まいかのあーだこーだ

まいかのあーだこーだ

2022.05.14
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GYAOの無料動画で、

わたしのなかで、
相米の「雪の断章」と黒沢清の「岸辺の旅」が繋がりました。

ネットで検索する限り、
この3つの作品を関連づけるテキストは見当たらなかったので、
とりあえず私的なメモとして書いておこうと思います。

もしかしたら、
それは「雪の断章」の不可解な特異性とか、




一般に、相米慎二は、
ロングショットの長回しに象徴される「文体の作家」だと思われていて、
その物語の内容に関心が寄せられることは、ほとんどありません。

なんなら、相米自身が、
物語にまったく無関心な作家だとさえ思われてるし、
わたし自身も、おおむね今まではそう考えてきました。

事実、「雪の断章」などを見ると、
サスペンスの真相を明かす台詞がカットされてたりして、
物語に対するあからさまな関心のなさが現れてるようにも見える。

そんなわけで、

ほぼ無いに等しいのですね。



けれど、今回、
彼の遺作になった「風花」を見ていたら、
相米慎二にも何かしら描かずにはいられない内容があったんだな…
と思ってしまったのです。


それは明確に《物語》というほどのものではなく、
むしろ、ぼんやりとした、
風景とか、記憶とか、感情みたいなもの。

端的にいうと、
「雪の断章」と「風花」に共通して描かれているのは、
北海道の《記憶》と、そこに付随する《底知れぬ寂しさ》のようなもの。

より具体的にいうと、
「風花」で小泉今日子が死のうとするまでの流れと、
「雪の断章」で世良公則が海で死のうとするまでの流れが、
とてもよく似ているのです。

酒を呑んで、
性の売り買いがあって、
雪が降っていて、
水のそばで死のうとする。

この一連の流れが、とてつもなく悲しくて寂しい。

死の淵から引き寄せられているような怖さもある。

ちなみに、
相米慎二は岩手の生まれですが、
6才から18才までの少年期を北海道で過ごしています。



黒沢清の「岸辺の旅」で、
深津絵里が滝壺や海岸から戻ってくる物語も、
この小泉今日子や世良公則が死の淵から引き返してくる物語に近い。

もっとも「雪の断章」の世良公則の場合は、
結局、ラストで原作どおりに死んでしまいますが、
小泉今日子と深津絵里は、最後に生きる力を取り戻すのですね。



濱口竜介は、
「あ、春」を肯定的に捉えることで「雪の断章」を相対化し、
その不可解さにひとつの答えを出していたけれど、
彼が言及していたのも、結局は「文体」の問題だったといえる。

でも、
案外、黒沢清などは、
相米が「風花」で描いた物語に注目したうえで、
あえて「岸辺の旅」のような作品に挑んだのかもしれません。
浅野忠信の役柄だけでなく、
文体の面でも「風花」と「岸辺の旅」は似ていると思う。



わたしは、いままで、
相米の「雪の断章」も「あ、春」も、
そして黒沢清の「岸辺の旅」についてさえも、
もっぱら文体という点からしか観てこなかったので、

過去に書いたレビューでも、
ほとんど内容面には触れてこなかったけれど、

▶「雪の断章」
▶「岸辺の旅」
▶「あ、春」

このたび「風花」を見たことで、
これらの映画も文体だけで論じるべきではないと感じています。

…ってことで、
とりあえず「風花」についての基本的な感想もこちらに書きました。

▶「風花」

ちなみに、相米慎二の映画は、
しばしば原作を冒涜してるともいわれるけど、
彼があえて佐々木丸美や鳴海章なんぞの小説をとりあげたのも、
この2人が北海道の作家だからこそだろうと思います。




なお、
4月18日に映画プロデューサーの佐々木史朗が亡くなりました。
彼が最後に制作したのが、黒沢清の「岸辺の旅」だったようです。



U-NEXTで「魚影の群れ」を観ました。
くわしいことは↓こちらに書きましたが、
https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?SELECT=24063&TITLE_NO=6934#HIT
やはり死の匂いのする北海道の海岸で、
セックスをして酒を呑むという構造は「雪の断章」と同じ。
緒形拳は生きて帰ってきますが、代わりに佐藤浩市が死んでしまう。
製作の順序から考えれば、
「雪の断章」や「あ、春」や「風花」の原型は、
この「魚影の群れ」なのかもしれません。



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最終更新日  2024.04.07 03:41:05


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