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禁酒宣言価格:924円(税込、送料別) 目下の日々の夜のお楽しみのひとつに,「禁酒宣言 上林暁・酒場小説集」(ちくま文庫)という短編小説集のページを繰りながら,酒場でのひとときを送ることがあります。酒場で禁酒宣言なんてタイトルの小説を読んで楽しいのかと思われるでしょうが,これが滅法面白い。 上林暁という作家は,これまで病妻ものを得意とした私小説作家としてのイメージばかりが先行してこれまで敬遠していたのですが,今回この短編集を読み進めることでそうした「よき夫」像が小気味よく崩れ去っていくのが痛快に感じられます。 敬遠していた理由がもうひとつあって,上林暁は中・長編の著作がない根っからの短編小説作家であることです。けれど酒場での読書は,短編小説がぴったりだったのですね。上林暁の平易と言える位に取り込みやすい文章とそのほどよい長さが,酒場で過ごすひとときの時間を豊かにしてくれます。 本小説集に収録されているのは,昭和20年代に執筆された「女の懸命」「暮夜」「禁酒宣言」「いさかい」「春寂寥」「魔の夜」「お竹さんのこと」「愉しき昼食」「酔態三昧」「春浅き宵」「女の甲斐性」「たばこ」「蹣跚」の13篇です。これらが執筆されたのは戦後まもなくに妻の繁子が亡くなってすぐの著作ということになります。常習的に飲酒し始めたのもちょうど同じ時期に当たっており,妻を亡くした男のダメっぷりを見事に体現したと言えるでしょう。年譜を眺めると5年後には早くも軽い脳溢血を発症(「禁酒宣言」では過度の飲酒により夜更けまで帰宅せず家族と顔を合わすこともなかったことに後ろめたさを覚えてもいたようです),3年間に亘り禁酒生活を送るものの長続きはせず,またもや酒呑みへと復帰したのでした。 男に裏切られた泥酔女に掛けるべきはどのような言葉が相応しいのかを探る「女の懸命」,性的関係のない女との酒の飲み方を綴る「暮夜」,「禁酒宣言」では,いい訳や愚痴をたらたら述べながらこれが最後の酒だと言う酒飲みはやはり酒をやめることはできないと思わせ,「酔態三昧」ではやはり禁酒のできなかった己を悔いてみたりします。友人との別離をぐずぐずじめじめと語った「春寂寥」や主人公が酒場のマダムに惚れまくる「魔の夜」「お竹さんのこと」などいずれも酒飲みには少なからず見に覚えのありそうな他愛ないと言えば元も子もなくなりそうな物語が語られています。 当時,上林暁は阿佐ヶ谷に在住していたらしく,物語の舞台となるのも恐らくは阿佐ヶ谷界隈と思われます。舞台となる飲み屋は,いまではほとんど見られなくなった畳敷きの茶の間の炬燵で酒(カストリがメイン)を飲ませるような安飲み屋ばかりで,当時はこうした店が多かったのでしょうが,肴も南京豆程度が出される程度でそれぞれの店の個性はすべて店の主人(ほとんどの場合マダム)によって特徴付けられているのです。上林暁は酒は無論飲むけれど,それ以上に店のマダムへの執着が強かったようです。 ところで,阿佐ヶ谷『富士見』『泉屋』『三日月』『源氏』『千鳥』,高円寺『初花』『小柳』,荻窪『雁金』といった店名が文中に登場しますが,実在したんでしょうか? 自ら私小説作家と標榜する位なのでいずれの物語に登場するお店も創作含みとは言っても,モデルとなった店があったと思うのですが実際のところどうなんでしょう。
2012/06/11
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『一杯のむときの事典 酒のみ特集 現代生活のバイブル NO.35』自由国民社発行なる小冊子をたまたま読みました。なかなかそそられる誌名ではないですか。発行は昭和三十一年とありますので、約60年近く前の文献ということになります。 表紙は清水崑。『フクちゃん』で知られる横山隆一や政治風刺漫画の大家である近藤日出造ら大物漫画家たちも参加する新漫画派集団に加わって、内田吐夢によって監督された『東京千一夜物語』や近年再刊された『吉田茂諷刺漫画集』で人気を博し、何といっても『かっぱ天国』の連載を目にした、黄桜酒造の社長が見初めたことによりキャラクター化されたのがよく知られています。 長くなりますが、まずはざっと目次を眺めてみます。--世界の酒場・十七景(1)世界の酒場と名士の酒場めぐり・どの国の酒が一番うまいか 河西六郎・政界・財界・文壇・映画・演劇・高座歌手などの酒量くらべ 堀田金四郎・アメリカ風景 富田英三・ソビエト風景 渡辺善一郎・イギリス風景 吉田健一・メキシコ風景 福沢一郎・赤い中共風景 高木建夫・仏国独逸風景 坂口謹一郎・好きな酒場・さかな・呑み友だちなど……百名士回答(2)日本酒とビール・焼酎の知識・わしが国さの自慢の名酒一らん表・三級酒論 広川弘禅・清酒の知識 山田正一・合成酒の知識 飯田茂次・焼酎の知識 外池良三・ビールの知識 松山茂助・麗肴の四季 佐藤垢石・保存法と腐った酒の利用法 田中終太郎・地酒のはなし 吉村孝一郎(3)洋酒・ウイスキー・カクテルの知識・世界と日本の洋酒とウイスキー価格表・酒税・早わかり・洋酒の知識 朝井勇宜・ウイスキーの知識 中村豊雄・カクテルの知識 小田瑞基・日本のウイスキーと洋酒について 笠原正勝・バーテン修行 長谷川幸保(4)一番うまいのみ方とエチケット・宴会の幹事になったら 稲宮又吉・中国の酒のいろいろ 魚坂善雄・中国人の酔い方について 内山完造・酒場のエチケット 馬鹿さわぎは嫌われるモト 筒井計男・居酒屋のエチケット 右コ左ベンをしないことです 草野心平・お座敷のエチケット 註文はまとめてするといい 中沢喜泉・ホテルのエチケット 廊下は戸外であると心得る 高田賢・ビヤホールのエチケット 共同便所的・銭湯的な性格 高橋義孝・レストランのエチケット 音を立てるのをやめましょう 福島慶子・カクテル・パーテイのエチケット 自由に帰れる気楽さがある 杉本国助・屋外では 金山忠一・バーでは 水谷長二郎・酒蔵では 小高源三・葡萄酒をうまくのむには 北川岩三郎・カクテルをうまくのむには 古川緑郎・ビールをうまくのむには 浮田国彦・焼酎をうまくのむには 富岡安二(5)家庭でのむ・おんなとのむ・ビール料理など〈最近の外誌から〉・家庭でそろえたい器具の値段しらべ・来客のとき便利な酒のつまみもの一〇〇種 黒田初子・図解による四季向ホームカクテル表〈おふせっと〉(・春向の4種・夏向の4種・秋向の4種・冬向の4種・婦人向4種・閨房酒・薬酒など) 杉田米蔵・手軽るにできるホーム・カクテルの作り方 大阪登章・女に酒をのませる技術 東郷青児(6)酒のみのための医学事典・酒のみの最新薬・早わかり 橋爪恵・女ののみ方についての注意 押鐘篤・酒党はガンを恐れなくてもいい 田崎勇三・酒をのんだらどんな順序で酔うか 杉靖三郎・手つとり早く酔う法と絶対に酔わぬ法 原三郎・医者のすすめる上手なのみ方 高野六郎(7)一杯一杯一句また一章・フランスの歌〈杯をふくめばチすじみな…〉 井上勇・イギリスの歌〈恋の酒は音楽 恋の宴は歌…〉 西村孝次・ソビエトの歌〈ぶどうは黙す幾とせの暗き穴蔵…〉 井上満・俳句と酒〈花に風かろくきてふけ酒の泡・酒はもう懲りた人あり遅桜〉 石塚友二・短歌と酒〈めづらしき光さし添う盃はもちながらこそ千世もめぐらめ〉 佐藤佐太郎・漢詩と酒〈何ぞ必ずしも神仙を求めん三盃大道に通じ一斗自然に合す〉 鎌田正・各頁のカットとマンガ 辻まこと・表紙と扉の構成 清水崑-- ふ~っ、どうでしょうか。なかなか愉快な内容ではないですか。しかも執筆陣には大物も数多く見受けられます。 特に気になるのは「・好きな酒場・さかな・呑み友だちなど……百名士回答」でした。作家や映画監督など著名な人たちから、(1)好きな酒とつまみもの、(2)好きなのみ屋・酒場、(3)のみ友だちを回答させているというもので、特に(2)が気になるところです。ざっとピックアップすると、尾崎士郎(新橋驛前小川軒)、山本周五郎(銀座の「ルパン」と横濱の「ボルトン」)、大井広介(銀座「はちまき岡田」)、服部良一(銀座「ボルドー」)、学者 滝川政次郎(浅草「神谷バー」)や画家 志村立美(銀座「ライオン」)、自民党 北村徳太郎(駒形「どじようや」)といったところでしょうか。現在でも残っている店がありますね。他に銀座「ルパン」「エスポアール」「はち巻岡田」、新宿「五十鈴」「樽平」、渋谷「とん平」、文藝春秋クラブのバーなどが複数の回答者から支持されています。当時の文化人たちの交流関係などを知る手掛かりにもなりそうです。 転載するだけでひと仕事終えた気分なので他の内容については、後日報告します。
2012/04/22
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