2026
2025
2024
2023
2022
2021
2020
全4件 (4件中 1-4件目)
1

「父院のことをよくご存知なのですか」「はい。若い頃は何度もお会いしたことがあります。それに、その他にもいろいろと思い出が。あなた様のお声を聞いていると、遥か昔に聞いたある御方のお声を思い出します」 やはり切り出してきた。 能季はぐっと拳を握り締めた。 斉子女王も俄かに緊張したようで、小さく一つ息を吐いた後、改めて道雅に尋ねた。「もしかして、それはわたくしの叔母上のことではございませんか」「それは……」「当子内親王様とおっしゃるお方です。父院の同母の妹君であられた」 道雅の顔に変化が現れた。 それまで面を覆っていたつるりとした上機嫌は消え、その代わりに訝(いぶか)しげな困惑と、それを押しのけるように何か歓喜のようなものが頬の赤みと共に立ち昇ってくる。 それと同時に、あの瞳の奇妙な光からは、冷たい無表情さが薄れ、獣じみた熱狂が湧き上がってくるように見えた。 道雅は僅かに声を震わせながら問うた。「何故それをご存知なのですか」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2016年03月13日
コメント(2)

斉子女王はすらすらと能季が頼んだ口上を口にする。 思いがけず腹の据わった斉子女王の態度に、能季の方が面食らっていた。 やはりあの聡明だった小一条院のお血筋なのか。 斉子女王の貴人らしい毅然(きぜん)とした振る舞いと、姫君らしい優しげな雰囲気に、道雅の方もどうやら感歎しているようだった。「それは、お優しい御心ですなあ。亡き御方もお喜びになりましょう」「でも、わたくしはちょうど物忌みの時期にあたっており、墓所へ直接行くのは方角が悪うございます。陰陽師がいうには、一旦西の京へ居を移し、その後改めて常盤へ赴けば良いとのこと。それで、急遽こちらへご厄介になることに。ご迷惑をおかけして申しわけありませぬ」「いやいや、西の京はご覧の通り草地や畑ばかりですからな。尊い姫宮をお迎えできるような屋敷はこの小八条第以外にはございませんでしょう。それに、我が家にとっても名誉なことで」「でも、あなたとわたくしとは何のゆかりもございませんのに」「いや、他でもない関白殿のご依頼とあらば、どなた様であろうと大歓迎でございます。それに、あなた様は小一条院の姫宮。小一条院は私にとっていろいろと思い出のある懐かしい御名でございますれば」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2016年03月06日
コメント(2)

斉子女王と和やかに歓談している道雅には、何のおかしなところもなかった。 話し振りにはそつがなく、立ち居振舞いも名門の貴族らしく優雅で洗練されており、微かに笑みを浮かべた顔は若々しく好感が持てるほどだ。 この人が本当に人間の肉を喰らうというのだろうか? まさか。 だが、道雅の眼差しにある光だけは、どこか得体の知れない感じがして、能季はどうしても自分の心の中がざわめくのを鎮めることができなかった。 斉子女王の方はどうだろう。能季はそっと隣を盗み見た。 斉子女王はすっと背を伸ばして端坐し、静かな面持ちのまま道雅に言葉を返していた。「頼通様からの文は届きましたか」「はい、今日の明け方に。何でも、頼通殿のからの願いで、わざわざ常盤の御寺へ詣でられるとか。あそこは確か、小一条院の別荘があったところですな。院が亡くなられた後は、その菩提を弔うため寺に直されたと聞いておりますが」「ええ。頼通様の夢枕に、このところ三晩続けて亡くなられた小一条院がお立ちになり、様々な恨み言をおっしゃったのだそうです。陰陽師に占わせたところ、それは小一条院の御霊(ごりょう)の障(さわ)りなのだとか。でも、故院は生前大そう可愛がっていたわたくしに会いたがっておられるので、故院の御霊が祭られている常盤の御寺に詣でて、わたくしから懇ろに供養すれば、頼通様への障りはなくなり、夢にも現れなくなるとのこと」「それであなた様が寺詣でに」「はい。父君の御霊がわたくしの供養くらいで慰められるのなら、いと容易いこと」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2016年03月02日
コメント(0)

道雅は御簾の前に腰を下ろし、優雅に袖を払いながらこちらを見た。 その眼差しは玻璃(はり…ガラス)の珠のように無表情だったが、それでも強い光を帯びてこちらを射抜くようだった。 母屋のこちら側には明かりも灯されておらず、間は御簾に隔てられているから、道雅からはこちらが見えない。 そう自分に言い聞かせなければ、斉子女王の顔も自分の正体も、全て道雅に見破られているのではないかという気さえするほどだ。 だが、道雅は御簾に向かって深々と一礼し、顔を上げると今度は全く違った表情を見せた。 道雅はどこか快活な感じさえする明るい声で、御簾内の斉子女王に語りかけた。「この度は、このような寂しい舘に花の如き姫宮をお迎えすることができ、恐悦至極(きょうえつしごく)にございます。私がこの舘の主、左京大夫藤原道雅にございます。どうぞ、以後お見知りおきくだされ」 道雅は口元に薄い笑みを浮かべて、じっと御簾を見つめている。 その様子には、何となくぞっとするような奇妙な感じがあった。 だが、やつれも見えないその顔は、とても出家するほどの重病人には見えない。 斉子女王も訝(いぶか)しく思ったのか、衣擦れの音をさせながら道雅に向かって軽く一礼すると、細い声で挨拶を返した。「ご病気で臥せっておられると聞いておりましたのに、わざわざのご挨拶、痛み入ります。お加減はもうよろしいのですか」「ええ。高徳の聖の祈祷を受け、このように出家もいたしましたら、すっかり気分も良くなりました。それに、尊いお方を我が家へお迎えしたのですから、主がご挨拶に出るのは当然の礼儀でございます。こちらへついたばかりの時は、お疲れと聞き及びご挨拶は遠慮いたしましたが、もうゆっくりとお休みになれましたかな」「はい。お心遣い、ありがたく思っております。急な方替(かたが)えにも関わらず、このようにご歓待くだされて」「なんの。ここは西の京の端。普段は訪れる人もなく、私も長らく引き篭もっておりますゆえ、気の利いたおもてなしなどとてもできませぬが、とにかくごゆるりとおくつろぎくだされ」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2016年03月01日
コメント(2)
全4件 (4件中 1-4件目)
1
![]()
![]()
