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2016.01.02
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カテゴリ: 歴史
図書館で『日中戦争とノモンハン事件』という本を手にしたが・・・・・
著者は、若年のため日本軍での軍歴はないが、難民生活後に八路軍の軍歴を持つに至ったという異色の人である。
この本は従軍戦記ではないけど、戦場の雰囲気は感じられるのです。



日中

水嶋都香著、第一書房、2007年刊

<カスタマーレビュー>より
勉強家であり理解力と洞察力に優れた筆者は、恐らく厚さ2メートルほどに達したかと思われる量の文献を読破し、表題に関係する事実を細部にわたって整理し再構成している。大多数の読者にとって今や仔細への関心が持てない時代の出来事であるが、筆者はそこに現代への教訓があるとしている。
 まずノモンハン事件を詳述し、次に日中戦争の経緯を描き、それから敷衍して今の日本の国防・教育問題を論じている。随所に筆者の洞察とバランスある見識が読取れる。

<読む前の大使寸評>
とにかく、関東軍参謀の独断専行負け戦が腹立たしいのです。
著者は、若年のため日本軍での軍歴はないが、難民生活後に八路軍の軍歴を持つに至ったという異色の人である。
また、東芝で技師長を勤めた経歴を持つように、どおりでバランスある見識が感じられるのです。

Amazon 日中戦争とノモンハン事件

この本は読みどころが多いので、(その2)として読み進めています。

太平洋戦争の敗因というあたりを見てみましょう。キーワードは情報収集・解析ということのようです。
p118~120
<日本の情報戦対応>
 ノモンハンの経験が活かされず、太平洋戦争中も日本軍の情報戦対応はいぜん何の改善もされていなかった。主として《昭和陸軍の研究 下》保坂正康著等を参考にまとめてみる。

■一 米国戦略爆撃調査団報告から
 この戦争全般にわたって、情報要員訓練計画が皆無であり、日本の情報活動を阻害していた。
 日本では、陸軍大学校や航空将校養成学校にも、情報学級もなければ特殊な情報課程もない。従って情報任務を与えられた将校たちは、自分で会得する以外なかった。

 なぜこれほど情報を軽視したのだろうか。
 調査団によると、「日本軍は、協力した中国人や特務機関に頼り、怪しげな情報収集屋が持ってくる情報を利用するにすぎなかった。日本は中国との戦争では精密な情報収集・解析システムが無くても事足りた」という。

 陸軍に限っていえば、確かに参謀本部に情報部がある。しかしここでは常に「ドイツからの情報は正しい」「ソ連からの情報は誤り」という思い込みだけがあり、米国や英国の情報は開戦後さえ軽視されてきた。

■二 元大本営情報参謀堀栄三氏の談話
「日本が戦争に負けたというのは、情報についてしっかりした考えをもっていないからです。本の中に、兎の戦力は速い脚であるか、それともあの大きな耳か、という設問があったんです。答えは、大きな耳です。あれがなければ走る前にやられてしまうではありませんか。つまり日本軍は、大きな耳をもたない兎だったのです」。

■三 昭和18年4月18日 山本長官機撃墜事件
 日本海軍暗号を米軍が解読し、山本機を待ち伏せ攻撃したものである。しかし海軍は、「暗号が解読されて山本機が待ち伏せ攻撃を受けたことはありえない。米軍のP38戦闘機24機が偶然山本機と出合ったにすぎない」と結論づけた。

 山本機を護衛していた6機の零戦パイロットは、山本戦死の責任をとらされこのあと執拗に、激戦地に飛ぶよう命じられる。海軍も、山本の戦死から何ごとも汲み取ろうとしなかった。「暗号を解読されている」とか、「情報収集能力の欠如」といった問題の本質を問うのではなく、末端の兵士を「死」に追いやり、軍官僚は責任をのがれるという体質を露呈している。彼等軍官僚の責任は常に隠蔽された。

最後の「官僚の責任は常に隠蔽された」というくだりであるが…
これは、今も続いているようですね。

石原莞爾は戦争責任を免れたが、米軍としても掴みかねた人物だったのか?
石原が唱えた満州改革案を見てみましょう。
p248~250
<満州改革案>
 話は前後するが、1931年(昭和6)石原が執筆した《満蒙問題私見》には「満蒙問題解決の唯一方策は之を我領土となすにあり」と記されている。満州を独立国としたのは軍中央の意見によるものであった。しかし、「君子は豹変す」。石原は満州国建国後間もなく、形式的な独立国家ではなく、真の独立国家建設の理想を掲げて、以後その信念を変えることはなかった。

 陸軍の統帥から離れ、関東軍参謀長東条英機中将の下に参謀副長として着任した石原莞爾少将は、次のような要旨の満州改革案を出している。

一、関東州を満州国へ譲渡し南満州鉄道を満州国法人化とすると共に、日満間の国防及び経済を公正妥当に決定すべき協議機関を東京に設置する。

一、関東軍はなるべく速やかに満州国政治に関する干与を撤回するため第四課を縮小し3年以内にこれを廃止する。

一、満州国軍を管理する軍政部は皇帝の直属とする。

一、満州国産業経済界における日本独占資本家の独占活動を排除する。

一、満州国を日本の植民地化する如き政治と少数日系官吏の専攻を排除するため協和会を中心とする国策決定機構及び企画機構を設ける。《古海忠之》

 協和会なるものの性格は理解し難いが、石原の「協和会は政府の従属機関でなく、いわば共産国における共産党のように、政府を指導する機関であるべきで、官僚は排除しなければならない」という、強い思い込みが見て取れる。
 東条と石原の対立は有名である。石原は関東軍参謀長だった東条を「東条上等兵」、更には「東条二等兵」呼ばわりをした。一方元憲兵司令官であった東条は、私服の憲兵や警察官を使って石原の行動を監視した。実務的で一派の結束を固めた東条の画策で、石原は次第に孤立していく。折角の改革案も、関東軍司令官以下首脳者の全体会議で全面的に否決され、石原は東京に引き揚げてしまう。

 理想家石原が去った後の満州に、日本から、資本と共に大勢の利権屋が流れ込む。革新・統制派の軍人や官僚が、統制による経済活動に熱を上げた。満人の犠牲の上に巨利を得ようとする利権屋と官僚が結託した。石原が懸念し阻止しようとした官僚の腐敗堕落で、「王道楽土」の理想郷満州は夢となった。

 また満州国建国前後には、日本のジャーナリズムも、小冊子や新聞記事などで、日本の青年の血気を煽るような痛快な大陸冒険談を紹介する。

 僕もゆくから君もゆけ
 狭い日本に住みあいた
 波の彼方に支那がある
 支那にゃ四億の民が待つ

 ロマンティックな夢を抱いて大陸に渡る若者が増えた。松本・小日向といった馬賊の頭目になったいわゆる大陸浪人や、志を失って大陸ゴロに成り下がり、中国人の不快感を買う者も出てきた。

 石原の満州改革案が通っていれば、偽満州国でなく、満州国になっていたかもしれない。
 現在の日本においても、政・官・財の癒着が、日本の活力を殺ぐ元凶である。

 現在日本は少子高齢化等の対応が後手に廻り、我々の子や孫は親より豊かな生活は望めないのではないかという危機的情況にある。政・官・財の癒着を打破するため、政界の一新を図って、長年にわたるしがらみを解くと同時に、官僚の国益より省益を優先するという意識を早期に改革することが、最大の課題のように見える。官僚問題は今の日本でも依然、最大かつ緊急に解決すべき問題なのである。


言葉の端々に、村上龍の新作『オールド・テロリスト』に出てくる老人のような雰囲気を感じるわけで、なんだか怖いのです(笑)。

なお、官僚問題は今の日本でも最大の問題という著者のご意見には、激しく賛同する次第です。

『日中戦争とノモンハン事件』1

この記事も 戦記のインデックス に収めておきます。





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Last updated  2016.01.02 11:44:53
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