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2013.05.29
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カテゴリ: 読書案内
【阿刀田高/楽しい古事記】
20130529

◆堅苦しい古典を現代的にわかりやすくした入門書

友人から聞いたところによると、最近、『古事記』が静かなブームを呼んでいるらしい。

私は小・中学校時代、岩波少年文庫を愛読していたので、それなら『古事記物語』が読み易いだろうと思いついた。
なにしろ古典文学は、現代人が楽しむには労力が必要で、だが原文を古語辞典を引きながらだと読む気も失せる。それにしたって若年者向けの『古事記物語』だと今一つ物足りなさもある。
そんな中、阿刀田高の著書を思い出した。この作家は、有名な古典文学を分かりやすい現代的な言葉に直してくれて、古典を親しみやすいものにしてくれた人だ。
『楽しい古事記』の他にも、『新約聖書を知っていますか』や『やさしいダンテ<神曲>』『新トロイア物語』などがあり、どれも入門には最適の著書である。
『古事記』というのは簡単に言ってしまえば、日本の神話であり、古い伝説と捉えてしまって問題ないと思う。その国造りのプロセスが、舌を噛みそうな長々しい神さまの名前とともに語られている。
阿刀田高の著書が有難いのは、『古事記』の中でも読んでいて退屈な箇所は端折っていて、有名な場面をわかりやすく解説してくれることだ。これは入門者にとっては本当に助かる。
作中、興味深いところは様々あるが、物語として面白いのは、“悲劇の人・・・ヤマトタケル伝説”の章だろう。

話はこうだ。

だがそのやり方が乱暴だ。ヤマトタケルは、兄がトイレに入っている時、捕まえて手足を折り、こもに包んで投げ捨ててしまったのだ。
それを聞いた天皇は驚愕を隠せない。「危険人物」と見なしてしまう。
その後、天皇はことあるごとにヤマトタケルを西へ東へと征伐に行かせる。
それもそのはず、とにかく戦には強く、片っ端から征服してしまったのだ。
だがそんなヤマトタケルも薄々気がつき始める。「父上は私に死ねと言うのだな」と。

つまり、戦に行って戦死してしまえば、危険人物を難なく抹殺できるという天皇の魂胆に気づいてしまったわけだ。

とまぁ原文で読んだらさぞかし時間もかかるであろう古典文学を、阿刀田高のくだけた現代語訳で、おもしろおかしく読むことができる。
文庫本の巻末の解説にもあるように、『古事記』は殺して、歌って、まぐわる、人間臭さにまみれた神さまのお話である。時の権力者によって、かなり都合の良いお話に変えられてしまってもいるだろうが、古代日本に武士道的倫理などなく、だまし討ちや裏切り行為は日常茶飯事だったのだ。
そしてそれがれっきとした我々の先祖の辿った道でもある。それを踏まえた上で『楽しい古事記』を読むことは、ある意味、大和民族としてのルーツを知るのにとても重要なことなのではと思った。

『楽しい古事記』阿刀田高・著

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.73)は藤原伊織の『テロリストのパラソル』を予定しています。


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最終更新日  2013.05.29 06:27:20
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