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もちろん、女房たちは他言など一切しない。 だが、こんなことはいくら秘密にしていたとしても、いずれはどこからか漏れてしまうものだ。 鳥羽院も今上の出生には疑問を抱いておられるという。 それに、鳥羽院の側には最近他に寵愛深い女官がいるらしいし、今まではそれ相応に良好だった待賢門院との仲も、近頃はだんだん疎遠になり始めたのも気になった。 白河院が亡くなってから、少しずつ陰のように忍び込んでくる凋落(ちょうらく)の予兆。 白河院という大きな後ろ盾を失った待賢門院は、これから一体どうなっていくのだろう。 堀河は不吉な予感に胸を震わせるのだった。 そんな堀河の心配を知ってか知らずか、待賢門院は昨夜の宴の様子を一頻(ひとしき)り話した後、まだ少し眠いからと言って、暢気(のんき)にまた帳台に伏してしまった。 傍らに控えていた女院の乳母の但馬殿が、そっと御前から下がるように手で合図してくれる。堀河はほっとして寝殿の御母屋を出た。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2011年09月30日
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昨年この世を去られた白河院も、きっとそんな待賢門院だからこそ、深い愛情を抱いておられたのに違いない。 待賢門院は名を藤原璋子といい、正二位権大納言藤原公実の娘であった。 それをまだ幼いうちから白河院が手元へ引き取り、ご自分の養女の格式で手塩にかけて育ててきたのだった。その鍾愛ぶりはつとに有名で、毎夜懐に抱いて共寝するほどであったという。 それが行き過ぎてあんなことになったのだろうか。 堀河は優しい細面の今上の顔を思い出した。 あのお方は、待賢門院と夫君の鳥羽院との間に生まれた第一皇子ということになってはいるが、実の御父君は白河院ではないか。 堀河が待賢門院に仕えるようになったのは、待賢門院が白河院の孫に当たる鳥羽院の中宮として入内した後だった。 だが、昔から白河院と待賢門院がただの養父養女の間柄でなかったことは、待賢門院の女房なら誰でも知っている。それだけならまだしも、入内後もずっと白河院との関係が続いていることに、堀河は正直言って衝撃を受けた。 待賢門院の私生活に深く関わっている女房は、嫌でもそれが目に入り耳に残るのだった。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2011年09月28日
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だからといって、このお方を甘く見ると痛い目を見る。 待賢門院の中には、どこか得体の知れない激しさがあった。 その天女ごとく優美な外見とは裏腹に、この女主は男勝りで気性が激しく、豪儀で派手好きだった。 その上、ひどい気紛れだ。 さっきまで風にも耐えぬ風情で女房の読む昔物語に涙ぐんでいたかと思えば、何が気に入らないのか急に癇癪を起こして側にいる者をぴしりと叱りつける。賤しい巷の今様歌いまで御所に上げて陽気に騒ぐかと思えば、何かを深く考え込んでいるようで幾日も口を利かない。 堀河にはどれが本当の待賢門院なのかよくわからなかった。 だが、その掴みどころの無さがこの女院の魅力でもある。 機嫌の良い時は、その陽気な気性といい鋭い才気といい、これほど一緒にいて楽しく刺激的な主人は他にはいないだろう。機嫌が悪い時でも、その憂愁を帯びたあまりにも麗しい横顔を見ているだけで、密かに心がときめくような気がする。 いつの間にか堀河は、そんな待賢門院にすっかり魅せられてしまっていたのだった。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2011年09月26日
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三条西殿の寝殿では、目覚めたばかりに見える待賢門院が、寛いだ様子で帳台の脇息にもたれかかっていた。 恐る恐る御前に進み出て帰参の挨拶をした堀河だったが、待賢門院はあっさりと頷いただけだった。きついお叱りを受けるかもしれないと覚悟していたので、少し拍子抜けした気もする。 待賢門院は何事もなかったかのように、昨夜の月が澄んで明るかったこと、女房の一人である少納言の君の筝が実に見事であったことなどを話した。その様子は、まるで絵巻物の中から抜け出してきたかのようにあでやかで美しい。 つややかなたっぷりとした黒髪は肩を流れ、豪華な二重織物の袿の裾で波打っている。肌は高麗渡りの白磁のように滑らかで、濃い睫に縁取られた切れ長の眼差しは露を含んだように潤んで輝いていた。唇は一点丹を落としたように赤い。 どこをとっても非の打ちどころのない美貌。女の堀河でも思わず溜め息が出るほどのめでたさだった。 声は細く甘く、その話し方も言葉使いも高貴の姫君らしくおっとりとしている。立ち居振舞いも物静かで優雅だった。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2011年09月22日
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堀河は侍女を見送ると、朝餉を持って局に戻り、帳台の中の男を起こして粥を口に運んでやった。男は少し食べたものの、やがて目を閉じてまた眠ってしまった。 堀河は深い溜め息をついて帳台を出た。まだ一日目の朝だというのに、堀河はすっかり疲れ果ててしまっていた。 先が思いやられる。寝不足で頭も痛い。今日はこのまま局に引き篭っていようか。 だが、昨夜待賢門院からの呼び出しをすっぽかしてしまったことを思い出して、堀河は頭を抱えた。 きっとお叱りを受けるに違いない。だが、このままにしても置けぬだろう。適当に言いつくろってお詫び申し上げるしかあるまい。 堀河は男の枕元に、決して大声を出したり帳台から出たりしないようにとの置手紙を残して局を出た。 いくら自分の名前も言えない男とはいえ、身なりや言葉使いからして字も読めぬということはなかろう。 堀河は重い足を引きずって、待賢門院の御座所へ向かった。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2011年09月20日
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堀河は自分の局に戻り、先程の侍女の言葉を思い出して、鏡を覗いてみた。なるほど、ひどい有様だ。 昨夜、男を介抱するために、ずいぶん無理な動きをしたせいだろう。身につけていた紅葉襲(もみじがさね)の袿は、ひどい皺が寄って型が崩れている上に、脇が大きくほつれている。髪ももつれてそそけ立ち、白粉もまだらに剥がれ落ちていた。 堀河は男の寝ている帳台の帳を念入りに下ろすと、屏風の陰で手早く身支度をした。長い髪を梳って化粧を直し、唐櫃(からびつ)の中から新しく桔梗襲(ききょうがさね)の女房装束を取り出して身につける。 いつもは手際が悪いと侍女に小言ばかり言っていたのだが、いざ自分一人だけでやってみると、上手に身なりを整えるのは結構難しい。堀河は四苦八苦しながら、唐衣を羽織り裳の腰紐を結んだ。 堀河が身支度を終えて屏風の陰を出ると、兵衛の侍女がようやく朝餉の膳を持って来た。堀河はそれを妻戸の前で受け取り、念のために侍女に言った。「用事がある時はこちらから呼ぶゆえ、お前は兵衛の局で好きにしていてよろしい。いつもの時間になったら、食事の膳を持ってきて、この辺りに置いておいておくれ。後は、自分で適当にやるから。それから、わたくしの局には女院様から大切な物をお預りして置いてあるので、みだりに立ち入らぬように」 堀河がそう言うと、元来怠け者の侍女は喜んで自分の局へ下がって行った。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2011年09月15日
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堀河は早速局を出て、隣の兵衛の局へ行った。 局の中では、もうすっかり日は高く昇っているというのに、初老の侍女が一人、いぎたなく鼾をかいて眠っていた。 堀河は侍女がくるまっている綿入れの着物を引っ張り、その肩を揺すって起こした。寝ぼけ眼の侍女は、堀河の顔を見ると驚いて起き上がった。 堀河は病にかかった自分の侍女を里へ置いてきたことと兵衛からの言伝を話し、朝の食事を持ってきてくれるよう頼んだ。侍女は頷いてもそもそと起き上がり、堀河の身なりを見て言った。「ずいぶんおやつれでございますな。朝餉(あさげ)をお持ちする前に、お召し替えのお手伝いに参りましょう」 堀河は慌てて首を振って言った。「それには及ばぬ。自分の身の回りは自分で出来る。お前は食事の世話だけしてくれれば良い」 侍女は素直に頷くと、局を出ていった。この侍女は動きがまるで牛のように鈍く気が利かないが、大人しい性質で主人には従順だった。宮仕えの女に独特の妙な好奇心もないから、きっと余計な詮索もされずに済むだろう。 堀河は自分の侍女が病で寝込んでしまったのを密かに感謝した。堀河の侍女は、局に鼠が出ただけでもきゃあきゃあ叫ぶような騒がしい女で、その上何にでも首を突っ込みたがる噂好きだった。 もし昨夜から一緒にいたとしたら、一体どんなことになってしまったことやら。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2011年09月12日
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その時、男は急にすうっと目を開けた。 堀河は驚いて後ずさった。男はぼんやりと堀河の顔を見る。堀河は勇気を振り絞って男に話しかけてみた。「そなた、名は何という?」 男はじっと堀河の顔を見つめたまま、それには答えずに言った。「ここは?」「ここは三条西殿。恐れ多くも今上の御母君様であられる待賢門院様の御所じゃ。わたくしは、女院様に仕える女房で堀河という」 そして、もう一度訊ねてみた。「そなたの名は?」 男は自分の頭の中を見渡しているかのように視線を空にさ迷わせていたが、やがて首を振って言った。「覚えておらぬ」「そんな馬鹿な。自分の名を覚えておらぬはずがあるまい」 だが、男は堀河が何度訪ねても首を振るばかりだった。 まさか、牛に突き当たった時に、頭でもひどく打ったのだろうか。それとも、何か名も言えぬような厄介なわけでもあるのか。 堀河はますます男が胡散臭くなり、こんな男を助けてしまった自分を呪った。 だが、とにかく男は命を取り留めたようだ。ここは何とか元気になってもらって、一刻も早くここから出ていってもらうしかあるまい。 堀河はそう覚悟を決めた。 幸い、この男のことを知っているのは、昨夜供をしていた者たちを除いては自分一人。何とか隠しおおせるかもしれない。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2011年09月09日
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