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2023.06.14
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カテゴリ: 映画
図書館で『フィルムメーカーズ18 スティーヴン・スピルバーグ』という本を、手にしたのです。
スティーヴン・スピルバーグは監督、製作、製作総指揮として映画に関わるわけで・・・数多くのスピルバーグの作品の中で一押しと訊かれたら、私の場合は「太陽の帝国」とか「プライベート・ライアン」とか「ジュラシック・パーク」になるのです。





南波克行著、宮帯出版社、2019年刊

<「BOOK」データベース>より
充実した完全データ。製作・製作総指揮作品、テレビ作品も含む。作家論、作品論、音楽論、製作総指揮作品について、徹底解剖!「自分が何者であるか」を追い求め、壮大なエンターテインメント作品を描き続けた巨匠のすべて!!1997年から2001年まで発行され高く評価された「フィルムメーカーズ」シリーズを復刊。スタイルを旧シリーズから踏襲し、新たに伝記的な事実を描いた「ライフストーリー」を掲載した。実力派執筆者による充実した批評・論考、座談会。名場面をカラー24ページで紹介。

<読む前の大使寸評>
スティーヴン・スピルバーグは監督、製作、製作総指揮として映画に関わるわけで・・・数多くのスピルバーグの作品の中で一押しと訊かれたら、私の場合は「太陽の帝国」とか「プライベート・ライアン」とか「ジュラシック・パーク」になるのです。

rakuten フィルムメーカーズ18 スティーヴン・スピルバーグ



「太陽の帝国」

J・G・バラードの小説を映画化した「太陽の帝国」が忘れがたいので、特に注目するわけです。
p118~120
<大人と子どもの間を揺れ動く:鬼塚大輔>
『戦火の馬』(2011)に英国軍人ニコルズ大尉役で出演したトム・ヒドルストンは、独軍の罠に突撃して戦死する場面でスティーヴン・スピルバーグが自分に付けた演出を「これまで監督から与えられた、最も驚くべき演出の一つだった」と述べている。
「戦意満々という顔をしてくれ。カメラが君の顔に寄っていくから、カメラが目の前に来たと感じたら、二十歳若くなってくれ。君は二十九だよね。機関銃が自分の方に向けられているのに気づいたら、君は九歳になるんだ。君の中にいる子供が見たいんだ」というのが、スピルバーグの指示だった。

 父親不在の少年時代を過ごしたスピルバーグの作品に「父親」、「大人になれない少年」、「少年が大人になって父親としての責任を取ること」というモチーフが繰り返し登場することは、彼のファンにとっては周知の事実である。

 『戦火の馬』にニコルズ大尉が登場している時間は決して多くはないのだが、戦争を背景にした三本のスピルバーグ作品『太陽の帝国』(1987)、『シンドラーのリスト』(93)、『戦火の馬』の三本も、「受難による少年時代の終わり」、そして「父親」というテーマが共通しており、『戦火の馬』でのニコルズ大尉戦死のシーンは、これら三本の作品、ひいては、他の作品での「少年の受難」、「大人の中の少年」、「大人になりきれない少年」というテーマを凝縮したものになっている。

 J・G・バラードの小説を映画化した『太陽の帝国』の主人公はイギリス人少年ジェイミー(クリスチャン・ベイル)である。迫り来る戦禍にも無頓着なジェイミーは敵機である零戦に憧れ、敵であるはずの日本軍に親近感を抱くほど幼い。
 日本軍侵攻時に両親とはぐれたジェイミーは、日本軍の収容所の中で二人の代理父、所内で闇屋として阿漕な稼ぎをするベイシー(ジョン・マルコヴィッチ)と、同朋のために献身的に尽くすローリング医師(ナイジェル・ヘイバース)に出会い、教育を受ける。

 収容所に入る前は父親から放任されていたジェイミーは、所内で「闇の父」と「光の父」二人からの教育を受けて、少年時代を満喫する。注意して欲しいのは、スピルバーグは所内でのジェイミーの生活を、降りかかる様々な苦難すら、決して悲惨なものとしては描いてはいないということだ。

 彼が大人になることを迫られるのは、皮肉なことに、米軍による解放と収容所の崩壊が迫り、自由が目前になったその時なのである。零戦ではなく目の前を飛ぶ米軍機に喝采し、親しかった日本軍少年兵の不条理な死を目の当たりにし、二人の代理父との別れを経験したジェイミーはもはや子供ではあり得ない。ジェイミーは「大人」になったのだろうか? 違う。彼は一足飛びに「老人」になってしまったのである。 

 『太陽の帝国』のラストで、ジェイミーは両親との再会を果たす。母親に抱きしめられたジェイミーの顔がアップになるが、この場面でのジェイミーの目は虚ろで、それまでのような活き活きとした光を放ってはいない。スピルバーグ自身が、この場面でのジェイミーの目を「老人の目だ」と言っている。

 このラストでもう一つ注目したいのは、ジェイミーの実の父親の姿だ。しっかりと抱き合う母子と少し離れたところで、何か不気味なものを見るようにジェイミーを眺めつつ、決して触れようとはしていないのである。


『太陽の帝国』日本版劇場予告編





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Last updated  2023.06.15 07:47:50
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