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2022.01.28
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カテゴリ: カテゴリ未分類
図書館で『パリの日々』という本を、手にしたのです。
表紙に書かれた副題「言語哲学者の休暇、あるいは字幕翻訳者のプロローグ」にキャッチされたわけです。





丸山直子×丸山垂穂著、三修社、2020年刊

<商品説明>より
1978年、パリの丸山圭三郎一家。かの大著『ソシュールの思想』を世に問う前夜、丸山圭三郎は家族を伴いパリに一年間暮らした。パリで一服の解放感を味わう夫と、現地でことばを覚え、とまどいながらもフランスにとけこんでゆく娘。その生き生きとした姿を、当時のパリの空気とともに、妻であり母親の視点から描く。-そして娘は字幕翻訳者への道を選ぶ。当時公刊されたエッセイに加え、新たに書き下ろした四十年後の思い、親子三人の往復書簡(初公開)を収録。

<読む前の大使寸評>
表紙に書かれた副題「言語哲学者の休暇、あるいは字幕翻訳者のプロローグ」にキャッチされたわけです。

rakuten パリの日々


前編「パリの日々1978~1979」でパリでの買い物を、見てみましょう。
p30~33
<朝市の商人たち>
 わが家の門を出て北へ百メートルくらい歩くとポール・ロワイヤル大通りに出る。この通りには火・木・土の午前中パリ名物のマルシュ(朝市)が立つ。メトロのポール・ロワイヤル駅から少し下ったあたりから、数十軒のいろいろな店が所狭しと並ぶさまはまことに壮観である。

 パリの朝は早い。6時半、空はまだ真暗で星を仰ぎながら朝市の商人たちのトラックが続々と到着する。荷台から板や囲いのガラス戸を運び出し、手早く組み立てる。積み荷を降ろし、商品を並べる。中年のおやじさん、おかみさん、息子や娘たち、家族総出できびきびと立ち働く。
 肉屋、魚屋、八百屋、菓子屋、パン屋、香料屋、総菜屋、チーズ屋、鼻や、小間物屋、古道具屋、およそありとあらゆる種類の店がここにはある。店と店の間のちょっとした空間には、ヤギの背にラベンダーの香袋を山と積んだ若い女性がひっそりと立っていたりする。
 端布で縫った花柄のプリントの袋には紫色のラベンダーの花びらを干したものが入っていて、いい香りがする。パリジェンヌたちは、この袋を衣装箪笥の中にしまっておいて移り香を楽しむ。

 白い髪の黒人のおじいさんが奏でる物悲しげな笛の音に誘われて、何人かの客が人垣を作り、前に置かれた空き缶の中にそっと硬貨を入れて行く。

 毎週三回ずつ朝市に通ううちに、商人たちも私たちの顔を覚え、歩いていると、
「ボンジュール、マダム、サヴァ?(奥さん、元気?)」
 などと声がかかる。この頃になるとこちらも少しは余裕ができてきて、笑顔で、
「サヴァ、メルシー、エヴー?(元気よ、ありがとう、あなたは?)」
 などと受け答えができるようになってくる。

「肉屋さんの行列に並んで挽肉を五百グラム買ってきてごらん」
 と言うと、娘はいそいそと列に並んで買ってくる。
「何て言ったの?」
「簡単、Cinq cents grammes de viande hachee, s'il vous plait. でしょ。今日は一発で通じちゃった」
「この前、八百屋さんでホウレン草を五百グラム下さいって言ったら、ハイハイ、1リーブル(1ポンド)だね、と言うの。いいえ、五百グラムと言うと、五百グラムと1リーブルは同じさ、と笑いながら教えてくれたの。そう言われてみれば1ポンドは四百五十グラムだから、大ざっぱなフランス人から見れば同じかもしれないね」

 ポンドとグラムが共存している点、メートル法を採用している点など日本と同じで何となく親しみがもてる。アメリカでは、ポンド、インチ一点張りだったから、メートル、グラムで話してもピンとこないばかりか、この地球上にそんな遅れたシステムをまだ使っている国があるのか、といった反応が返ってくる。

 一般のアメリカ人にとって、異なる文化や習慣が他に存在するということは想像を越えることらしいのである。1960年代のアメリカではホンダのバイクが大人気で、毎日のようにCM“You meet the nicest people on a Honda.(素晴らしい人々、ホンダに乗る)”がテレビに流れていた。私たちはよくアメリカ人が誇らしげにこういうのを聞いたものだった。
「日本にはHondaとかSonyなんてのはあるかい?」
 こういったナイーブな人たちにはホンダやソニーが日本製だと言っても信じてはもらえなかったので、私たちも最後には無駄な抵抗はやめることにしたのであった。

 少々横道にそれたけれど、再び朝市に戻ることにしよう。朝市には何十軒という店があるが、しばらくするうちに肉ならこの店、魚ならあの店というように行きつけの店が何軒かできてくる。私たちはそれらの店にこんなあだ名をつけて呼ぶようにしていた。
 肉屋のおじさんは色白、ちょっと薄くなってはいるがブロンドの髪、青い目の美男子で、若い頃の藤原義江そっくりであったから、「藤原義江の肉屋さん」と呼ぶことにした。
 日本に比べるとフランスの食料品は安く、中でも肉は半値以下だったから私たちは毎日ふんだんに肉を食べた。牛肉の上等なヒレが1キロ三千円くらい、サーロインが1キロ二千五百円くらい、挽肉や煮込み用の肉ならが1キロ千二百円くらいで買うことができた。

「ポトフ用の肉を1キロください」
 と言うと大きな肉塊をヨイショと持ち上げて切ってくれる。そして必ず、
「骨もつけますか?」 
 と聞く。これは真ん中にとろりとしたモワル(髄)の入っている子牛の骨で、これを一緒に入れて煮込むと非常においしいスープがとれるのである。これはタダでサービスくれる。日本では子牛肉を売っている店も少ないし、子牛の骨などはどこにも見かけないが、こんなにおいしい物を捨ててしまうのであろうか。

 子牛の骨つき煮込みにイタリア料理のオッソ・ブッコがあるが、やはりこのモワルがついているので彼らはナイフですくい出してきれいに食べてしまう。私たちも一度食べたら病みつきとなり、家族みんながモワルのたくさんついたところを好んで食べるようになった。


『パリの日々』1 :フランスへの憧れ





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Last updated  2022.01.28 09:41:18
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