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2016.07.09
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カテゴリ: 歴史
図書館に予約していた『江戸日本の転換点』という本をゲットしたのです。
とにかく、水田リスク社会という切り口には、言ったもん勝ちというか、驚くわけです。



江戸

武井弘一著、NHK出版、2015年刊

<「BOOK」データベース>より
なぜ水田を中心にした社会は行き詰まったのか。老農の証言から浮かび上がる歴史の深層。米づくりは持続可能だったのか?新田開発は社会を豊かにする一方で農業に深刻な矛盾を生み出した。エコでも循環型でもなかった“江戸時代”をリアルに描き出す力作。
【目次】
序章 江戸日本の持続可能性/第1章 コメを中心とした社会のしくみ/第2章 ヒトは水田から何を得ていたか/第3章 ヒトと生態系との調和を問う/第4章 資源としての藁・糠・籾/第5章 持続困難だった農業生産/第6章 水田リスク社会の幕開け/終章 水田リスクのその後と本書の総括

<読む前の大使寸評>
水田リスク社会という切り口には、言ったもん勝ちというか、驚くわけです。

<図書館予約:(1/06予約、7/06受取)>

rakuten 江戸日本の転換点


日本の原風景のあたりを見てみましょう。
p9~15
■日本の原風景
 風流の初めやおくの田植うた

 元禄2年(1689)3月下旬、江戸深川から東北へ向けて旅立つ人がいた。俳人の松尾芭蕉である。出発して約1ヵ月後の4月下旬、彼は須賀川(福島県須賀川市)に滞在して、知人との交流を深めた。

 須賀川を訪れたということは、その少し前に白河の関を越えて、ようやく目的地の東北に足を踏み入れたことになる。本書で記す歳月は旧暦なので、今の暦と比べて1ヵ月ほど遅れているとみなしてほしい。四月下旬は初夏にあたり、ちょうど田植えののシーズンだった。

 芭蕉は、武士や豪商らが生み出した雅やかな文芸作品ではなく、むしろ村人たちの鄙びた田植え唄に、風流さを見出した。

 田植えが終わると、稲は育ち、日本各地の田んぼを緑一色に包み込む。畦道からはカエルが水面に飛び込み、どこからともなく鳴き声も聞えてこよう。「瑞穂の国」という美称があるように、瑞穂に満ちた水田は、よく日本の原風景といわれる。遠く離れた異境で暮らす現代の私たちのなかにも、古里の田園風景を懐かしむ方がいるかもしれない。

 たしかに、水田の歴史は長い、日本列島における水田での米づくりは、およそ二千五百年前に、朝鮮半島に近い九州北部で始まったとみられている。水田跡の代表的な遺跡としては、菜畑遺跡(佐賀県唐津市)などの名が、よく知られていよう。

 しかし、この時点で今日のような、見渡す限りの水田という風景が広がったわけではない。そこに至るまでには、それから一千年以上もの時間が必要だった。

■江戸時代=エコ時代なのか
 芭蕉が生きたのは江戸時代である。江戸時代とは、慶長8年(1603)から、慶応3年(1867)までの約260年間をさす。少し視点を変えてみて、今日、この時代がどのように評価されているのかに注目してみたい。
(中略)

 地球的規模でみれば、私たちは現在、地球温暖化・生物多様性の減少・資源の枯渇・水不足など、山積する問題に取り組んでいかなければならない。限りある地球の資源を守りながら使っていくために、持続可能な社会を構築することが、現代社会にとって喫緊の課題となっている。その観点にたつと、持続可能な社会のモデルとして、概して江戸時代の評判はよい。

 具体例をあげてみよう。大都市江戸の住民が排泄した屎尿を集めに、周辺から百姓がやってくる。屎尿は都市から農村へ運ばれて田畑の肥料となる。こうして育った穀物や野菜が都市へ運ばれて、江戸の住民の食卓にのぼる。それらが、ふたたび排泄物となって農作物の肥やしと化す。

 こうして、肥料と農作物とがリサイクルされているというわけだ。ほかにも、江戸の住民が、いらなくなった古着・紙屑などをリユースし、またリサイクルもしていたこと、屎尿やゴミ処理が進んでいたために都市が清潔であったことなど、「エコ」とみなされる事例は枚挙にいとまがない。

 江戸時代=エコ時代という見解は一般に流布しているが、学問的にはどのように評価されているのだろう。意外かもしれないが、このテーマに真正面から論及した研究は少ない。

 数例あげてみよう。経済史研究者の鬼頭宏は、江戸時代には基本的にエネルギーと資源のほとんどが国内で調達され、完璧といってよいほどのリサイクルも行われていたとして、日本を「環境先進国」とよんで高く評価する。

 一方、江戸都市史を専門とする岩淵令治によれば、そもそも熟成が不十分なまま屎尿を流通させてしまえば、寄生虫までもが都市と農村との間を行き来したしまうので衛生的ではないし、そういう流通システムが公的に整備されたわけでもない。むしろ、ゴミの場合は処理システムが整備されたにもかかわらず、実際には不法投棄があとを絶たなかった。岩淵は、江戸時代の都市=リサイクル都市、清潔都市というイメージが定着している現状に警鐘を鳴らす。

 都市のゴミ問題が端的に表しているように、江戸時代を「環境先進国」とみなすことには無理がある。リサイクル・リユースされていたモノがあったことは事実だが、都市のみにスポットライトを当てるだけでよいのかという疑問が生じてしまう。歴史学という立場から江戸時代=エコ時代というステレオタイプの見方について考えるためには、これまでとは違った、江戸時代を理解するうえで最も重要なポイントを検証して論じなければならない。

 それが何かといえば、当時の社会において「生産」の中心の場であった水田なのである。
■江戸時代と水田
 どのような意味で、水田が生産の中心なのか。それは、水田が、江戸時代の社会を根底でささえた、米という作物が生産される場だったということである。水田は社会をささえ、米の増産はそのまま社会の成長につながる可能性を持った。

 将軍や大名などの領主は、百姓が年貢として納める米を主たる財源としていた。もし米が増産されれば、それだけ収入も増える。家臣の給与も米を基準として支払われ、売却された米は都市などに流通して消費された。大量生産・大量消費された米が、これだけ社会全体をささえた時代は、江戸時代のほかにはない。世界中をみても、このような社会は非常に珍しい。だからこそ、米を生産する水田に注目することは、江戸時代だけではなく、日本そのものを理解するためにも重要なのである。

 図2には明治初期までの耕地面積と人口の推移が示されている。これは推計にすぎず、平安中期や室町中期の耕地面積には畠が含まれていないなどの問題点もあるので、あくまで参考のひとつとして見てほしい。長い間、水田は、安定して水を得やすい谷間や山麓などに、小さなまとまりで作られていた。

 しかし、戦国の争乱が終焉し、国内で平和な時代が続く17世紀に入ると、人びとのエネルギーは大地を切り拓くことに注がれるようになった。新田開発である。その結果、河川の上流から下流にむかって開発が進み、沖積平野とよばれる下流の平坦部にまで大規模な水田が造成されていった。これは、日本列島の大改造といえる。

 この大改造が耕地面積をほぼ倍増させたことによって、日本列島の歴史上、初めて一面に水田の広がる光景が出現したのだ。芭蕉が東北へ向けて旅立ち、田植え唄の句を詠んだのも、実はこの新田開発の時代のことだった。

 新田には、それまでわずかな耕地しか持っていなかった者、あるいは分家した次男・三男などが入植して自立していった。こうして17世紀には人口も倍増するなど、米は社会が経済成長を成し遂げる一因となったのである。


この本の構成、主人公を見てみましょう。
p18~19
■本書の主人公
 農書とは、農業技術などを中心に書かれた書物のことをさす。多くは江戸時代に著わされ、とくに17世紀末以降は全国各地で、その土地の事情に応じた農書が出現した。通常であれば、農書からは農業技術や農業生産のあり方を明らかにしていくのが研究の常道といえよう。しかし、農書には、当時を生きた老農たちの自然観・社会観が著述されていることもある。

 本書では、新田開発の時代の生き証人ともいえる又三郎(加賀藩の篤農家・土屋又三郎)が自然や社会をどうとらえていたのかについて、『耕稼春秋』から、彼の声を丹念に拾っていきたい。そうすることによって、17世紀という開発期の実像がよりリアルに伝わると考えるからだ。

 ただし、『耕稼春秋』からは、停滞期に突入した18世紀前半の様相すべてを理解することはできない。そこで、この時期については、村社会出身で、晩年には幕府の役人に登用された田中丘偶にも登場してもらう。






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Last updated  2016.07.09 00:05:01
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