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2024.07.13
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『日本の「世界化」と世界の「中国化」』という本を、手にしたのです。
漢字文明圏に属する日中ではあるが、感覚や考え方がこれほど違うのはなぜか?・・・ということでチョイスしたのです。


【日本の「世界化」と世界の「中国化」】


小倉和夫著、藤原書店、2018年刊

<出版社>より
日本を映す“鏡”としての中国を、2000年の歴史を通して俯瞰する。
明治以降の日本にとって中国は、近代化に乗り遅れた混乱と混迷の国であると同時に、文化的伝統には親近感を覚える国だった。しかし、古代にまで遡れば、中国は政治的権威の源であり、学ぶべき故事来歴の豊かな国であり、模範であった。断絶し、矛盾した中国観が共存している中で、中国が急成長し、大国化した今、“新しい中国観”の確立が急務である。2000年前から続く関係史を見渡し、これからの日中関係のため、“日本にとって中国とは何であったのか”を探る。

<読む前の大使寸評>
漢字文明圏に属する日中ではあるが、感覚や考え方がこれほど違うのはなぜか?・・・ということでチョイスしたのです。

rakuten 日本の「世界化」と世界の「中国化」



「第Ⅲ部 近代日本の画家、文人の描いた中国と中国人像」から火野葦平の中国観を、見てみましょう。
p275~279
<6 火野葦平『赤い国の旅人』に見る中国>
 第二次大戦中、従軍作家なみに扱われ、戦後批判をあびた火野葦平は、1950年代に、中國へ旅行し、『赤い国の旅人』という作品を残した。この書の題名が示唆するように、火野が、共産主義に反感をもっていたことは否定できない。それだけに、この作品には、中国に対する冷静な観察が見て取れるともいえるが、同時に、共産中国というイメージに一見そぐわないような側面には敏感に反応している所がある。


 そこへ、中国側の人が打ちあわせに来ているからという知らせがあって、また、全体会議をした部屋に行った。平和委員会事務局の唐明処さんを紹介される。例の工人服装だが、ものやわらかな痩せ型の紳士である。広東以来、ずっと私たちが会ったちゅうごくじんはいずれも共産主義者であり、闘士でもあるわけだろうが、例外なく温厚で人あたりがよく、どぎつさやものすごさなどは感じさせなかった。けっしてわざとしているわけでなく、自然に人柄が出ているだけで、中国人が大人(たいじん)の風格を持っていることを認めないでは居られなかった。唐明処さんもそんな中国人の一人である。


■大人の風格
 火野が中国人に対して「大人の風格」という表現を使っていることは、共産主義中国においても、伝統的な中国の国民性が残っているというイメージを抱いたからにほかならない。いいかえれば、些細なことや表面的な違いに拘らない性格を表現したものといえる。

 もとより火野は、共産中国が、元来共産主義に同情的ではない火野を受け入れた意味に鈍感であったはずはない。それだけに、火野が、心にもないお世辞をのべたはずもない。むしろ、自然に印象を述べたものであろう。

 細事に拘らない中国人というイメージは、火野にかぎらず、多くの日本人作家の中国描写に見られる。例えば、芥川は、その中国旅行記のなかで、昔の死刑場所として知られ、旅行案内にものっているような草原で、中国のお婆さんたちが、昔のことなど全くかまわぬといわんばかりに、静かに草を摘んでいる姿をみて、「頗る悠々とした眺め」と描写しているが、ここにも、やや似た感覚が滲み出ている。さらに、上海の便所での日本人の体験を描いた金子光春の次の文章は、より鮮明な形で中国人の「こだわりのなさ」を浮き彫りにしている。


 老人はやがて、唐紙を取り出し、ゆるゆると二つに折っては、折り目から裂き、またそれを折って、四枚にした。何気なくそれを眺めていると、四枚のうちの二枚を、静かに手をのばして僕のほうに差し出す。僕も、うなづいてそれを受け取ったが、僕は、まだその老人の姿と、難しく説明するほどの行為ではないが、知る知らぬを越えた淡々とした交換の現れに、中国人の心の広く大きいものを感じた。(金子光春『絶望の精神史』)


 ここには、日中関係を考える上で、留意せねばならないある種の落とし穴が潜んでいる。それは、こうした「心の広さ」とか、「悠々とした」態度、細部にこだわらぬ「大人の」姿勢といった特徴づけが、その裏面に、中国人の、無表情、無感動、ふてぶてしさといったイメージを内蔵しているとみられるからである。いいかえれば、時として、中国人の大人びた態度の裏面として、ある種の無感動、無表情、そして、ふてぶてしさともいえる態度が現れるのである。
(中略)

■無感動な中国人
 同じように、林房雄は小説『上海戦線』のなかで、赤いちゃんちゃんこを着て、町の掃除をしている中国人を見た日本人は、その奇妙な風体に驚き、気味悪く感じるのだが、中国人の方は「ぜんぜん無感覚な表情です」と表現する。
 こうした、無感動な中国人といったイメージを日本人の観察者が感じ取った理由の一つは、これらの体験が、なんらかの形で戦争や戦乱と結びついていた、あるいは、そういう時期のものであったためでもあろう。

 長い混乱、内戦、対外戦争に慣れてきた中国の人々が、そうした混乱や戦乱に対して緊張感、緊迫感をもたなかったとしても不思議ではない。石川達三の『生きている兵隊』のなかで、日本の兵士が中国の兵士を見て「表情のない顔」「痩せた、どこか呆けた顔つき」を見出したのも、また、上田広の『黄塵』において、中国の兵隊を見た日本人の表現として、「戦争をやっているのは自分の国じゃないという風じゃありませんか」と述べているのも、戦乱に対して、日本人と中国人の間に感覚の違いがあったことを暗示している。




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Last updated  2024.07.13 00:46:25
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