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2024.07.27
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カテゴリ: 気になる本
図書館に予約していた『彼岸花が咲く島』という本を、待つこと1週間ほどでゲットしたのです。
この李琴峰という日本で生まれた台湾人作家の使う日本語が興味深いのです。




李琴峰著、文藝春秋、2021年刊

<出版社>より
【第165回 芥川賞受賞作!】
記憶を失くした少女が流れ着いたのは、ノロが統治し、男女が違う言葉を学ぶ島だったーー。不思議な世界、読む愉楽に満ちた中編小説。

<読む前の大使寸評>
この李琴峰という日本で生まれた台湾人作家の使う日本語が興味深いのです。

<図書館予約:(6/19予約、副本?、予約0)>

rakuten 彼岸花が咲く島


1章の続きあたりを、見てみましょう。
p9~11
<1>
 島の視点を持っているならば、大海原にぽつんと浮かぶ〈島〉は東西に長く、南北に狭く、ガジュマルの葉のような形をしていることがわかる。偶然にも〈島〉は気候が高温多湿で樹木の生育に適しており、全体的にガジュマルやビロウに覆われて鬱蒼としている。

〈島〉の海岸はほとんどが岸壁で、特に最東端の東崎と最西端の西崎ともなると百メートル強の断崖絶壁になる。これらの岩石海岸も植生に覆われており牧場としては最適で、牛や豚、山羊、馬などが飼育されている。砂浜海岸は何ヵ所かしかないが、少女が倒れていた北方の〈北月浜〉がそのうちの一つである。
 〈島〉の周囲は風が強く、特に秋から冬にかけては北向きの卓越風で北方の海が大荒れするので、〈島〉への出入りは主に南西にある〈グソー港〉を使う。空港はもちろんない。曾て空港だったと思われる跡地は、今や赤一面の彼岸花の絨毯に覆われている。

 海岸以外にも、〈島〉は丘陵や山岳が多い。人々は普段山岳地帯には立ち入らないが、山間の平地へ流れる川は灌漑用水として使われ、米、芋、砂糖黍などが植えられる。平地にある田んぼと畑の周りに人々が集まって、三つの集落ができた。一番規模が大きい〈東集落〉、二番目に大きい〈西集落〉と最も小さい〈南集落〉である。千数百万人の島民はこの三つの集落に分散し居住している。

  游娜(ヨナ)が住んでいるのは〈東集落〉である。〈東集落〉は島の北東部に位置し、彼岸花を採りに〈北月浜〉へ出向くのに便利である。少女を発見すると游娜は急いで集落に戻ってオヤを呼び、オヤは車を出して少女を家に運び込んだ。
 布団の中で寝込んだ少女は相変わらず顔色が悪く、弱々しく見えた。オヤは游娜が採ってきた彼岸花の花弁を磨り潰し、水を加えて掻き混ぜてから少女の傷口に塗布した。游娜のオヤは旗魚(かじき)捕りを生業としている女性であり、游娜と一緒に生活している。

 夜中になると少女は大汗を搔きながら、苦しそうに目を覚ました。まだ身体が重く、頭の内側で啄木鳥(きつつき)が頭蓋を突いているような鋭い痛みが走っているが、傷の痛みはだいぶ治まった。次に襲ってくるのは圧倒的な飢えと渇きだった。渇きのせいで少女は声を発することも叶わないまま、もがきながら上体を起こした。暗闇に目が慣れると、隣の布団で寝ている游娜とオヤの姿に気付いた。

 少女は彼女たちを起こさないように気をつけながら、ゆっくり立ち上がろうとした。が、足が思うように動かなくて思わずよろめいてしまい、床に尻餅をついた。
 少女が立てた音で游娜も目が覚めた。少女の姿を認めると慌ててオヤを起こし、少女を再び布団の中に寝かせた。
「動くは駄目ら! ビアンバナー、薬効発揮したロー」と游娜が言った。
 オヤが電気をつけると、少女は眩しそうに目を細めた。ビアンバナーとは何なのかということも気になるが、それより大事なことがあった。
「みず」
 と少女は言おうとしたが、喉が嗄れていて声にならなかった。

「ハ?」と游娜は訊いた。「声を大きいに!」
 少女は口の中で唾液が溜まるのを待ってから、それらの唾液を飲み込んで僅かに喉を潤した。そしてもう一度力を振り絞って言った「み、ず」


 ここの言葉では、彼岸花は「ビアンバナー」と言うのだそうです。


『彼岸花が咲く島』1 :冒頭から語り口p2~7





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Last updated  2024.07.27 00:53:09
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