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2017.01.26
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カテゴリ: アート
図書館に予約していた桐野夏生著『バラカ』をゲットしたのです。

待つこと約9ヶ月で、やっとゲットできました。今のところ最長待機記録の本でおます。



バラカ

桐野夏生著、集英社、2016年刊

<「BOOK」データベース>より
震災のため原発4基がすべて爆発した!警戒区域で発見された一人の少女「バラカ」。ありえたかもしれない日本で、世界で蠢く男と女、その愛と憎悪。想像を遙かに超えるスケールで描かれるノンストップ・ダーク・ロマン!

<読む前の大使寸評>
震災のため原発4基がすべて爆発・・・怒りの作家が描く近未来というべきか。
待つこと約9ヶ月で、やっとゲットできました。今のところ最長待機記録の本でおます。

読み始めたが、並行して進行する三つのストーリーが、爺さん決死隊とかブラジルからの移住日系人とか養子願望の未婚女性とか…どれをとってもニッポンの課題のような人々を描いています。
果たしてこれらのストーリーはどのように繋がるのか?

<図書館予約:(5/01予約、1/22受取)>

rakuten バラカ


この小説の語り口を、ちょっとだけ見てみましょう。
p120~122
<美しい子供>
 女たちも、いろいろな国からやって来ていた。東欧系、ロシア系、アフリカ諸国、インド、パキスタン、スリランカ、中国、ベトナム、フィリピン…。下は10代から上は50代、痩せた女から太った女まで、あらゆる男の好みに合わせた女たちが、カモを待っていた。
 パウロは、カウンターの端に陣取って、バドワイザーを飲んでいた。この店に毎日通って、すでに3ヶ月近く経った。いつの間にか顔になって、知り合いも増えた。
 今やパウロを見ると、娼婦たちが寄って来て、「二人は見付かったか?」と心配して訊ねるほどだ。だが、ロザとミカの行方は、依然わからなかった。

「パウロ」
 安香水の匂いをぷんぷんさせた男が、パウロの肩に手を置いた。
「セルジュ」
 パウロは、鷲鼻の男と握手した。セルジュはロシア人だが、わざとフランス風の名を名乗っているところが胡散臭い。
 しかも、何の仕事をしているのかよくわからない。おそらく、女衒のようなことをしているのだろうと思われた。だから、情報屋として使っている。

 役に立ちそうな情報なら20ドル渡し、その情報が有効ならもっと出す、と言ってある。セルジュは優秀で、すでに300ドル以上パウロからせしめていた。

「何かあったか?」
 セルジュは首を振った。
「相変わらずだ。あれっきりないよ」

 ジョンと名乗る運転手が、トルコ出身だと調べて来たのはセルジュだった。
 パウロは、ジョンが働いていたパームジュメイラのイギリス人の別荘には、何度も訊きに行った。だが、相手にされず、インターホンにさえ出てもらえなくなった。
 何度目かに様子を見に行った時、インド系らしき男たちが芝生の水撒き作業をしていたので、ロザトミカの写真を見せた途端、ガードマンに見付かり、摘み出されてしまった。以後、敷地にも近付けない。

 セルジュはどういう手を使ったのか、いとも簡単に、ジョンが「ジャン」という姓のトルコ人だと訊き出してきた。しかも、ジャンからは、無事に国に帰った、という電話が仲間にあったこともわかった。
 その仲間に、ロザとミカのことを訊いて貰ったが、「そんな親子は知らない」ときっぱりと言われたらしい。現にジャンは、トルコに妻子がいる。
 以来、情報は絶えて、パウロはひたすら、この娼婦の集まる店に来ては、何かが訪れるのを待っているのだった。何かとは、希望という言葉だ、と最近気が付いたところだ。

 パウロはセルジュに言った。
「俺がトルコに行ってジャンを捜し当てて、締め上げてみようか」
「無駄だよ、見付かりっこない」セルジュは痩せた肩を窄める。「こんなことを言って悪いが、奥さんたちはもう売られたよ。ジャンはその金を持ってトンズラしたんだ」

 ジャンと、パームジュメイラにいる仲間との連絡は途絶しているらしい。
「ロザはいくらくらいで売れたんだろうか」
 パウロの独り言が聞えたのか、セルジュは言いにくそうに、曲がった鼻を摘んだ。

「レベルによるさ。奥さんはまだ20代だったな」
「そうだ」
 パウロは、二人の写真をポケットから出してセルジュに見せた。前にも見せたことがあったが、こんな露骨な話はしたことがない。
 セルジュは、ロザの写真を凝視した後、言った。
「可愛いし若く見えるから、高く売れそうだ。1万ドルは堅い」

 パウロは顔を上げて、バーで客待ちをする娼婦たちを眺めた。彼女たちは決して媚びることなく、よい商売相手を探し続けるだけの逞しさがある。
 ロザには、こんなことはできないだろう。悪い男に引っかかって、困窮の中で苦しむのが落ちだ。妻が哀れでならなかった。


大震災8年後の東京を見てみましょう。
p521~525
<父と娘>
 東京にはこれまでになかった奇妙な活力が生まれてきていた。
 まず、子供や若い女がほとんどいない。大人の男だけの街に特有の荒々しさがある。外国人労働者や移民、非正規雇用者などが大勢住んでいるから、客を求めて商売女たちが集まってくる。まるで、パウロが8年前に出稼ぎに行ったドバイの下町にそっくりだ。危険でパワフルでカウンターな街。それが今の東京の姿だ。もう少し経てば、斬新なアートや音楽を生むかもしれない。

 新しい街には新しい住人が住み、新しい宗教が合うはずだ。ヨシザキ牧師は、「失敗のサイクルを断て」と説いてきた。それが己の心に住まう悪魔の呟きを断つ道である、と。

 しかし、原発事故後に崩壊した東京という街には、悪魔よりもっと邪悪な災厄の訪れがあったはずである。それは何だ、とパウロは真っ青な夏空を見上げた。人間の心を浄化しても、し足りないのだから。
(中略)

 大阪でのオリンピック開催が終われば、東京に再遷都しようという案も出ているという。東京という巨大な街は、捨てるには勿体ないのだろう。
 もし、再遷都となれば、貧乏人や移民は街から一掃されるから、高級住宅街での暮らしはもうできなくなる。東京はまたつまらない街に戻るのだ。


第3章『大震災8年後』は、より過酷な福島原発事故が描かれています。
東日本は線量が高いので西日本への民族移動が見られ、富裕層は国外に脱出しているのだが…現実の復興がこの小説を後追いしているような錯覚を覚えるのです。

折りしも日系ブラジル人の女性の犯罪が報道されているが、現実がこの小説を後追いしているような証拠なのかも?





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Last updated  2017.01.26 20:50:21
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