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穢土の底から鬼哭啾啾、 悪でもいいから私を地獄から引っ張り出してくれ、 悪でなきゃ助けられやしないんだけど、それでいいかい? 事件を知り、部下の内藤帯刀が『お助け桜』に逸物を斬られ悶絶死したことを知り北町奉行遠山影元は鬼の形相で激怒した。鬼畜女め、愚女め、許さん! 剛腕筆頭与力植村喜八郎に指揮を取らせ、奉行所で手の空いている与力同心、全員に出役命令を出す。岡っ引き、中間、小者、下っ引き、密偵、にも総動員の触れを出し、お助け桜の似顔絵を撒き、長屋、百姓小屋、空き家、河原の小屋、も虱潰しにあたらせた。なりふり構わぬ奉行所の威厳がかかっていた。 甲斐の重蔵と狐目の風葉が大名家から盗んで貯め込んだ金を惜しげもなく使った。ー今こそ、この金が善の働きをするのだ。悪銭が善の金に変わる時だー むろん、甲斐の重蔵と狐目の風葉も極秘に探索にあたらせた。ーやあ~きぃいも~、、、おいもー~ 岡っ引きの吾平親分、本所を知り尽くしている芋売り凡平を臭いと睨んでいた。「おい、凡平、おめえ、その身分で、船宿『水月』で女と会ってるそうじゃねえか、えっ、そいつは誰だい?隠し立てしちゃあ、お縄になるぜ、」 凡平は心の臓が飛び出しそうに驚いた。おりんのことに間違いない、嘘もつけぬ凡平である。凡平は下を向いたまま、顔は真っ蒼になって震えていた。二時も吾平に詰問されたが貝の口は開かなかった。ーわかったもういい、凡平、芋が冷めねえうちに行きなー 吾平は作戦を変えた。凡平の口は貝のままだ、こいつは何かがあるのは間違いない。放っておいて尾行したほうがよさそうだ。ぺこっとお辞儀をして凡平はーやあ~きぃいも~、、、おいもー~ と、声を出して堅川い沿った道を下って行った。 凡平は正直者で素直、裏がない、芋を歩く足は自然に柳町の蔦に絡まれた黒塀、そう、おりんの隠れ家の前に来てしまった。そこで、しばらく佇んで黒塀を眺めていたのが致命傷だった。 凡平を尾行していた吾平とその手下、ーよし、あの黒塀の家だ、あそこに間違いねえ、弥助、すぐに奉行所へ知らせろ!ー 岡っ引き吾平はお助け桜の隠れ家を突き止めたことで心が躍って今にも破裂しそうであった。ー御用だ!御用だ!御用だ!ー 二時も経たずに、おりんの隠れ家の周りには御用提灯が並んだ。筆頭与力植村喜八郎以下の与力同心は鎖帷子を着こみ、白の胴締め、白の向こう鉢巻きを締め、手に持つ十手は一尺八分の長十手という勇ましいいでたちで、先手の者には、九尺の樫棒の先に鉄の針のついた突き棒、袖からみ、刺又,獲り縄を持たせ、鼠一匹逃がさぬ包囲網を敷いている。 堅川には裏番ではあるが、遠山影元の依頼を受けた、南町奉行の鳥居耀蔵の配下の与力同心たちの軍勢が投げ編みを持ち 槍を持ち、十艘の船でおりんの屋敷を囲み御用提灯を照らしていた。包囲網は狭まった。 おりんは包囲されていることにもうとっくに気づいていた。戸の隙間から外を覗く、もう、絶体絶命、万事休すだった。最後に、残った火薬を全部使って、本所にでっかい花火を上げて爆死する覚悟だった。ー戦ってよかったんだ、地獄の底でのたうちうながら死ぬよりも、私も確かに生きたんだー 覚悟を決めたその時 戸板返しの板がくるりと回り、狐目の風葉(カザハ)が現れた。「おりん、死んではならぬ、人間どうせいつかは死ぬんだ、死ぬ時を間違えるな」「風葉、どうしてここに?」「わたしには、川越の『いろは店』を襲った時から、本所のお助け桜がおりんだと薄々わかっていたよ。おりん、体もよく鍛え、忍技も上手になったものだ」「本所の夜桜小僧は風葉よね、そんな気がしていたのだけれど、」「そうよ、でもね、わたしはね、奉行所の犬に成り下がってるの、これも下忍の宿命なのよ、奉行所の命令で動いているの、義賊なんてだまくらかしなのよ、」「おりん、お前は生きたのだ、自分を生きたのだ、、まだだ、もっと生きよ、生ききるのだ、私も、おりんを見習って生きる、幕府の犬になっていたのが恥ずかしい、抜け忍となって私も自分を生きる、だから、おりん、死なないでくれ、生きてくれ、なに、獄門までにはまだ道がある、最後まで生き抜いてくれ」「わかった風葉、命があったらまた会おう」 風葉が姿を消すと、おりんは屋根返しの天井板を外し、屋根の上にすくっと立った。ーおお、屋根の上だ!あそこにお助け桜がいるぞー おりんは辺りを睥睨するように視線をぐるりとまわした。塀の周りは二重三重に取り囲まれ、蟻の抜け出る隙も無いほどだ。堅川は二十艘もの捕り方の船で埋まっていた。船は動けない。逃げ場はかった。万事休すだ。おりんは清々した気持になった。 御用だ!御用だ!御用だ!提灯が大きく揺れた。おりんは大迎な捕り物陣と闘う気持ちはさらさらない。屋根の上からトンボを打って捕り方の真ん中へ飛び降りた。「さあ、私が本所のお助け桜のおりんだよ、!煮るなり焼くなり、勝手にしやがれ!」 おりんの啖呵に「うおっー」という声が取り巻きの中から響いた。「ひっとらえい!」 筆頭与力植村喜八郎の命が響き、同心がおりんに縄をかけた。(つづく)作:朽木一空※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2019.06.30
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どう足掻いたって、這いずり上がることなんざ、できやしねえ、 泥水にどっぷりつかった躰は重たくていけねえ、 あきらめな、地獄の蓋はそうは簡単には開かねえよ、 日が暮れ川面が闇に変わる暮れ七つ、おりんの柳原町のアジト(隠れ家)の柳の下から、苔屋根を被った小舟がすーと、水の上を滑るように走りだした。地獄の底でどうにもならなく這いずり回る女たちを救い出す戦いはおりんの中ではまだ始まったばかりだった。 女たちの躰を餌食にして嗤う悪鬼をおりんは激しく厭悪していた。陰悪を叩き潰すまで戦いはやめない。おりんの細い眼には身震いするほどの残虐な光が宿っていた。ー私ががやらねば、誰もできやしないのだー 今月になって、すでに二か所の岡場所を襲い、三十人を超える遊女を解き放ち、廓の主他七名の者を殺害した。本所の町中ではその話しでもちきりであった。ー本所のお助け桜がまたやった、おみよ、おきぬ、小春、お菊、お里、千秋、お路、銀子、音羽、初音、雪乃、琴乃、菊枝、篠乃、霧代、雲乃、お玉、音羽、お篠みんなどっかへ行っちゃったー さて、おりんがその夜目をつけたのが、凡平から聞いていた、本所吾妻橋を渡ってすぐ、中ノ町にある岡場所、椿屋である。椿屋は源三というあくどい金貸しのやっている廓である。表看板は『どぜう料理椿屋』であるが、廓である。 遊女を40人も抱えて岡場所でも飛び抜けて大きな店であった。遊女たちは皆借金のかたである。吾妻橋を渡ってすぐの場所なので、浅草の方から酔い覚ましの風に吹かれて、橋を渡ってくる客も多かった。橋向こうの女は気風がよくて、料金の割に別嬪が揃っていると評判だった。。 北町奉行本所見廻り同心内藤帯刀は見回り地区の岡場所が次々に襲われ、奉行の遠山からー何を甘い探索をしているのだ、命を懸けて仕事をせいっ!ーと、このところ怒鳴られていた。 この『どぜう料理椿屋』は金貸しの源三がおよねという女将にやらせている店であり、内藤帯刀も金貸しの源三から度々金銭を借りていて、日頃から、『どぜう料理椿屋』に立ち寄って見廻り、酔客の暴力や揉め事をおさめ、奉行所の手入れ情報を流したりもしていた。礼に、女将から空いてるときには女を抱かせてもらうこともあった。 その日も本所の岡場所がたて続きに襲われていたことから、内藤帯刀は源三に頼まれ泊まり込みで警護にあたっていたのだった。もっとも、暮れ六つの頃から源三と内藤帯刀は火鉢を囲んで酒を飲みながらの警護ではあった。ーふっ、闇の中から遊女の悲痛な叫びが聞こえるような夜だったー 亥の刻、町は暗闇が支配していたが、『どぜう料理椿屋』の軒には行燈がぶら下がり、三味の音も響き、まだ眠ってはいなかった。大川の上を苔屋根の小舟がすべって、『どぜう料理椿屋』の裏手の船着き場に滑り込んだ。源三が火鉢を抱えて酒を飲んでいるその部屋の天井からするするっと、黒装束のおりんが降りてきた。「あっ!おめえは、お助け桜か?」「察しがいいな、そうよ、本所のお助け桜だ、金と、遊女たちの証文を出せ」百戦錬磨の源三は貫禄十分で、脅しには屈しない。だが、おりんには残忍さという観念はない。躊躇いもない、ピッと、小刀が風を斬る。源斎の両瞼の上から血が滴る。「まだ、見えるか!」冷いおりんの言葉が響く、 源三は顔を抱えてもんどりうつがおりんに屈服はしない。冷酷なおりんの小刀が再び風を斬る。源三の両耳が飛ぶ、畳は血だらけだ。 そのとき、障子が開いて小便をすませた内藤帯刀が部屋に入ってきた。「おのれ、遂に見つけたぞ、女桜よ、北町同心、内藤帯刀である。逃がしはせぬぞ!」だが、おりんの動きは敏捷だ。シユッ!手裏剣が内藤帯刀の股間に突き刺さる。内藤は股間を抱えもがき苦しむ。その時、行燈が転がり、火が燃え移った。が、おりんは慌てない、内藤帯刀の顔を踏みつけたまま、「源三、早くしねえと、お前の観音様もあの世いきだよ」 源三はおりんの冷酷無情な仕打ちに負けた。おりんは女たちの証文を焼き、三百両の金を奪うと、半分の金を『どぜう料理椿屋』の前の道に舞き散らした。廓の用心棒や店の者、通りすがりの客までがその金をめがけて大混乱、大騒動になる。 廓からは火が燃え上がっていた。おりんはその隙に女たちに金を与え解き放った。 燃え盛る廓の火が大川の川面を照らしていた。その川面を小舟が音もなくすべっていった。おりんの小舟は堅川に面した船宿『水月』の船場へ着いた。今夜は凡平と会う日だった、おりんは何の屈託もなく、屈辱的な運命も憎ます、ただ運命を受け入れて、飄々と生きる凡平に会うと、その清々しい生き方に心が落ちつくのだった。ー凡平のように、宿命を受け入れて、恨みも妬みもなく生きる生き方もあったのかー(つづく)作:朽木一空※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2019.06.26
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新しくブログを開設しました。(^^)/ネット文芸館 木漏れ日の里に掲載していた時代物に加筆、補筆し、時代物専門のブログを開設しました。とりあえず、 木漏れ日の里からの引っ越しとなりますが、新作も加え江戸ワールドを創っていきます。是非、立ち寄ってください。住所は以下のURLです。https://plaza.rakuten.co.jp/edobanasi/朽木一空※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2019.06.22
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ここで一服、山村暮鳥の名詩をお楽しみください。雲 おうい雲よゆうゆうと馬鹿にのんきそうじゃないかどこまでゆくんだずつと磐城平の方までゆくんか※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2019.06.19
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悪をもって善を行えば、悪もまた善なりか 善をもって悪を行えば、善もまた悪なりか 善の裏には悪が住み、悪の裏には善が住む、 悪が住んでいなけりゃ善はできねえもんなのかねえ、 善人に悪をやらしちゃいけえねえよ、悪人が善をしちゃいけねえよ、 北町奉行の名奉行、遠山の金四郎こと、遠山左衛門尉影元は、奉行部屋に本所見廻り同心の内藤帯刀を呼びつけていた。 「このところ、本所が騒がしいのう、吉田町の夜鷹、荒井町の比丘尼の売女、堅川の饅頭売りの売女と立て続けに襲われ、遊女を縛っていた借金の証文を焼き捨て、売女に銭まで与えて自由にしてるって話しじゃねえか、御法度の遊女屋商売、本来は奉行所が取り締まらなくちゃいけねえことよな、な、内藤よ、奉行所の面目丸つぶれよな、」 「はっ、左様で、本所の町はこの話でもちきりでございまして、貧乏人の男どもは安女郎がいなくなって、股が暇で暇でスースーしやがると、文句を言ってる始末でございまして」 「義賊の真似事までしやがって、ふざけた野郎だ、なあ、内藤よ、売女に落ちた人間に帰るところがあると思うかい?ご自由ですといわれても、遊女には迷惑な話しなんじゃねえかい。おめえだって、奉行所務めをやめて自由だと言われても、行くところがあるめえよ、人間、自由がいいなんて、思い違い見当違いもいいところだ、人間は生まれながらにして、宿命(さだめ)めは決まっているのだ、武士は武士、町人は町人、百姓は百姓、そいつが身分制度というもの、えっ、どんなに時代が変わったって、じめじめした日陰の貧乏草の女はなくならねえよ、いなくちゃならねえのよ、こいつが崩れちゃ、幕府は成り立たねえよ、売女は売女になるために産まれてきたのよ、」 「はっ、身分制度のお陰でわれら旗本も飯が食えるのです」 「ところで、おいっ、内藤、下手人の目鼻はつているのか?」 「下手人は遊女に恨みを持つ女で軟な男なんぞは相手にならぬ女の強者だと、瓦版が書き立てております。本所のお助け桜だと、、」 「んんんっ、、、内藤、川越藩でおきた『いろは店』炎上事件を聞いてるかい?なんでも、60人を超える遊女が消え、鬼政、越後屋の甚五郎、代官所の役人、内藤式部が殺された事件だ。まさか、随分と離れているが本所の事件と関係があるとも思えぬが、なにか臭わぬか?いずれにしても愚かな女よ、そんなことで、世の中の仕組みが変えられるとでもおもっているのか」 そう、強気の口の裏で、遠山影元は嫌な予感がしていた。遠山は「本所のお助け桜」が気になって仕方がなかった。甲斐の重蔵と狐目の風葉に大名屋敷から証文と金を盗ませ、その金の一部を貧しい長屋に配っていた。天保の鼠小僧は『夜桜小僧』だと町の者は喝采を送っている。貧乏人が騒ぎ立てぬようにという配慮も遠山にはあった。 いま本所を騒がしている、遊女を解放し金を与えている『本所のお助け桜』とは元が違うのだ。善いことをするために悪をするのと、やくざが騙した女に優しい言葉をかけるような、悪人が善をすのとはまるで違うのだ、似ているようだが月とすっぱんだ。そこが気分が悪かった。本所の『お助け桜』と『夜桜小僧』じゃ紛らわしくていけねえや、「よいな、内藤、岡っ引き、密偵、総動員して捜索にあたれ、事件解決には褒美を取らすぞ、、」(つづく)作:朽木一空※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2019.06.15
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金なんかなくったっていいさね、金がなくったって何とかなるさね、 金に心を売ることはしねえよね、金のために嘘はつかねえよな、 けどね、金はいつだって悪だくみを考えていやがるんだぜぃ、 金がなけりゃ、できねえこともあるんだとよ、 ええっ?じゃあ、やらなくていいんじゃないのかね、 北町奉行、遠山左衛門尉影元は、庭の松を眺めていた、昨夜の雨に濡れて緑が冴えていた。大きく垂れ下がった松の枝の美観に障ると、伐採された梅の老木のことをふと思いだしていた。ー必要悪というものか、何かが犠牲にならねば成り立たぬこともある、、幕府とおんなじかー 正義を行うために悪酒も飲まねばならぬのかの岐路に立たされていた遠山の心に滲みた。 ー金がなけりゃ務まらねえー 北町奉行遠山影元は多額の借金だらけで、首も回らぬほどだった。妻の実家からも借金していたほどだ。とにかく、奉行を務めるのには金が必要だった。人情では人は動かぬからであった。 お江戸八百八町を取り締まるのに、南北の奉行の下の与力50人同心200人では、到底手が足りなかった。そこで、与力同心は町の有力者や、顔役に手下として十手を預けた。十手を預かったものは町中を威張って歩き、用心棒代わりに小遣いをせびることができた。 奉行所の同心与力は、咎人の罪を見逃したり、刑を軽くしてやる代償に密偵や協力者を抱えていた。みな無報酬だった。だが、人は金で動くもの、奉行は彼らを江戸の取り締まりに機敏に動いてもらうように、小遣いを渡し、飲食をさせ、有益な情報には惜しみなく報奨金を与える必要があったのだ。 北町奉行遠山影元だけが金欠病で悩んでいたわけではない。南町奉行鳥居耀蔵も同じことだった。鳥居耀蔵は、悪辣な方法で、商人を虐め、旗本や大名を陥れ、恐喝まがいの方法で金を集めていた。だが、世間が言うように、私腹を肥やすためではなかった。奉行が奉行足りえるには金が必要だったのだ。蝮だ、妖怪だと罵れれていても、配下の者を自由に動かし、江戸の町を守るための必要悪だったといえるのだ。ー鼠小僧がねえ、ー 遠山影元は十年前に鼠小僧次郎吉が獄門になった北町奉行榊原忠之の調べ帳を読みながら、ある推測が的を得ていることを確信した。鼠小僧は何故大名屋敷しか狙わなかったのか、屋敷が広く警備が厳重ではないからか、そうではあるまい、十年間に荒らした大名屋敷95箇所、839回、盗んだ金は三千両を超えた。だが、大名家から訴えがったのは僅かに8件のみ。大名家は面子と体面を守るために被害が発覚しても内々に処理をしていたからか?ー違うなー 鼠小僧が盗んだのは金だけではないのだ、大名家の証文類も盗まれていたのだ。ーやはり、鼠小僧は隠密であったのだ、榊原忠之もやはり、奉行として金が必要だったのだ。ー 鼠小僧次郎吉は義賊の真似事をしただけで、博奕と女と酒で散財した愚かな男だと調べ帳に記載されているが、三千両もの金を酒や女や賭博では使いきれるものではない。貧乏長屋に撒いた銭も事実は百両にも及ばぬ。 実態は鼠小僧次郎吉は北町奉行の榊原忠之の隠密で、次郎吉はそのおこぼれを貰って放蕩していたにすぎないのではないか。ーやりたかねえが、背に腹は変えられねえよ、ー 北町奉行遠山影元も切羽詰まった末に、「禁じ手」に手を出したのだった。重蔵と風葉の属する甲州乱波の末裔「風舞党」の者たちに、念願であった町道場を神田昌平橋に開かせる許可と引き換えに、甲斐の重蔵とその下忍の狐目の風葉(カザハ)を隠密同心として抱えたのだ。 遠山影元はその隠密同心の重蔵と風葉に大名屋敷を狙わせ、金と書類、証文の類を盗ませた。江戸の町は大名家の屋敷で半分以上埋まっていた。江戸300藩の大名の江戸藩邸、上屋敷、中屋敷、下屋敷、それに、寮や倉庫などを入れると、1000か所にも及んだ。2000坪から5000坪の広大な敷地に、豪華な庭園、木々が茂っていて、いったん塀を超えてしまえば防御も弱く、泥棒には最適だった。 それらの大名家に印をつけ、金と証文を盗みだす。遠山影元の禁じ手には狡さも含まれていた。 盗む金額は二百両以内、大名家が盗まれた金が盗人の仕業なのか、藩内の裏切者なのか判断できず、公に騒ぎ出さない限度の金額であった。もし、内輪に犯人がいれば、お家騒動の種になり、廃絶になることもある。 証文の類の中には大名家の黒い膿が埋まっていた。それは、遠山が今後奉行として生きていくうえで役に立つことが多かった。盗んだ金の一部を目くらましのために貧乏長屋に撒くことも鼠小僧と同じであった。桜の花が開き始めたころから長屋に金が投げ込まれたので、ー夜桜小僧のおでましだいー 江戸の瓦版屋がこぞって、鼠小僧の再来だとはしゃぎたてたのは言うまでもない。今度はどこの長屋に金が投げ込まれるかの予想屋まで出るほどの江戸中の噂でもちきりだった。ーこれが、まさか、あの名奉行遠山様の仕業だとは仏さまも気が付くめえよー 遠山は庶民から清廉潔白であると、人気があったし、幕府内でも、金銭に執拗でなく不正の臭いもしないと、筆頭老中水野忠邦からも信頼されていた。一方の南町奉行の鳥居耀蔵は遠山の影の部分を見抜けなくて、「あいつ、どこで悪をしていやがる、金が要るのは同じことなのに、、」と、地団駄を踏んでいたのだった。 (つづく)作:朽木一空※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2019.06.12
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躊躇うな、やると決めたら、やりきれよ、 躊躇いの底では損得善悪欲得が蜷局を巻いて嗤ってる、 躊躇えば、元の木阿弥、躊躇ってるうちに人生終わっちまうよ、 愚女よ駆けろ!かなぐり捨てて突っ走れ! 柳原町の幽霊屋敷の中は蜘蛛の巣城の有様で、人が入ってきた形跡はどこにもない。ーここは、アジト(隠れ家)にぴったりだー おりんは、にんまりした。三日かけて、畳を変え、襖、障子を張替、修繕し、掃除した。堅川から柳の木の下を潜って家に入る、誰にも見られない。表の門は使わない。道から見れば、ただの朽ち果てそうな幽霊屋敷だった。そこがおりんの気に入った。 おりんは女忍者風葉(カザハ)から聞いた、四谷伊賀丁に住む、忍び大工の棟梁小源太に家の造作を頼んだ。堀から屋敷の下へ船が入れるように、トンネルを掘り、地下蔵をつくり、隠し部屋をつくり、戸板返しの部屋を造った。外からみれば幽霊屋敷も今や、からくり仕掛けの忍者屋敷になっていた。 さらに、小ぶりの船を改造し、苫で屋根を葺き、二重底にした船底には忍刀や煙球、忍具をしのばせた。船棹は槍を忍ばせた仕込み棹にした。 ーここからだ、ここからが戦いだー おりんの瞳は月の光のように青く冷たく光っていた。 暮れ七つ、おりんの柳原町のアジト(隠れ家)の柳の下から屋根に苔の生えた小船が、堅川から、新迷橋を右に舵を取り、横川を北にすべり、法恩寺橋の橋下の葦の陰にじっと浮かんでいた。 横川の土手には縞模様の綿の着物に帯をうしろで結び、前垂れをかけ、茣蓙を抱えた女たちが、男を物色していた。夜陰に紛れて、材木置き場に蓆を引いたり、土手下の藁小屋でことをすます。そば16文で夜鷹が24文という安さである。おりんは川越の岡場所『いろは店』が地獄だと思っていたが、地獄の底にはまだ黒い穴が開いていたのだった。 船の上から様子をうかがっていた黒装束のおりんが暗闇を敏捷な動きで、夜鷹たちの牛さん(用心棒)の弥助に当て身をくらわし、橋下に引きずり込んだ。「ここを仕切ってる元締めは誰だ、誰が女の穢汁を吸ってるんだ、言え!」「女たちはみな借金のかただ、金を借りて返さないほうが悪いのだ」「金を貸し、高利で回し、一生夜鷹で死ぬまで春をひさいで、女が哀れと思わぬのか、その金を貸したのが誰かと聞いているんだ、早く言え!」「そいつは言えねえ、俺は、ただ、女たちにタダ乗りをする奴をとっちめたり、町方の手入れがあるときに女たちを助けたり、そんなことをしているだけだ、女たちの正義の味方の用心棒なのだ」「おいっ、正義の味方が女たちの上前を撥ねるのか、言わなければ、痛い目にあうぞ!」「言えねえよ、このからくりがばれちゃ、困るお人がいるんだ」「わかった、では言わなくてよい」 おりんの右手がぴっと横に動いた、冷徹な動きだ。ーうえっ、、、ー 弥助の鼻が切り取られ、血潮が飛んだ、弥助は鼻を抑えて転げまわる。股から小便が漏れる。おりんは冷徹な目で見つめて、ニヤリと笑う。 「さてと、では、今度は金玉を刎ねようか、、」 「わかった言う、言うから命だけはとらねえでくれ、、、花町の煙草屋金兵衛だ、表看板は煙草屋問屋だが、裏で賭場を開いているんだ、そこで、金貸しをやってる。南町の同心酒井様にも賄賂を渡してあるから、奉行所が手入れをしても、鼠いっぴき出て来やしねえよ、俺が、女たちを助けてるんだ」 おりんは弥助に縄をかけ、土手下の杭に縛り付けた。 「よいか、一時で帰ってくる、いい土産を持ってくるから待ってんだ」 おりんは船を横川から堅川へ出、花町の船着き場へに繋いだ。煙草屋金兵衛の横の水桶で三尺手拭いを濡らし、塀の上に、ぴしっ、あっという間に塀を乗り越え、金兵衛の屋敷の中に姿を消した。 金兵衛の寝床に立ち、忍刀を握って、金兵衛の首元を掴んで、「金兵衛、夜鷹の女たちの借金の証文を出しな」「何を言う、お前は誰だ、何の話しかわからん、儂はそんなことは知らぬ、」「とぼけても無駄だ、すべて、牛さんの弥助から聞いたんだよ、」「だめだ、あれはわしが貸した金の証文だ、それに女たちを捕まえておく大事な金蔓なのだ、」「だからさ、その証文を出しなと言ってるんだ、命と金蔓とどっちが大事かよく考えるんだな」 おりんの小刀が闇を裂いた。ぎゃあ、という金兵衛の叫び、金兵衛の耳が飛ぶ、血が飛び散る、「次は鼻かな、それとも、金玉がいいか、、」 闇に光るおりんの冷徹な目が光った。おりんは煙草屋金兵衛から、夜鷹たちの借金の証文を奪い焼き捨てた。 おりんは金兵衛が貯め込んだ金庫から三百両を超える金を奪い、恨みのこもった眼でおりんを睨みつる金兵衛の咽をえぐった。有無を言わせぬ瞬殺であった。 法恩寺橋下におりんの小船が戻ってきた。弥助の縄を解き、「よいか、女たちの借金の証文は焼き捨てた、女たちを自由にしてやるのだ、お前は牛さんなのだからな、百両を置いていくから、女たちに分けろ、弥助も治療代として五両とっていいぞ、ちょろまかすなよ、闇に眼があるぞ、今度は耳でなくて、大事な逸物をちょん切るぞ、ああ、それから、金兵衛は死んだぞ、」ーうええ、勘弁ーー おりんは弥助が女たちに訳を話し、金を配るのを闇から覗きながらもじもじとした義賊の快感を感じていた。誰かが鉄槌を下さねば、虐げられた者が解放されることはない。虐げれた者を虫けらのように扱うことを御法が取り締まらないなどと言う馬鹿なことが許されていいはずもない。 上者が下者を踏みつけ、上者が安泰に生きるためにある御法は無法より腐臭している。荒井町の尼寺の参道では女が尼僧の姿で売春をさせられていた。暗がりで、よく顔が見えないが評判の美女もいたが、厚化粧の老女までいたのである。そこを仕切っていた、私娼窟の糞坊主明慶が脳天を割られて死に、女たちは解放された。 船饅頭と呼ばれ、饅頭を売るのを表向きに隅田川の船中でたかが32文で売春をする最下等の私娼たちを仕切っていた元締めの魚松が逸物を斬られ殺された。女たちは町へ流れていった。 本所深川ではこの事件で持ち切り、瓦版では、ー遊女の燈火、苦界脱出のお助け桜のお出ましでぃーと囃し立てた。 遊女は男を喜ばすために生きているが、誰だって他人を喜ばすためだけの人生ではないはずだ。そんな馬鹿な人生があっていいわけがない。誰でも自分のための人生を生きていいのだ。 幕府の御法は一部の人間の者が楽しく暮らすためのものだ。遊女が支配から脱出するのに御法度や善悪の概念は邪魔だ。おりんの極悪非道を抹殺しようとする狼煙はぶすぶすと煙り、今にも燃え上がりそうであった。 暮れ七つ、おりんの柳原町のアジト(隠れ家)の柳の下から、小舟が出、闇の中を滑るように、船は堅川を登り、大川を北に向かい、吾妻橋を潜り、花川戸から新河岸川に入った。この川はおりんが凡平と川越から下った川であった。おりんの棹捌は疲れを知らない、まるで、魚が泳ぐように、すーっと、船が川を上る。 武州川越の城下、善通寺の裏にかっておりんが囲われていた『いろは店』とよばれ、60人を超える下等な淫売婦を抱えた岡場所があった。安女郎を求めて、男たちが糞でもするように集まる。川越では人気の岡場所であった。 仕切っていたのはやくざの鬼政だが、その裏には札差の越後屋甚五郎がいて、口入屋孫兵衛がいて、代官所の役人内藤式部とも繋がっていて、穢金と悪の吹き溜まりにのなかで、女は泣哭すらできなかった。その『いろは店』が炎上し、鬼政、甚五郎、孫兵衛、内藤式部が一夜のうちにみな、首を刎ねられて殺された。もちろん、女たちがみな姿を消してしまったのは言うまでもない。-やあ~きぃいも~、、、やあ~きぃいも~ 栗より旨い十三里半~~~ 芋売り凡平は本所の町を焼き芋を売りながら、川越の『いろは店』が火事になって消えたこと、吉田町に夜鷹が出なくなったこと、荒井町の尼寺の参道に比丘尼がいなくなったこと、隅田川の饅頭売りの元締めが殺されたこと、、、瓦版屋がはしゃぎたてている本所のお助け桜は、、ーもしかして、いや、まさか、おりんが、、、やはり、、、ー 凡平の脳裏には不吉な予感がしたが、ーざまあみやがれー 暗い宿運の下で生きてゆくしかない凡平は、どうあがいたって地獄から抜け出せない、虐げられた人間が自由になり、虐待し、女たちを縛りつけていた悪人が罰を受けたことに清々しさ感じていた。(つづく)作:朽木一空※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2019.06.08
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ーやあ~きぃいも~、、、おいもー~ ーほっかほっかのやぁーきぃいもー ーほくほくほっこりーやあ~きぃいもー ー九里四里(栗より)うまい十三里半ー 浅草花川戸の焼き芋屋『芋赤』の店先には『九里四里(くりより)旨い十三里半』という幟が春風にそよいでいた。江戸から川越の新河岸の距離が丁度十三里半で、川越のさつま芋が栗よりも旨いんだという、洒落をもじった幟である。 焼き芋は江戸の町ではおやつというより、安くて腹が膨れるので、米粒の代用品として人気が高かった。『十三里半 芋赤』の店の主人の赤沢庄三郎は川越で広大な芋畑を持つ豪農で、商才にもたけ、江戸で農園直売の焼き芋屋『芋赤』を始め、浅草界隈ではちょっとした人気で、商売は順調だった。 ーおっとっとっと、、、ー 今、その焼き芋屋『芋赤』の店先から、『九里四里旨い十三里半』の幟を腰へ括り付け、頭の上ではためかせ、焼き芋が60個、三段の棚に詰まっていて、ご丁寧にその焼き芋が冷めぬように、焼き石が芋の間に置かれていた木箱を六尺棒の両側に箱をつるし、器用に操りながら、 ーやあ~きぃいも~やあ~きぃいも~と、 よく通る声を出しながら、本所の掘割を歩き出した男がいた。あの凡平である。 焼き芋の棒て振り(行商)人になった、芋売り凡平である。一本十文の焼き芋60本、計600文の銭を夕方、店の番頭に届けるのが仕事の終いだった。売れ残ったり、勘定が合わない芋代は年季奉公に加算され、さらに、奉公が伸び、凡平は生涯、この芋売りの境遇から解放されぬ仕組みになっていたのだ。 芋売り凡平は毎日、本所の町家、長屋、武家屋敷、寺社にまで焼き芋を売って歩く。焼き芋を売りながら、長屋のかみさんたちの噂話を耳にし、武家屋敷の門番や中間や折助とも顔なじみになり、寺の坊主もお得意さんだった。いつしか、本所の町の隅から隅まで、裏の裏まで知り尽くしていた。 その凡平の足が堅川にかかる新迷橋の袂で止まった。 一方、おりんは江戸に着いてから、川越『いろは店』の追手から身を隠すようにして、本所のはずれ、寺島村の廃寺を根城にして、人目を避け、三月もの間、萱の原を走り、杉の大木に登り、寺の壁をのぼり、体を虐め、鍛えた。 狐目の風葉(カザハ)の置いていった忍具で、忍術の稽古もした。礫術、忍び吹き矢、忍刀、手裏剣、鳥の子(手投げ弾)、目潰し、忍び竹(盗み聞き)、変装術、声色術、三尺手拭いを水に浸し塀を超える練習もした。礫術で、猪や兎、鳥を捕らえ、獣肉を火で炙ってたんまり食べた。躰の芯に活力が溢れてくるのを感じた。 着物を着た姿は痩せぎすの躰に見えるが、おりんの肉体は、鍛錬されて、筋肉が盛り上がり、鋼のような強さと、鞭のように撓る柔軟さを備えた、男にも勝る強靭な肉体に様変わりしていた。春吉日、おりんはその廃寺を出た。いよいよ、動き出す時がきたのだった。 本所堅川、新迷橋の上、振り分け荷物を肩に分け、縞の着流しの、くだけたいで立ちの浪人風情だが、ぞくっと、魅了するような色気のある顔をしていた。若衆が橋を渡ってきた。その若衆に惹かれたのか、見るからに乱暴者の三人の男が絡んでいった。 「おい、兄さん、土地のものじゃねえな、ちょいと、顔を貸してもらおうかい、、」 にやにやしながら、両側から挟みこみ、破落戸(ごろつき)の手が無遠慮に若衆の肩に触れたとたん、ーーぼきっ!ばしっ、ぶすっ、痛えっ、なにしやがるーー それは、あっという間の出来事で、何がどうなったのか、凡平にはわからなかった。腕を折られた者、腹を抱えて蹲るもの、もんどりうって転げまわるものが唸って橋の上に転がった。若衆は三人を振り向きも背せず、涼しい顔で,新迷橋を凡平が佇むほうへ歩いてきた。 ーあっ、おりんさんじゃないかー 若衆は寺島村の廃寺から、本所に戻ってきたおりんの変装した姿だったのだ。凡平とおりんは三月ぶりに再会したのだ。凡平の身体のなかには、あの夜のおりんのことがいつまでも宿っていて、疼いていた。焼き芋を売りながら、どこかでおりんに巡り合えるかもしれないという淡い期待も抱いていた。 おりんと、凡平は、堅川に面した船宿『水月』へ入った。 「凡平さん、すっかり焼き芋売りが板につてるわねえ、本所界隈を毎日歩いているのでしょう。だったら、本所のことは隅から隅まで詳しいでしょう?私はね、寺島村の荒れ地の廃寺に身を潜めていたの、だって、川越の『いろは店』から追手が来るかもしれないでしょう、もう、ほとぼりが冷めたころだと思って、出てきたのよ。浦島太郎みたいで、何もわからない、色々、本所のこと教えてくださいな」 「本所界隈なら、だいたいのことはわかるようになってきたよ」 「それじゃ、ちょいと聞くけど、本所にも、『いろは店』のような私娼窟があって、一生閉じ込められた生き地獄で女が泣いてる場所があるのかい?」 「あちこちにあるよ、法恩寺の参道脇にもあるし、横川沿いには吉田町の夜鷹が茣蓙を抱えて、立っているし、隅田川の饅頭売りの遊女もこの頃は堅川を登ってくるそうだし、荒井町の尼寺の前では比丘尼が春をひさいで人気があるよ」 「どこでも、女はひどい目にあってるのね、誰も救わないのかしら、隠れ売女の裏で糸を引く悪い奴はどこにでもいるのね、そんなところで、何とも思わずに遊んでいる男のひとはは残酷ね、凡平さんもお世話になってるの?」 「滅相もない、そもそも、給金なしの奉公だ、おいら、そば一杯も食えやしないんだ」凡平は顔を真っ赤にして否定した。 「それとね、凡平さん、わたし、住む場所を探してるんだけど、今、江戸じゃ人返し令で、無宿者を江戸から追い出そうとしてるご時世だろ、まして、人別帳のない無宿者だから、長屋にも住まわしてくれない。贅沢は言わない、雨風凌げればいいから、家を貸してくれるところはないかしらねえ、、」 凡平の頭の中はぐるぐる廻った。なんとか、おりんの役に立ちたいと思った。 ーはたと、浮かんだー 「おりんさん、この先、柳原町の六丁目の堀に面した家なんですが、一年前まで深川の米問屋の吉兵衛のお妾さんが住んでいたんですが、その別嬪のお妾さんが全身八つ切りにされ、無残に殺されたんです。吉兵衛の枕元には、毎夜妾の幽霊が現れ、ついに、吉兵衛、気が触れちまったんだ、いまでも、その家からは、女のすすり泣きが聞こえるということで、その家なら今でも幽霊屋敷になったまま空き家ですよ、蔦の絡まった黒塀に囲まれて、気味悪がって、近所の者でも、誰も近づきません。柳の木が伸び放題になってるからすぐにわかりますが、、」 おりんの顔に微かな笑みが浮かんだ。 おりんと凡平は、毎月五の日にこの船宿『水月』で逢う約束をして別れた。 「ああっ、その焼き芋冷めちまったんじゃないのかい、それが、売れ残っちゃ、叱られるだろほら、芋代だよ、この銭をとっときな、芋は、腹をすかしてる、貧しい子供にでも分けておやりよ、今度会う時には凡平さん、男じゃなくていい女として会うからね、楽しみにしててね、うっふっふっ、、、」 おりんの行動は俊敏だ。船宿『水月』を出ると、堅川に沿って東へ下り、凡平の言っていた蔦の絡まる黒塀を見つけるやいなや、素早く塀を乗り越え、幽霊屋敷に忍び込んだのである。(つづく)作:朽木一空※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2019.06.05
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読者の皆様へ『愚女よ、穢土の闇を駆けぬけろ!』は長編につきまだまだ続きます。ここいらで八木重吉の詩(3作)でも味わいながら一息いれてくださいまし。・・・。(朽木一空)犬もじゃもじゃの 犬が桃子のうんこを くってしまった春桃子お父ちゃんはね早く快くなってお前と遊びたいよ無題神様 あなたに会いたくなった著者:八木重吉※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2019.06.02
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