
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名門私立校である慧修学院高校の3年生が、 文化交流の一環として中米ホンジュラスを訪問。 経済協力の旗頭となっている雲英グループCEOの娘・雲英亜樹凪や、 最年少で国際コンクール優勝を果たしたピアニスト・桐生翔季も同行していた。 しかし、現地で大規模な武力衝突が発生し、 生徒や教師たちは、中米過激派組織ゼッディウムに拘束されてしまう。 そして、そのゼッディウムから総理官邸に映像通信が入る。 宮村首相が目にしたその主は、優莉匡太の長男・架禱斗だった。架禱斗は、シビックの創始者で、ゼッディウムは顧客の一つにすぎないと言う。国際闇金組織であるシビックは、イスラム教テロ組織を抑える代償として、日本政府から2カ月ごとに2千億円の支払いを受けていたとも。その後、宮村首相は、優莉結衣が慧修学院高校を訪問していたことを知ったのだった。結衣は、慧修学院高校の校長に手紙を渡し、訪問中止を促していた。手紙には、父・匡太がかつて立案した犯罪計画が綴られていたという。 「まずホンジュラスに支社を持つ企業の、経営陣の子供が通う私立学校を探り出す。 その学校に国際交流の名目でホンジュラス訪問を持ちかける。 現地ではマラスに手引きさせ、 メキシコかコロンビアに縄張りを持つ武装勢力に襲撃させる」(p.137)警察署に連行された結衣は、ホンジュラスに向かうことに。一方、凜香は篤志に呼び出され、弘子の母・映見の営むスナックに。そこにいたのは、凜香の母・市村凜だった。市村凜は、半グレ同盟の再結成を目論んでいた。自衛隊員と共にホンジュラスに到着した結衣はゲリラ兵に急襲されるが、傭兵の磨嶋と弥藤の援護を受けつつ、自身の能力を向上させながら、途中で合流した桐生と共に、高校生たちの救出を図る。そして、状況を監視していた米軍も現場に到着。そんな中、遂に始まった一族の争い。架禱斗と共に結衣に立ち向かってきた智沙子。凜香や篤志、弘子、映見らを取り込んだに見える市村凜。今後、彼らに一人立ち向かう結衣は、どのようにして勝機を見出すのでしょうか。 ***それにしても、市村凜が『探偵の探偵』に登場していた市村凜だったとは……今後、紗崎玲奈の登場もありうる?そして、巻末には『特等添乗員αの難事件Ⅵ』の広告と共に『千里眼の復活』の告知が。昨年の凜田莉子の復活に続いて、今年は浅倉絢奈が復活し、遂に岬美由紀までもが復活……松岡さん、どういう心境の変化ですか?
2021.04.04
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『ロマンシエ』は仏語の”romancier”、「小説家」という意味。 主人公・遠明寺美智之輔は、政治家の父から後継者となること望まれるも、 美大卒業後は単身パリに留学、カフェでアルバイトをしつつ画塾で学んでいた。 そんなミシェルが思いを寄せるのは、大学時代の同級生・高瀬君。 そして、愛読書はシャーク本郷が大活躍する<暴れ鮫>シリーズ。 その謎の作者・羽生光晴に、バイト先で声を掛けられたことがきっかけで、 彼女の逃亡劇に一役買うと共に、idemでリトグラフ制作に励むことになるのです。 さらに、そこへ展覧会企画会社に就職した高瀬君もやって来ることになって……。 *** つまりこの小説は、実際の展覧会の準備を睨みながら書かれていたことになる。 だから、小説の中に登場する展覧会名は実在のものだし、 内覧会の日付も現実どおり、 作中で描写されるポスターのデザインも実際に使用したものと同じものだ。 展覧会の図録には、「羽生光晴(原田マハ)」が書いた 「君が叫んだこの場所こそが、ほんとの世界の真ん中なのだ」というタイトルの 掌編小説が掲載された。 『ロマンシエ』のスピンオフと言うべき珠玉の一遍だ。(中略) こうして史上初めての小説連動型展覧会/ 展覧会連動型小説が生まれたのである。(p.434)これは、東京ステーションギャラリーの冨田章館長が本著のために書いた「特別寄稿 原田マハという嵐」の中の一節。お話の後半は、逃亡劇の終結と、この展覧会の実現に向けて、キャラクターたちが、パリ周辺を所狭しと駆け巡ります。
2021.03.07
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このお話の主人公は、ハグこと波口喜美(ハグチ ヨシミ)。 都内大手広告代理店に勤務し、35歳で課長職に。 しかし、5年間付き合っていた彼と別れると、仕事もうまくいかなくなり退職。 郷里・姫路に一人残したままになっている母親への仕送りも困難に。 そんな時、大学時代の親友ナガラから「旅に出よう」とメールが届きます。 そして、大学卒業以来14年ぶりに二人で旅に出かけ、 以後、3~4カ月に一度、日本各地を旅するように。 ハグ自身は、東京でフリーランスの広告ディレクターを始めました。40代になると、母親が認知症の兆候を示し始め、月に2~3度は実家に帰るように。そして50代、母親の介護のため姫路にもどるも、フリーの広告ディレクターは継続。しかし、母親が転倒、足首を複雑骨折して、手術後3か月入院したのを機に、母親は地元のケアホームに入居しますが、ハグは毎日ホームに通い続けます。一方、ハグの親友、ナガラこと長良妙子(ナガラ タエコ)。小豆島出身で、大学卒業後から芦屋に住み、大手証券会社大阪支店に通勤する独身女性。母親は脳梗塞で倒れたものの回復し、小豆島のケアホームで元気に暮らしています。その後、ナガラは総務課課長に抜擢され、やがて八尾に転勤、八尾に引っ越しました。 ***この物語は、ハグとナガラの女二人旅を軸に据えたお話で、作者の原田マハさんと旅友・御八家千鈴さんの「ぽよグル」がベースになっています。けれど、この物語の主題は決して「旅」そのものではなく、介護する者として生きる運命を背負った「独身女性の人生模様」のように感じます。認知症が進む母親の言動に狼狽え、声を荒げるハグ。そして、母親の最期を看取ることができなかったことを激しく後悔するナガラ。高齢化が進む現代、誰にとっても避けることの出来ない、人生の一場面。追いつめられ過ぎることがないようにするための施策が望まれます。
2021.02.21
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今回も、ほぼ1年ぶりの新刊。 慣れ親しんだ筆致と世界観にどっぷりと浸りながら、 「やっぱり、イイなあ」と、またしてもひとりごと。 お話の方は、大きく展開し始めました。 ***壬氏の命で家鴨の飼育をすることになった馬閃は、その孵化方法を、都の北西にある紅梅館に身を寄せていた里樹から教えてもらうことに。そして月日が流れ、馬閃が壬氏に従って西都に向け出発する日が迫る。馬閃は、再び紅梅館を訪れることを里樹に約束し、旅立った。猫猫たちに遅れること3日、馬閃が西都に到着する。そして、猫猫は、馬閃、雀と共に、念願の農村視察に出発。その途上、甘藷や馬鈴薯の育て方を広めるため西都に来ていた羅半兄と合流。目的地に着くと、羅半兄は、村人たちの手抜き仕事を大いに嘆くのだった。そんな中、唯一まともに畑仕事に取り組む念真という老人を、猫猫たちは訪ねる。念真は、かつて武闘派の遊牧民で、他所の部族や村を襲う盗賊の一員だった。遊牧民の中でも、風読みの民には手を出すなという暗黙の了解があったが、念真たちの部族は、それを破り、風読みの民を襲ったのだった。 風読みの民ってのは、あれだ。 いわば草原全体の祭祀を任されている神官みてえな存在だった。 鳥を飼い、風を読んで草原を移動する。 知恵者が多く、その年の天候をぴたりと当てる。(p.151)それから何年か過ぎ去った頃、飛蝗の群れが草原一帯を襲った。この災厄の元となった念真たちの部族は、草原共通の敵として追われることに。そして、領主である戌の一族によって、念真は弓を弾く指を切断され、農奴にされ、風読みの民の代わりに祭事をさせられたのだった。念真の話を聞いた猫猫は、村人たちを集め、祭事を行ってから西都に戻る。そこでは、飛頭蛮という首が飛び回る妖怪騒ぎが起こっていた。猫猫はその真相を明らかにし、捕らえられた女児・庫魯木(クルム)から風読みの民について、有益な情報を手に入れることに成功する。羅漢の元副官・陸孫と共に、再び農村視察へと向かう猫猫に、羅半兄からの手紙が。それは、飛蝗襲来の知らせであり、猫猫は村人たちに収穫を急ぐよう訴える。そして、収穫を7割ほど終えた頃、飛蝗は来た。西都も散々な有様となっていたが、そこでは甘藷の粥が配られていた。 ***飛蝗襲来の場面は、これまでにはなかった緊迫感溢れるものでした。そして、この蝗害には、何か裏がありそうです。 飢えたくないなら飢えないように、畑を作ればいい。 なのに、まともに作らなくても不作だったら銭がもらえる。 下手に真面目に耕作するより、 よほど気前よくもらえるのならどうするかい、あんたは?(p.171)念真のこの言葉には、何者かが蝗害を意図的に発生させようとしている印象を受けます。そして、これに大きく関わっていそうなのが、風読みの民であろう女性を妻とした玉袁と、その息子・玉鶯。玉袁の娘であり、玉鶯の妹である玉葉の行動にも注目したいですね。
2021.02.07
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早逝した画家・深澤真一を父とする深澤深紅は、 釧路に母を一人残し、東京でインテリア・アートの販売員をしていた。 ジュエリーショップで偶然出会った王剣との出会いから上海へと旅立つと、 彼の館にあったコレクションや膨大な蔵書で、中国美術について大いに学ぶ。 そして、王剣が進める作品蒐集をアシストする貴重な存在に成長した深紅は、 自身のビザ有効期限である2か月間、コレクション形成に懸命に励んだ。 しかし、ある日、深紅が買い付けた作品について、王剣と意見が対立すると、 以後、二人の関係は大きく変化していく。そんな時、深紅はマッサージサロンで#9という男性施術者(マスーア)に出会う。王剣が自分を上海に呼び寄せた本当の理由に気付いた深紅は、マッサージサロンに頻繁に通い、やがて#9を館に呼び寄せるようになる。そして、#9は故源という画家の弟子であることを知る。やがて、#9来館の事実が王剣に露呈する。すると、#9は1枚の風景画を深紅に手渡し、故郷へ帰ってしまう。その夜、王剣の館は炎上し、世界屈指のコレクションは全て灰になった。何者かによって救出され一命をとりとめた深紅は、母が待つ釧路へと帰っていく。 ***5年後、東京の画廊に就職し、ディレクターとなっていた深紅は、中国の貴陽を訪れ、そこで#9と再会します。そして、炎の中から自分を救い出してくれたのが彼だったことを知ります。そして、さらに6年後、深紅は銀座でギャラリーのオーナーになっていました。そこには、田園風景が描かれた50cm四方の絵が飾られています。さらに2年後、上海の美術館のメインロビーに、その絵が飾られることになりそうです。
2021.01.31
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烏丸が乗る重巡洋艦クラマは、ガイナス巡洋艦4隻を撃破する。 そのうち補給担当を担っていたと思われる宇宙船を、キャラハン山田が調査し、 そこで、情報処理装置として機能するカーペット状のガイナスを発見。 以後、この肉体はガイナスニューロンと呼ばれることになる。 一方、衛星美和に降り立った独立混成降下猟兵捜索中隊長・ウンベルト風間らは、 氷原の墓所でゴートの死体の調査を進めるが、そこにゴートの潜水艦が現れる。 その艦上で、1人のゴートが2人のゴートにより処刑されるが、風間は不干渉。 しかし、潜水艦内の様子をドローンで探ることには成功する。一方、出雲星系防衛軍第2管区司令部は、その領域内で播種船の減速装置を発見。この情報を独占し、タオ迫水が議長を務める危機管理委員会の介入を阻止すべく画策。しかし、これを知らされた香椎士郎安全組合総務部長は、自分の立場を悪くすることを覚悟のうえで、コンソーシアム艦隊に報告する。これを受け、艦隊司令部はアイロス玄田少佐率いる降下猟兵部隊を投入。部隊は減速装置を強襲し、その占領に成功する。この減速装置のコンピュータは奇跡的に稼働可能であり、その調査責任者にはマリソル会田が就任した。 ガイナスから始まって、今はゴートの案件を抱え、 さらに惑星敷島には独自の文明があるらしい。 その文明の担い手にはスキタイというコードが割り振られているが、 ゴートとの関係もわかっていない。 状況証拠は同一種族ではない可能性を示唆しているが、直接的な証拠はまだない。 おそらくガイナス、ゴート、スキタイとの関係が何かわかれば、 一蓮托生で謎が氷解すると思われたが、その何かはわかっていない。 見つけ出す目処さえ立っていない。 そこにマリソルのレポートである。 播種船が出雲星系より先に敷島星系の近くを通過したらしいという報告は、 まさにガイナス船団が敷島を出発した時期とほぼ同じらしいことを示唆していた。 ただ時系列までは不明であり、単なる偶然の可能性もあった。 敷島星系に異変があり、文明が衰退してから播種船が通過したかもしれないし、 文明の最盛期に通過した可能性もある。(p.211)ゴートの潜水艦との接触を受け、機動要塞で潜水艦を建造するという計画が進む中、衛星美和の静止軌道上にいた軽巡洋艦カシマに、敷島の宇宙船3隻が接近してくる。3隻の宇宙船は、美和の円軌道上でSSX2より1回り大きい同型の物体を建造。SSX3と命名されたこの物体には、様々なコードやケーブルで繋がれたゴートが入っていた。その後の調査で、惑星敷島は小惑星の衝突を受けたことが判明。さらに、惑星表面全体に見られるクレーターは、核兵器使用が原因と推測された。一方、烏丸はゴートとのコミュニケーションの中で、集合知性と高等知能に関する新たな仮説に思い至るのだった。 ***人類の目の前にゴートが姿を現し、明確な光景がいくつか展開されたことで、今巻は、今までに比べると読み進めやすいものとなっていました。しかし、全体としては、個々のキャラクターたちが推測や憶測を語り合う場面の連続で、さらに、現実にはない複雑な理論・理屈を読み進めねばならず、とても疲れました。
2020.12.31
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『涼宮ハルヒの驚愕(後)』以来、本当に久々の新刊。 「もう、ハルヒには二度と会えないのかなぁ」と思っていましたが、 こうして、新たなお話を読んでいると、あの頃と何も変わっていない。 この愛すべきキャラたちとは、つい最近会ったばかりに思えてしまう。 ***本巻は、3つのお話から成り立っています。まず、「あてずっぽナンバーズ」は、SOS団のメンバーたちが1月3日の正午過ぎに、市内の神社に初詣に出かけたときのお話。初出は『いとういのぢ画集 ハルヒ百花』で、30頁ほどの短篇。次の「七不思議オーバータイム」は、SOS団のメンバーたちが集う文芸部室に、「学校の七不思議を知っているか」という、ハルヒの質問に答えるべく、ミステリィ研部員がたくさんの荷物を抱えて訪ねてきたというお話。初出は『ザ・スニーカーLEGEND』で、100頁に満たない作品。そして、「鶴屋さんの挑戦」は、本巻の核となる、280頁を超える書き下ろし作品。鶴屋さんが送ってくるエピソードの謎解きに、SOS団のメンバーたちとハニーブロンドのミステリィ研女子・Tが挑みます。読みながら、『掟上今日子の家計簿』のことを思い浮かべてしまいました。
2020.12.13
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ノイエプラネットが回収され、そのデータ解析が進んでいったが、 ガイナス人と集合知性との関係性は、まだまだ不明な点が多かった。 そんな中、火伏はタオ迫水に、ガイナスが第二の拠点建設を計画していると警告。 それは、現在の人類優位のパワーバランスが崩れてしまう可能性を示唆していた。 一方、降下猟兵は、準惑星天涯で1115体のガイナス兵の死体を発見。 それらには、奇襲側と籠城側に分かれて争った形跡があり、共に全滅していた。 さらに、それらを制御していたと見られるロボットも発見されたことから、 集合知性より前に、自由意思を行使できる別の知性体が存在していた可能性が出てきた。敷島星系第4惑星桜花の軌道上で発見された謎の十字架状金属物体はSSX1と名付けられ、研究機材管理主任キャラハン山田が、ガイナス艦を復元した艦でその調査に向かう。そこで回収されたのは、カエルに似た生物の缶詰だった。その後、キャラハンらは、ガイナス艦2隻に急襲されるが、その撃破に成功し、以後、回収されたSSX1は、出雲星系の惑星アシハマの軍施設で研究されることになった。そして、原ガイナス人が惑星敷島で進化したことを確認すべく、衛星美和と惑星敷島で、直接探査を試みることになる。まず衛星美和の探査に、巡洋艦ヤクモでキャラハン山田が向かい、その軌道上にSSX2を発見。さらに、SSX1の回収作業時に攻撃してきたガイナス艦が、美和の地表から打ち上げられたことも判明した。また、衛星美和に着陸した陸上ドローンが、湖の液体部分と氷が接する縁に幾つも折り重なるように堆積した人形の映像を送ってくる。以後、ゴート(原ガイナス人)の死体の調査が急速に進み、やがて、シャロンに降下猟兵による衛星美和探索の命令が下った。一方、奈落基地に向かっていた輸送船ラーラが、ガイナスの新型艦に襲撃され、その後も、小規模船団が二度に渡って全滅させられる状況となっていた。烏丸は、ガイナスの集合知性である五賢帝と意思疎通を図るべく、水上の了解を得た上で、重巡洋艦クラマでガイナス拠点近傍に向かった。 ***今巻も、スラスラ読み進めるというわけにはいきませんでした。なかなか厄介な作品です。
2020.12.12
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マハさんと言えば、何と言っても自身のキャリアを生かしながらの 絵画を中心とする美術関係のお話が素晴らしいことで知られていますが、 本作は、同じ芸術の中でも音楽をテーマとして取り上げた作品。 もちろん、稀代のストーリーテラーは、読み手をグイグイ引き付けていきます。 ***高校1年生の梶ヶ谷和音は、日本が世界に誇る大指揮者・梶ヶ谷奏一郎とかつてチェリストだった小田時依との間に生まれた一人娘。しかし、母は11歳だった和音と古いチェロを残し、家を出て行ってしまった。そして、父もボストン交響楽団音楽監督に着任するため、近々渡米することに。ある夜、和音が家に戻ると、そこに見知らぬ女性が。「あたしは、あなたのお母さんよ」と澱みのない声で告げたのは、元チェリストで、奏一郎の新しい妻である、アラフォーの真弓。奏一郎がアメリカに旅立つと、母と娘の二人暮らしが始まった。和音は、真弓と一緒に暮らす中で、様々な事実を知り、様々なことに気付いていく。そして、級友の池山文斗がピアニストを、谷崎朱里が音楽制作の仕事を目指し始めると、母からの手紙を手にした和音も、遠ざけていたチェロに再び向き合う決意を固める。そして春、母が入院している病院で、ロビーコンサートが行われたのだった。 ***和音と母・時依、真弓とその母、そして、和音と真弓。チェロを介しての、この3組の母子関係に加え、時依と真弓の関係に、心が揺り動かされました。中でも、やっぱり、真弓の生き様がイイですね。
2020.12.12
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あのフィンセント・ファン・ゴッホとその弟・テオ。 そして、実在の画商・林忠正と、その弟子である架空の人物・加納重吉。 この4人が、本作の中で重要な役割を果たす登場人物ですが、 中でも、重吉とテオの二人の関りが、物語を紡ぎだしていくことになります。 お話は、史実に基づく部分もあるのでしょうが、 その大部分は、著者であるマハさんによる想像の産物と思われます。 それでも、重吉の目を通して見たフィンセントとテオの生き様には、 強く強く引き付けられてしまいます。ゴッホが創作活動に励んでいた頃のパリの様子が生き生きと描かれ、『ジヴェルニーの食卓』等でも見られた『印象派』の活躍や浮世絵人気が創り出した『ジャポニズム』への熱狂ぶりも、しっかりと伝わってきます。安定の原田マハ作品です。
2020.11.28
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200年前に周防を出発した航路啓開船ノイエ・プラネットが、 敷島星系に向かう途上ガイナスと思われる船団に遭遇し、 敷島星系でも文明を発見したとの通信データが発見された。 その後、敷島星系へのAFD航法が啓開され、文明の存在が確認される。 バーキン大江主計少将は、敷島星系の異星人文明調査基地の司令官となって、 メリンダ山田経理部長と共に、機動要塞の建設を急ピッチで進める。 そして、そこにやって来た周防政府全権代表委員シーラッハの真の狙いが、 ノイエ・プラネットを探し出すことだと気付く。ノイエ・プラネットが数十年に渡って収集した異星人データを回収すべく、巡洋艦ヤクモと貨客船クラフトワークが惑星敷島に向かう。そして、ノイエ・プラネットを発見し、データを回収しようとしたところ、未確認飛行物体が襲来する。一方、ガイナスの拠点「蜘蛛の巣」を監視する奈落基地では、一木魅猫少将が、前任者のバーキンに代わって司令官となった。しかし、ガイナスとの意思疎通プロジェクト主務者には、烏丸三樹夫司令官が着任。一木は、その支援を行うものの、プロジェクトに関しては蚊帳の外に置かれていた。烏丸は、旗艦である巡洋艦ツシマで、三条新伍先任参謀と共に、ガイナスとの意思疎通を様々な方法で試みながら、成果を積み重ねていく。しかし、自らが危機管理委員会に出席せねばならなくなったため、三条にその職務代行を委ね、駆逐艦カゲロウで壱岐に向かう。そのタイミングで、一木は、要塞での造修能力を示そうと、ケルン、ファルケ、ヤコビの3隻を同時にドック入りさせてしまう。実質的な戦力が半分以下の4隻になったその時、6隻のガイナス戦艦が封鎖を破って出撃。圧倒的な劣勢の中、三条は一木の艦艇進出命令を拒み、ガイナスとの意思疎通を図るのだった。 ***その後、敷島星系、奈落基地共に、事態は収拾していきます。今巻のお話は、なかなか理屈っぽくて、ちゃんと理解するのは大変ですね。(まぁ、これがこの作品らしいところなんでしょうけれど)上記2つのメインのお話の他にも、シャロンやマイア、ラム浅井が登場したり、相賀、坂上、水上、火伏、タオらが登場したりして、次巻への布石が打たれています。
2020.11.28
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大学生という時期を過ごす若者たちを描いたお話。 主人公である田端楓も、 このお話の中で特に重要な役割を果たす秋好寿乃も、 まさに、青くて痛くて脆い。 この作品は、『君の膵臓をたべたい』とは違うし、 『また、同じ夢を見ていた』とも違うし、 『よるのばけもの』とも違います。 また、新たな住野さんの一面が見られる一冊になりました。私は『されどわれらが日々―』を思い出しながら読み進めていました。もちろん、時代背景も、社会情勢も、学生たちの置かれた状況も大きく異なります。それでも、大学生という時期に見られる感性には、共通するものがあるように思います。まぁ、エンディングについては、人によりその評価が分かれるかもしれませんね。
2020.11.15
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兎田孝則は誘拐グループの一員で、猪田勝とペアを組んでいる。 その誘拐グループで資金管理をしている経理の女が行方をくらました。 コンサルタントのオリオオリオに言い包められ、 グループの金に手を付け、それをどこかの口座に移してしまったらしい。 グループは、近々取引相手に送金せねばならないが、手元の資金は不足している。 経理が喋れない今、金を取り戻すには、オリオオリオを探し出すしかない。 そして、兎田の新妻・綿子ちゃんが誘拐されてしまう。黒ずくめの服にキャップをかぶった男が拳銃を向けて一戸建てに侵入してきた。その家に住む長男・勇介とその母親、そして2階にいた男は拘束されてしまう。 黒澤は、今村と共に詐欺師の家に空き巣に入る。しかし、黒澤が空き巣に入った家にいつも残していく「但し書き」を、今村が勝手にコピーし、別の家に落としてきてしまったことが判明する。宮城県警に、若い男から「立てこもり」の電話がかかってきた。時間を改め、特殊捜査班SITの夏之目課長は、犯人に電話をかける。犯人の要求は、オリオオリオを連れてこいというものだった。 ***これら4つの異なるエピソードが、時間と場所が行き来しつつ、一つに集約していきます。「なるほど、そういうことだったのか……」と唸らされることになりますが、用心深く読み進めていかないと、頭の中がこんがらがってしまうかもしれませんね。
2020.11.08
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フェリーからの脱出に成功した田代勇次は、川崎区の民家に潜伏。 非行少年たちを仲間に引き込みつつ、 川崎総合病院で、協力者と共に3Dプリンターを用いて銃を密造し、 失地回復と元担任教師・三井和美及び優莉結衣への復讐を目指す。 一方、公安警察による厳重な監視下に置かれていた結衣は、 ストレス性高体温症で40℃の高熱が続き、宇都宮市内の病院に入院。 しかし、勇次が和美の元夫を殺害した事件を知ると病院から脱走、 勇次との決着をつけるべくその行方を追うが、川崎総合病院で拘束されてしまう。勇次の主治医が用意した装置から発せられる電気刺激により、自らの意思に反して、女性看護師に向け無理矢理発砲させられてしまった結衣は、警視庁庁舎でその事情を聴かれるが、そこに勇次からテレビ電話がかかってくる。やり取りの中、勇次の魂胆に気付いた結衣は、和美を救出すべく警視庁庁舎を脱出。結衣は、勇次に拘束されていた和美を奪回、逃走する勇次をさらに追う。勇次が向かったのは、「メンパス」が隠されている田代ホールディングス本社。そこに、ファミリー再建の鍵となる、田代ファミリー5年間の全ての記録があるのだ。そして、結衣と勇次の最後の闘いが始まった。 ***市村凜、今回は登場しませんでしたね。そして、次巻からは、いよいよ結衣の兄・架禱斗(かいと)が登場。優莉匡太の子供たちの中でも、結衣と共に群を抜く能力を示していた存在。一族の中で、血で血を洗う抗争の始まりか?
2020.11.01
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新型コロナウィルス感染症が拡大し、 緊急事態宣言が出され、様々な職場で在宅勤務が行われ始めた頃から、 『ペスト』と共に、多数の人たちに読まれることになった作品。 私も、今回ようやく本著を手にし、読了しました。 *** 「たしかに、手洗い、うがい、マスクの着用、人ごみには極力近づかない。 日本中が普段やらないことを実行しましたから。 その結果、消費はかなり落ち込んでいます。 町はガラガラという時期が何カ月か続きましたからな。 旅行、コンサート、展覧会など軒並みキャンセルが続きました。 中止も多い。経済は大打撃を受けました。」(p.43)この作品の中で、閣僚の一人が述べた言葉ですが、まるで、2020年の日本を見て述べているかのようです。 「まず、不特定多数の人が集まる所には行かない。 それには、不要不急の外出を避けることがいちばんです。 やむをえず人に会うときには、対人距離をしっかり保つことです。 飛沫は1メートルから2メートル以内に飛び散ります。」(p.170)『首都感染』は、2010年12月に刊行され、2013年11月に文庫化された作品です。信じられないほどの、既視感です。 <ウイルスは人を区別するわけじゃない。等しく平等だ。隙を見せたものが捕まる。 誰の言葉か覚えているでしょ>(p.195)主人公の優司がかつて述べた言葉を、医師の岡本が電話で本人に確認した場面です。今、まさに肝に銘じておきたい言葉です。 このような大規模な感染症の封じ込めは、しょせん不可能なのだ。 なるべく狭い範囲に感染をとどめて、 その間にパンデミック・ワクチンを作って国民に接種するしか方法はない。(p.214)『首都感染』では、中国から入り込んできたウイルスを、首都封鎖により封じ込め、その間に、ワクチンや抗インフルエンザ薬の開発に成功し、感染は終息していきます。それに比べ、今回のコロナウイルスは全国に感染が拡大し、厳しい状況です。やはり、その終息はワクチンや薬剤の開発を待つしかないのでしょうか。さて、成毛眞さんによる巻末の『解説』には、次のように記されています。 そうなのです。 わたくしは高嶋哲夫作品をこれから起こる未来の記録、 いわば未来のノンフィクションとして読んでいるのです。(中略) 高嶋哲夫さんはじつは小説家などではなく、 預言者なのではないかと思っているファンも少なくないのではないでしょうか。 たしかに東日本大震災の6年前に『TSUNAMI』発表したことは 驚くべき先見性のあらわれです。(中略) しかし『TSUNAMI』は『M8』の翌年に書かれています。 『M8』は東京直下型地震をシミュレーションした小説です。 つまり阪神淡路大震災の9年後に書かれた首都圏版です。 大震災といえでも、「十年一昔」となって 人々が天災を忘れ始めたころに警告を発した小説なのです。(中略) ところで、本書『首都感染』は中国で流行しはじめたSARSから 8年目に書かれた小説です。 そろそろ人々が感染症の怖さを忘れたころに出版されました。(p.580)高嶋さんの先見性もスゴイですが、成毛さんも相当スゴイです。
2020.10.31
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またしても、お久しぶりの伊坂作品。 それでも、やはり流石の筆力と安定感。 『グラスホッパー』の槿(あさがお)やスズメバチ、 『マリアビートル』の蜜柑&檸檬の名前が登場するのも嬉しいですね。 さて、この作品の主人公・兜は、恐妻家でありながら、腕利きの殺し屋です。 その息子・克己は、そんな父の姿を冷静に見つめ、時に気の利いた言葉を投げかけます。 そして、父である兜が同業者によって命を奪われた後は、主人公の座を引き継ぐことに。 ただし、克己は父が殺し屋ではあるとはつゆ知らず、自身も殺し屋ではありません。本作は殺し屋たちが繰り広げる、生きるか死ぬかのお話でありながら、実は、夫婦や親子といった家族について、とても考えさせられる作品になっています。殺し屋にも家族がいるのですね。では最後に、私がこの作品で最も印象に残った箇所をご紹介します。 「中学生か?」まずはそう訊ねた。 兜の言い方にどこか温情的な響きを感じたのだろうか、少年は肩を抑えながら、 「ふざけるなよ。すげえ痛いじゃねぇか。暴力振るうなよ」と若干、強気の、 媚びるか強硬かの二択で後者を選んだのだろう、そういった態度に出た。 「痛かったか」 「超痛いっての、これはひどいって」 このような猿芝居で学校の教師はうろたえたりするのか、 これが普段は通用するのか、と兜は感心した。 少年の肩に手をやり、今度は先ほどよりも強く力を込めた。 少年は悲鳴を上げ、その場にしゃがみ込む。(p.200)
2020.10.31
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谷中でアンティークの着物販売業を営む栞。 両親は、母親の不倫が原因で離婚し、栞は父親の、妹・花子は母親の籍に入った。 父親は、実家のある北陸の山奥で暮らし始め、数年前にバツイチの女性と再婚。 母親は、花子と種違いの妹・楽子の3人で、現在、都営住宅で暮らしている。 栞は、高校卒業まで、父親と北陸の家で暮らしていた。 元カレの雪道君とは、高校卒業後一緒に上京するも、別れてから6年近くになる。 その別れには、花子が大きく関わっていた模様。 現在、彼には奥さんもいるが、栞のもとには未だに年賀状が届く。そんな栞が営む店に、客としてやって来たのが木ノ下春一郎。木ノ下は、町田に最近戸建て住宅を買ったばかりで、妻ひとり娘ひとり猫一匹と暮らしている。その後、木ノ下と栞は、逢瀬を重ねることに…… ***小川さんらしい、ほのぼのとした雰囲気の文体で綴られてはいるものの、内容としては、妻子ある男性と未婚女性との間の許されぬ恋愛を描いたお話。母親が歩んだ道と同じような道を、娘もまた歩もうというのか……かつては文学の王道であったこの題材も、今のご時世では受け入れられない?
2020.10.18
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優莉結衣は、泉が丘高校に編入し、4月に3年3組の生徒になった。 赴任したばかりの化学教師・伊賀原が担任となり、 前年度、2年2組で結衣を担任した普久山は、3年1組の担任に。 そんな中、原爆製造の疑いをかけられた3年3組の米谷智幸が行方不明になる。 田代ファミリーに多額の懸賞金をかけられ、行く先々で命を狙われる結衣は、 凜香や異母兄の篤志、清墨学園で争ったパグェのパク・ヨンジュらと共に 懸賞金目当てに群がる面々を牽制しつつ、原爆の設置場所を探る。 そして、石掛工業高校の地下室でそれを発見すると、その無力化に成功する。結衣の殺害に失敗した田代槇人は、拉致していた結衣の双子の姉・智沙子を解放。清墨学園事件でのアリバイを失った結衣は、検察審査会に申立書を提出されることに。さらに、田代槇人は、息子の勇次のファンミーティングの会場となるフェリーで、国外脱出を目論むのだった。しかし、結衣は、そのフェリーへの潜入に成功。凜香、篤志、ヨンジュらもそこに加わって、田代ファミリーを壊滅へと追い込むと共に、妹の弘子の救出にも成功する。その後、東京高等地方簡易裁判所で、審査結果が申し渡された。 ***今巻は、これまでのお話で登場した様々なキャラクターたちが登場し、振り返りをしながら、全体の総括をする一冊に仕上がっています。それでも、勇次はまだ生きているでしょうし、まだ未解決の部分もあります。何と言っても、今後最大の注目は、12年ぶりに目覚めた市村凜ですね。
2020.10.18
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これはフィクション? それともノンフィクション? もちろん、ほとんどの作品はフィクションのはずです。 それでも、いくつかの作品には、村上さん自身と強く重なる部分が。 『猫を棄てる』に漂っていたものと同じものが、そこには確かに存在します。 例えば、「クリーム」の舞台は神戸。 ある女の子からから招待されたピアノ演奏会の会場は、 阪急電車の**駅からバスに乗り、山頂近くのバス停で降りてから、 少し歩いたところにある、財閥系会社が所有運営する小ぶりなホール。(現在は、阪急電車駅前から六甲山上、摩耶山上に向かうバス路線はありません)「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」の舞台も神戸。主人公が通っていたのは、山の上にあるかなり規模の大きな公立の高校。(これはご自身が卒業した、灘区にある出身校をイメージしているのでしょう)そして、ガールフレンドの家は、いつも聴いていた神戸のラジオ放送局の近く、海岸に近い松林の中にありました。(この放送局は、かつて須磨にありましたが、現在はハーバーランドに移転しています)彼女が運転するトヨタ・クラウンで六甲山の上にあるホテルのカフェに行き、そこで別れ話をした後、主人公はケーブルカーに乗って一人で山を下ります。(ケーブルカー下車後も、鉄道まではさらにバスに乗るか、結構な距離を歩く必要あり)主人公は東京の大学に進学し、卒業後すぐに結婚、東京で物書きをしました。(村上さん自身は東京で学生結婚、ジャズ喫茶開業後に大学を卒業し、やがて作家に) そして、「ヤクルト・スワローズ詩集」。これは、ノンフィクション。スワローズとの関りも、幼少時の思い出も、まさに村上さん自身のものにちがいありません。(阪神タイガースと、こんな関りがあったとは……)私としては、「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」が面白かったです。そして、最も村上ワールドを感じさせてくれたのは「一人称単数」でした。
2020.10.17
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新型コロナウィルス感染症が拡大し、 緊急事態宣言が出され、様々な職場で在宅勤務が行われ始めた頃、 本著が多数の人たちに読まれていることを知り購入。 随分時間がかかりましたが、ようやく読了しました。 それにしても、元々フランス語で書かれたものを日本語に訳してあるためか、 普段のリズムでテンポ良く読むということが、最後まで出来ませんでした。 また、哲学や宗教の空気感が全体に漂っており、文章も難解。 最近読んだものの中では、読み進めるのに最も労力を必要としました。 ***1940年代、当時フランス領だったアルジェリアの要港・オランで、最初は鼠が群れをなして死に始め、やがて人も発熱で次々に死んでいく。ペスト地区宣言が発表され、市門を閉鎖すると共に信書の交換も禁止されると、市外電話の利用も緊急時のみに制限され、電報が唯一の情報伝達手段になる。外部と遮断された孤立状態の中、人々の態度や行動、考え方も変化していく。その様子が、医師リウーの視点でドキュメンタリー風に描かれる。やがて、その災厄は唐突に収束し、人々は元の生活へと戻っていく。しかし、それぞれに訪れた結末は、人生の不条理を感じずにはいられないものだった。
2020.10.04
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準惑星天涯奪還戦で、ガイナスの小惑星要塞と軌道エレベーターを破壊し、 ガイナス艦隊の一掃に成功した壱岐方面艦隊は、 独立混成降下猟兵第1連隊を地表に降下させ、ガイナスの地下都市制圧を目指す。 そして、アンドレア少佐らの働きによって、それは実現される。 その後開かれた危機管理委員会。 出雲科学者チーム担当官となったブレンダ霧島は、ガイナスの意識構造について 「我々と接触した時点でガイナスは知能を有していたが、それは知性ではなく、 数と密度が増え、相転移により初めて集合知性が誕生した」と述べる。ガイナスは準惑星天涯の地下都市を核融合爆弾で完全破壊すると、96隻の艦隊を禍露棲の周回軌道に乗せようとする。セリーヌ司令官は、味方の損失ゼロで、これを全滅させることに成功。しかし、これはガイナスの陽動であり、主力288隻は壱岐に向かっていた。水神司令長官は、集合知性の恐怖心を利用して、その進行を阻止。ガイナス艦隊は壱岐攻撃を中止して方向転換。方面艦隊は、惑星百合若周辺に集結してこれを迎え撃つ。残った37隻が本拠地へと向かったため、ガイナスの拠点が特定された。やがて、敷島星系にガイナスの母星があるとの情報が、ブレンダにもたらされる。 ***兵站監に復帰した火伏が、ガイナスの壱岐攻撃を阻止する陰の立役者となったり、朽綱八重、クーリア迫水、ブレンダ霧島が危機管理委員会で一堂に会したりと、興味深いエピソードやシーンもありましたが、盛り上がりという点では、少々物足りなさを感じました。それは、ガイナス主力艦隊が、あまりにも呆気なく壱岐攻撃を放棄してしまったことと、その背景にある「集合知性」というものが、今一つピンとこないため。結局、「一区切りついたな」と実感出来ないままに、第一部が終了。『星系出雲の兵站ー遠征ー』へと、お話は続いていきます。
2020.10.03
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社会現象化している「日曜劇場『半沢直樹』」も、今日がいよいよ最終回。 そのタイミングに合わせるように、先日本著が発売されました。 『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』 『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』に続くシリーズ5作目。 ただし、時系列でいうと『オレたちバブル入行組』よりも前のお話になります。 ***東京中央銀行大阪西支店で融資課長を務める半沢直樹は、部下の中西と共に美術系出版社・仙波工藝社への融資を進めていた。しかし、同社のM&Aを強引に推し進めようとする支店長・浅野らが執拗に妨害。その売却先は、スター経営者・田沼時矢を社長とする大手IT企業ジャッカルだった。田沼は絵画コレクターとしても世界に知られる存在であり、仁科譲の作品については圧倒的なコレクションを誇っていた。来春オープンする田沼美術館では、その仁科作品が大きな目玉となる。仙波工藝社社長室には、仁科の「アルルカンとピエロ」のリトグラフがかかっていた。このM&Aに不信を抱いた半沢は、田沼が仙波工藝社を手に入れようとする理由を探る。そして、仙波工藝社の本社ビルが、かつて堂島商店の本社ビルだったこと、その堂島商店で、若き日の仁科と佐伯陽彦という若者が勤務していたこと、さらに、仙波工藝社の本社ビルの壁に落書きが残されているという事実に辿り着く。 ***血気あふれる半沢直樹の姿は、まだまだ若々しいものですが、他の銀行業務を差し置いて、ここまで探偵まがいの行動をとれるものかとも思います。また、仙波友之社長の語る「ファミリー・ヒストリー」(p.62~)の大阪弁は、やはり中途半端で不自然、違和感満載……。池井戸さんは岐阜県生まれやから、しょうがないとも思うけど、愛知県生まれの水野敬也さんの方は、読んでて全然違和感ないからなぁ……。作品として世に出す前に、誰かがチェックを入れてるはずやけど、なんでこうなるんかな?
2020.09.27
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準惑星天涯上空での小惑星要塞攻略失敗後からほぼ1か月。 香椎方面艦隊司令長官と火伏兵站監は、責任を取る形で辞職。 香椎は予備役編入、火伏は軍務局の地方出先機関の閑職に追いやられていた。 火伏に代わり兵站監となったは吉住二三四大佐は、 壱岐方面艦隊司令長官・水上と共に 壱岐星系防衛軍第3管区司令官・セリーヌ迫水との交渉に臨み、 壱岐星系防衛軍から方面艦隊に編入する戦力についての合意に成功する。その頃、壱岐星系のYHH(安久ホールディングス)では、アーロンの自死により統合政府筆頭執政官・タオ迫水の妻でありアーロンの長女であるクーリア迫水とアーロンの長男・ダニエルとが、その筆頭株主と総帥の座を争う事態になっていた。火伏の妻・朽綱八重は、20数年ぶりに実の父である出雲星系の南雲ホールディングス(NGH)総帥・南雲元に会う。そして、母との離婚後に南雲が自分たちのため積み立てていた養育費を受け取ると、ダニエルに接近していくのだった。一方、特設武装偵察隊隊長アンドレアは、水上の命により、20人の志願兵と共に天涯で威力偵察を行い、次々に新たなガイナス情報を入手。軌道エレベーターから氷宇宙船を経ての脱出にも成功する。その支援に当たっていた水上率いる艦隊もガイナス艦隊を悉く撃破。独立混成降下猟兵第1連隊シャロン連隊長は、新たに開発された原子熱線砲を用いてガイナス艦に対抗し、軌道エレベーターや小惑星要塞を切断。そして、ガイナスの地下都市を占領すべく、天涯に降り立ったのだった。 ***さて、今回私が特に印象に残ったのは、次の部分です。 「俺がいなけりゃ機能しないようなチームじゃ失敗だ。 そんなチームしか育てられなかったとしたら、それこそ指揮官失格だ。」(p.54)これは、兵站監を辞職した火伏が、そのことを非難する水上に言った言葉。私がずっと目指してきたことと、火伏が全く同じことを述べているので驚き。「自分がいなくても回るチームを作る」これが、私がずっと目指し、人知れず掲げ続けているテーマです。 とかく組織では大きなトラブルが起きてから、 それを解決できる人間が有能と評価されがちだ。 しかし、真に有能な人間は、全体に目配りし、トラブルの兆候を発見し、 それが問題となる前に対処する。(p.77)これは、吉住の仕事ぶりについて述べた部分。「不断のリスクマネジメント」が必要であり、そのために「関係各所との連携」や「情報収集と共有」を図る。もちろん、全ては組織的にチームで対応。 「あなたが壱岐で変えようとしていたのはこれなのね」(p.211)これは、有料放送メディアから流れる映像を見て、八重が呟いた言葉。この作品の大きなのテーマの一つのようですね。
2020.09.26
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『夢をかなえるゾウ』から始まって、 『夢をかなえるゾウ ガネーシャと貧乏神』、 『夢をかなえるゾウ ブラックガネーシャの教え』、 そして、本著『夢をかなえるゾウ ガネーシャと死神』。 今回は「死」がテーマだけに、これまでの作品と比べると重い。 ガネーシャは、いつも通りの振る舞いなんだけれど、何せ、主人公が重い。 そりゃ、そうだ。 だって、いきなり余命3か月を突きつけられたばかりなのですから。読み手の精神が安定していないと、本著を読み進めることはそう簡単ではありません。私も、これまでの3冊は、どれもこれもアッという間に読了した記憶がありますが、今回はおよそ2か月に渡って、本著は机の上に乗り続けていたと思います。手を伸ばしたものの、少し読んでは手が止まり、そのまま放置……の繰り返し。その間、手術入院したり、その後も、検査結果が分かるまで、しばらくかかったりと色々ありました。お陰様で手術は成功し、その後の経過もまずは良好。検査結果も良いものだったので気持ちも安定し、こうして読了まで漕ぎ着けたわけです。 ***さて、本著の中で、特に私の心に残ったのは、次のような箇所でした。 でも、『働く』の語源が『傍を楽にする』て言われるように、 傍にいる人の苦労が分かって感謝できるようになれば、 世の中の人らの苦労を減らせるサービスも生み出せるようになるんやで(p.205)これは、本当に「へぇ~っ!!」でした。確かに、誰かが「働く」ことによって、「傍を楽にする」ことが出来ますよね。 判断に迷うちゅうことは、 自分の本心と、周囲からの期待が合うてへん場合がほとんどやねん。 そんで、自分がこれまで周囲の人の気持ち大切にしてきたんなら、 違う方を選択する勇気も持たなあかん。 その両方を経験して初めて、 自分とってほんまに大事なもんが何か分かるんやからな。(p.211)自分のやりたいことを優先する。これも、そうすることが難しい場面・状況の方が多いものだと思いますが、やはり、周囲に負担や迷惑をかけてでも、自分の気持ちや思いを優先すべき時というのはあるのだと思います。 ある地域で働くタクシー運転手たちにこんな質問をした。 「通常は30分で行ける距離を大急ぎで走った場合、何分短縮できるか?」 ほとんどの運転手たちが「5分から10分短縮できる」と答えた。 しかし、急いだ運転と、適切な車間距離を取った運転をしてもらい 両者の時間を比べると、平均して「2分45秒」の違いしかなかった。 人間は、車を急がせれば「時間を短縮できる」という錯覚を起こすのだ。 結果、短縮できる時間はほとんどなく、 事故率だけが大幅に上がることになる。(p.214)これは、私も同じことを、良く知る身近なプロのタクシードライバーから言われたことがあります。「急いで運転しても、5分も変わらんよ。急ぐなら、5分早く出発したらいい」と。焦っても、逆にトラブルが生じれば、余計に時間がかかることは目に見えています。 ただ、より良い状態を目指し続けるちゅうことは、 同時に、悪いとされる状態も、より悪く感じられるようになってまうねんな(中略) 「死を憎しみ、遠ざけようとすればするほど、死の恐怖は高まっていく」(中略) 頑張ることが「良い」とされればされるほど、頑張らへんことは「悪い」ことになる。 若さを保つことが「良い」とされればされるほど、 老いることは「悪い」ことになる。 夢をかなえることが「良い」とされればされるほど、 夢をかなえてへんことは「悪い」ことになる。 人間の歴史が始まって以来、今ほど、個々の人間が夢をかなえてへんことが 「悪い」とされる時代はあれへんかったで(中略) 今、世の中の人らが感じてる苦しみの多くはな、 「夢」が生み出してんねんで。(p.303)これは、本著の肝になる部分ですね。まさにその通り、深イです。 他人に完璧を求めれば求めるほど、自分が完璧でないことに苦しめられる。 逆に、他人に完璧さを求めへんようになれば、 完璧じゃない自分を許せるようになる。 ありのままの自分が肯定できるようになり、 自分を苦しめていた偏見が消えていく。つまり-(中略) 完璧じゃない状態を許せることが、本当の意味で完璧なんやで。(p.331) これも、まさにその通りですね。でも、他人には厳しいけれど、自分には甘い人も……見かけますよね。
2020.09.26
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芥川賞を受賞した2作品を読むため購入。 『破局』を先に読みましたが、作者の若々しさを感じると共に、 「受賞者インタビュー」を読んで伝わってきた作者自身の個性や人格が、 作品の主人公の中にも、しっかりと反映されていると思いました。 続いて『朱里の馬』を読みましたが、 こちらは、作者がこれまでに積み重ねてきた経験というものを感じると共に、 スタートからグイグイとお話の中に引き込まれていきました。 後半は、ちょっと失速したというか、私には難解な結末でしたが。2作を読んで感じたのは、私が読書する際に好ましいと感じる趣向と芥川賞に選ばれる作品の傾向は、やはりあまり馴染まないなということ。これは、芥川賞についてのみ言えることではなく、他の賞についても同様。受賞は、作家さんの名前や作品を、多くの人たちに知ってもらう契機にすぎません。さて、本著を読んで最も印象に残ったのは、藤原正彦さんの「ファンレターへの回答(古風堂々・16)」です。日本が国際連盟規約に人種差別撤廃を入れるよう提案した際の欧米諸国の反応やウィルソン米大統領の行動の根本は、未だ変わっていません。
2020.09.13
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準惑星天涯でのガイナス戦に勝利した後、 シャロン紫壇中隊長は2階級特進して大佐となり、 独立混成降下猟兵第1連隊として再編された部隊の連隊長に着任、 マイア先任兵曹長も少尉として連隊司令部に移動し、連隊長附となった。 一方、新編された第1壱岐派遣艦隊の司令長官には香椎士郎中将が着任、 水上魁吾が率いる既存の壱岐派遣艦隊は第2壱岐派遣艦隊となり、 この2つの派遣艦隊の上部機構である壱岐方面艦隊司令長官を香椎が兼任することに。 これを機に、水上と兵站監の火伏礼二は、大佐から少将に昇進した。その頃、天涯に向けてガイナスの偵察衛星と思われる小惑星が接近、衝突する。小惑星の調査に向かった警備艦は撃破され、地上の守備隊も脱出するしかなかった。その後、ガイナスが天涯に軌道エレベーターを建設したことが判明したため、小惑星要塞を攻略すべく、第1壱岐派遣艦隊のほぼ全戦力を投入することが決定した。そして、火伏の部下である兵站監補佐・音羽主計中佐、軍需部長補佐・白子主計中佐、第1壱岐派遣艦隊司令部の主計長・バーキン大江主計中佐、第2壱岐派遣艦隊司令部の主計長・カザリン辻村主計少佐は、4人で協力して、方面艦隊司令部直卒の医療チーム編成に取り掛かった。しかし、ガイナス艦と遭遇した第1壱岐派遣艦隊は次々に撃破されてしまい、降下猟兵を天涯に残したまま戦線を離脱、第3管区司令部のある準惑星禍露棲へ帰還する。壊滅状態となった降下猟兵第1中隊と第2中隊は、降下モジュールを使って要塞を脱出、第3管区司令部ではなく、バーキンらが設定した野戦病院に収容されたのだった。その頃、壱岐の軍需生産の最重要拠点トムスク7の事実上の所有者であり、タオ迫水の義父でもあるアーロン安久は、火伏の工場管理を快く思っておらず内政干渉の火種である火伏を暗殺すべく、トムスク7で爆発事故を発生させる。が、この謀は、タオの妻であり、アーロンの娘であるクーリア迫水に暴かれてしまう。 ***このお話は、女性の活躍が本当に目立ちますね。シャロンはもちろんですが、降下猟兵第2中隊超アンドレア園崎や、壱岐方面艦隊参謀長・一木魅猫に、壱岐星系根拠地隊司令秘書室長・坂上好子、さらに、主計長のバーキンやカザリンも大活躍。そして、女性の中でも妻という立場の人たちの存在感がスゴイ。クーリアだけでなく、フリッツ霧島の妻・ブレンダ、そして火伏の妻・朽綱八重。特に八重は、夫以上の活躍をこれから見せてくれそうな予感。私が一番注目しているキャラクターです。
2020.08.14
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『マツダ 心を燃やす逆転の経営』に次の一文がありました。 現場に無理難題が降ってくる時点でその計画は失敗であり、 やらなくてもいい仕事をさせられただけなのに……。 「英雄の誕生とは兵站の失敗にすぎない」という言葉を思い出す。(p.66) これは、著者の山中さんが、まとめのページに書いていた文章ですが、 この言葉の出所が本著であり、本著ではこのように記されています。 「貴官らに自由裁量を与えた以上、責任を負うのが小職の仕事だ。 忘れるな、英雄などというものは、戦争では不要だ。 為すべき手順と準備が万全なら、英雄が生まれる余地はない。 勝つべき戦に勝つだけだ。 英雄の誕生とは、兵站の失敗に過ぎん」 そして火伏は続ける。 「小職の部下に、英雄はいらんからな」(p.240)出雲星系防衛軍軍務局第1部兵站監兼軍需部長の火伏礼二が、部下である同主計少佐兼兵站監補佐の音羽定信に述べた言葉です。 どんな状況で、どのようにしてこの言葉が出てきたのかを知りたくて、本著を手にすることになりました(既に完結巻まで手元にありますが)。この作品は、戦闘のアクションシーンで魅了するタイプのお話ではなく、その基盤となる政治的、経済的、軍事的駆け引きが最大の見所となるようです。それ故、SFとは言いながらも、それぞれの人々が属する部署の背景について、しっかりと把握しておく必要がありそうです。 伝承を信じるなら、4000年前に地球人類は、 異星人の脅威から地球を守る防波堤として、 恒星間宇宙船に人類や家畜などの凍結受精卵を載せ、 複数の恒星系に送り出したという。 これは播種船計画と呼ばれた。(中略) 出雲星系に到達した播種船は、2000年前に惑星出雲に着陸し、 人類を増やし、社会を築き、文明を発達させ、 ついに植民した人類は宇宙に到達し、さらに星系内の惑星にも拠点を築いた。(p.14)これが、出雲星系について説明した箇所。続いては、出雲星系と共にある4つの星系、八島・周防・瑞穂・壱岐について説明した箇所。 出雲星系は人類コンソーシアムの中で、文明発祥の地だ。 他の4つの星系は、出雲星系からの植民の結果だ。 そして我らが壱岐星系は、出雲星系から20光年も離れた辺境の地であり、 同時に人類コンソーシアムの中で、2番目の経済力・工業技術力を有する星系だ。 原則として、人類コンソーシアムの5星系は対等な政治的権限を持ちはするが、 国力の差は如何ともし難く、特に軍事面で人類コンソーシアム艦隊は、 実質的に出雲星系艦隊といっても過言ではない。 壱岐星系以外の八島・周防・瑞穂の3星系は、 出雲の庇護下に置かれているようなものだ。 壱岐星系に独立志向が強いのは、出雲星系からもっとも遠いために、 輸送コストが馬鹿にならず、否応なく地場産業を発展させねばならなかったためだ。 (p.24)5つの星系のパワーバランスが、簡潔に記されています。出雲と壱岐は、ちょっとしたライバル関係にあることが伺われます。そして、人類コンソーシアム(consortium)艦隊について説明したのが次の箇所。やはり、ここにおいても出雲星系が幅を利かせていることが分かります。 コンソーシアム艦隊は、 出雲星系にしか人類が居住していない時代に編成された歴史から、 ながらく出雲星系防衛軍そのものだった。 その後、複数の星系に植民が行われ、各星系政府が誕生すると、 軍令系統は各星系政府との連合形態となった。 しかし、工業力・経済力から、 軍政系統はそのまま出雲星系防衛軍軍務局が担当することとなっていた。(p.33)このような状況下、壱岐星系で異星人が作ったと思われる無人衛星が発見されます。「ガイナス」と呼ばれることになった異星人の拠点と思われる準惑星天涯に向けて、危機管理委員会の命令でコンソーシアム艦隊が派遣されることになり、その司令長官に水上魁吾が、兵站監に火伏礼二が着任します。その艦上会議で、壱岐星系統合政府筆頭執政官のタオ迫水は、コンソーシアム艦隊が、戦時体制を口実に壱岐星系を直接管理することの阻止に成功。それに対し、水上と火伏は、壱岐を戦争に耐えられる兵站基地とするため、壱岐星にある北方特殊機械製造所に降下猟兵第7中隊を派遣し、占領させます。タオは、コンソーシアム艦隊所属壱岐星系根拠地隊指令・相賀祐輔に抗議しますが、相賀の口から出た「兵站の保証の見返りとしての主権の保証」には同意を示します。一方、壱岐派遣艦隊の強襲艦ゲンブで、降下猟兵を率いたシャロン紫壇中隊長は、マイア先任兵曹長の活躍も相まって、天涯でのガイナス戦に勝利したのでした。 ***SFということで、様々な独自設定が現実世界のものとは大きく異なるため、それらを理解しながら読み進める必要があり、その速度は鈍りがちでした。それでも、その世界観や筆者の文体にも次第に慣れてきて、天涯でのガイナス戦は、かなり楽しむことが出来ました。 「ならば、軍隊を組織化する理由。 それは暴力装置で凡人を戦力化するためだ。 歴史を見ればわかる。 少数精鋭のエリート部隊では、戦闘では勝てても、 戦争という大きな枠組みでは勝てない。 少数精鋭と言うと聞こえはいいが、 要するに組織の不備を、 少数の有能な人間への負荷で凌いでいるに過ぎない。 勝てる軍隊とは、凡人を戦力化できる組織なんだよ。 機構がしっかりしていれば、凡人が粛々と与えられた仕事をするだけで、 組織は目的を達成でき、つまりは勝利することができる。 兵站とは、凡人による軍隊組織を、正常に機能させるための機構だ。 だから軍の組織が健全であり、兵站が機能しているなら、 英雄など生まれない」(p.361)これも火伏が水上に語った言葉です。それでは、第2巻の読書に突入します。
2020.08.13
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オスカー・ワイルドは、1891年に戯曲『サロメ』を仏語で書いた。 これは、女優サラ・ベルナールのために書いたものだとも噂される。 そして、その英訳をしたのが、ワイルドの同性の恋人アルフレッド・ダグラス。 英訳版挿画は、白黒のペン画で鬼才と謳われたオーブリー・ビアズリーが描いた。 このお話は、オーブリーの姉であるメイベル・ビアズリーの視点で描かれている。 幼い頃から病弱だったオーブリーだが、ワイルドとの出会いを契機に、 自らの才能を見事に開花させ、画家としての階段を着実に昇っていく。 そして、その隣にはいつも弟を支え続ける姉・メイベルの姿があった。しかし、メイベルの行動の背景には、彼女自身の強烈な願望が潜んでいた。それは、舞台の中央でスポットライトを浴び続ける主演女優としの成功。そして、心の底から愛する弟を誰にも渡したくないという切実な思い。やがて、彼女自身がサロメと化していく。
2020.08.12
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『万能鑑定士Qの最終巻』で、その最後を締めくくったはずの凜田莉子。 その莉子が、この時期に私たちの前にまた姿を現してくれました。 タイトルからもわかるように『万能鑑定士Qの事件簿1』の前日譚。 「力士シール事件」前、「エメラルド密輸事件」後の2009年のお話です。 品川の防潮扉に描かれていたバンクシー作と思われるステンシル画。 それに、ゴッホ作と思われる油絵、さらに「漢委奴国王」の金印を、 莉子は、東京、熱海、グアムで次々に目にしていくことになります。 そして、その背景に隠された陰謀に、いつしか巻き込まれ……まだ鑑定士としては駆け出しで、自分自身に自信が持ちきれない莉子を、様々な面でサポートするのが、レイ、デニス、ゲンゾーの親子三世代、グアムで出会ったPI(プライベート・インベスティゲーター)たち。まだ、とっても初々しい莉子が、国内外を元気いっぱい駆け回ります。 ***さて、コロナ禍真只中のこの時期に、本著発行の真の狙いは何?私のような『グアムの探偵』シリーズ未読者を、何とか取り込もうとして?それとも、あまりにも激しい優莉結衣を書き続けることに、さすがの松岡さんも少々お疲れ?裏表紙には「シリーズ最後にして最初、最大の事件に挑む!」とありますが……
2020.08.12
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2019年夏、武蔵小杉高校に転校する少し前、優莉結衣は泉が丘高校にいた。 同校野球部が夏の甲子園出場を果たし、結衣も甲子園に応援に来ていたが、 試合中にライフル魔騒動が発生、結衣はそれに大きく関わることになってしまう。 しかし、死者も出たその事件を、世間は多くを知ることがないまま月日が過ぎた。 そして、2020年3月。 芳窪高校を除籍になった結衣は、京都の緊急事案児童保護センターにいた。 そこから神藤刑事に連行され、甲子園警察署で事情聴取を受けることに。 結衣は、少しずつあの日の出来事を、そして真相を語り始める……つい先日の3月11日、新型コロナウィルス大流行で今年の選抜中止が決定した。そして今朝、箕面市の草野球場で爆発があった後、甲子園のホームベースに爆弾を仕掛けたとの犯行声明が送られてきた。去年の騒ぎを受け、甲子園の警備は甲子園署刑事2課特務1係が全てを取り仕切る。すべては、この日、大型輸送用ヘリを誰にも邪魔されず甲子園球場に着陸させ、大勢の武装集団を動員して、武器を大量に調達するためだった。チュオニアン騒動で海上警備隊が警戒が強められ、権晟会の密輸ルートを壊滅させられた田代ファミリーの姿が見え隠れする。 ***結衣は、神藤や泉が丘高校の生徒の協力を得ながら危機を乗り越え、田代ファミリーを窮地に追い込みました。しかし、田代ファミリーは、結衣の病弱な姉・智沙子の他、異母兄・篤志や詠美を利用して、総力戦に出て来ようとしている模様です。 「高校生でもわかる」結衣はいった。 「人は学ぶ。教訓を得て、急速にウィルスへの対抗手段を見つけていく。 感染連鎖を断ちきる知恵も個々に備わる。いずれ収束に向かう」(p.331)今日から「2020年甲子園高校野球交流試合」が始まりました。一日も早く、ウィルスへの対抗手段を見つけ、収束に向かいますように。
2020.08.10
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