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2016.04.19
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『英国一家 日本を食べる』という本を見っけ♪…
今ちょうど、この本をもとにしたNHK番組が放映されているので、興味が尽きないのです。



イギリス

マイケル・ブース著、亜紀書房、2013年刊

<「BOOK」データベース>より
市場の食堂から隠れた超名店まで、ニッポンの味を無心に求めて―東京、横浜、札幌、京都、大阪、広島、福岡、沖縄を縦横に食べ歩いた100日間。

<読む前の大使寸評>
今ちょうど、この本をもとにしたNHK番組が放映されているので、興味が倍加するのです。

<図書館予約:カートで待機中に図書館で見っけ♪>

amazon 英国一家 日本を食べる


冒頭で、著者マイケル・ブースとトシの料理修業時代のつき合いが語られています。
p8~11
<トシがくれた一冊の本>
 「ふん、そんなにデブってるんじゃ、自分のあそこだって、もう何年も拝んでねえだろ!ズボンだってパンパンじゃないか。月みたいにまん丸な巨体を見せつけられちゃあ、お天とうさまは沈むしかないぜ!」

 トシの口の悪さは相変わらずだ。しかも、フランス料理と日本料理の相対的価値に関するきわめて節度のある議論をしていたはずなのに、こんなにいい加減な結論になるなんて。

 先日トシと一緒に、ノルマンディ海岸の港町、オンフルールにある、Sa.Qua.Na.という名のあるフレンチ・レストランへ行った。シェフのアレクサンドル・ブールダは、フランスで人気急上昇中の料理界のスターで、僕としては、彼の軽やかなタッチや食材の鮮度について無邪気な感想を言っただけなのだが、彼の料理を日本料理と比べてしまったのは、考えてみれば軽はずみではあった。

 ブールダが3年ほど日本で働いていたのを知ってたものだから、彼の料理は、彼自身が日本で口にした食べ物の影響を受けているとやんわり匂わせることが、さほど見当違いだとは思えなかったのだ。

 そういう話が友人のカツトシ・コンドウを怒らせるということは、初めからわかっていたはずなのに。

 「おまえに、日本料理の何がわかるっていうんだよ、えっ?」トシは、吐き捨てるように言った。「日本料理について、何か知っているとでも言うのか? 日本でなきゃだめなんだよ! このヨーロッパじゃ、味わえないさ。あの男が作っているのは、日本料理とは似ても似つかないね。あれに伝統があるのか?季節があるのか?精神があるのか?Tu connas rien de la cuisine Japonaise.(おまえには日本料理なんてわかりっこない。わかるもんか!)」これまでのつき合いから、こういうふうにいきなりフランス語が飛び出すのは、よくないサインだとわかっていた。トシが爆発しないうちに、何とか反撃しないといけない。

 「充分わかってるさ、すごく味気ないってことは。日本料理なんて見かけばっかりで、風味のかけらもないじゃないか。あれに楽しみがあるのか? 温もりがあるのか? もてなしの心があるってのか? 脂肪もなけりゃ味わいもない。どこがいいんだよ? 生の魚に、ヌードルに、揚げた野菜だろ・・・しかもみんな、盗んだ料理だ。タイとか、中国とか、ポルトガルから。まあ、どこだって関係ないか。だって、何でもかんでもショウユに突っ込むだけだから、みんな同じ味だよ。いい魚屋がいて、切れる包丁さえあれば、日本料理なんて誰だって作れるね。違うか? タラの精巣にクジラの肉だって?・・・ぜひともお目にかかりたいものだね」

 トシとは、数年前、パリのル・コルドン・ブルー(1895年創立の料理学校)に通っていたときに知り合った。背が高く、引き締まった風貌の日本と韓国のハーフの男で、年の頃は20代の終わりぐらいだった。幾重にも重なる謎めいたベールに覆われているが、ぶっきらぼうなビートたけし風の見てくれの裏に、気の利いたさりげないユーモアのセンスが潜んでいる。

 ほとんどの生徒は、白いシェフコートがジャクソン・ポロックの絵みたいになるまで、何日も洗わずに着ていたが、トシだけはいつも染みひとつないシェフコートに身を包んでいた。彼の料理はいつもパーフェクトで、盛り付けも周囲にたっぷりと白い余白があってパーフェクト、使う包丁はいつだって怖いほどの切れ味だ。

 でもトシは、教師のフランス人シェフたちと、たびたび激しく衝突した。トシが魚に数秒以上火を入れるのを拒み、野菜は歯ごたえを残して仕上げ、シェフたちが好むようなふにゃふにゃの食感にしないので、いつも目をつけられていた。

 おかげでトシは、フランス人とフランス料理に根深い反感を抱くようになったが、それでも彼はパリを離れようとしなかった。それは、ひとつには、上等な日本料理というものを、何が何でも独力でこの国に広めたいという、しぶとい決意があったからかもしれない。

 「フランス人てのは、あの人がセックスを知ってる程度にしか、日本料理を理解しちゃいないさ」
 あるときトシは、通りすがりの尼僧を指差しながらそう言った。

 料理学校を卒業すると、トシは6区にある日本料理店で働き始めた。これぞ本物、といった感じの店で、ひっそりしたたたずまいに加え、店内は静寂そのもので、日本人観光客の間ではちょっとした評判となっている。トシとは、卒業後もたびたび一緒に食事をして料理について語り合ってきたが、結局は、いつの間にか子どもみたいに悪口を言い合っておしまいになってしまう。

 でも、今回は少しわけが違った。「オーケー、少し黙ってろ、いいな?」トシはそう言うとテーブルの下に頭を突っ込んで、かばんのなかの何かを探した。「これをやるよ。ちゃんと読めよ」

 トシが手渡してくれたのは大型の本で、表紙には、ぼかしたタッチで、飛び跳ねる魚の絵が描かれている。一瞬面食らったが、必ず読むと約束して礼を言った。何だかしっくりこなかった。トシは、これまで何ひとつくれたためしがない。

 たとえば、酒を注文するときは、人数分まとめておごったりおごられたりするものだと説明しても、なかなか納得しようとはしない男だ。それなのに、その本はどう見ても高価だった。トシに暴言を吐かれたこともあれば、「頭が空っぽの白いガイジン」呼ばわりされたこともあるというのに、おかしなもので、帰りのバスで本を膝に載せて座っていると、僕やル・コルドン・ブルーの教師たちに侮辱されたという彼の痛切な思いが、ようやくわかりかけてきた。

 その本は、1979年に出版された、辻静雄の『Japanese Cooking:A Simple Art』(講談社インターナショナル刊、2006年)の新装版だった。


以降、辻の哲学とかレシピとかの説明が続くのだが、飛ばします。
p16~19
 辻の本を読み終わってすぐに、つまり、トシが本をくれたその日のうちに、僕はいきなり、衝動的に、後から思えば人生を変えることになる決断を下した。実際に行って、この目で見て、自分の舌で味わってみるしかないと決めたのだ。日本へ行って、今の日本の食べ物を調査し、料理の技術や食材についてできる限り学び、辻の悲観的な予想が当たっているかどうかを自分で見極めなければならない。

 今でも料理について日本人から学ぶべきことはたくさんあるのか? 『Japanese Cooking:A Simple Art』は、もはや失われた伝統のエレジーでしかないのか? トシが自慢する日本人の長寿や、日本料理が恐ろしく身体によいという話は本当なのか? もし本当なら、そういう食事を多少なりとも取り入れることはできるのか? そもそも、日本料理は僕らの生活になじむのか? それと、日本人は本当に、ガーターではなくノリを使ってソックスを留めているのか? トシはそう言っていたけど。

 とにかく日本へ飛んで、じっくりと、計画的に、貪欲に、仕事をしてやろう。北の島、北海道から南に向かい、東京、京都、大阪、福岡を訪ね、沖縄の島々へも足を伸ばし、各地で食べて、インタビューして、学んで、探求する。

 日本ならではの食材を味わい、日本料理の哲学、技術、そして言うまでもなく、健康上の恩恵について学習する。そもそも、まずは体重を減らさなきゃならないし、そのためにもっとヘルシーな食事を心がけなければいけないのに、ヨーロッパにいる限り、選択肢はローファットヨーグルトや、ウェイト・ウォッチャーズ(アメリカで始まったダイエット・プログラム)の料理ぐらいで、ほとんど魅力を感じない。それに引き換え、辻の本には、自分で作れるならすぐにも食べたいと思うほど、美しくて健康的でシンプルな料理が溢れている。

 その日の晩、とりあえず妻のリスンにアイデアを話してみた。「あら、それはすごいじゃない」彼女はそう言った。「ぜひ日本へ行きたいわ。子どもたちも連れて行くといいわよね、きっと一生の思い出になるわ。そうでしょ!」

 「いや、ちょっと待って。えっと・・・そういうつもりじゃなくて・・・ほら、だから、調査とか・・・インタビューとか、いろいろ・・・」
 もう手遅れだった。






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Last updated  2016.04.19 10:34:14
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