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2024年09月14日
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カテゴリ: 中世





泰時は人格的にも優れ、武家や公家の双方からの人望が厚かったと肯定的評価をされる傾向にある。同時代では、参議・広橋経光などが古代中国の聖人君子(堯、舜)に例えて賞賛している。


泰時の政治は当時の鎌倉武士の質実剛健な理想を体現するとされ、彼のすぐれた人格を示すエピソードは多く伝えられる。『沙石集』は泰時を「まことの賢人である。民の嘆きを自分の嘆きとし、万人の父母のような人である」と評し、裁判の際には「道理、道理」と繰り返し、道理に適った話を聞けば「道理ほどに面白きものはない」と言って感動して涙まで流すと伝えている。


例えば次のような話が『沙石集』にある。


1、九州に忠勤の若い武士があった。彼の父は困窮のため所領を売り払う破目に陥った。彼は苦心してそれを買い戻し父に返してやった。しかし父は彼に所領を与えず、どういったわけか全て彼の弟に与えてしまったため、兄弟の間で争論があり、泰時の下で裁判となった。立ち会う泰時は、初め兄の方を勝たせたいと思った。しかし、弟は正式の手続きを経ており、御成敗式目に照らすと弟が明らかに有利である。泰時は兄に深い同情を寄せながらも弟に勝訴の判決を下さざるを得なかった。泰時は兄が不憫でならなかったので、目をかけて衣食の世話をしてやった。兄はある女性と結婚して、非常に貧しく暮らした。ある時、九州に領主の欠けた土地が見つかったので、泰時はこれを兄に与えた。兄は「この2、3年妻にわびしい思いばかりさせておりますので、拝領地で食事も十分に食べさせ、いたわってやりたいと思います」と感謝を述べた。泰時は「立身すると苦しい時の妻を忘れてしまう人が世の中には多い。あなたのお考えは実に立派だ」と言って旅用の馬や鞍の世話もしてやった。


2、ある地頭と領家が争論した際、領家の言い分を聞いた地頭は直ちに「負けました」と言った。泰時は「見事な負けっぷりだ。明らかな敗訴でも言い訳をするのが普通なのに、自分で敗訴を認めた貴殿は実に立派で正直な人だ。執権として長い間裁判をやってきたが、こんなに嬉しい事は初めてだ」と言って涙ぐんで感動した。


1、 源頼家に仕えていた19歳の頃、頼家が蹴鞠に凝って幕政を顧みないことを憂いて諫言したことがある。寛喜の飢饉の際、被害の激しかった地域の百姓に関しては税を免除したり、米を支給して多くの民衆を救ったという逸話がある。この際には民衆を慮って質素を尊び、畳、衣装、烏帽子などの新調を避け、夜は燈火を用いず、酒宴や遊覧を取りやめるなど贅沢を禁止した。晩年に行った道路工事の際には自ら馬に乗って土石を運んだ事もある。


このように誠実に仕事をこなしたため公家や民衆からも評判がよく、泰時が植えた柳の日陰で休む旅人が泰時に感謝する逸話もある。


しかし一方で近衛兼経などは承久の乱後の朝廷に対する厳正な措置を恨み、泰時を平清盛に重ねて悪評を下している。このような公家の一部の悪感情を反映してか泰時の死に際しては後鳥羽上皇の祟りを噂するものもいた。


鎌倉幕府滅亡後、北条氏に対する評価は皇室に対する処遇を巡る大義名分論を中心に行われ、北条高時などが暗君として評価されているが、泰時は徳政を讃えられる傾向にある。南北朝時代には南朝方の北畠親房が『神皇正統記』において、江戸時代には武家の専横を批判する新井白石も肯定的評価をしている。一方で、江戸期の国学振興においては本居宣長や頼山陽などの国学者が泰時を批判するようにもなった。


また鎌倉幕府北条氏による後世の編纂書『吾妻鏡』には、泰時に関する美談が数多く記されているが、中には他人のエピソードを流用している作為も見られる(吾妻鏡 # 得宗家の顕彰参照)。それ以外にも泰時に不都合な事実を隠蔽・曲筆がされていることを窺わせる指摘もある。例えば、『吾妻鏡』には暦仁元年6月5日に藤原頼経が将軍就任の御礼をするために奈良の春日大社に参詣した際に泰時と時房が同行したことが記されているが、頼経の実父である九条道家の日記『玉蘂』には、泰時は三浦泰村・宇都宮泰綱と共に京都の留守を守っていたことが記されており、何らかの事情で泰時も同行したかのように曲筆されたと推定される(なお、三浦泰村・宇都宮泰綱も『吾妻鏡』には同行したと記されている)。


なお、小説家の海音寺潮五郎は、泰時をはじめとする北条氏の質素な生活について「こうまで倹素な生活をしなければならないなら執権になどなる必要はないではないかという気までするが、こんな政治ぶりであったればこそ当時の武士も恩義に感じたのであろう」と書いている。







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最終更新日  2024年09月14日 07時38分55秒
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