伊勢屋の酒が好きだった侍だ
若さまは、英明院の屋敷からの帰り道、心の中でこんなことをつぶやきながら歩いていました。
「世の中には、 見て見ぬふりをしなければならないことも
あるのか。 私ひとりの正義感など
、 通らぬこともあるのか
。・・・私はやっぱり、 世間知らずの若さまか
・・・」




しばらく歩いて行くと、料亭から帰りの 駕篭に乗った鈴木采女が通り過ぎるのを見て
、歩き出した若さまは、 おちかの姿にきずき足を止めます
。







鈴木の駕篭の後を追う おちかのただごとでない様子を
見て、若さまは出刃包丁を持ち 鈴木の乗った駕篭めがけ行こうとしたところを引き留めます
。





何故止めるのか
、と抵抗するが出刃包丁を取り上げられたおちかは「私はいまの侍を・・・」とまだ行こうとするおちかを若さまが遮ります。
若さま「馬鹿、お前の手で武士を刺せると思うのか」
おちか「でも、このままでは・・・」
若さま「落着け、だいいち大勢の侍が一緒についてくのだ、もし、お前が刺そうと
したことが気付かれれば、 ただではすまなくなるぞ
」
どうしたらよいのか・・・泣き崩れるおちかに、若さまが話かけます。
若さま「万に一つ、鈴木采女を刺したとしても、 父親の無実の罪は拭われんぞ
」



おちかが顔をあげ、「あなた様は」と聞いてきます。若さまは、「 伊勢屋の酒が好きだった侍だ
」 と答えます
。
そのとき、「 もし
」と突然呼びかけて来た女の声がします。数人の琉球衣装を着た人の中の太夫の月美香です。
月美香「私共の宿はすぐこの先、むさくるしくとも部屋の中なら、 この方のお心も
静まりましょう
。さあ、どうぞ」
若さま「 見ていたのか
」
「 はい
」と月美香が言います。


続きます
。
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