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今年は感染症の余波を残したまま、世界情勢も色々あり、私にとっては混沌とした中で見えない未来に戸惑いながら、変わらず辛抱することがあったり、それでも少しずつできるようになったことにささやかな幸せを感じられる1年でした。個人的な話をすれば、定年を間近に控え、数年前からその準備に入っていたところでしたがくしくも先の事情により、思うように動けないことが続いて、何をどうしていいのやら、の状態でしたが、それが逆に開き直れる機会にもなり、焦る気持ちもなく、定年退職(状態)が少し早くなっただけの話と考えていました。実際は年金をもらえるまでもう少しあるので、会社は継続していますし、様々なことと共存しながら経済活動を通常に続けるこの国の方針に従い、私にできることはやっています。それでも以前のような状況とはほど遠く、30年間のトルコ暮らしで体験したことのないレベルの物価の高騰ぶりもあって、予定していたことの一部は保留状態です。今になって気が付きます。あとでとか、そのうちとか、じゃなくて、あの時やっておけばよかったと思うことがあります。当時はその時の状態がずっと続くと信じて疑っていなかったから、もう少ししてからやろうとか、仕事が落ち着いてからとか思っていたわけですが、それがいつでも許されるわけではないということ。改めて感じます。もちろん何でも計画通りにいかないのが人生ですが、できる機会があって、状況が許されるなら、その時が行動を起こすタイミングなんだと思います。と言いつつ、やらずに後悔したり、やって良かったと満足したり、そういうことの繰り返しで生きていくわけですね。振り返れば後悔と反省はあれど、あの時に戻りたいとか、人生やり直したいとか考えることがなかった気がします。敢えて言えば、もう少し若い肉体が欲しいかな。先日もクルマを避けて走っているつもりが、その場で足踏みしている自分がいました。椅子から立ち上がると腰が伸びるまで時間がかかります。鍛錬し続けていない私は開脚もブリッジも逆立ちも、今やったら病院送りです。たぶん。老いは誰にでもやってきます。見た目とか気持ちだけじゃなくて、実際逆らえないものがある気がします。それでもその年齢だからこそ考えられること、できることがあるのでしょうから、過去の自分を基準にしないで、これからは無理をせず今の自分にできることをやるというのが目標です。長きに渡るトルコ生活、そして零細企業ではありますが弊社ミフリのオーナー社長として仕事を続けてこられたのも、支えてくれる友人、知人、家族がいてのことだと痛感いたします。トルコの手仕事を通じて知り合えた皆様に心より感謝します。2023年もどうぞよろしくお願いいたします。そして皆様にとっても世界中の人々にとっても平穏で幸せな1年でありますように。2022年末日の前日ミフリ 野中幾美------------------------------------------------------------------YouTubeに「ikumi nonaka」チャンネルを開設しました。トルコの伝統手工芸、食文化、生活、牧畜などをご紹介していきます。新着のお知らせがいくように、チャンネル登録をぜひお願いします❤ikumi nonaka チャンネル------------------------------------------------------------------ミフリのショッピングサイトはコチラ↓ミフリ&アクチェにほんブログ村にほんブログ村 その他・全般ランキングへ
December 30, 2022
トルコの「チェイズ」の習慣は以前ほどではないにしても、現在も継続していると言ってよいだろう。チェイズとは結婚の準備で用意される生活用品、身の回り品のこと。私は普段、嫁入り持参品と訳しているが、男性側も花嫁さんのために用意するので、結婚準備品と言うのが正解なのかもしれない。現在は電化製品一式、家具一式と大荷物になることが多いだろうが、本来はサンドゥックと呼ばれる、日本でいう長持ち、チェストに当たる箱型の入れ物に、手作りした衣類、寝具用品、装飾用品、食器類などを結婚生活に必要な生活品、身の回り品を詰めて持参する。古い映画などを見ると庶民の場合サンドゥック1つで嫁入りする姿があったりする。身の回り品はサンドゥック1つに収まる程度だったのであろう。サンドゥックは嫁入り道具が詰められている箱であり、そのまま収納具として使われた。そしてそのサンドゥックの中身の一部は自分の娘が嫁ぐ時に新しいサンドゥックに入れて贈ったりもする。ただしサンドゥック自体は自分のモノとして一生大切に持ち続ける。つまり、お嫁さん本人の財産であり、自分自身の結婚の証でもあるのだ。私も仕事でサンドゥックの中身を開いて見せてもらう機会が今までもたくさんあったけれど、どんな年齢の女性にとっても、結婚時の想い出と共にあり、それらチェイズ品を見る女性本人たちの脳裏には当時の花嫁になる若い時の姿や気持ちが蘇っているのだと感じる。その目はそれほどにキラキラと輝くのである。キリムや絨毯に描かれるサンドゥックのモチーフの意味もまさにそれである。結婚への憧れ、その後の子供の誕生。サンドゥックの形に合わせて、正方形、長方形の四角のモチーフなのでわかりやすい。そこに詰められているのは髪飾りだったり、星だったりそれぞれではあるが、いずれも女性の結婚したい、子供を授かりたいなどの願いである。女性本人が織ることもあっただろうし、嫁に行く娘に母や祖母など身内が贈ることもあったと思う。現在は女性にとって結婚はひとつの選択に過ぎないが、かつては若い男女であれば、年頃になれば気になる相手がいたり、漠然とした異性への恋心を抱いたり、そして時期が来れば誰かと結ばれるということがごく自然なことだった。そんなシンプルかつ重要な意味を持つのがこのサンドゥックのモチーフである。画像のジジムのように、サンドゥックのモチーフが並んでいるのを見ると、織り手の女性が本人であれ、母親であれどんな気持ちでこれを織り、どんな人生を過ごしたのか考えてしまう。年代から言えばもうこの世にいないと思うが、このジジムの持ち主の人生が幸せであったことを願うばかりである。------------------------------------------------------------------YouTubeに「ikumi nonaka」チャンネルを開設しました。トルコの伝統手工芸、食文化、生活、牧畜などをご紹介していきます。新着のお知らせがいくように、チャンネル登録をぜひお願いします❤ikumi nonaka チャンネル------------------------------------------------------------------ミフリのショッピングサイトはコチラ↓ミフリ&アクチェにほんブログ村にほんブログ村 その他・全般ランキングへ
December 26, 2022
人のモチーフというのは、キリムや絨毯の上でというよりも、古代の石碑や石棺、壁画などで見られるものに馴染みがあると思う。特定の人の人生を意味するものもあれば、その集団での生活の様子を描いたものもある。私たち人間にとって、当たり前であるが人は一番近い存在であり、人は人から生まれ、人は人を産む。そして誰もが迎える死というものにも直面する。キリムや絨毯に描かれる人は、他のモチーフが元がなんだったのかわからない程度には抽象化されているるのに対して、結構生々しさを感じる。もちろんリアルに描かれているわけではないが、頭があり腕があり2本足で立つ様子は人と特定できる形であり、織りのデザインとして限界はあるものの、織り手がイメージしたものが人であることは明確である。人が織り込まれている織物は各地にあるが、東部に多く見られる傾向がある。イランとの国境辺りでもギャッベに描かれる人型、動物型の影響を受けているものがある。一見、幾何学モチーフの羅列と思われる、このキリム。トルコ東部のクルド系住民の織物である。よく見ると人の形をしたものがある。連続モチーフから切り離したら人に見えただけなのか、そこを意図して織り込んだのか。目がひとつだけの宇宙人に見えなくもない。そしてその周辺にも4つ足の動物、たぶん羊かラクダ、さらに犬だろう姿も見える。4つ足のモチーフはどのモチーフの転用でもないから、最初から動物として入れたものかもしれない。下の犬らしきものは、本来はX型のモチーフの一部の糸の方向を変えたら犬になった・・・感じがあるけれど、明らかに動物として描いたのであろう。世俗的に考えれば、人のモチーフは子供を望む女性の気持ちの表れかと思う。妊婦さんで近い将来産まれてくる子供の姿かもしれない。もしくはキリムや絨毯が言葉に出来ない気持ちの表現方法という説を取り上げれば、兵役に行った夫や婚約者を恋しく思っているのか、まだ見ぬ未来の旦那さまを描いたのかもしれない。いずれにしても愛しい人、待ち望んでいる人の姿なのであるということ。いやいや、もっと単純に牧畜の民であれば、自分の生活の中で見られる光景。家族がいて、羊がいて、牧羊犬がいるとか…。それらが意味するのは家族、一族の繁栄と幸福。織物のモチーフはその土地土地の伝統の柄があり、それらが母から娘へ代々受け継がれていくものではあるけれど、そこに個々の工夫やセンスが施されて、変化がもたらされたり、新しいモチーフが誕生したり、その時代を物語る一時的な流行りがあったりもする。織り手の女性たちは、生活の中で必需品としてこれらを作ってきた。同じ地域の同じモチーフのものであっても、作り手が100人いれば100通りの織物が誕生してきた。名前を残すことなく、一人の庶民としての人生だったかもしれない。しかし、どの女性も名もなきデザイナーであり、作家であったったことは間違いない。人のモチーフが描かれていようがいまいが、キリムや絨毯にはそれぞれの織り手である女性たち、命あるものとしての生から死までの人生が記録されているのである。------------------------------------------------------------------YouTubeに「ikumi nonaka」チャンネルを開設しました。トルコの伝統手工芸、食文化、生活、牧畜などをご紹介していきます。新着のお知らせがいくように、チャンネル登録をぜひお願いします❤ikumi nonaka チャンネル------------------------------------------------------------------ミフリのショッピングサイトはコチラ↓ミフリ&アクチェにほんブログ村にほんブログ村 その他・全般ランキングへ
December 20, 2022
トルコにボレキと名の付くものはいったいどれぐらいあるのだろう。ちょっと名前を並べてみただけでもざっと100種類は出てくる。 その中でもアンタルヤ以外ではなかなか見かけないセルプメボレキ。セルプメは広げると言う意味で、空で回転させながら生地を透けるほどに薄く伸ばして、間にひき肉やチーズを入れてオーブンで焼く軽食である。外の皮はパリパリなのに中はしっとり。個人的には熱々をほおばるのが美味い。平べったく焼いたパリパリ餃子のような感触である。朝食・ブランチ専用の食べ物でもあり、早朝から遅くともお昼頃で終了してしまうメニューだ。↓↓↓↓↓ 【トルコの食べ物】宙を舞うご当地グルメ/アンタルヤ名物セルプメボレキ(2021)#0464 ↓↓↓↓↓ アンタルヤ名物セルプメボレキの職人技/Master skill of Antalya's specialty food Serpme börek #Shorts なかなか全国区にならないのは、セルプメボレキの職人さんになるにはそれなりの技術が必要になるからだと想像する。いかに生地を薄く、均等に広げられるかが勝負で、同じように作っても職人さんごとに不思議なほどに味に差が出る。それに、オーダーが入ってから生地を広げるので、商売として効率が悪いと言うのもあると思う。体力使うし、職人さんは店に一人しかいないし一度にたくさん作れないというのも難点。だから待ち時間も長い。人気店ならなおさらのこと。それでも熱々が食べたいから例え1時間でも待ってしまう。セルプメボレキ自体は小麦粉生地のパイであるから、ダイエットには向いていない食べ物なので、ここ数年はかけるのを我慢していたのだけれど、実はひき肉かチーズのお惣菜ボレキなのに習慣としてあるものをかけて食べることがある。それはプドラ・シェケリ。粉砂糖である。セルプメボレキのお店には容器に入った粉砂糖が用意されていて、言うと持ってきてくれる。特にチーズのセルプメボレキにかける人が多く、ほんのりとした甘さと合わさってお菓子みたいな味で美味しい。好みでひき肉のボレキにかける人もいる。日本人的にはそぼろの甘辛煮みたいな感じの味で嫌いじゃない。バクラワと言い、その他のスイーツと言い、しっかり甘いものを食べるトルコ人でも、基本的には食事に砂糖は使うことはほとんどない。(最近、隠し味で砂糖を入れる人も増えているようだけれど…。料理の多様化と、たぶん加工食品やファーストフードの影響による味覚の変化かなと思ったりする)でもセルプメボレキは別なんだって言うのが面白い。砂糖をかけるで思い出したけれど、黒海地方のラズ人たちの一部は断食月のサウルで砂糖をかけたパスタ(小麦粉麺)を食べる。普段の料理に砂糖を入れたものなんてないので、すごく不思議なんだけれど、断食が始まる前の最後の食事として食べることから、何か理由があってのことなのかもしれない。それでまた思い出したけれど、同じく黒海地方にハムシ(カタクチイワシ)のスイーツというのがある。こちらにも砂糖は入っているけれど、あくまでスイーツだからねえ。------------------------------------------------------------------YouTubeに「ikumi nonaka」チャンネルを開設しました。トルコの伝統手工芸、食文化、生活、牧畜などをご紹介していきます。新着のお知らせがいくように、チャンネル登録をぜひお願いします❤ikumi nonaka チャンネル------------------------------------------------------------------ミフリのショッピングサイトはコチラ↓ミフリ&アクチェにほんブログ村にほんブログ村 その他・全般ランキングへ
December 14, 2022
弊社のショップがあるドーガラジ界隈にウイグル食堂がオープンしていた。50メートルも離れていない。階上の美容室に行く以外は、ほとんど外に出ないから気がつかなかっただけで2か月前から営業していると言う。アンタルヤにはウイグル料理を出すレストランは以前からあり、麺類やご飯類を求めて足しげく通っていたが、こんな近所に、しかもお値段お手頃の食堂が出来たのだから行かぬ手はない。お店はドーガラジの路地にあり、以前は周囲の小売店などの商人ご用達の食堂であった場所。こんなところでお客は来るのかしら、と思ったけれど、実はこの界隈、ここ10年ぐらいは中央アジアの住人が多く住んでいる。カザフスタン、ウスベキスタン、キリギスタン、アフガントゥルクメン、私の店の前を通り過ぎる。以前は私は日本人として認知されていたが、このところ、知らない人は私を見てカザフかウズベクの人だと思っているに違いない。店に訪れる人たちからもトルコ語使うし中央アジアの人だと思った~とよく言われる。それぐらいだから、決して観光地でない場所ではあるが、需要はあるのだろう。実際、私たちが訪れた夕方近く、お客さんは中央アジア系の人ばかりだった。お店の人とお客さんの共通語はロシア語。私も最初はロシア語で話しかけられた。時々、普通の食堂だと思ってトルコ人が「メニューに何があるの?」と聞いて、想像と違う料理名を並べられて帰っていく姿もあった。価格はどれでも55リラ(約400円)。ラグマンウイグルピラウペリメンウイグルマントゥ名前は忘れたけれど、ルスパスタスでないスイーツ他にガンファン、サモサ、チーボレキ、肉スープなどがあり、ニンジンと春雨のサラダは事前に連絡したら作ってくれるそう。お店は家族経営のようでどこ出身なのか尋ねたらキリギスタンから来たウイグル人とのこと。調理担当は女性たちでシェフが作るレストランの味とまた違う、家庭料理的なテイストでボリューム満点、いきつけのお店になりそう。アンタルヤには寿司、中華、韓国、ベトナム料理などを出すお店があるが、観光客やトルコ人の富裕層目当てなのでお値段もそれなり。その点、このウイグル食堂はお手頃価格で普通に美味しくいただける。------------------------------------------------------------------YouTubeに「ikumi nonaka」チャンネルを開設しました。トルコの伝統手工芸、食文化、生活、牧畜などをご紹介していきます。新着のお知らせがいくように、チャンネル登録をぜひお願いします❤ikumi nonaka チャンネル------------------------------------------------------------------ミフリのショッピングサイトはコチラ↓ミフリ&アクチェにほんブログ村にほんブログ村 その他・全般ランキングへ
December 10, 2022
キリムや絨毯でよく見るモチーフのひとつに「S」の文字のようなものがある。メインモチーフにはならないけれど、特にジジムとしては縦方向にも横方向にも入れやすい形のため、隙間埋めに使われることが多い。絨毯屋さんによってはこれをSeni SeviyorumのSだとか、SevgiのSだとか説明する人もいるかもしれない。Seni Seviyorumは貴方を愛していますと訳せるし、Sevgiは愛を意味する。織り手の女性の秘めた気持ち、愛がいっぱい詰まった織物、なんていえばもっともらしい話になるけれど、トルコ語がオスマン文字から現在のアルファベット表記になったのはトルコ共和国が成立した後の1928年11月1日のことなので、その以前はどうなる・・・になってしまうので、これは明らかに後付けの意味になるのだろう。Sのモチーフはあとで説明するけれど、広義では男女の愛の意味も含まれるので間違いというわけではないけれど、頭文字を取っていると言うのは少なくとも言えない。では何のモチーフかというと、トルコ語でチェンゲル(Çengel)。引っかけたり、留めたりできる先の尖った金属製のものを指す。一番わかりやすい言葉で言えばフックとか針先とかが適当であろう。チェンゲルは日常の中にも普通に目にするものである。写真は肉などを引っかけて重さを計測する量りのチェンゲル。馬やラクダ、ロバなどの装身具などにもチェンゲルが使われている。先が尖っているということからお守りの意味であることが容易に想像できる。災いから身を守るためのモチーフ。そしてその形態と用途を思い浮かべると、異なる二つのものを繋ぐものとしての象徴としても捉えることができる。それは具体的なものだけれなく、空と海、山と川、水と火、黒と白など形のないものにも当てはめることができ、さらには男女の愛を結ぶものとしても考えられるのである。そういうことからSは「愛」を意味する、強いては貴方が好きという気持ちを伝える手段だったとも言えないこともない。例えば兵役に行ってしまった新婚の夫や婚約者と自分を繋ぐ意味だとしたら、それはとってもロマンチックで意味深い。ただ本来はフックのモチーフであったという話。------------------------------------------------------------------YouTubeに「ikumi nonaka」チャンネルを開設しました。トルコの伝統手工芸、食文化、生活、牧畜などをご紹介していきます。新着のお知らせがいくように、チャンネル登録をぜひお願いします❤ikumi nonaka チャンネル------------------------------------------------------------------ミフリのショッピングサイトはコチラ↓ミフリ&アクチェにほんブログ村にほんブログ村 その他・全般ランキングへ
December 9, 2022
口ではどんなに良いことを並べても、本心は目つきや眼差しに現れる…。本当にその通りで目を見れば人となりがわかる。日本では「目は口ほどに物を言う」という諺がある。その人の感情はどんなに隠しても目に出てきてしまうと言うことだが、その感情が優しいものだったり、温かいものだったりすることもあれば、逆に嫉妬や悪意と言ったマイナスの感情の場合もあるだろう。嫉妬や悪意の感情は邪視となり、その視線の先にいるものに災いをもたらすと言う考え方がある。その邪視を防ぐためのお守りが、トルコの場合はみなさまご存知の青いガラス製の目の形をした「ナザルボンジュウ」である。ナザルボンジュウのナザルは視線の意味であるが、悪意のある視線は邪視であるから、邪視に触れませんようにの意味で「ナザル・デーメシン」という言葉を使う。それをほぼ同じ意味で「ギョズ・デーメシン」という言葉がある。ギョズは目のこと。トルコでも目は本心を表現する部位のシンボルで、悪意の目は災いとなる。特に嫉妬から来る理不尽な感情。可愛い赤ちゃん、美しい奥さん、優秀なお子さん、新築の家、購入したばかりの高級車、贅沢な食卓、豪華な装飾品、誰かのラッキー、それらに対して人々が「いいわねえ」「素晴らしい」「可愛い」と言われ過ぎるとそれらが(妬み、嫉妬の感情から)邪悪な視線になるという考え。だから赤ちゃんを見て「なんて愛らしい!」と心から誉める人も「ギョズ・デーメシン」もしくは「ナザル・デーメシン」という言葉を付け加える。裏返して言えば、人に自慢(羨ましがられること)ばかりしていると恨まれるぞ、という教えなのであろう。そしてそれらの邪視から身を守るためには上記のナザルボンジュウを身に付けるのである。目に対抗できるのは目しかないと言う考え方なのだと言う。ハムラビ法典の「目には目を 歯には歯を」という一説の意味と混同されがちだけれど、こちらは「被害を受けたらそれと同等の報復をせよ」の意味で、目で邪視を跳ね返すお守りとは意味合いが違うと思われる。さて、キリムや絨毯のモチーフの中でも日常的に使われる織物に最も多く使われてきたモチーフだと個人的に思うのが「ギョズ」つまり目のモチーフ。三角、十字型、ひし形など様々な形で存在するが、小さく多数織り込まれているものの多くは目であったりする。前回のブログのヘマイル(護符)のモチーフ同様、遊牧民たちが身を守るための意味を持たせたモチーフであるが、ギョズ(目)の方は特に人からの視線に対するものであることから、具体的に考えると、羊がたくさんいていいなあとか、立派なラクダを持っていていいなあとか、奥さんキリムを織るのが上手でいいなあ・・・とかの感情に対抗するものだったのかなあと想像する。自然災害も病害も怖いものだけれど、ある意味、人間が一番恐ろしいのかもという話。マウントを取るような人相手でなくても、隣の芝生は青く見えるものらしいので、他人の手の中にあるものを羨ましいとか妬ましいとか思う感情は自然なのかもしれないけれど、自分の人生は他人と比較するものじゃないのだから、自分は自分、人は人って思えたらもっと世の中平和なんだろうね。ちなみにイーネオヤの作り手も上手だと周囲の女性たちからの嫉妬を買うので、その対策として目のモチーフは入れられないけれど、色違いやモチーフ違いの小花を混ぜてお守りとしたのが「ギョズ・デーメシン」「ナザル・デーメシン」と言われるものである。------------------------------------------------------------------YouTubeに「ikumi nonaka」チャンネルを開設しました。トルコの伝統手工芸、食文化、生活、牧畜などをご紹介していきます。新着のお知らせがいくように、チャンネル登録をぜひお願いします❤ikumi nonaka チャンネル------------------------------------------------------------------ミフリのショッピングサイトはコチラ↓ミフリ&アクチェにほんブログ村にほんブログ村 その他・全般ランキングへ
December 7, 2022
私たちが生きていく上で様々な苦難が待ち受けている。天災、病気、事故、事件、戦争などなど。定住せずに屋外で暮らす遊牧民たちにはそのリスクがさらに高かったのかもしれない。彼らの織物には数々の祈りや願いと共に身を守るための印がいかに多く織り込まれていることか。その代表的なもののひとつ。ヘマイル。ムスカとも言う。ムスリマンが身に付ける三角(もしくは筒型)のケースに入った紙の護符のことである。幼少期にお守りとして与えられることもあるし、病気治療中の人や、良くないことが続いた場合など、改めて持つこともあるそうだ。イスラムに限らないことだけれど、どの世界でも護符や祈りの言葉を身に付けて、災いや邪視から身を守る考えは共通している。水害、干ばつ、台風、火事、獣被害、盗難、病害、それらから自分、そして家族、一族を守るために刻まれた三角の形に意味されたもの・・・。ヘマイルのモチーフには様々なタイプがある。三角形のものから、ひし形、箱型など。ただ三角が絶対的に多数を占める。三角は織物(特にキリム)のモチーフとしては基本系であるので織り込みやすいものではあったと思うが、単純な三角とせず、様々な創意工夫があったところが、織物の世界でも身を守るものをいかに重視していたかが想像できる。------------------------------------------------------------------YouTubeに「ikumi nonaka」チャンネルを開設しました。トルコの伝統手工芸、食文化、生活、牧畜などをご紹介していきます。新着のお知らせがいくように、チャンネル登録をぜひお願いします❤ikumi nonaka チャンネル------------------------------------------------------------------ミフリのショッピングサイトはコチラ↓ミフリ&アクチェにほんブログ村にほんブログ村 その他・全般ランキングへ
December 5, 2022
在庫の大きなキリムを1点1点写真を撮りながら広げて見ているところ。大きいサイズのものはなかなか一人で扱えないので、お手伝いしてくれる人がいる時じゃないとチャンスがないのだけれど。大きいものって日本だと敷く場所が限られてしまうので敬遠されがちだけれど、迫力あってやっぱりいいなと思える。価値としてあるもの、それほどじゃないもの、でもどれを見てもそれぞれに味があって、やはり古い年代のものだけに今ではなかなかお目にかかれないものや、売る目的ではわざわざ作らないよねと言うものがあって、日常の中の生活用品として見たときに格別に面白かったりする。出所はもうわからなくなってしまっているけれど、おそらく地中海地方と中央アナトリアの間の山間部に暮らす遊牧民の織り物。染めも漂白もしていない白とこげ茶のナチュラルウールの糸のみを使ったシンプルなキリム。群れの羊の毛の色が、このキリムの白とこげ茶の割合に相当するのかなとか考えてしまう。気になったのが、合間にジジムで織り込まれているいくつかのモチーフ。普通のキリム柄だといろんなモチーフが混在しているものが多いが、これはシンプルにわかりやすくモチーフが描かれている。いずれも代表的な知られたモチーフで、これが基本だと思うと同時に、遊牧民の生活に密着しているモチーフだなと感じた。このキリム自体は約410×150cmのテント用敷物かと思われる大きなサイズであり、モチーフは変形バージョンを含めて7種類、それぞれ複数個が織り込まれている。その一つが「ひっつき虫」。ひっつき虫は私が子供の頃に呼んでいた名前だけれど、他にも言い方があるのだと思う。今思うと植物なのになんで虫だったんだろうと、ひっつき草だったっけ? などと混乱したけど、野原や草の生えている空き地などを歩いていると靴下や靴にくっついてくるトゲトゲの植物の実や種のこと。トルコ語ではプトラックとかプトゥルダックとか言われる。形的にはわかりやすいね。このプトラックの意味のひとつはお守りである。トゲトゲが邪悪な視線から守ってくれるということからだろう。もう一つはたくさんのトゲトゲがあることから、豊作を意味しているそうで、食料のカバーなどにするキリムに描かれることが多かったよう。平織りでもこのモチーフが見られるけれど、やはり入れやすいのかジジムによくあるモチーフのひとつでもある。------------------------------------------------------------------YouTubeに「ikumi nonaka」チャンネルを開設しました。トルコの伝統手工芸、食文化、生活、牧畜などをご紹介していきます。新着のお知らせがいくように、チャンネル登録をぜひお願いします❤ikumi nonaka チャンネル------------------------------------------------------------------ミフリのショッピングサイトはコチラ↓ミフリ&アクチェにほんブログ村にほんブログ村 その他・全般ランキングへ
December 4, 2022
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