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バイデン政権の困難 その28昨日記した米軍の爆撃施設は、シリアのシーア派民兵組織の基地でした。イラクの基地への空爆は避けたようです。イラクの基地が攻撃されたわけではありませんので、訂正いたします。そして26日、バイデン政権はもう一つの手を繰り出しました。本日付の夕刊で、各紙とも大きく取り上げていた、サウジのカショギ記者暗殺事件に、ムハンマド・ビン・サルマン(Mbs)が関与していたことを、バイデン政権がはっきりと名指しで認定したことです。米国の国家情報長官室が、26日に調査報告書を公表し、その中でサウジの皇太子Mbsが「カショギ記者を拘束または殺害する計画を初認した」と断定したのです。Mbsは、米国では最低でも殺人教唆罪を適用される犯罪者に指定されたことになります。この公表を受けて、サキ米大統領報道官は、「大統領の対話相手を含めて、サウジとの関係を見直すことは確実だ」と記者団に述べています。Mbsは米国による制裁対象に指定されるでしょうし、当然米国との対話の席からは外されることになるのは、確実な情勢です。サウジのサルマン国王は、2021年中にも、王位をMbsに譲位する積りだったようですが、バイデン政権は、Mbsへの譲位にもストップをかけました。譲位した場合、サウジのトップは、米国との対話の場を持てないことになります。当然それではサウジの国益が守られません。Mbsへの譲位は先送りするしかないでしょう。イランにとって、サウジは仇敵ですから、対イラン強硬派のMbsの地位の揺らぎは願ってもないことです。空爆とMbsのカショギ事件への関与の特定と公表、イランはどう反応するか、そこが次の見どころとなります。
2021.02.27
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バイデン政権の困難 その27イラク各地で、米軍施設への過激派の攻撃が続いています。2月15日、イラク北部のクルド人自治区エルビルの空港施設等にロケット弾が撃ち込まれ、米軍兵士1名を含む10名ほどの死傷者が出ました。この攻撃は、バイデン政権の反応を試している可能性もあり、バイデン政権の反応が明らかになるまで、繰り返される可能性がありました。そうした中バイデン政権は、イラク政府の調査結果を待って行動すると述べて、報復攻撃は急がないと表明して、しばし静観を決め込みました。バイデン政権の反応がない中、20日にはイラク中部サラハディン県バラド空軍基地に、4発のロケット弾が撃ち込まれ、基地内でF-16戦闘機の維持管理業務を請け負う米企業の南アフリカ人契約社員が負傷したことが伝えられました。同基地は首都バクダッドの北方64kmの位置にあり、イラク軍の保有するF-16戦闘機の主力基地です。そのため同基地は、これまでもシーア派民兵組織やイスラム国による飛び道具を使った攻撃の標的とされてきました。特に今回の攻撃の直前には、戦闘機の支援を受けたイラク治安部隊がIS(イスラム国)の拠点を攻撃していたため、ISの報復攻撃の可能性もありました。バラドの空軍基地には、今は米軍部隊の駐屯はなく、米軍はいませんから、シーア派民兵組織による攻撃ではない可能性が高いように思えます。さらに22日には、首都バクダッドのインターナショナル・ゾーンに2発のロケット弾が着弾しました。幸い負傷者は出なかったのですが、この地域には米大使館もあるため、大使館を狙った攻撃だった可能性もあり得ます。この間、イランのシーア派民兵組織の一つカタイブ・ヒズボラは、15日のエルビル攻撃について自分たちではない。」とはっきりと否定しました。同時に実行犯について、「攻撃を行ったのは、米国とイランの関係改善に反対してるグループだ」と述べています。「カダイブ・ヒズボラはイランとアメリカ間の緊張緩和を支持している。」と述べています。損なやり取りの中、米国はイラクのカダイブ・ヒズボラの基地を爆撃しました。詳細はまだ分かりませんが、今のところカダイブ・ヒズボラからは、何のコメントもないところから、被害は軽微だった可能性が高いようです。 続く
2021.02.26
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バイデン政権の困難 その26昨日記したバイデン政権の3つの譲歩は、とるに足らない小さな措置に過ぎません。第1の点は、7か国の多国間会議に出席する、会議に加わるというだけの事です。第2点の対イラン国連制裁の復活要求の取り下げも、この要求自体がトランプ政権が一方的に主張したものに過ぎず、イランの核合意に対する違反行為は、米国が一方的に核合意から離脱して、イランに制裁を科したことを受けて、対抗措置としてイランがとった行為なので、米国以外の安保理の理事諸国は米国の主張を認めなかったのです。そんな米国の提案を取り消しただけなのです。第3の点は、国連で働くイランの人々に対する、ニュヨーク市内での行動の自由の保障は、外交官に対する礼儀としては、本来認めてしかるべきもので、トランプ政権による行動制限自体が、あってはならぬ事柄だったのです。それゆえ、これら三つの譲歩は、イランにとっては譲歩とまでは言えない、外して当たり前の措置に過ぎなかったのです。イランは様々な制裁の全面解除を要請しているのですから、そんなイランには、実質的メリットがほとんど感じられないステップに過ぎないのです。これは米国内に、トランプ政権の一方的な核合意離脱と、同じく一方的な制裁の再開に対する抗議としてとは言え、イランが核合意に反する行動を次々と繰り出し、核開発をエスカレートしだしたことに対する反発が強く、イランに対する圧力を緩めることに批判的な声が強いため、バイデン政権としても、現時点で大きな譲歩を繰り出すことがやりにくい立場にあるためなのです。バイデン政権としては、指名した政府高官人事の承認手続きが、なお上院で継続中であるため、この時点で議会の強い反発を招くようなことは避けたいところです。そのためイランとの交渉に戻るにあたり、自分の側からイランに譲歩したと受け取られかねない行動は、避けたいのです。しかし、イランの側も核開発を加速させて対米圧力を強めてきており、これ以上圧力を強化すると、核合意への復帰が難しくなる岐路にまで来ています。そしてこの6月にはロウハニ大統領の2期目が終わって、大統領選挙が行われます。イランの大統領も3選は禁じられているため、穏健派のロウハニ大統領は立候補できず、今回は保守強硬派の候補が当選しそうだとされています。そのため、核合意に関する交渉は、穏健派で国際協調派に連なるロウハニ大統領の任期中に、何とかまとめ上げたいところなのです。時間は限られているのです。こうした制約の中で、バイデン政権は、欧州勢が音頭をとって進める多国間会合の場で、イランとの交渉の席に着くという、考えに考えた結果と思われるカードを切ってきたのでしょう。その手土産が、国連制裁復活宣言の撤回であり、イラン人外交官に対する行動制限の緩和だったのです。イラン政府はどうですか。イラン政府も、米国が制裁を解除するまで、米国との直接交渉に応じない姿勢をとってきたのですが、2国間交渉ではない多国間会合の場での接触までは禁じていません。イラン紙府は、バイデン政権が国連制裁復活要求を撤回したことを評価するとし、欧州連合の多国間会合の提案に対し、「熟考する」と、前向きともとれる声明を発表しています。またイランは、23日にIAEAの抜き打ち査察の受け入れを、通告通り停止しましたが、別途IAEAと取り決めを結び、最大3か月間、IAEAが監視及び検証作業を続けられることで、合意しています。この3か月間を、米国の制裁解除と自国イランの核合意への復帰を実現するための機関であると、設定したと言うことでしょう。イラン国内の保守強硬派には、IAEAとの暫定合意に批判的な声もあるようですが、最高指導者のハメネイ師は、この合意を支持すると表明しており、バイデン政権との核交渉を3か月に限って許可したと読むことが出来ます。交渉の窓は、期間限定で開かれたと受け止められます。ハメネイ師は、22日の演説で、「イランはウランの濃縮を20%から60%まで高めることが可能だ。」と述べました。この発言は、イランが独立国家として、ウランの濃縮度を自由に決める権利を持つことを強調したものであり、同じ演説の中でハメネイ師は、「イランは核兵器を保有する保有する意志は持たない」と改めて明言しています。イラン核合意を巡る問題は、今後の動きに注目する必要ありですね。
2021.02.25
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バイデン政権の困難 その25イラン核合意について、バイデン政権が交渉再開に向けて、小さな一歩を踏み出したようです。実はイラン核合意を巡っては、共和党のみでなく、民主党内にもイスラエル寄りの議員がおり、かつまたイランが次々にウランの濃縮度をあげたり、IAEAの抜き打ち査察を拒否したりと、交渉のハードルを上げてきていることに批判的な勢力がおり、米国として無条件にイランとの交渉のテーブルに着くことには、議会の反対が強く、政権内部でも、どう対応すべきか意見がまとまらない状態にありました。一方には、マレー氏のようなイランが引き返せなくなる前に、ともかく交渉のテーブルに着かせることが大切だとする交渉再開派があり、もう一方にはイランを核合意の線に戻すことが先で交渉は急ぐべきではないとする、議会対策と国内の空気を重視して、交渉は急ぐべきでない、ゆっくり進めようとグループが綱引きをしていたのです。チームのまとまり、一丸となってをモットーとするバイデン・カマラコンビとしては、これではすぐには動けないと、もっぱら談話のメッセージをイラン向けに発するだけにしていたのです。そのバイデン政権の内部で対立していた二つのチームが、とりあえず交渉再開を匂わす程度の小さなステップを踏み出すことで、イランの出方を試してみようという点で、つまり対立する二つの見解の、まさに中間点ぐらいの(日本流の足して2で割る方式に近い感じです)歩みだしをしたのです。先週末、バイデン政権は3つの措置を取ることを発表したのです。1つ目が、EUが召集する核交渉再開のための非公式会合に、米国政府として参加する用意があると表明したのです。ブリンケン国務長官が英仏独3か国外相とのオンライン会合で、欧州三国に中国、ロシア、イランの核合意参加国と米国による非公式の多国間会合に参加すると表明したのです。2つ目が、トランプ政権が主張した「対イランの国連制裁の復活」要求を、公式に取り消したことです。3つ目が、トランプ政権が、ニューヨークの国連事務所で働くイラン人外交官に対する行動制限(自宅と工連事務所の往復以外は事実上どこにも行けない厳しい行動制限です)を取り消し、ニューヨーク市内の行動の自由を回復したことです。イランがどう応えるか。ボールはイランに向かいました。 続く
2021.02.24
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バイデン政権の困難 その24イラン問題はまた取り上げますが、トランプ政権で「アメリカファースト」と、まるで新興国のような身勝手な態度をとっていた姿勢を転換して、国際協調路線に戻る姿勢を示し、先週には欧州諸国との話し合いを持ちましたが、アメリカと大陸欧州(特に仏・独)との間を繋いでいたイギリスがEUを離れたため、EUnイタイするイギリスのとりなしを期待できなくなったため、独・仏との関係の調整が大変難しくなっています。中世から1945年までずっといがみ合ってきた仏・独が、何故急に長い間の恩讐を越えて手を組むことになったのか。それはアメリカ優位、ドルの優位に対する大陸欧州の復権、アメリカに対抗し、同等ないしその上を行くために、外なりませんでした。ですから対米協調路線をとるにしても、どこか油断も隙も無いのが仏・独との関係だったのです。アメリカにとって、欧州におけるイギリスの地位の低下は、大変頭の痛い問題です。特にシティの国際金融界における地位の低下で、イギリス経済の下降傾向は、近日中にはっきりと世界が知ることになるでしょうし、対応戦略をどう練るかも、バイデン政権にとっては難問になります。
2021.02.23
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バイデン政権の困難 その23マレー氏の履歴と最近の主張を記します。彼は20世紀最後の大統領だったクリントン時代に、中東和平問題担当の大統領特別補佐官、国家安全保障会議(NSC)の中東・南アジア担当部長を歴任、2009年からのオバマ政権で、再び大統領特別補佐官にカムバックし、イラン核合意の交渉に尽力したキーパーソンでした。トランプ政権の4年間、何をしていたかというと、2018年1月からは、紛争研究と紛争解決のための政策提言を行うNGO,国際危機グループ(ICG)のプレジデントに就任、以降3年間で5大陸の殆どの紛争地を訪問して、各地域の様々な紛争の調査や解決のための政策提言を発信し続けてきました。ICGの最近の政策提言は、バイデン政権に対しイラン核合意への早期復帰を呼び掛けており、先ずはバイデン大統領に対し、トランプ政権が発出したイラン核合意離脱の大統領令を無効にして、核合意に復帰する意志を明確にすること。さらにトランプ政権が2018年5月以降に、イランに科した制裁を無効化することを提案しています。バイデン政権は、イスラエルや共和党右派の猛烈な反対運動を黙殺する形で、マレー氏の任命を強行しました。マレー氏の任命は、欧州諸国とりわけ英・仏・独のキーパーソンからも高く評価されており、イラン側もマレー氏には好意的です。それゆえ、マレー氏をイラン担当特使に任命したことは、バイデン政権が交渉に前向きであることを、イラン側に伝えるメッセージになったと思われます。イラン側は、23日から未申告の施設への抜き打ち査察を認める「追加議定書」の暫定履行を停止すると通知しましたが、21日夜、核関連施設への査察を最大3か月期間継続することで、IAEAと合意したと発表しました。3か月の猶予期間に、米国とイランが共に核合意に戻る結論を出してくれると良いのですが、今度は米側がサインを出す番になります。 続く
2021.02.22
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バイデン政権の困難 その22イラン問題を続けます。公式的には、イランも米国も共に相手が先問い続けていますが、陰では互いに落としどころを探っているようにも見えます。1月27日、イランの国連大使を務め、核合意を巡る交渉にも携わったタフテラー・ヴァンチー氏がニューヨーク・タイムズ紙に寄稿し、「バイデン大統領はトランプ政権のイラン政策を批判し、米国が核合意に復帰することを提唱していた。さらに中東地域の緊張を高めていたトランプ政権の政策を撤回することを公約に掲げていたはずだ。今こそその約束を果たす時だ。」とバイデン政権に呼びかけた。さらに、「米国は先ず先に、核合意を履行することを誓うべきだ。その上で速やかにトランプ政権がイランに科した新たな制裁を解除すべきだ。イランは、核合意離脱後にトランプ政権が科した制裁がすべて解除された後に、合意義務の履行に戻る」とも述べ、米国が先にという点を強調した。最後に「交渉の窓は閉じかけている。もしバイデン政権が短期間に制裁の解除をしないならば、核合意にの復活の可能性を破壊することになるであろう」と締めくくり、悲壮感も漂わせました。この呼びかけに対応したのか、バイデン政権は、1月29日にロバート・マレー氏をイラン担当特使に正式に任命しました。マレー氏はイラン問題の専門家で、核合意の締結に深くかかわった人物です。マレー氏の任命には、イスラエルと、共和党内の親イスラエル系の議員が猛烈な反対運動を展開し、マレー氏に対するネガティブキャンペーンまで繰り出したのですが、大統領もブリンケン国務長官もまったくぶれることなくマレー氏を任命したのです。ここにもイランに向けたメッセージがありました。 続く
2021.02.21
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バイデン政権の困難 その21前回の最後に記したイランのザリフ外相の柔軟発言後、ほぼ1週間後の7日、イランの最高指導者ハメネイ師が、「もし彼ら(米国や欧州諸国を指します)がイランに核合意の履行に戻ってほしいなら、米国が最初にすべての制裁を解除しなければならない。我々はそれが適切になされたかどうかを確認した後に、我々の義務の履行に戻る。」と述べ、米国が先を強調して、ザリフ外相の柔軟発言を否定して見せたのです。米国のトランプ政権が、一方的に核合意を廃棄して、一方的な制裁をイランに科し、イランに様々な困難を齎したのに対し、イランは核合意が順守されなかった時について定めた核合意の中の条文に則って、段階的に核合意離脱の方向に動いてきたにすぎない。だから核合意に戻ってほしいのなら、一方的に核合意を破った米国が、先ず制裁を解除するのが筋だという、原則論をハメネイ師は述べたのです。国内の強硬派に配慮した発言です。これに対し、バイデン大統領は、「米国が一方的に譲歩することはありえない。イランが踏み出しつつある核開発の強化をやめなければならない」と述べています。イランも交渉のハードルを上げる圧力強化策を繰り出しています。1日も早く制裁を解除させたいからなのでしょう。裏を返せばそれだけ経済制裁のダメージが大きいのでしょう。国際原子力機関(IAEA)は、2月日に、「イランが金属ウランの製造を開始したことを確認した」と報告しました。ここまでイランは金属ウランを製造していなかったのです。この金属ウランは平和利用に用いることもありますが、何といっても核弾頭の中核をなす主原料なのです。当然核合意ではその製造は禁じられています。従って、イランのこの行為は、米国や欧州諸国に対する挑発行為です。さらにイランは15日、IAEAに対し未申告の施設に対する抜き打ち査察の受け入れを、2月3日に停止する方針を伝えてきました。IAEAの抜き打ち査察を停止すれば、イランが核合意に基づいて受け入れてきた核開発に関する制限措置は、全て撤廃されたことになり、事態は核合意締結前の状態に戻ることになります。こうしたイランの攻勢に対し、バイデン政権の動きは、とてもゆっくりに見えます。チームで動く政権であっても、1月20日の就任後の動きは素早かったのですが、イラン核合意を巡っては、外交関係特に中東担当チームの中でも見解が分かれているのでしょうか、他の問題に比べ動きが鈍いというか、大変スローに見えます。一貫した方針がまだ固まっていないようです。 この項、まだ続きます。
2021.02.20
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バイデン政権の困難 その20エルビル空港へのロケット弾攻撃に対するバイデン政権の対応は、大変冷静で落ち着いたものでした。バイデン政権は、「攻撃者には責任を負わせる」との声明を出しましたが、イラク政府による正規の捜査結果を待ち、攻撃者の正体が判明してから対応するというのです。その上、攻撃者に報復するとしても、イラクの主権を尊重するとも述べています。イラク軍兵士が巻き添えを食うような攻撃は控えるというのですから、トランプ政権のような滅茶苦茶な攻撃はなさそうです。おそらく、攻撃に踏み切る場合は、イラク軍の作戦行動を支援する形での参加を考えているように見えます。イランに、挑発には乗らない対話は歓迎するという、メッセージを送っているように見えます。実は、バイデン政権とイランは、互いに交渉再開に向けたシグナルを送りあっていました。バイデン大統領は、1人或いは数人で何事も決めてゆくようなタイプではなく、夫々のテーマごとに作ったチームから上がってくる結論を尊重しながら、そこに自分の色を少し加えてゆくような、チームを尊重する姿勢を貫いています。そのため時間はかかりますが、提案が受け入れられるチームメンバーの忠誠心と士気は極めて高いものがあります。少し前になりますが、2月5日には国家安全保障会議(NSC)の長官級会議が開かれ、イランへの対応について突っ込んだ話し合いが行われたことが伝えられました。この会議にバイデン大統領は出ておらず、重要な決定はなされていないと説明されましたが、同日ブリンケン国務長官が英仏独欧州3か国の外相とオンラインの会議を持ち、イランについて協議したことも明らかにされました。バイデン政権は、対イラン政策に関する議会の反応を気にしており、ここで失敗するわけには行かないと、同盟国や議会関係者と慎重に協議を続けています。この点に関連して、米国の中東政策に詳しいベテランジャーナリストは、「バイデン政権は、引き続きイラン核合意(JCPOA)への復帰を目指しており」、その最初のステップとしての、信頼醸成を目指して、米側からの限定的な制裁緩和措置をとることを検討していると伝えました。イランは、このままの状態が続くなら、2月21日には、核開発をさらにエスカレートさせ、国際原子力機関(IAEA)の査察を制限すると宣言しています。ローゼンはさらに、「米側の限定的な制裁緩和措置に対し、イランが今以上の核合意違反行為を凍結するなら、次のステップとして、米・イラン双方が行動のタイミングを調整して、米国は制裁を解除して核合意に復帰、同時にイランは、核合意違反行為を中止して元の義務履行に戻る」、こんな案を検討していると伝えています。2月4日には、フランスのマクロン大統領が、バイデン政権とイランとの外交交渉を歓迎し、「わが国は、誠実な仲介者として、協力し支援する」と明言しました。ここ数日の動きを見ると、バイデン政権は、イランに対しいくつかのシグナルを送っているように見えます。一つは、イランに対する理解の深いロバート・マレー氏を、イラン担当特使に任命したことです。次の二の矢が、「イランの挑発行動を抑止する」目的で、昨年」ペルシャ湾に派遣した米海軍の空母打撃群「ニミッツ」を中東からアジアに移動させたことです。第3のシグナルが、イランに拿捕されていた韓国タンカーの船員に関する措置です。2月2日、イラン政府は1月4日にペルシャ湾で革命防衛隊が拿捕した韓国タンカーの船員19名の解放に同意したと発表しました。この韓国船拿捕と船員解放交渉の裏には、トランプ政権の対イラン制裁により、イラン原油を購入した韓国の支払代金70億ドルが、韓国の銀行のイラン口座に振り込まれたまま、韓国が米国の制裁に従う形で凍結されたままになっていたのです。(日本でも三菱UFJ銀行にあるイラン口座に30億ドルが振り込まれたまま凍結されています)この措置について両国の交渉が進み、イラン政府は、韓国が凍結資産の一部をイランの国連分担金として国連に支払うことを求め、韓国はその行為が米国の制裁に抵触してしまうために困った状態になることから、それは出来ないとしていたところ、バイデン政権との調整が出来、イランの求めに応えることが出来たからと伝えられた。つまり、バイデン政権が、対イラン制裁の一部を緩めることに合意し、イランもそれを受けて韓国船員の解放に応じたことになります。全体から見れば、」小さなステップですが、米国とイランの双方がシグナルを送りあった事実を見逃すわけにはいきません。2月1日、イランのザリフ外相が、米国のCNNに出演し、「米国が先に全ての制裁を解除すべきだ」と主張していた立場から、「基本的に双方がすべきことを同時に、もしくは調整して実施するような方法もありうる」「そのために欧州連合の仲介が必要かもしれない」と柔軟性のある発言をしています。まだ続きます。
2021.02.19
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バイデン政権の困難 その19昨日、中途半端な記事に終わりました事件について、多少詳しく綴ります。事件は現地時間の15日(月)夜9時30分ごろ、イラク北部のクルド人の自治区得るビルの空港付近にロケット弾が撃ち込まれ、米軍兵士1名を含む死傷者が出ました。建前上米軍主導の有志連合の発表と言うことになるのですが、実質は米軍の発表によると、14発のロケッド弾が発射され、そのうち3発がエルビル国際空港の米軍使用区域に着弾し、基地で米軍に雇用されて働くフィリピン人1名が死亡し9名が負傷したと発表された。またロケット弾の1発は空港近くの民家に落ち、少なくとも3名が負傷したそうです。事件後、「血の守護者」を名乗るシーア派系民兵組織が、「米国の占領に抗議して」実行したと犯行声明を出しているが、この組織がAAH(アサイブ・アフル・アル・ハック)ヤカタイブ・ヒズボラのような親イランのシーア派民兵組織の一部または友好団体なのかどうかは、定かでありありません。ただし、イラクではこれまでも度々主要なシーア派民兵組織が、別のグループ名を名乗って、テロ攻撃を行うことがあったので、AAHやカタイブ・ヒズボラの犯行である可能性も排除できません。攻撃に使用されたのは、イラン製の小型ミサイルで、射程は8km程と短いため、攻撃者はエルビル空港から8km以内の地まで接近して発射したことになります。こんな至近距離にまで民兵組織のメンバーが入ってこれるのですから、クルド自治区の治安も相当乱れているのでしょうね。まして米軍の威光は全く届かないのです。イラン政府は、事情を知ると、すぐに関与を否定する声明を発表しています。今までもイラクのシーア派民兵組織が、イラン革命防衛隊の指示や要請を受け、米軍に対する攻撃を激化させたり中止したりしてきたことから、今回も背後にイラン革命防衛隊がいる可能性は否定できません。しかし、昨年から革命防衛隊のイラクのシーア派民兵隊に対する統制力が弱まっていること、民兵組織の中には、イランの指示とは全く無関係に動くグループも多い事実もあり、イランの意図とは無関係の可能性もあります。ずれの場合でも、バイデン政権の反応を試そうとしている可能性はあるように思います。トランプ政権は、「米軍に関する攻撃は、イランの攻撃とみなし、イランに責任を負わせる」「米国人が被害を受けたら報復する」としてきたが、バイデン政権になって、そうした基準に変化があるのかを、試そうとした可能性もあるかもしれません。 続く
2021.02.18
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バイデン政権の受難 その18続報が入ってこないのですが、イラクのクルド人支配地域で、米軍が訓練を担当している施設へ、ロケット弾が命中、米兵1名が負傷、他に6名が負傷、1名が死亡するに至りました。イランが支援するシーア派の抗戦派の攻撃なのかなど、まだ分からない点のあるのですが、対イランの外交が難しいところに差し掛かりました。明日から少し詳しく書かせていただきます。
2021.02.17
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バイデン政権の受難 その17昨日の記事に追加します。共和党内のコアなトランプ支持者は全体の3分の1程度に過ぎません。またはっきりとトランプ批判を展開し、反トランプを鮮明にしたトランプ否定派は、弾劾票決に反対票を投じながら、裁判終了後に「弾劾には反対したが、トランプの行動は許せない」と断じたマコーネルらを加えても、一握りにすぎません。従って、コアなトランプ支持者でない共和党議員が約3分の2を占める多数派です。この人たちは、トランプ批判をすることで、トランプ派の怒りを買い、次期議会選に際しトランプ支持の刺客を送られてはかなわないので、トランプ批判を控えることで、次期中間選挙での共和党候補として、自分の地位を保とうというわけです。しかし、彼ら、彼女らにはそこに大きなジレンマがあります。米国の議会選では、大統領選と同じように、各選挙区の候補となるためには、予備選を勝ち抜く必要があります。そのためになお党内に隠然たる力を保持しているトランプ派にすり寄る必要がある。しかし、トランプを支持する人たちは、1月6日の叛乱以来、明らかに減少しています。しかもその流れは、弾劾裁判で検事役を演じた民主党下院議員のチームが流した、2本の未発表だった映像によって、あの暴動が明らかに無法行為であり、合衆国の民主主義と議会政治に対する許しがたい叛乱であったこと、それを大統領ともあろうものが煽っていたことを明らかに証明したのです。 その映像はこれからもしばしば流され、誰もが見ることが出来るのです。予備選に勝利したとして、それから民主党の候補と本戦を戦ううえで、トランプにすり寄っている姿勢のままでは、トランプ支持者以外の支持は期待できません。トランプはコアの支持者以外からは、はっきりと排除すべき人物と映ってるからです。民主党は、そんなトランプを泳がせることで、共和党の混乱が深まることを期待しているのです。トランプを追いつめない狙いは、この点にあると見ています。
2021.02.16
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バイデン政権の受難 その1613日(土)、日本時間では14日(日)の夜明け前頃、トランプ弾劾裁判の票決が行われ、賛成57、反対43で、賛成が67%(3分の2)に達しなかったため、否決されました。共和党議員で弾劾に賛成票を投じた議員は7人に留まったのです。共和党のマコーネル上院院内総務は、投票に先立ち、「自分は無罪票を投じる」と共和党の議員団に伝えて、何とか党の結束を図ったのです。ただ、真央コーネル総務は、弾劾裁判の決着後、「(6日の議事堂襲撃と占領事件は国家に対する反逆であり)トランプ大統領に責任があったことは間違いない。」「トランプ氏は、大統領としての仕事をしなかった。そして秩序を回復するための措置も取らなかった。」と採決後の議場で、わざわざ発言を求めて発言し、トランプを厳しく論難したのです。弾劾裁判は、票決に示された数字も含めて、ほぼ米欧日のマスコミの事前予想通りの結果となりました。スピード決着も、民主・共和両党ともに、早期決着を目指していましたから、これもまた予想通りでした。裁判では、民主党下院議員で構成された検察チームが、冒頭にトランプの煽動の証拠として、議事堂襲撃とトランプの演説のビデオを公開したのですが、そこには未公開の画像が含まれており、強いインパクトがありました。一方でトランプ弁護団の擁護弁論は、明らかにお粗末でした。それは、トランプの言動に弁解の余地がなく、最初から苦しい弁護であったことは事実でした。さらに共和党のマッカーシー下院院内総務とトランプの議事堂襲撃時の電話協議の報道が、この日なされたこともありました。マッカーシーが暴徒を止めるよう要請したのに対し、トランプがその要請をはねつけたため、マッカーシーが激怒して口論になったことが伝えられたのです。マコーネルが無罪票を投じると伝えて、党内を引き締めたのは、この後だったのです。トランプ支持者だった共和党のニッキー・ヘイリーは、「大統領選の結果を覆そうとしたトランプの試みを、共和党が支持したのは間違いだった。彼の話は聞くべきではなかった。トランプが24年の大統領選に出馬できるとは思えない。」と述べました。ヘイリーは、24年大統領選への出馬を検討していることも認めましたが、トランプとは袂を分かつことを決断したのでしょう。弾劾裁判は、否決されましたが、裁判で得点を稼いだのは明らかに民主党でした。トランプの言動の悪質性を改めて明らかにすることで、トランプの評価を下げ、さらに共和党の分裂を誘うことにも成功したからです。裁判に提示された2本の動画のインパクトも、ユーチューブで再生され、今後も何度も繰り返し再生されるでしょうから、狂信的なコアなトランプ支持者以外のトランプ離れが加速するだろうことも間違いのないところでしょう。民主党が現在進めている選挙戦術(もう22年11月の中間選挙に向けての動きは始まっているのです)は、共和党に「トランプ党」とか「Qアノン党」のレッテルを貼り付けることです。Qアノンを公言する出しゃばりの際物的議員マージョリー・テイラー・グリーンが目立つ言動を繰り返すのも、民主党にとっては、好都合なのです。共和党も民主党に対し、「極左の党」とか「バーニー・サンダースやAOC(アレイサンドリア・オカシオ・コルテス)の党」といったレッテルを貼りますが、今の共和党を見る限り、その内部分裂振りは、民主党の比ではないそうです。共和党の3分の1程度がコアなトランプ支持者で、いわばトランプ党と言うべき連中です。残りは一部が選挙に不安がなく、トランプと袂を分かつことで実害を蒙ることのない人たちで、他は内心トランプに反発しつつも、次の選挙を意識すると、トランプを非難できないというストレスを抱えた議員たちが占めているという、そんな状態に置かれています。通例、次の戦いの場となる中間選挙は、本来なら共和党が逆襲するパターンになるのですが、今の状況では、いろんな方面から民主党の攻撃が可能なのですから、共和党にとっては、極めてまずい状況なのです。トランプが24年に再度立候補することは先ずありませんが、トランプを野に放ったこと、彼の再度の立候補の可能性を残したことは、むしろ民主党にとって好都合だったとも言えるのではないか、私はそんな風に考えます。トランプの公職資格を剥奪する法的手段は、憲法修正14条の3節を使う手が残されています。そこには、「暴動、叛乱、反逆に加わった者は、議員や選挙人に選ばれることはできない」と規定しています。しかもこの規定の適用は、過半数で可決成立するからです。しかし、この規定は使わずにとっておくほうに、民主党の利があるように思います。バイデン大統領自身、弾劾裁判の評決後、「なすべきことは終わった。さぁ前に進もう」と、トランプは無視して、米国の将来を考えようと、呼びかけています。深追いを避けることが賢明な判断だと考えているのでしょう。トランプの無罪判決にがっかりする必要はありません。
2021.02.15
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バイデン政権の受難 その15さらにバイデン大統領は、次のように述べています。「われわれはイエメン戦争を終わらせるための外交に力を入れる。この戦争は人道主義的にも、戦略的にも大惨事を招いた。私は(政権の)中東チームに対して国連主導の停戦に導くための努力を支援し、人道支援のチャンネルを再開させ、長く休眠していた和平交渉の再開を支援するよう指示した」と、また「武器売却を含め、イエメン戦争における攻勢作戦のための米国のあらゆる支援をやめる」とも語りました。「攻勢作戦のための米国の支援」とは、サウジ主導の連合軍が、フーシ派に対して行っている軍事作戦に対する支援をやめることを意味します。この点についてサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、米軍がイエメン南部で、アルカイダやISなどイスラム過激派に対して(彼らはフーシ派とは全く別組織です)実施している反テロ作戦は継続されると述べており、支援をやめるのが、サウジやUAE(アラブ首長国連邦)に対する武器支援や武器の売却をやめることであることを示唆しました。これは、具体的には、昨年12月にトランプ政権が議会に通知した、3,000発の精密誘導弾GBU-39(ボーイング社製)と7,000発の航空機搭載型精密誘導弾ペイブウェイ(レイセオン社製)のサウジやUAEに対する売却を差し止めることを意味します。バイデン政権は、フーシ派が首都サレハを中心にイエメン北部一帯を実効支配し、サウジやUAEの支援を受けるスンニー派の軍事政権に対し優位にある現実を把握し、一方でイエメン内戦が1990年代から断続的に続く事実から、国内の難民キャンプで生活する人たちも多く、しかも、トランプ政権の支援を受けたサウジやUAEによる、サレハなど人口密集地に対する空爆を繰り返し、10万人を超える民間人の死者を出している事実を把握し、こうした虐殺をやめることを、強く求めています。同時にフーシ派に対しても、サウジやUAEの油田地域に対するドローンによる攻撃などを自制することも求めており、とりあえず、世界で最悪の状態にあるイエメン国内の難民や国民の生活の再建に向けての努力を、国連を中心において実現しようとしています。しかし、サウジなどの支援を受ける政府派はスンニー派であり、イランの視線を受けるフーシ派は、シーア派であるため、イランとサウジの対立も絡んでくるため、縺れきった糸を解きほぐすことh、並大抵ではありません。さて、どうアプローチするのか、様子を見ていこうと思っています。
2021.02.14
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バイデン政権の困難 その14米中関係を最初に取り上げ増しtが、バイデン政権が中国に厳しい視線を向け、強硬姿勢を崩さない限り、中国政策が政争に繋がることはまずなく、共和党との間に不協和音が生じる可能性は先ずありません。その限り、中国政策は比較的進め易いとも言えます。ところが対中東関係になると、話は突然複雑になります。トランプ政権は親イスラエル・親サウジの一辺倒で、中東情勢は混乱を極め、とりわけイラン核合意から撤退して、イランに対する超のつくつく強硬姿勢を取り続け、イランの核開発を逆に推進してしまうミスを犯してもいたのです。シリアやイラクも同様でした。そんな中東について、バイデン政権は、イラン政策については、時間をかけて取り組む姿勢を見せていましたが、とりあえず、トランプ政権の親イスラエル、親サウジ政策の軌道修正に手を付けました。バイデン大統領が副大統領としてかかわったオバマ政権の姿勢に戻ろうというわけです。チベット族やウイグル族に対する差別や弾圧、対香港の自由の抑圧を問題にするのに、サウジを擁護するのでは、人権問題も二重基準なのかと、批判されるkとが避けられません。なぜなら、サウジはサウジ国籍を持たない出稼ぎ労働者に対する苛酷な扱い、人権を無視した奴隷労働を強いてる実態を持つ、人権無視の際たる国だからです。バイデン政権は、親サウジ政策を転換し、サウジとそのサウジの影響下にある国々に対し厳しい姿勢で臨むことを態度で示しています。2月6日、イエメンのフーシ派に対するテロ組織指定を解除する方針を決め、議会にその旨を通告しました。1月27日にブリンケン国務長官が、記者会見でフーシ派のテロ組織指定の見直しに取り組むと述べ、4日にバイデン大統領が「イエメン戦争は終わらせなければならない」と明確に述べているのです。
2021.02.13
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バイデン政権の困難 13まず対中国から参りましょう。国務長官はブリンケンですが、気候変動担当特使のジョン・ケリーが外交に関わるメンバーでは、一番の大物です。このケリー特使、おして商務長官のジーナ・レモンド、国連大使のリンダ・トーマス・グリーンフィールドらが、記者会見や議会の公聴会で、自らの対中認識を語っています。ケリーは気候変動について、中国と協力はするが、他の問題と取引することはないと断言しました。この認識はブリンケンやサリバン大統領補佐官の認識と差がないことを示しています。(2人とも実務家で専門家タイプで、政治家のケリーと歩調が合うかどうか心配されていました)レモンドは、イエレン財務長官と同じように、中国の不公正な通商慣行や技術面の脅威を強調した上で、積極的な対応が必要だと発言し、中国への対抗路線を強調しました。トーマス・グリンフィールドは、指名公聴会の席上、やはり中国の脅威を強調し、国際機関における中国の影響力への対抗が最優先課題であると指摘しました。彼女は、2019年に孔子学院に招かれて講演しているのですが、「あれは、私の大きな間違いだった」とも述べています。こうした発言やプレスリリースから明らかなことは、バイデン政権の対中外交は、中国の脅威への対抗することが最重要課題の一つであると意識されており、ここではトランプ政権の方針がほぼそのまま継続されています。その中で、バイデン政権は、技術政策とそれに関連する輸出規制・投資規制をし重要分野と位置付けていますが、その具体化はまだ進んでいません。具体的にどう進めるかは、かなりの難問です。チームの裾野部分の人たちをも含むチームワークとチームとしての総合力をどう発揮するかが、待たれます。輸出規制については、どうすれば中国への技術流出を防げるのか、実効的な枠組み作りがとても難しいのだそうです。技術と一口に言いますが、何を規制対象とするのか? 最先端技術になればなるほど日進月歩ですから、昨日の最新技術は、明後日には陳腐化している例まであるからです。また規制のターゲット企業に、何処まで網をかけられるのか、資本関係まで含めて考えても、中国のような独自の国家体制をとる国を相手に、それで十分なのかは問題になります。また米国だけが規制しても、他国から技術が流出してしまえば意味がありませんから、こうした規制は多国間で同時に取り組むことが必要です。トランプ政権では、口では激しく、対中強硬姿勢をアピールしていましたが、制度の枠組みについては、かなり雑でした。そのため多国間協力は出来ず、国内組織間の連携すら十分ではありませんでした。その点、バイデン政権の方が実効性の高い政策を打ち出しそうに見えます、。
2021.02.11
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バイデン政権の困難 その12アメリカのコロナ対策を主眼とした予算は、既に執行された分が4兆ドルあります。これに1.9兆ドルが加わるのですから、総額で6兆ドル近くが使われるわけです。日本円にして630兆円。凄い金額ですね。政権は財政調整措置を使って、補正予算を可決する積りになっていますが、ここに至るに先立ち、2月1日に10人の共和党穏健派の上院議員が揃ってホワイトハウスを訪れ、バイデン大統領と2時間近く話し合いを持ちました。2時間も時間を割いたのですから、大統領が彼らを歓迎したことは間違いありません。彼ら10人は、バイデン大統領に対し、「このくらいでよろしければ協力します。」と、6.180億ドルを提示してきたのです。ワクチンの生産とデリバリーの支援、失業保険の上乗せ分などがカヴァーできる内容でしたが、州政府に対する支援などは、「贅沢過ぎるように思えるので、入れませんよ」といった案でした。こうした相談では、譲るべきは譲るものですから、話し合いの流れによっては8千億ドル~9千億ドル程度までの積み増しは、10人衆の旨の内にあったのでしょう。しかし、それでも政権の考える1.9兆ドルの半分弱です。結局は、大統領が共和党穏健派の提案を拒絶して、会談は物別れに終わりました。大変惜しまれる物別れでした。共和党議員が10人でやってきた意味は、大変大きいのです。10人を加えると、政権側提案の賛成は60票に達しますから、法案の可決は確実ですし、フィリバスターを無効化することも出来るのです。ですから、もし政権が、10人の共和党穏健派の誘いに乗り、妥協が成立していたら、バイデン政権の今後の議会対策は、非常に楽になったことは間違いありません。しかし、そうなった場合、民主党左派は黙っていなかったでしょう。左派も上院の議席が50しかない以上、財政調整措置を使わざるを得ないことは理解しています。ですから、財政と直接関係しない、最低賃金(時給)を15ドルとする左派の熱望する項目は実現できないことも我慢して受け入れているのです。それぐらいですから、共和党穏健派と政権が手を組み、1.9兆ドルの補正を減額することに応じたとなると、ヘルスケアの実現まで先延ばしになってしまいます。到底左派にとって受け入れられる内容ではないのです。かくてバイデン政権は、共和党穏健派との妥協を蹴ってしまったのです。党内の亀裂が破裂することは避けられましたが、共和党穏健派との関係は、当面切れたことになります。10人のメンバーは、政権が野党に話し合いを呼び掛け、対立より協調というから、こちらも応じたのに、やはり党内融和を優先するのですね。言うこととやることは違いますね。こう受け止めたことは間違いないでしょう。共和党穏健派の政権に対する態度は、当然厳しくなったはずです。対立より協調への道は、大変厳しくなったことは間違いありません。先行きは厳しいですね。さて、次はどんな手を打つのでしょうか?
2021.02.10
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バイデン政権の困難 その11前言を翻して恐縮ですが、もう少し内政について書かせていただきます。米誌では、バイデン新大統領を評して、9時から5時の大統領と呼んでいるそうです。前任のトランプ氏は、それこそ時間構わずにツイッターやフェイスブックに、たまに真実を含む多くのフェイクニュースや個人攻撃を書きなぐっていたのですが、新大統領は厳格に執務時間を守り、時間外には何も発表しないスタイルを、ずっと守っています。それでは山積みする仕事がさばけないのかというと、就任20日間で、既に多くの仕事をこなしつつあります。仕事効率でいくと、トランプ政権は足下にも及ばない勢いです。地球温暖化防止のパリ協定への復帰や、世界保健機関(WHO)への復帰、イスラム諸国からの移民制限の撤廃など、トランプ政権の方針を就任初日に覆す一方、国内産業保護のために必要と判断した追加関税はそのまま温存するなど、トランプ政権の政策を全否定するのではなく、見事に是々非々で対応しています。ここまでバイデン大統領が署名した指令文書は50件近くに上っています。最優先課題であるコロナウィルス対策では、遅れの目立つワクチン接種の加速と、1.9兆ドルのコロナ不況対策(経済対策)の補正予算の成立を急いでいます。この予算を値切ろうと抵抗する共和党には、長期失業に苦しむ人々に「心配するな頑張れと言い続けるつもりなのか?」と、鋭い批判を浴びせて、財政措置を使っての単独可決を辞さない構えを見せています。グリーンニューディールにも積極的で、化石燃料への補助金は削減し、トランプ政権がカナダと合意した原油パイプラインの建設許可を取り消しました。事業費にして90億ドルに及ぶ事業を取り消したのですから、概算で11,000人の雇用が失われると言われています。バイデン政権は、脱炭素の取組で雇用を創出すると説明していますが、短期間に大量の雇用が生まれるとは思えません。とりあえず日本円に直すと200兆円に及ぶ膨大な追加経済対策で、どの程度の雇用が産み出せるかを見守る必要があります。雇用の創出に成功し、コロナ不況が克服できるならば、来年2022年の11月(1年8ヶ月後)に行われる中間選挙で勝つことも可能になるでしょう。しかし、コロナ不況の克服に失敗するならば、上下院とも共和党が多数派となる議会の主張を受け入れるしかなく、政権は早くもレームダック化するしかなくなります。この点バイデン大統領には、苦い経験があります。2008年のリーマン危機の最中に船出したオバマ政権の副大統領だったバイデン氏には、オバマ氏と共に2010年の中間選挙で下院の過半数を失ったのです。オバマ政権は、リーマン危機が欧州に飛び火し、欧州経済が大不況に陥ってなお域内の不協和音を調整できず、世界経済の足を引っ張り続ける事態となることを読み切れなかったのです。当時の経済対策は、思い切って予算をつけた積りでも、それは小さすぎたのです。その苦い経験を持つバイデン大統領は、あの失敗を繰り返すまいと、超大型の経済対策を打ち出し、共和党と穏健派との協調路線をしばらく脇に置いても、大型補正だけは、遅くも今月中に通過させて、とりあえず、中下層の人々の困窮にストップをかけ、次いで雇用の創出に踏み出してゆくコースを歩もうとしているように見えます。時間は1年半少々しか残されていないのです。 続 く
2021.02.09
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バイデン政権の受難 その10国内では、トランプ支持の右翼過激派と並んで、党内の左派、自称社会民主主義者を標榜するサンダース議員を中心とする人達との関係の維持にも神経を使わざるを得ない状況にあります。彼らが反旗を翻せば、上院の多数は共和党に移ってしまうからです。共和党も割れていますが、分れるすれば民主党の天下を長期化するだけとわかっていますから、今のところ予算審議などでは同一歩調をとっています。党内左派対策、破綻せずに続けられると良いのですが、さてどうなりますか?明日から外交政策の方向を、検討します。
2021.02.09
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バイデン政権の困難 その9バイデン政権の組閣は、ほぼ終わっていますが、議会の承認手続きが遅れており、正式にはまだ就任できない閣僚や、閣僚級のポストに就く人材が、中途半端な立場に置かれています。その多くは共和党内の内紛に依ります。 先週後半ようやく決着を見たのですが、トランプ弾劾決議に関する下院の採決に際し、賛成票を投じた共和党議員に対して、トランプ系議員団が舌鋒鋭く攻撃を続け、余勢をかって反トランプの議員たちを、民主党と折衝に当たる役職から外すよう求めました。慎重に議論を続け採決したところ、トランプ系議員たちの提案を支持した議員は、70票程度に留まり、反対派100票を大きく超えたのです。とどのつまりは、トランプ熱烈支持の議員団は、党内の凡そ3分の1の勢力に留まっていることが、分かったのです。ただし、逆に反トランプの議員団が、Qアノンの信奉者で、各地の裁判所で否定されたまったく根拠のない陰謀の存在を主張して、バイデン大統領は自らの票を捏造し、トランプの票を盗んだのだから弾劾にかけろと、いわゆる陰謀論者の主張を繰り返す、ジョージア州選出のテーラー・グリーン議員の発言を封じ、各種委員会の委員から締め出す決議は、下院のno.2の院内幹事の預かりとなり、民主党から総スカンを食い、民主党の中道系穏健派との協調を模索し、バイデン大統領を民主党内左派から引きはがすことに狙いを絞る上で、プラスとは言えない微妙な態度をとっています。これは、Qアノンを信奉するグリーンを切れば、トランプ教信者ともいえる熱心なトランプ支持者たちが、激昂して再び1月6日のような反乱に立ち上がるのではないかと、危ぶんでいることを示します。さてどう動くのでしょうか。 続く
2021.02.07
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バイデン政権の困難 その8今晩は。1日空けてしまいましたが、まだ当分続きます。種々な困難を抱えたバイデン政権ですが、大統領自身が上意下達を好まず、官僚や閣僚など自信を補佐する人たちの意見に耳を傾け、部下が苦労してまとめ上げてきたプランを尊重する姿勢を貫いていますから、トランプ時代と違い、各役所や機関が活気づき、具体的な政策の流れは大変スムーズです。実際は、ともかく何よりも急ぐのが、コロナ対策と経済対策ですから、先ずは内政重視となるのはやむを得ないところです。経済対策については、共和党幹部もその必要性を認めており、コリンズ、マコウスキー、ロムニーなど10人の上院議員が2月1日に声明を発表し、「大統領閣下による結束の呼びかけを認識しており、コロナ危機に伴う医療、経済、社会的課題に対応するために政権と誠実に協力したい」と表明しました。ただ彼ら共和党側の提案は、政権の提示した1兆9千億ドルの補正予算満額でなく、補正を2つに分け、とりあえず6180億ドル分を先に可決するという分離案です。そこには、州や地方政府への支援策は盛り込まれておらず、国民への現金支給も政権の提案する1人1400ドルではなく、1000ドルに値切っているのです。政権の提案する1兆9千億ドルには、へるすけあの強化も盛り込まれており、この補正でヘルスケアの一部を実現させておくと、しばらく息をつけますから、次の段階ではグリーン・インフラを優先課題とすることが出来るからと、共和党の提案する2段階ではなく、一挙に1兆9千億ドルを通したいと考えたようです。その結果、民主党の中道寄り議員の支持も取り付け、財政調整措置を使って、議長の1票を加えた51票での補正の可決に踏み切る決意を固めたようです。シューマー民主党上院院内総務は、「民主党は共和党上院議員の提案や意見を歓迎するが、米国をこの緊急事態から脱出させるには、規模が不十分で範囲が狭すぎるような対案は受け入れられない」と述べ、共和党側に再考を促しています。
2021.02.04
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バイデン政権の困難 その7バイデン政権の人事を概観すると、大変手堅く実務派を各所に配していることが見て取れます。仕事のできる人材を配し、司つかさに任せて、上に上がってくるものを承認する。また上から、この問題を研究してこんな案が作れるかどうか検討してくれと言った風に問題を下ろし、出てきた回答なり案なりを尊重するやり方をとっているようです。トランプ政権では、何事もトップダウンで、下が苦労して作り上げたプランでも、トップの思い付きで簡単にひっくり返ることが日常的に繰り返され、実務派はやる気をなくして次々に政権を去りました。結果は政治にシロウトの身内ばかりが政治に口出しして、僅か4年間で米国政治が積み上げてきたものを、かなりの程度で破壊してしまったのです。築くには長い時間がかかりますが、壊すのは簡単だと言われることを、見事に見せてくれたのです。そんなわけですから、実務家たちはバイデン政権を歓迎し、積極的に協力する姿勢を取り、大車輪で各方面でのプラン作りに励んでいます。こうした官僚たちの上に立つ、閣僚級の人たちや各部門の長やナンバー2の人たちも、適材適所の人選が、米国の多様性を示すかのように、アフリカ系、ヒスパニック系、アジア系、先住民系と米国社会の多様性を踏襲する形で進められ、まさにきら星のように輝いて見えます。しかも閣僚級に女性が目立つ特徴も備え、運輸長官には同性婚のピート・ブティジェッジを起用しています。大変バランスを重視した、考え抜かれた人事なのですが、私に言わせると1か所大事な駒を入れそこなった点が気になります。何が欠けているか。実はオバマ政権では抜かりなく起用されていたのですが、共和党穏健派の引き抜き人事がないことです。バイデン大統領は、長年上院議員を務め、8年間上院の議長も務めました。しかも日本の国対族タイプの人物ですから、共和党の上院幹部とは親しく話が出来、互いに分かりあえる関係にあります。従ってその気になればマコーネル共和党上院総務に話を通し、2人程度閣僚に引き抜くことは可能だったはずです。この時、民主・共和両党の上院議員数が50:50なのにという疑問が生じると思いますが、欠員となった上院議員の後継議員は補欠選挙ではなく、州知事に任命権があるのです。当然州知事が共和党であれば、州内で名の売れた共和党員を任命しますし、民主党の州知事であれば同様に民主党員から後継議員を任命するのです。現在の50:50の議席も比較的短期間にどちらかにぶれるというのは、100名の議員の誰かに故障が生じると、この州知事の任命権によって、議席数に変動が生じることを意識しているからなのです。閣僚人事に戻れば、共和党州知事の州の上院議員を閣僚に登用することには、何の問題もなく、g席数が拮抗している上院対策としても、非常に有効な手段なのです。それなのになぜそうしなかったのか?しなかったというより、出来なかったのだと私は見ています。それは、党内左派の反発を考慮せざるを得なかったからなのです。左派がソッポを向き、数人の議員が反対はしないまでも、抗議の意思を議案の審議を欠席することで示せば、議案は否決されてしまうからです。共和党対策もですが、それ以上に党内左派の納得を得る、左派を繋ぎとめることが欠かせないのです。党内左派は、バイデン政権のアキレス腱でもあるのです。 続く
2021.02.02
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バイデン政権の困難 その6下院で可決されたトランプ前大統領の弾劾裁判について、先日の上院本会議で、「現職大統領ではない前職の元大統領を弾劾裁判にかけることが出来るのか?、それは違憲ではないのか」という、弾劾違憲の提案について採決が行われ、45対55で、違憲説は否決され、トランプ弾劾は合憲と判断され、弾劾裁判は予定通り来週から行われることになりました。しかし、この票決の結果、トランプ弾劾に必要な3分の2の賛成票(全員出席なら67票)を獲得することは不可能であり、トランプ弾劾は不成立となることが確実となりました。民主党側では、弾劾はもはや不可能と見て、トランプ問責決議案に変更する検討に入っているようです。1月6日の議事堂襲撃の叛乱騒ぎに際し、上下両院の議員たちは、民主党、共和党を問わず、議事堂職員の機転で、間一髪一般には知られていない急場に際しての秘密の地下道に逃げ込み、暴徒から身を守ることが出来たのです。そんな生々しい記憶が鮮明だった叛乱直後は、共和党の議員の多くがトランプの責任を問い、彼と距離を置く姿勢を示しました。ところが日が経つにつれて彼らの態度は変わり、表面的にはトランプ擁護の姿勢を取るようになったのです。典型的なのが共和党下院の院内総務マッカーシーです。彼は襲撃事件直後には、トランプの責任を問う姿勢を見せていたのですが、日が経つにつれて態度を変え、先日わざわざトランプの静養先に、彼を表敬訪問し、来年2022年の中間選挙への、彼の支援を要請して快諾を得たのです。トランプにとって、今後も共和党に影響力を残すための、願ってもない提案だったのです。ここに、昨年11月の選挙で初当選した共和党の新人下院議員に、マージョリー・テイラー・グリーンという困ったちゃんがいます。彼はQアノン信奉者であることを公言して憚らない人物で、Qアノンの仲間たちの支援で当選したと、臆面もなく語り、ペロシ下院議長の暗殺を示唆するSNSの投稿へ「いいね」と返信して問題視され、その後も選挙不正疑惑を主張し続け、バイデン大統領を大統領とは認めないと、発言し続けているのです。下院院内総務のマッカーシーは、この問題議員グリーンに、厳しく叱責するでもなく彼を放置し、共和党議員の大半も、彼の言動を批判するでもなく、沈黙を守っているのです。彼らは来年の中間選挙を見据え、トランプとトランプ信者を意識し、その支持を得られなければ落選させられる、場合によっては選挙区の候補を選ぶ予備選に対立候補を立てられ、蹴落とされることを案じているのです。SNSへ投稿できなくなっても、今のところトランプの影響力は保たれています。そしてグリーンのようなやんちゃ人間が、共和党の中で目立つことで、新人議員ながらトランプの代理人として認知されつつあるのです。当然、グリーンの無礼な発言を止めないばかりか放置する共和党に対し、民主党銀はカンカンに怒っており、両党の歩み寄りどころか話し合いすら不可能になりつつあるのです。バイデン政権の前途は、益々波高しの情勢なのです。 続く
2021.02.01
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