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聽笛歌(留別鄭協律) 劉長卿舊遊憐我長沙謫、載酒沙頭送遷客。天涯望月自霑衣、江上何人復吹笛。横笛能令孤客愁、■(サンズイに「碌」の右、ロク)波淡淡如不流。商聲寥亮羽聲苦、江天寂歴江楓秋。靜聽關山聞一叫、三湘月色悲猿嘯。又吹楊柳激繁音、千里春色傷人心。隨風飄向何處落、唯見曲盡平湖深。明發與君別離後、馬上一聲堪白首。【韻字】謫(入声、陌韻)・客(入声、陌韻)・笛(入声、錫韻)。愁・流・秋(平声、尤韻)。叫・嘯(去声、嘯韻)。音・心・深(平声、侵韻)。後・首(上声、有韻)。【訓読文】笛歌を聴く(鄭協律に留別す)旧遊我の長沙に謫せらるるを憐ぶ、酒を載せ沙頭に遷客を送る。天涯望月自から衣を沾し、江上何なる人か復た笛を吹く。横笛能く孤客をして愁へしめ、■(サンズイに「碌」の右、ロク)波淡淡として流れざるがごとし。商声寥亮として羽声苦しく、江天寂歴として江楓秋なり。静かにを関山を聴き一叫を聞き、三湘月色猿嘯を悲しぶ。又た楊柳を吹けば繁音激しく、千里の春色人心を傷ましむ。風に随ひて飄へつて何れの処に向かひて落ちん、唯見る曲尽きて平湖の深きを。明発君と別離しての後、馬上一声白首に堪えんや。【注】○留別 旅立つ者が、とどまる者に離別の情を詩に託して別れる。○鄭協律 未詳。「協律」は、協律郎。音楽を掌る役人。『旧唐書』《職官・三》「太常寺に協律二人有り、正八品上」。○旧遊 旧友。○憐 同情する。○謫 左遷される。○長沙 湖南省長沙市。○載酒 酒を車に載せてもってくる。○沙頭 砂浜のほとり。○遷客 左遷されていく旅人。○天涯 天の果て。非常に遠い土地。○望月 満月。○沾衣 涙で着物を濡らす。○江上 川のほとり。○何人 誰。○吹笛 晋の桓伊は、江左第一の笛の名手とされ、江上で笛を吹いたという。韋応物《聴江笛送陸侍御》「遠く江上の笛を聴きて、觴に臨んで一たび君を送る」。○孤客 孤独な旅人。○■(ロク)波 清らかな波。○淡淡 水がたっぷりと緩やかに流れるようす。○商声 五音(宮・商・角・徴・羽)の一。強くすんだ音。○寥亮 音の澄んださま。○羽声 五音の最も高い音。○寂歴 なにもないようす。○江楓 川べりのカツラ。○関山 関山月の曲。後出の《折楊柳》とともに離別の曲。○三湘 漓湘・瀟湘・蒸湘。○猿嘯 サルの鳴き声。○楊柳 折楊柳の曲。○繁音 テンポの早い音。○何処 どこ。○平湖 平らかな湖面。○明発 夜明け。○白首 白髪頭の老人。【訳】笛歌を聴く。(鄭協律との別れぎわに詠んだ詩)むかし馴染みの君はいま、とおく長沙に流されるわが身の上を思いやり、わざわざ酒を持ち来たり、舟に乗り込む砂浜のほとりに我を見送るか。空の果てなる満月を見るに涙も目ににじみ、悲しさ添える笛の音を川辺に吹くは誰やらん。横笛の音は旅に出る我が悲しみをかきたてて、清き流れは緩やかに波さえたたぬしずけさよ。あるいは強くまた高く澄んだ音色を響かせて、川の上空くもも無く川辺のカツラ紅葉す。耳をすませば聞こえくる曲はその名も関山月、三湘の空月清みて猿の鳴き声いと悲し。次ぎなる曲は折楊柳、奏でる速さいよよ増し、千里はなれた春の色人の心を傷ましむ。ヤナギのわたは風に乗りはてさてどこへ落ちるやら、曲は終わりて眺むれば深さ知られぬ洞庭湖。明朝君と別ての後に、馬上に一声を聴かば老いたるこの我は堪えられようかその辛さ。
December 31, 2007
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潁川留別司倉李萬 劉長卿故人早負干將器、誰言未展平生意。想君疇昔高歩時、肯料如今折腰事。且知投刃皆若虚、日揮案牘常有餘。槐暗公庭趨小吏、荷香陂水膾鱸魚。客裏相逢款話深、如何岐路剩霑襟。白雲西上催歸念、潁水東流是別心。落日征驂隨去塵、含情揮手背城■(「門」のなかに「煙」のみぎ。イン)。已恨良時空此別、不堪秋草更愁人。【韻字】器・意・事(去声、▲〔「宀」のしたに「眞」。シ〕韻)。虚・余・魚(平声、魚韻)。深・襟・心(平声、侵韻)。塵・■(イン)・人(平声、真韻)。【訓読文】潁川にて司倉の李万に留別す。故人早に負く干将の器、誰か言ひし未だ平生の意を展べざると。想ふ君の疇昔高歩の時、肯(あに)料らんや如今腰を折る事を。且に投刃を知らんとすれば皆虚のごとく、日に案牘を揮へば常に余り有り。槐暗くして公庭に小吏趨り、荷香ばしくして陂水鱸魚を膾(なます)にす。客裏相逢ひて款話深く、如何(いかん)せん岐路剩つさへ襟を霑すを。白雲西上帰念を催し、潁水東流是れ別心。落日征驂去塵に随ひ、情を含み手を揮ひて城■(「門」のなかに「煙」のみぎ。イン)に背(そむ)く。已に恨む良時空しく此に別れ、秋草に堪えず更に人を愁へしむ。【注】天宝の初め、東遊の途中で潁川にさしかかった時の作。○潁川 唐の河南道の郡の名。天宝元年に許州を改めて潁川と称した。○留別 。○司倉李万 李万は潁川郡の司倉参軍をつとめた。○干将器 宝剣。春秋時代に干将・莫邪という刀鍛冶の夫妻がおり、鋭利無類の二つの剣を造り、刀も干将・莫邪と呼ばれる。ここでは才能ゆたかな賢人をたとえる。○誰言 いったい誰が予想したであろうか。反語表現。ひし未だ平生の意を展べざると。○疇昔 むかし。○高歩 俗世間を遠く超越する。○肯料 どうして予想しようか。反語表現。○如今 いま。○折腰 ペコペコする。。『晋書』《陶潜伝》「潜、彭沢の令に任ぜられ、歳の終はりに郡督郵をして至らしむ、県の吏、潜に束帯して之に見えんことを請ふ。乃ち嘆じて曰く、『我豈能く五斗米の為に腰を折りて郷里の小児に向かはんや』と。即日官を辞す」。○且A 今にもAしようとする。○投刃 刀を放る。孫綽《天台山賦》「刃を投げて皆虚なり、牛を目して全たきこと無し」。○案牘 公文書。○槐 エンジュ。○公門 郡の役所。○小吏 木っ端役人。○趨 小走りする。○膾 肉や魚を細切りにしてなますに調理する。○鱸魚 呉の松江に産する魚の名。『晋書』《張翰伝》「張翰、字は季鷹、呉郡呉の人なり。……斉王冏辟して大司馬東曹掾と為す。……因つて秋風の起こるを見、乃ち呉中の菰菜・蓴羮・鱸魚の膾を思ひて曰く、『人生志に適せんことを得るを貴ぶ、何ぞ能く宦に数千里に羈がれて以て名爵を要せんや』と。遂に駕を命じて帰る。○款話 うちとけた談話。○如何 どうすればよいか。反語表現。○岐路 分かれ道。○剩 おまけに。○霑襟 涙を流して着物の襟をぬらす。○白雲西上催帰念 白い雲を見て洛陽に帰りたいと思う。『荘子』《天地》「彼の白雲に乗り、帝郷に至らん」。○潁水 潁水西南して襄城県の界より長社県に流入す。○征驂 旅人の乗る馬車。「驂」は、三頭立て、または四頭立ての馬車の両端の馬。○城■(イン) 城門。○良時 よい時節。○空 ただただ。【訳】潁川で司倉の李万に別れる際に詠んだ詩。君は早くに有能な才にそむいて地方官、未だ中央高官の望み遂げずとは誰が想像しったであろ。君も昔は超俗の高き心を持ちたるに、今腰折りて上役に頭をさげる身分とは。刃を投げんと欲すればスイと虚空を斬るごとく、日々に文書をめくりつつ仕事こなすに余裕あり。槐植えたるお役所の庭に小走り小役人、ハチスの花の香ぐわしき川べり鱸魚を膾にす。客間の楽しき語らいにあっという間に時は過ぎ、涙に濡れるわがころも、この別れをばいかにせん。空に浮かべる白雲は西に帰るをせきたてて、潁水東に流れさり離ればなれの心かな。沈む夕陽は乗る馬車の蹴立てるホコリ赤く染め、名残惜しさに手を振りて町に背を向けあとにする。楽しき時は過ぎ去りて避けて通れぬこの別れ、秋の草まで枯れかけてさびしさ添うるこの夕べ。
December 28, 2007
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齊一和尚影堂 劉長卿一公住世忘世紛、暫來復去誰能分。身寄虚空如過客、心將生滅是浮雲。蕭散浮雲往不還、淒涼遺教歿仍傳。舊地愁看雙樹在、空堂只是(一作見)一燈懸。一燈長照恆河沙、雙樹猶落諸天花。天花寂寂香深殿、苔蘚蒼蒼■(「門」のなかに「必」。ヒ)虚院。昔余精念訪禪扉、常接微言清(一作親)道機。今來寂寞無所得、唯共門人涙滿衣。【韻字】紛・分・雲(平声、文韻)。還・伝・懸(平声、先韻)。沙・花(平声、麻韻)・院(平声、桓韻)。「院」の字は押韻せず。扉・機・衣(平声、微韻)。【訓読文】斉一和尚の影堂一公世に住みて世の紛を忘れ、暫らく来たり復た去りて誰か能く分たん。身を虚空に寄すること過客のごとく、心は生滅を将ちて是れ浮雲。蕭散浮雲往きて還らず、淒涼遺教歿して仍ほ伝ふ。旧地愁ひて看る双樹の在るを、空堂只だ是れ(一に「見」に作る)一灯懸かれり。一灯長く照らす恒河の沙、双樹猶ほ落とす諸天の花。天花寂寂として深殿香ばしく、苔蘚蒼蒼として虚院を■(「門」のなかに「必」。ヒ)づ。昔余精念もて禅扉を訪ひ、常に微言に接して道機を清む(一に「親」に作る)。今来寂寞として得る所無く、唯だ門人と共に涙衣に満つ。【注】○斉一和尚 「霊一和尚」の誤りか。○影堂 寺院の中の仏祖・高僧の肖像を祭ったお堂。○一公 斉一(霊一)の敬称。○世に住みて世紛を忘れ、暫らく来たり復た去りて誰か能く分たん。○虚空 おおぞら。仏教では大空のように無限の慈悲や知恵をもつ菩薩を虚空蔵という。ここでは、山上高いところにある寺をいうのであろう。○過客 旅人。○生滅 存在と滅亡。仏教で生滅を繰り返してやまないこの世を超越することを生滅滅已という。○浮雲 空にうかぶ雲。○蕭散 ちりぢりになる。○淒涼 ものさびしいようす。○遺教 生前の教え。○双樹 沙羅双樹。釈迦入滅の地にあり、釈迦の死とともに花を枯らしたという。ここは、斉一(霊一)入滅の地をたとえる。○一灯 ひとつの灯明。仏の教えのたとえ。『維摩詰教』「譬へば一灯の千百灯を燃やすがごとく、冥き者も皆明るく、明終に尽きず」。○恒河沙 ガンジス川の川砂。きわめて数多いたとえ。○天花 仏教で、めでたいときに天人が降らすという花。『維摩詰教』《観衆生品》「時に維摩詰の室に一の天女有り、諸大人の説法する所を聞くを見、便ち其の身を現じ、即ち天花を以て諸菩薩大弟子の身の上に散ず。花諸菩薩に至りて皆堕落し、大弟子に至りて便ち著きて堕ちず」。○深殿 寺院の奥の仏殿。○苔蘚 コケ。○虚院 がらんとした建物。○■(「門」のなかに「必」。ヒ) 閉じる。○余 われ。○精念 純真な心で。○禅扉 寺。○微言 意味深長な言葉。○道機 仏道を求める心のはたらき。【訳】斉一(霊一?)和尚の影堂にて詠んだ詩。和尚この世に生まれきて一公世に住みて世の紛を忘れ、暫らく来たり復た去りて誰か能く分たん。旅人のごとその身をば空にそびゆる寺に置き、心は生滅法さとり世俗を離れ雲のごと。浮き雲のごとこの世をば去りてそれきり還られず、その身没して教えのみ今に残れるさびしさよ。想い出の地に来てみればむなしく残る沙羅双樹、ひとけの失せたお堂には灯明一つともるのみ。されど老師のともしたる御法は衆生導きて、天も感じて美しき花を降らせる沙羅双樹。散る花ひそと音もなく奥の院には香りたち、庭に青々苔むして静かな寺院の門は閉づ。われその昔真剣に老師の寺の門たたき、その深遠なお言葉に菩提心をば清めたり。今この寺に来てみれば老師はすでに世を去りて、ものおっしゃらず、門人と袂をしぼる涙かな。
December 27, 2007
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送賈三北遊 劉長卿賈生未達猶窘迫、身馳匹馬邯鄲陌。片雲郊外遙送人、斗酒城邊暮留客。顧予他日仰時髦、不堪此別相思勞。雨色新添■(「シ」のみぎに「章」。ショウ)水緑、夕陽遠照蘇門高。把袂相看衣共緇、窮愁只是惜良時。亦知到處逢下榻、莫滯秋風西上期。【韻字】迫・陌・客(入声、陌韻)。髦・労・高(平声、豪韻)緇・時・期(平声、支韻)。【訓読文】賈三の北遊するを送る。賈生未だ達せざるに猶ほ窘迫するがごとし、身は匹馬を邯鄲の陌に馳す。片雲郊外遥かに人を送り、斗酒城辺暮べに客を留む。予を顧みて他日時髦を仰ぎ、此の別に堪えず労を相思ふ。雨色新たに添ふ■(ショウ)水の緑、夕陽遠く照らして蘇門高し。袂を把りて相看れば衣共に緇く、窮愁只だ是れ良時を惜しむ。亦た知んぬ到る処に逢ひて榻を下すを、滯ること莫かれ秋風西上の期。【注】開元・天宝年間頃、洛陽における作。○賈三 劉長卿の友人らしいが、未詳。 ○達 志を遂げる。○窘迫 さしせまる。○匹馬 いっぴきのウマ。○邯鄲 唐の河北道磁州の属県。今の河北省邯鄲市。○片雲郊外遙送人、斗酒城邊暮留客。○時髦 時の俊傑。、不堪此別相思勞。○■(ショウ)水 山西省長子県の西に発し、東流して太行山を過ぎ、河北省■(ショウ)県の北に至る。○蘇門 河南省輝県の西北にあり。かつて晋の孫登がかつて此の山に隠棲した。○把袂 袖をとる。転じて、親しく面会すること。○衣共緇 都の塵で黒く汚れた衣服。晋・陸機《為顧彦先贈婦二首》「京洛風塵多く、素衣化して緇と為る」。○窮愁 貧困からくる悲しみ。○良時 楽しい時。○到処 行く先々。○下榻 接待すること。後漢の徐稚は人徳があったので、役所からお呼びがかかったが、仕官しなかった。太守の陳蕃が、郡においては賓客を接待せぬが、徐稚が来たときだけは一榻を設けてもてなしたという。○莫滯 長逗留するな。○秋風西上期 都で科挙を受験する郷貢進士は、秋に都入りし、十月二十五日に戸部に集まり、正月に礼部の試を受け、二月の放榜(合格発表)に通い、四月に吏部に送られる。【訳】賈三が北に旅するのを見送る。賈生は志なかば、すでに生活いきづまり、一匹の馬邯鄲の大路に馬を走らせる。ひとひらの雲そらに浮く郊外遥かに人送り、一斗の酒を町はずれ夕暮れ君と酌み交わし引き留めようとするは我。我をば君は顧みていつか俊秀仰ぎみる、いまこの別れに堪えずして君の苦労を思いやる。あらたに雨が降りはじめ■(ショウ)水緑色ふかし、夕陽は遠く照らしつつ蘇門の山は高く見ゆ。袂を把りて相看れば都の塵に衣は黒く、窮途の愁いひたすらに君との楽しき時惜しむ。君は行く先行く先で皆の接待受けるだろ、秋には西の長安で科挙の受験があるゆえに長く滞在するなかれ。
December 26, 2007
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客舍喜鄭三見寄(一作訪) 劉長卿客舍逢君未換衣、閉門愁見桃花飛。遙想故園今已爾、家人應念行人歸。寂寞垂楊映深曲、長安日暮靈臺宿。窮巷無人鳥雀閑、空庭新雨莓苔緑。此中分與故交疎、何幸仍迴長者車。十年未稱平生意、好得辛勤謾讀書。【韻字】衣・飛・帰(平声、微韻)。曲(入声、沃韻)。・宿(入声、屋韻)・緑(入声、沃韻)。疎・車・書(平声、魚韻)。【訓読文】客舎にて鄭三に寄らるるを喜ぶ。客舎君に逢ふも未だ衣を換へず、門を閉ぢ愁ひて見る桃花の飛ぶを。遥かに故園を想ひて今已に爾り、家人応に念ふべし行人の帰るを。寂寞たる垂楊深曲に映じ、長安日暮霊台に宿す。窮巷人無くして鳥雀閑たり、空庭新雨莓苔緑なり。此の中分與故交疎、何なる幸ひあつてか仍ち長者の車を迴らす。十年未だ称(かな)はず平生の意、好んで辛勤を得て謾りに書を読まんや。【注】天宝五載(七四六)・六載頃、長安における作。○客舎 宿屋。○鄭三 劉長卿の友人らしいが、未詳。○未換衣 布衣を官服に着替えない。官吏登用試験に及第しなかったことをいう。○閉門 門をとじる。○愁 悲しむ。○故園 故郷。○今已爾 科挙に落第して意気消沈していること。○家人 家族。○応A きっとAだろう。○行人 旅人。故郷を離れている作者自身。○寂寞 さびしいようす。○垂楊 シダレヤナギ。○深曲 奥まった僻地。○霊台 周代・漢代に長安の西北に築かれた台の名。○窮巷 路地。○無人鳥雀閑 人通りも無ければ、鳥雀すらもひっそり静まりかえっている。○空庭 ひとけがなく静かな庭。○新雨 降ったばかりの雨。○莓苔 コケ。○此中 この心。○分与 分け与える。○故交 むかしからの付き合い。旧友。○長者 年長者。『史記』《陳丞相世家》「家は乃ち負郭の窮巷にして、弊席を以て門と為す、然れども門外に多く長者の車轍有り」。○十年 初めて科挙の受験をしてからの年数。○平生意 普段からの望み。○好得 反語。どうして。○辛勤 苦労してつとめる。○謾 むなしく。○読書 書物は文人の身につけるべき教養とされた。【訳】宿屋に鄭三が訪ねてきてくれたのを嬉しく思って詠んだ詩。宿屋で君に逢うたれど登用試験に落ちたれば役人の服いまだ着ず、門をば閉じて庭先の桃の花散る眺めやる。遥か故国を想いやり今の境遇落胆す、家族はきっと我が帰り吉報あるを待つやらん。ひそとたたずむヤナギの木、奥まった地に枝を垂れ、長安のまち日は暮れて霊台近く身を宿す。路地には人の影も無く鳥の声さえ聞こえこぬ、さびしき庭に雨は降りコケの緑ぞ色深き。今日久々に君と会い日頃の無沙汰を穴埋めん、わざわざ遠路車をば迴らせたまいし嬉しさよ。十年試験受くれども未だ念願かなわずに、苦労つづけて書を読むも本当に役に立つのやら。
December 24, 2007
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*平声による押韻と仄声による押韻があり、換韻があるようなので、七絶三首連作と考え、分けて示す。江樓送太康郭主簿赴嶺南 劉長卿 其一對酒憐君安可論、當官愛士如平原。料錢用盡卻為謗、食客空多誰報恩。 其二萬里孤舟向南越、蒼梧雲中暮帆滅。樹色應無江北秋、天涯尚見淮陽月。 其三驛路南隨桂水流、猿聲不絶到炎州。青山落日那堪望、誰見思君江上樓。【韻字】論・原・恩(平声、元韻)。越・滅・月(入声、月韻)。流・州・楼(平声、尤韻)。【訓読文】江楼にて太康郭主簿の嶺南に赴くを送る。酒に対して君を憐ぶ安んぞ論ずべけんや、官に当たりて士を愛すること平原のごとし。料銭用い尽くして卻つて為に謗られ、食客空しく多くして誰か恩に報いん。万里孤舟南越に向かひ、蒼梧雲中暮帆滅す。樹色応に江北の秋無かるべし、天涯尚ほ淮陽の月を見る。駅路南のかた桂水の流れに随はば、猿声は絶えず炎州に到らん。青山落日那ぞ望むに堪えん、誰か君を江上の楼に思ふを見ん。【注】○江楼 川のほとりのたかどの。○太康郭主簿 未詳。「太康」は、河南省太康県。「主簿」は、記録・帳簿を管理する下級役人。○嶺南 嶺外。嶺表。五嶺以南の地。広東・広西省およびベトナム人民共和国北部一帯。酒に対して君を憐ぶ安んぞ論ずべけんや、當官に当たりて士を愛すること○平原 平原君。戦国時代趙の武霊王の子、趙勝。平原(山東省徳州市の南)に封じられ、食客数千人を養った。(?……前二五一年)○料銭 俸禄。○用尽 使い果たす。○卻 あべこべに。○為謗 悪口を言われる。○食客 中国の戦国時代に、特殊技能・才能があるので客分として召し抱えられていた者。空しく多くして誰か恩に報いん。○万里 非常に遠い道のり。○孤舟 ただ一艘の舟。○南越 秦末漢初にあった国。今の広東・広西省壮族自治区にあった。○蒼梧 今の湖南省寧遠県の山。かつて帝舜が南方に視察に行きここで没したという。○応A きっとAにちがいない。○無江北秋 南方では長江以北と異なり、紅葉などが無いということ。○天涯 空の果て。○淮陽 江蘇省淮陽県。○駅路 街道。宿駅から宿駅に通じる道。○桂水 広西省漓江の異名。○猿声 サルの鳴き声。さびしいものとされる。○炎州 「蛮州」は、今の貴州開陽県。○青山 青く見える山。○落日 沈む夕日。さびしいものとされる。○那 どうして。反語表現。○江上 川のほとり。【訳】川べりの高殿で太康の郭主簿が嶺南に赴任するのを見送る。酒酌み交わし赴任する君の身のうえ言葉にはとても尽くせぬわが思い、官に当たりてすぐれたる人材好むそのさまは平原君にことならず。俸給すでに尽き果ててかえって人にそしられて、食客の数多かれど恩に報いる者も無し。遠くはなれた南越の地に小舟こぎいだし、蒼梧の空の雲のはて夕暮れ舟の帆は消える。樹木の色も江北の秋とことなり南方の木々に紅葉無かるべし、空の果てには淮陽の月の姿を見るばかり。街道ずっと桂水の流れに沿って南下せば、猿の無き声絶えぬうち炎熱の地に到るらん。青き山の端沈み行く夕陽を一人眺むれば友を失うさびしさに堪えざるものは我が心、あたりに人の影もなく川のほとりの高楼に君を送るを誰が知ろう。
December 23, 2007
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登潤州萬歳樓(一作皇甫冉詩) 劉長卿高樓獨上思依依、極浦遙山合翠微。江客不堪頻北望、塞鴻何事又南飛。垂山古渡寒煙積、瓜歩空洲遠樹稀。聞道王師猶轉戰、更能談笑解重圍。【韻字】依・微・飛・稀・囲(平声、微韻)。潤州の万歳楼に登る(一に「皇甫冉詩」に作る)高楼独り上れば思ひ依依たり、極浦の遥かなる山翠微に合ふ。江客頻りに北望するに堪えず、塞鴻何事ぞ又南飛する。垂山古渡寒煙積もり、瓜歩空洲遠樹稀なり。聞道王師猶ほ転戦し、更に談笑を能くして重囲を解くと。【注】○潤州 江蘇省鎮江市。○万歳楼 江蘇省鎮江市の西南隅の旧城の上にあった。○高楼 たかどの。○依依 思い慕うようす。○極浦 はるか遠くまで続く海岸。○翠微 青い山にかかるもや。○江客 川沿いの地の旅人。○塞鴻 北方の国境のほうの大型の雁。○何事 どうして。○垂山 陝西省扶風武功県にあり。位置が合わないが、あるいは同名の山が潤州にあるか。○古渡 古い渡し場。○寒煙 寒々としたもや。○瓜歩 江蘇省六合県の東南にあり。南は長江に臨む。○聞道 きくところによれば。○王師 帝王の軍隊。○転戦 あとこちと移動して戦う。○談笑 笑顔で話す。○重囲 何重もの包囲網。【訳】潤州の万歳楼に登って詠んだ詩。高楼独り上りきて抱く思いは懐かしさ、遠い海岸その果ての山にぞ青きもやかかる。川辺の旅人北のかた望むにたえぬ悲しさよ、辺塞の地の大鳥はいかなるゆえに南飛する。垂山古びた渡し場に寒々もやがたちこめて、瓜歩の中洲にひとけ無く遠くの木々の葉もまばら。うわさによれば帝王の師団いま猶転戦し、更にすぐれた談笑で敵の包囲を解きたもう。
December 22, 2007
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送孔巣父赴河南軍(一作皇甫冉詩) 劉長卿江城相送隔煙波、況復新秋一雁過。聞道全師征北虜、更言詩將會南河。邊心冉冉郷人絶、寒草青青戰馬多。共許陳琳工奏記、知君名行未蹉■(「足」のみぎに「它」。タ)。【韻字】波・過・河・多・■(タ)(平声、歌韻)。【訓読文】孔巣父の河南軍に赴くを送る。(一作皇甫冉詩) 劉長卿江城相送りて煙波に阻まる、況んや復た新秋一雁の過ぐるをや。聞道全師北虜に征き、更に言ふ詩将南河に会するを。辺心冉冉として郷人絶え、塞草青青として戦馬多し。共に許す陳琳の奏記に工なるを、知んぬ君の名宦の未だ蹉■(タ)たらざるを。【注】○孔巣父 字は弱弱。わかくして李白らと徂徠山に隠れ、酒を好んだ。○河南軍 節度使の治所は今の河南省開封市。○江城 川のほとりの町。○煙波 もやのたちこめた水面。○況 まして。○復 かさねて。○聞道 きくところによれば。○全師 全軍。○北虜 北方のえびすの地。○南河 ふつうは黄河をいうが、詩題中の河南を韻の関係で。○辺心 辺塞にいる者の気持ち。○冉冉 年月が過ぎる様子。○郷人 故郷の人。○塞草 辺塞の草。○戦馬 軍馬。○陳琳 後漢の広陵射陽の人。字は孔璋。はじめ何進の主簿となり、のちに袁紹に帰す。かつて袁紹のために檄文をつくり、曹操の罪状を数う。袁紹が敗れると曹操に帰し、曹操は其の才を愛でて、咎めず、もって記室となす。ここでは文才ある孔巣父をなぞらえる。○奏記 書記。○名宦 名声と官職。○蹉■(タ) おもうようにならないようす。【訳】孔巣父が河南節度使の軍に赴任するのを見送る。川辺の町のはずれにて君の旅立ち送らんとすれば川面にもや籠めて行く先みえぬさびしさよ、まして群れをばはぐれたる一羽の雁の空に鳴き飛び過ぐるをば見てのちは言うにいわれぬ心地する。うわさによれば全軍は北のえびすの地に向かい、詩にすぐれたる将校は河南の地にぞ会うならん。辺土に向かう心には年月すぎて郷里からたより伝える人も絶え、とりでに近い草茂り見ゆるは軍馬ばかりなり。陳琳書記にたくみにて、君の将来名も官も行きづまること未だあらじ。【参考】『全唐詩』巻二五〇 送孔巣父赴河南軍(一作劉長卿詩) 皇甫冉江城相送阻煙波、況復新秋一雁過。聞道全師征北虜、更言諸將會南河。邊心杳杳郷人絶、塞草青青戰馬多。共許陳琳工奏記、知君名宦未蹉■(タ)。
December 20, 2007
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秋夜有懷高三十五適,兼呈空上人(一作皇甫冉詩)晩節逢君趣道深、結茅栽樹近東林。吾師幾度曾摩頂、高士何年遂發心。北渚三更聞過雁、西城萬里動寒砧。不見支公與玄度、相思擁膝坐長吟。【韻字】深・林・心・砧・吟(平声、侵韻)。【訓読文】秋夜有懷高三十五適を懐ふこと有り、兼ねて空上人に呈す。(一作皇甫冉詩)晩節君に逢ひて道に趣くこと深く、結茅樹を栽うること東林に近し。吾師幾度か曾て摩頂する、高士何れの年にか遂に発心する。北渚三更に過雁を聞き、西城万里寒砧を動かす。見ず支公と玄度とを、相思膝を擁して坐ろに長吟す。【注】○高三十五適 盛唐の詩人。高適。三十五は排行。字は達夫、または仲武。諡は忠。性格は磊落。若い頃は家業を怠り、落ちぶれて食客となっていたが、玄宗の時に有道科に挙げられ、封丘尉となった。のちに官をやめて河右に行き、河西節度使の哥舒翰の幕僚となった。また侍御史となり、蜀に乱を避けた玄宗に随行し、永王の軍を討伐平定す。蜀が乱れと蜀州・彭州の刺史となり、西川節度使となった。長安に帰って刑部侍郎・散騎常侍となり、代宗の時に渤海侯に封ぜられ、没す。五十歳で詩に志し、名声を得た。著に『高常侍集』がある。○兼 同時に。○呈 差し上げる。○空上人 隠空上人。○晩節 晩年。○逢君 高適。○道 仏道。○結茅 茅屋を構える。○東林 廬山の東林寺。転じて、寺院。○吾師 空上人。○幾度 何度。○曾 かつて。○摩頂 頭をなでる。仏教では戒を授けるときに行う。○高士 高潔の人士。高適を指す。○何年 いつ。○遂 とうとう。○発心 菩提を求める心をおこす。○北渚 きたの水辺。○三更 真夜中。○過雁 渡りゆく雁の声。○西城 西の町。○万里 とおく。○寒砧 冬着の準備のために砧うつ音。○支公 晋の高僧、支遁。○玄度 晋の高士、許詢。○相思 相手のことに思いをはせる。○擁膝 膝を抱える。○長吟 長く声をひいてうなる。【訳】秋の夜に高適を思いだし、同時に空上人に差し上げた詩。晩年君と出会って仏道になじみ、お寺の近くに茅屋を構え庭に樹を植えた。吾が師は何度頭をなででくれたことやら、高潔な君はいったいいつ菩提心をおこしたのかしら。北の水辺では夜中に飛びすぎる雁の声を聞き、西の町から遠く砧打つ音がひびく。上人さまとも君とも長い間あっておらぬが、君らのことを思いつつ膝を抱えて詩をばよむ。
December 9, 2007
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登松江驛樓北望故園涙盡江樓北望歸、田園已陷百重圍。平蕪萬里無人去、落日千山空鳥飛。 孤舟漾漾寒潮小、極浦蒼蒼遠樹微。白鴎漁父徒相待、未掃■(「木」へんに「讒」のみぎ。ザン)槍懶息機。【韻字】帰・囲・飛・微・機()。【訓読文】松江駅楼北故園を望む。涙尽き江楼北のかた帰るを望み、田園已に陥る百重の囲い。平蕪万里人去ること無く、落日千山鳥飛ぶこと空し。 孤舟漾漾として寒潮小に、極浦蒼蒼として遠樹微かなり。白鴎漁父徒づらに相待ち、未だ■(ザン)槍を掃はず懶うくして機を息む。【注】○松江駅 江蘇省呉江県城の南郊。松江館。○故園 ふるさと。○江楼 川沿いの高殿。○田園 郊外。○已 もはや。○陷百重囲 敵軍に幾重にも包囲されている。○平蕪 雑草の茂った野原。○万里 はるか遠く。○落日 夕陽。○千山空鳥飛 「千山」は、多くの山々。柳宗元《江雪》「千山鳥飛絶え、万直人蹤滅す」。 ○孤舟 ぽつりと一つだけ浮かぶ舟。○漾漾 ゆらゆらとただようさま。また、水が広がるさま。○寒潮 寒々とした冬の潮。○極浦 遥か彼方の水辺。○蒼蒼 青々と茂るさま。○白鴎 カモメ。○漁父 漁師。○徒 なにも得ることもなく。○相待 (魚が捕れるのを)待つ。○■(ザン)槍 彗星。○懶 めんどうくさい。○息機 活動をやめて休む。【訳】松江の宿場のたかどのに登り故郷のある北のほうを眺めて詠んだ詩。川辺の楼に登りきて北の故郷をながむれば涙は尽くる我が目かな、町の郊外はやすでに敵の手に落ち囲まれぬ。荒れたる野辺は行く人の影も万里に絶えはてて、夕陽のしずむ山山に鳥がむなしく飛ぶばかり。 寒々とした潮の上ただよう小舟だた一つ、遠い水辺に青青と茂る木の影かすかなり。カモメと漁父は魚を待ち、未だはらわぬほうき星、なにをするにもものうくて、身をば休めんもろともに。
December 2, 2007
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