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その時、何かが堀河の肩に触れた。 それは獅子王の掌だった。温かくて、力強い大きな手だ。 堀河が疲れた素振りを見せると、獅子王はいつもこうやって肩を揉んでくれた。最初の頃は力が強すぎて痛かったが、最近は加減を心得たらしくとても気持ちが良い。 堀河は脇息から身を起こして、獅子王の手に身を委ねた。 獅子王はゆっくりと柔らかく揉みほぐす。堀河はゆったりと身体の力を抜き、獅子王に寄り掛かった。 堀河の背が獅子王の胸に当たる。何かに包まれているように、身体中に温かさが広がった。堀河は目を閉じ、さらに獅子王に持たれかかる。 いつの間にか、肩を揉んでいた獅子王の手は止まっていた。 やがて、何か濡れた熱いものが、堀河の首筋に触れた。それは獅子王の唇のようだった。堅い指先が堀河の髪を掻き分け、舌が滑らかな首筋の上を這う。 堀河は堪らなくなり、獅子王の腕の中で身を捩(よじ)って、その顔を見上げた。当惑したようないつもの目の中に、欲望の輝きが見え隠れしているのがわかる。 堀河は腕を獅子王の首筋に投げかけ、自分から獅子王の唇に自分の唇を押し当てた。獅子王の唇は少し震えていたが、やがて少しずつくちづけを返してきた。そして、それは次第に激しさを増した。 堀河の頭の中を、頼政の冷たい横顔がよぎって、消える。 堀河は獅子王の舌の感触を味わいながら、帳台の帳を掻き上げ、その中にいざなっていった。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2011年12月28日
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まさか、頼政のことを気にしているのか? 堀河は何となく意外な気がした。 獅子王という名のせいだろうか。堀河はいつの間にか獅子王のことを、大きな忠犬のように感じていたのだった。 それが言い過ぎならば、忠実な召使か、友人か。だから、堀河は獅子王と一つの部屋で寝ていても、別に危険や違和感を覚えたことがなかった。 だが、考えて見れば獅子王もやはり男なのだろう。いつも側にいる女の過去をあからさまに聞けば、面白くない気もするのかもしれない。 そう思うと、堀河の胸はなぜかふと熱く騒いだ。堀河は屏風の陰にいる獅子王に向って言った。「男と言っても、もうずっと昔の話。頼政殿は、もうわたくしのことなど忘れてしまったようだった。男と女の交わりなど儚いものじゃ。終わってしまえばほんの幻。真実などありはしない。ただひとときの気の迷いに過ぎぬ」 そう言うと、堀河は疲れた身体を側の脇息の上に伏せた。頼政とのことを思うと、ふと涙が込み上げて来たのだった。 だが、それを誰にも見せたくはなかった。 堀河は袖の上に自分の目を押し当てた。いつもこうやってごまかしてきたのだ。 年を取るにつれ、いつの間にか堀河は人前で涙を見せることを恥じ、それを自分に許さない女になっていた。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2011年12月19日
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「誰だ?」 無邪気に問う獅子王に、堀河はなげやりな口調で呟いた。「源頼政」 それを聞いた獅子王は、わずかに眉をひそめた。それを見逃さなかった堀河は獅子王に聞いた。「頼政殿を知っておるのか」 獅子王はうろたえたように視線をさ迷わせたが、口ではきっぱりと言った。「いや、知らぬ」 またいつものことだと、堀河は諦めた。獅子王はどうやら武士らしいから、同じ武士の出の頼政ともどこかで会ったことがあるのかもしれない。 それでも、獅子王は頼政のことが気になるらしく、いつものように堀河の肩から重い唐衣を取り去りながら、さりげなく聞いた。「頼政は、そなたの何だ」 堀河は少し意地悪な気持ちで答えた。「昔の男に決まっておろう」 それを聞いた獅子王の手はぴたりと止まった。堀河は不審に思って背後の獅子王を振り返ったが、獅子王はその視線を避けるかのように、堀河の唐衣と裳を持って屏風の陰に引っ込んでしまった。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m↓十二単を着た私(笑)。一番上に着ている丈の短い赤い着物が「唐衣」、後ろに長く引いている白いものが「裳」です。この十二単は平安時代のものよりかなり簡略化されたものですが、それでも結構ずっしりと重いです。。。
2011年12月14日
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堀河の胸に、自分でもよくわからない痛みが満ちた。まるで、冷たい氷の海にゆっくりと窒息して沈んでいくような、そんな鈍く冥(くら)い痛みだった。 その痛みは、待賢門院の御幸が終わり三条西殿へ戻ってからも、堀河の胸を締めつけ苦しめた。 何と空しいことだろう。心を尽くした想いも、狂おしいほどの官能も、ただ一時のこと。思い出すら残らない。 待賢門院の御前を下がって自分の局に戻った堀河は、ひどく疲れ果てたような沈んだ気持ちで深い溜め息をついた。じっと黙り込んだまま獅子王に話しかけもしない堀河に、獅子王はものわかりの良い夫のような口調で問うた。「疲れたようじゃな。どうした? 何かあったのか」 堀河は獅子王の顔を見た。思いやりの見える穏やかな笑顔だ。堀河は少し獅子王に甘えて見たくなった。「懐かしい顔を見たのだけれど……会わねば良かった」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2011年12月12日
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そんな頼政を、堀河は強いて引き止めることが出来なかった。年上の女の誇りと世馴れた宮廷女房のとしての見栄が、堀河に若い男を惨めに追いかけることを許さなかったのである。 頼政との恋が去った時、堀河は思った。もうこれで終わりにしよう。自分はもう以前のように若くはないのだ。若い男を引きつけるような瑞々しい美しさも失ってしまった。分別を持たなければ。もう二度と……恋はすまい、と。 それ以来、堀河は頼政だけでなく、他の男たちとの関わりもすっぱりと絶ってしまった。そればかりか、歌合わせなどで恋の題を与えられた時以外は、恋の歌を詠むことまですっかり止めてしまったのだった。 久しぶりに見る頼政の顔。会って見れば、やはり懐かしい。堀河は昔を思い出しながら、頼政に視線を送った。 だが、頼政は一度も堀河の方を見ようとはしなかった。待賢門院のお供をしてここに来ていることは知っているはずなのに。 堀河には、頼政がまるで見知らぬ男のように思えた。あの、しなやかで若々しい力に満ちた腕、汗ばんだ熱い胸元。あの夜々の思い出がまるで最初からなかったかのような。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2011年12月08日
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御簾の中の二人を見つめているうちに、何か漠然とした不安のようなものが込み上げて来た堀河は、思わずそっと目をそらしてしまった。そして、その視線がぶつかったものに、どきりと胸が高鳴った。 南庭に面した簀子(すのこ)に、鳥羽院の近臣たちが居並んでいる。その中に、懐かしいものを見つけたのだった。 それは、源頼政の横顔だった。 あの頃はまだ幼さの残る豊かな頬をしていたのに、今はすっきりと殺ぎ落とされたようにこけ、気のせいか狷介な印象を与える。昔はなかった眉間の皺が、今は深く刻まれたせいだろうか。 頼政はかつての堀河の恋人だった男だ。 数年前、堀河はしばらくの間頼政と付き合い、繁く歌のやり取りをしていた。 頼政は攝津源氏出身の武人だが、優れた歌の才も持っていた。その頃はまだ年若く、十歳以上も年上でしかも名高い歌人の堀河の相手としては少々役不足だといわれたものだったが、堀河と共に過ごし歌を交わし合っているうちに、その才能は見る見るうちに開花していった。 堀河はそんな若い恋人の伸びやかな成長が嬉しく、心を込めて頼政の世話をし、歌の添削までしてやったものだが、やがて堀河にはお定まりの結末が訪れた。 白河院に気に入られて昇進し、歌人としても世間から認められた頼政は、次第に堀河から離れていったのである。 他の御所に仕える年若い女房の元に通っているという噂も聞こえて来た。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m↓現代の御所の様子。「簀子」とは、この写真でいう建物の一番縁にある欄干の内側部分の廊下のような場所のこと。比較的身分の低い男性の臣下の人は、この辺りに座らせられることが多かったようです。
2011年12月07日
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女院の院司の殿上人に見守られて、待賢門院は三条東殿へ向った。 堀河たち女房も、車を連ねて三条西殿を出る。と思ったらもう着いているというほどの近さだが、普段薄暗い御所の中に篭って過ごしている女性たちにとっては、たとえ短い時間でも外に出るのは気分が良い。堀河も久しぶりに晴れやかな気持ちになった。 三条東殿では、知らせを受けた鳥羽院に仕える近臣たちが、待賢門院を出迎えてくれた。 御簾の奥には、脇息に寛いでおられる鳥羽院の姿も見える。 鳥羽院は待賢門院より二歳年下の二十七歳。色白でふっくらとした優しげな面立ちに、艶やかに梳られた漆黒の鬢(びん)の髪。紅の袴に白い引直衣を緩やかに着こなした鳥羽院は、まるで絵巻物の中の優雅な貴公子のように美しい。 隣に座を占めた待賢門院とにこやかに語り合っている様子は、まさに似合いの一対だった。 だが、それをそのままに受け取ることは出来ない。 真に身分の高い人間というものは、決して本心を人前で明かしたりはしないものだ。 待賢門院もそうだが、この鳥羽院も心の中で何を考えているのかまるでわからない。 今は琴瑟相和(きんしつあいわ)すようにみえるこの二人の内側で一体何が渦巻いているのか、堀河には窺い知ることは出来なかった。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m↓高貴な人の御座所の雰囲気。中央の細長い台のようなものが「脇息」です。
2011年12月06日
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待賢門院の気紛れにも困ったものだ。 朝の苦手な堀河がまだ眠い目をこすりながら伺候(しこう)すると、御座所である寝殿はごった返していた。 何でも、急に思い立った待賢門院が、今から鳥羽院の御所に御機嫌伺いに御幸するというのである。 御幸と言っても、今鳥羽院がおられるのは隣の三条東殿だが、女院が外出なされるとあらば、それなりの仕度が必要だ。ただでさえ数日後に迫った法金剛院落慶供養の準備で忙しいのにと、女房たちは内心辟易していたのだが、待賢門院はまるで意に介さない。女房たちを急かして、乗り物や供の仕度をさせ、数ある衣装の中から一番のお気に入りである菊の御衣を選んで身に纏った。 久しぶりに夫君に会うとて、とっておきの装束で美々しく装った待賢門院は、息を呑むほどの美しさだった。美を愛する堀河は、その姿を見るだけで多忙の疲れが癒されるような気がした。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2011年12月05日
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それに、獅子王は堀河が出会った他のどの男とも違って思えた。 獅子王は本当に子供のように無防備で、堀河にはその心の内がはっきりと透けて見える。 確かに、その内容まではわからないものの、何か隠し事をしていること自体は、その目の色を見れば歴然としていた。 堀河はその幼さに思わず微笑ましさまで覚えたが、逆に言えばそれだけ嘘がつけないということだ。 今まで堀河が付き合ってきた男たちは、言葉や表情とその心の内は全く別のものだった。それに、堀河は何度も裏切られ傷つけられて来たのだ。だが、獅子王に裏も表もないことだけは、そんな堀河にも信じることが出来たのだった。 いつしか堀河の心の中で、獅子王の存在が次第に大きくなっていった。 だが、堀河自身がそれに気づいていたのかどうか……ただ、堀河はいつの間にか、獅子王が本当に人であるかどうかということさえ忘れてしまっていたのだった。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2011年12月02日
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