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2017.01.23
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『問題があります』という本を手にしたのです。
SNSにさらされて、ますます早く軽く意地悪になっていく世相であるが・・・
佐野さんのエッセイを読んで、精神のバランスをとることも肝要ではないか?♪



佐野

佐野洋子著、筑摩書房、2009年刊

<「BOOK」データベース>より
中国で迎えた終戦の記憶から極貧の美大生時代まで、夫婦の恐るべき実像から楽しい本の話、嘘みたいな「或る女」の肖像まで。愛と笑いがたっぷりつまった極上のエッセー集。

<読む前の大使寸評>
SNSにさらされて、ますます早く軽く意地悪になっていく世相であるが・・・
佐野さんのエッセイを読んで、精神のバランスをとることも肝要ではないか?♪
(この本を借りたのは2度目であることがわかったので、その4としました)

rakuten 問題があります


佐野さんの『シズコさん』という本はまだ読んでいないのだが、この本で佐野さんの父母を見てみましょう。
p34~37
<母のこと、父のこと>
 一昨年の夏、93歳で母が死んだ。
 死ぬまでの十年以上、痴呆だった。
 正気の母親と私は、実に折り合いが悪く、母を好きだったことはなかった。
 死んだ人は皆いい人である。
 呆けるという事は、生と死をつなぐ橋のようなものだと私は考える様になり、母は別の人格の人になった。それを人格と言うかどうかわからないが、母は正気を失ってから、一生分の不仲と和解できた。

 4歳の時、手を邪険にふりはらわれてから、私は生理的な嫌悪感を持ってしまった。中でも匂いが一番不快だった。

 呆けた母の足をさわった時、さわれた自分に驚いた。母を嫌悪していた何十年もそれは自責となり、汚い川が胃袋の奥をずっと流れ続けていた。ナマのものにさわるという事がすごい事だとすれば、ふだん何でも無意識にさわっている事も本当はすごい事なのかも知れない。

 『シズコさん』という本を書き終わったら、どっと疲れた。心底疲れた。
 そして、私は幸せになった。
 黒い川は消えた。母が死んだからか、私も老いたからか、自分の人生の帳尻を自分に都合よく合わせたからなのか、わからない。

 読み直したら、同じ事が何回も出て来た。でも訂正する根性がなかった。そしてにわかに、父の事ばかり思い出すようになった。

 もしあの世というものがあったら、佐野利一とシズコさんはいったい何歳で相まみえたのか、聞いてみたい。もうすぐあの世で、我々家族は一族が全てもう一度同じメンバーで、再構成されるはずで、この世には誰もいなくなる。細々とつながる子孫は、父や母には見知らぬ人達である。

 父が生まれたところは、前も後も、山がせまりその間に富士川が流れるところだった。80世帯位が山にへばりついている村落で、従妹は、武田信玄の落ち武者が住みついたところだと教えてくれた。
「すごいじゃん」と私が言うと、従妹は「落ち武者といっても侍のぞうり取りのそのまた家来なのよ、誰でもないんだよ」。私はぞうり取りに家来が居たという事に感心したが、多分本当の事はわからない。

 父はその百姓の家の11人兄弟の7男だと思っていたし、書類なんかにもそう書いていた。この間ただ一人生きている叔父が、「おみゃあのおやじは7男じゃねえぞ、9男だったはずだ」、二人や三人は間引きでもしたのだろうか。

 私達は引き揚げてしばらくその田舎に住んだが、私は子どもだったから、明日や未来の事なんかなんにも考えなかった。
 小学校は身延線の駅を二つ行ったところだった。単線で線路の両側も山がせまっていて、山百合が両側にどっさり咲いていた。
(中略)

 よたよたのばあさんが、石垣にへばりついて、一日中立っていたりする。そこへ私と同じ年の8歳のいとこのあっちゃんが通りかかると、あっちゃんは「ひゃあ、ばあちゃん、死ぬの忘れただか」と呼びかけたりする。

 戦後しばらくは、母は姑にいじめられたと、泪をふきながら友達に話していたが、今思うと、姑の方がずっと母をうさんくさく思っていただろう。
 母の姑は、畑で一日中泥にまみれて働き、一時も休んでいる事がなかった。お茶の時間に縁側に伯母がお茶を用意して待っているとわざとの様に前後にこえおけをかついで、何度も行ったり来たりする。意地も結構悪かったのだろう。

 縁側に座っている母は、ばっちり化粧している。そこにはほんの3,4ヶ月しか居なかったが、姑にいじめられたと、何十年も根にもっていた。母は父の田舎に行くのを、本当に嫌がった。
 母は父を尊敬していたと思うが、母にとって、父は、底に狂気を持っている様な非凡と言える人だったかも知れない。

 平凡などこにでもいる様な母の一生はしかし、日本の運命と共にもみくちゃにされながら、実によく生きたと思う。
 日本中のどこにでもいる女が、同じようによく生きたと思う。

 いざという時に、その働きをよくするのは平凡な小母さんとやくざだと私は考えている。(しかし今の小母さんは変になって来ている。やくざも株式会社になってしまったので、あまり確信は持てない)

 父と母はよい夫婦だったと思う。そして、よく父と母の役割を果たしたと思う。


『問題があります』3





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Last updated  2017.01.23 02:55:40
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